オーストリアの送電線
Austria
2006.12.01 新設
I traveled to Austria in September, 2006. I traveled in Austria from the west to the east from Innsbruck to Vienna.
In this page, I display photographs of many power transmission lines which I took during the trip.
オーストリアへは2006年9月に旅行した。
旅行経路は、ドイツから南下してオーストリアの西側インスブルックに入国し、そこから北上し一旦ドイツに出て、ザルツブルクの南から再び入国し、ザルツブルクからはウイーンまで鉄道で移動した。
すなわち、オーストリアを西から東へ500Kmほど旅行し、その間に多くの送電線を見ることができた。
オーストリアは昔から隣国のドイツと政治、文化、ともに深い関係にあり、送電線草創期にもお互いに技術交流が盛んであったと思われる。
したがって、送電線設備形態はドイツと極めて似ており、ほとんど同じ設計思想で建設されているとみてもよい。
ただ、オーストリアはドイツと違って山岳地形の国であるため、視認出来たうちの半数以上は、我が国と同様な垂直配列の送電線であった。
しかし、水平配列およびドナウ型が全然ないわけではなく、国境を越えてドイツと連係している送電線および平地における送電線などは、ドイツの設備形態に合わせた水平配列およびドナウ型がのものが随所に見られた。
使用電圧は、ドイツと同様、地方系統は60KV以下、主要系統では110KV、220KV、380KVが使用されている。
ただ、電力需要規模が小さいせいか、380KV送電線でも4導体は見られず2導体で、それも垂直2導体であった。
2導体送電線では水平2導体もあったが、山岳地では垂直2導体が主に使用されている。
がいしは、ドイツと同様、長幹がいしが多かったが、ガラスがいしも使用されている。
また、鉄道用の単相送電線は、ドイツと同様に電力会社の送電線とは別ルートで張り巡らされており、ドイツの送電線と連係していた。
この、鉄道用単相送電線の設備は、古いものを大切に使用しているようで、大昔の「がいし」がいまだに現役で使用されているのが目に付いた。
CONTENTS
水平配列送電線 Conductor horizontal sequence type Supports
ドナウ型送電線 Danube type supports
垂直配列送電線 Standard conductor sequence type power transmission lines
単相送電線 Single-phase power transmission lines
その他 Others
1.水平配列送電線Conductor horizontal sequence type Supports
旅行中に見た電力会社送電線のうち、約20%が水平配列の送電線であった。
(1)2回線送電線
見かけた水平配列送電線はすべて110KV以下ので、それ以上の高電圧では水平配列は見られなかった。
水平配列送電線の設計は、ほとんどドイツと同じであった。
すなわち、スレンダーな鉄塔塔体形状、アーム形状、がいし装置など、ドイツで見たものとほとんど同一であった。
電線の懸垂把持部構造についても、ドイツと同じで簡単な装置である。
恐らく、同一の設計指針の下に建設されているように思われる。
耐張形鉄塔についても、懸垂形と同様にドイツの送電線と同じ設計になっている。
2連耐張がいし装置は、鉄塔側については、1点支持と2点支持の両方が適用されているが、2点支持方式の方が多かった。
右写真は1点支持方式である。
高低差の大きい径間で、引き上げ荷重が大きい箇所は、通常耐張形鉄塔にするが、錘を使用して懸垂がいし装置を使用した珍しい鉄塔を見ることが出来た。
(2)3回線送電線
変電所引き込み箇所で、3回線を水平配列で併架している珍しい鉄塔を見ることが出来た。
この変電所には、6~7ルートの送電線が出入りしていて、大きな拠点変電所のようである。
(3)4回線送電線
山岳地帯でも、部分的に水平配列は適用されていたが、地形上ルート数が制限を受けるので、4回線併架設計にしたものであろう。
また、自然環境調和設計として、鉄塔はグリーン塗色をしていた。
2.ドナウ型送電線Danube type supports
旅行中に見た電力会社送電線のうち、ドナウ型の送電線は約25%であった。
(1)110KV以下の送電線
今回の旅行では、めずらしく標準型懸垂がいしに出会った。
生地は磁器製で、我が国で使用しているものと同じであろう。
1連10個連結の設備であり、電圧は110KVであろう。
ちょっと気になるのは、下アーム内側の相は塔体にかなり接近しており、がいしが40度ほど横振れすると電線が塔体に異常に接近してしまうように見える。
気象条件が我が国と異なり、設計上はそこまでの電線横振れは考えていないのであろう。
鉄塔は地際まで極めてスレンダーで、根開きが狭く鉄柱のようにも見える。
左は、懸垂がいしを使用した送電線であるが、下アームの内側相は塔体に近いため、V吊り装置として横振れ対策を施している。
懸垂がいし1連9個連結の110KV送電線である。
スレンダーな形状の鉄塔が多いなかで、この鉄塔は我が国で標準的に見られる形状に近いものであった。
(2)220KV・4回線併架送電線
220KVドナウ型送電線に、110KVと思われる水平配列2回線が併架されている送電線であり、ドイツでも同様の併架送電線を多く見た。
ドナウ型の送電線で、下部に低電圧の水平配列2回線を併架したこのタイプは、併架による建設費増分が比較的低廉価格で済むと思われ、多く建設されており、旅行中に多くを見ることが出来た。
航空標識としての赤白塗色は、アーム部分だけに施されており、地際から塔頂まで鉄塔全体を塗色する我が国とは異なるので、旅行中塗色鉄塔を見る度に違和感を覚えた。
なお、オーストリアでは電力需要規模が小さいせいか、220KV送電線でも単導体が多かった。
上記と同じ送電線であり、手前の鉄塔が耐張形鉄塔である。
この鉄塔は水平角度が大きいため、懸垂鉄塔よりも更にアーム幅が広くなっている。
赤白塗色していない、下アームから下部は環境調和塗色をしており、グリーンに塗られていた。
3.垂直配列送電線Standard conductor sequence type power transmission lines
垂直配列送電線は、旅行中に見た電力会社送電線のうち、約55%で最も多かった。
(1)110KV以下の送電線
オーストリアでは、耐氷雪設計を考えて、垂直配列送電線の場合は、どの送電線も中アームを広くして、オフセットを設けた設計にしており、オフセットなしの送電線は見られなかった。
右写真はめずらしく水平角度がある箇所に、懸垂鉄塔を適用しているものである。
2連懸垂がいし装置の並び方向が線路と直角方向にある装置では、常時振れっぱなしになっているのは好ましくないと考えられるので、ほとんど無いと思ったが、適用された鉄塔もあった。
垂直配列の送電線が、2ルート並走している箇所の写真である。
電圧は110KVと思われ、がいしは長幹がいしを使用している。
塔体結構がダブルワーレンで、我が国で標準的に見られるブライヒ結構と異なるところはあるが、ほとんど似た構造の送電線と言えよう。
ジャンパ線は、「その他」の項で詳細説明するが、どの箇所も前後径間の電線をオーバーラップさせて接続している。
なお、後方は1回線架線である。
(2)220KV送電線
山岳地帯の220KV送電線である。
前後の鉄塔が高い位置にあって、この鉄塔の支持点に加わる垂直荷重が少ないので、懸垂がいし装置に錘を取付て、横振れ時の浮き上がり防止を図っている。
がいしは、長幹がいし2本連結である。
電線は、220KVであるにもかかわらず単導体であった。
ウイーン郊外で見た220KV 2導体送電線である。
郊外の住宅地近傍を経過している送電線としては、充分にオフセットをとった設計で、中アーム幅は約20mと広く、ゆったりした設計になっている。
鉄塔下部に無線用のアンテナが設置されているが、送電鉄塔にこのようにアンテナが設置されているのを、各所で多く見かけた。
ドイツでも、無線アンテナ付の鉄塔は見たが、両国とも通信会社と設置の協定が交わされ、積極的にアンテナ塔として利用しているように思われる。
上記と同じ送電線の耐張形鉄塔である。
耐張がいし装置は、3連装置が使用されており、2導体の電線荷重を2連ヨークで受け、その荷重を1点に絞りそれを3連バランスヨークに配分し、鉄塔側は3点支持としている。
この鉄塔にも無線用アンテナが付いている。
(3)380KV送電線
右後方が380KV送電線で、がいし装置は長幹がいしを用い、3本連結としている。
電線は、垂直2導体であり、オーストリアで見た380KV送電線は、全てこの垂直2導体方式を適用している。
左手前は220KV単導体の送電線である。
電線地上高は、電圧の高い380KVの方が低く、不思議であった。
380KV垂直2導体送電線の耐張形鉄塔である。
我が国の垂直2導体送電線では、鉄塔のコンパクト化のため、ジャンパ線は水平2導体にしているが、この鉄塔ではジャンパ線も垂直2導体のままで、おおらかな設計となっている。
なお、下アームから下部は我が国で常用されているブライヒ結構になっており、めずらしい。
この送電線はごく最近建設されたものらしい。
4.単相送電線Single-phase power transmission lines
単相送電線は、ドイツと同様にオーストリアでも鉄道用の送電線として、鉄道沿いに建設されている。
オーストリアの鉄道は、ドイツと相互乗り入れしていて、同じ仕様の機関車を採用していると思われる。
それに電力供給する送電線は、国境を越えてドイツの送電線と連係しており、ドイツと同じ16.7Hz仕様の送電線であろう。
(1)水平配列送電線
オーストリアは、平地が少ないため、水平配列送電線は少なかった。
見かけた単相2回線送電線は、ほぼ全てが110KVであった。
がいしは写真のように長幹がいし1本を使用したものが多かったが、ガラスがいしを使用したものもあり、さらに古い特殊仕様のがいしを今も使っている送電線もあった(後述)。
鉄塔形状はスレンダーで、ドイツとほとんど同じであった。
(2)垂直配列送電線
右の写真のように、垂直配列送電線が大半を占めていた。
山岳地形の国で、耐雷対策が重要な設計事項となる気象の経過地を通過していると思われ、遮へい角を小さくするため、架空地線を高く突き出す形状になっている。
旅行中に特に気になっていた、2連懸垂がいし装置のがいし配列方向であるが、この写真のように線路方向に並べてあるものも比較的多く見られた。
懸垂鉄塔は、ほとんどの鉄塔がスレンダーである。
耐張形鉄塔では、引留クランプは写真のようなくさび型が多く使用されているが、圧縮型も使用されている。
また、ジャンパ線は前後径間の電線をオーバーラップさせて圧縮接続している。(「その他」の項で詳細解説 )
右の写真は、画面の右手方向に変電所があり、その変電所に左側回線を1回線π引き込みしている鉄塔を撮ったものである。
この変電所は鉄道線路の脇にり、そこで電圧を降圧して電車線に電力供給している。
(3)特殊がいしの送電線
オーストリアの単相送電線では、1910年代後半~1920年代に製作使用された、「2枚笠モートルがいし」 と思われる特殊がいしをいまだに使用している送電線があった。
現在では、この種のがいしは製作していないと思われるので、80年以上前のがいしを、大切に使用しているとみて良さそうだ。
電圧が低いのに、特に手前回線のアークホーンは凝った造りで、送電線草創期の送電線であろうと思われる。
我が国では、80年以上も前のがいしをそのまま使用している送電線は皆無と思われるが、オーストリアでは健在のようで、大いに感心した。
右の写真は、水平配列送電線の、特殊がいしを用いた2連懸垂装置のクローズアップ写真である。
特殊がいしを用いた耐張装置クローズアップである。
電線引留クランプは、圧縮型を使用しているようだ。
5.その他Others
(1)撚架鉄塔
水平配列送電線の撚架鉄塔である。
画面の右から左へ向かって、
・最外側相は、中相へ
・中相は、内側相へ
・内側相は、最外側相へ
電線を入れ替えている。
がいしは、長幹がいしを使用しているが、ジャンパ吊り装置の下部は、錘付のガラスがいしを使用している。
これは、線間電圧に対応させるため、長幹がいし2本連結では長尺になるので、ガラスがいしで対応させたのだろう。
我が国の撚架鉄塔は、ほとんどの場合左右2回線とも同時に撚架させているが、ドイツでもオーストリアでも片側回線だけの撚架しか見かけなかった。
380KV垂直2導体送電線の撚架鉄塔である。
この垂直配列送電線の形の撚架は我が国でも普通に見られるが、超高圧380KV基幹系統での撚架はめずらしい。
我が国では、系統が巨大で、同じ電圧階級で多くの送電線が一つの系統運用の中で運転されており、個々の送電線で撚架をしなくても送電線の組み合わせで、3相の各相バランスが確保できるので、特に大型構造物となる基幹系統での費用が嵩む撚架は殆ど見られない。
オーストリアでは、系統規模が小さく、個々の送電線での撚架が必要であるようだ。
撚架は、画面の右から左に向かって、
・上相は、下相へ
・中相は、上相へ
・下相は、中相へ
電線を入れ替えている。
この鉄塔も2回線の内、手前1回線のみの撚架であり、掲載していないが他にも同様の2回線中1回線撚架鉄塔を見ることが出来た。
なお、写真の手前に鉄道トロリー線が写っていて見にくいが、ご容赦いただきたい。
(2)ジャンパ線 クローズアップ
ジャンパ部分のクローズアップ写真である。
ジャンパ線はくさび形クランプから伸びた線をオーバーラップさせ、圧縮接続させている。
ドイツ、オーストリアの送電線は、耐張箇所毎に電線を切断し、ジャンパで接続する工法で造られているようだ。
くさび形クランプを使用するなら、電線を切断せず、片押しで緊線していく方が効率的だと思われるが、どのような理由か聞きたいところだ。
なお、がいしは、フランス製のガラスがいしのようだ。
右写真は、ジャンパ中央でジャンパスリーブで圧縮接続している箇所の写真である。
この工法はこの箇所だけで、他には見られなかった。
(3)懸垂がいし装置 クローズアップ
220KV送電線の一般箇所の懸垂がいし装置のクローズアップ写真である。
長幹がいし2本連結で、2連懸垂装置である。
電線を把持している懸垂クランプは、我が国と比較してかなり簡素な造りになっている。
また、見たところ、アーマーロッドは付いているのかどうかよく分からず、微風振動対策のダンパもなく、これでよく素線切れが発生しないかと、余計な心配をしたくなる設備であった。
(4)組立工事中の現場
稼働している送電線の手前に、新しい送電線を建設している写真である。
地上でブロック組立を終わったところのようである。
この後、クレーンでブロックを吊り上げて組立するのであろう。
最下部分だけはブライヒ結構だが、上部はダブルワーレンである。
そもそも、ブライヒ結構はドイツ人のブライヒ(Bleich.Friedrich )氏が大型鉄塔用として発案されたものであり、現在それが地元であまり適用されていないのが不思議である。
(我が国では堀貞治 氏が、それを我が国で適用するときの諸条件を研究し、開発されたと聞いているが、それを基に我が国の鉄塔は殆どがブライヒ結構となっている)
(5)架線工事中の現場
垂直3段アームの三角配列垂直2導体送電線である。380KVであろう。
現在運転中の2回線の下部に、2回線を増架するための架線工事中の写真である。
2輪金車に2条のメッセンジャワイヤを架け、これから電線を延線するところと思われる。
最後までご覧いただき感謝します。
旅行でザルツブルクの名前の由来が「塩(Salz)の城(Burg)」であることを知ったが、あのあたりは古代から岩塩が豊富に取れることで有名で、今はモーツアルト一色で観光客を誘致しているが、昔から塩取引の町として有名であったとの知識を得た。
ウイーンは、宮殿、美術館、博物館、劇場が多く、さすがに芸術都市であった。
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