電気新聞情報によると、このほど電力広域的運営推進機関(以下広域機関と言う)は、東北電力エリアと東京電力エリアを結ぶ連系送電線を太平洋側に新設して、東北から東電向けの運用送電容量を、現在の500万kWから1120万kWに増強するとの検討の方向性(原案)をまとめ、9月に決定することになったとのことである。
その概要は右図の通りで、仙台中央変電所を起点とし、西仙台変電所と南相馬変電所間に開閉所を新設して、その間に約80kmの連系送電線を新設すると共に、その開閉所から約60km南下して東電の福島幹線に接続する連系送電線を建設すると言う構想である。
連系線のこう長は約140kmで、工期は約10年、総工事費は1390億円以上になる見込みである。
なお、更に広域機関は、11月からは他の事業者からも案を募集し、来年8月に最終決定するとのことである。
最近のトピックス Recent topics
架空送電線に関連する、最近のトピックスを紹介する。
記事は、順不同となるものがあるがご了承いただきたい。
No | 掲載日 | 内容 |
73 | 2021.10.20 | 東京・中部間連系直流送電線の運転開始 |
72 | 2015.06.17 | 東北・東京電力間連系線の増強 |
71 | 2015.05.18 | コンポジット(有機)がいしの有利性 |
70 | 2015.04.22 | 東西電力融通300万kWの方針決定 |
69 | 2015.04.17 | AC送電線のDC化による送電容量増加策 |
68 | 2015.04.12 | 電力改革が始動 |
67 | 2015.04.03 | 欧州・日食による電力危機回避 |
66 | 2015.03.17 | 電中研・釧路で雪害研究開始 |
65 | 2015.01.30 | 電気新聞に当HP記事掲載 |
64 | 2015.01.23 | エジソン記念碑 |
63 | 2014.11.23 | IEC東京大会が開催された |
62 | 2014.08.03 | 超狭根開き鉄塔の開発・実用化 |
61 | 2014.07.30 | 経産省が実施した送電鉄塔の耐力調査結果 |
60 | 2014.07.27 | 東西連系・直流送電線建設の現地展開を開始 |
59 | 2014.07.13 | 直流送電線の送電容量・世界記録を更新(中国) |
58 | 2014.05.12 | 世界最長の直流送電線(HVDC)が運開(ブラジル) |
57 | 2013.10.08 | 経済産業省が「重要送電設備」指定制度を創設 |
56 | 2013.09.20 | アメリカに於ける自然災害による被害対策 |
- No46(2012.02.19)~55(2013.08.28)
-
- 55 経済産業省が送電鉄塔の耐力調査
- 54 日刊工業新聞に当HP記事掲載
- 53 「複導体送電線の設計と工事」(雑誌連載記事)について
- 52 送電線劣化対策に摩擦攪拌点接合(溶接技術)の適用
- 51 UHV国際標準化活動が最終段階入り
- 50 Smart Grid(その9) <国際標準化へ挑戦>
- 49 インド大停電
- 48 国際連系UHV直流送電線の実現可能性調査実施
- 47 世界最古の鉄塔送電線を発見(メキシコ)
- 46 中国で世界初となる直流UHV±1100kV送電線を計画
- No31(2010.01.01)~45(2012.01.24)
-
- 45 我が国初の女性送電線建設エンジニア誕生
- 44 世界最長の送電線記録、更新へ
- 43 カラス対策器
- 42 アメリカの「主柱材無し・特殊骨組み鉄塔」の解析
- 41 500kV送電線保守用ロボット、「第4回ロボット大賞」で受賞
- 40 アメリカ大陸・東西連系スーパーステーション建設へ
- 39 東北地方太平洋沖地震による架空送電設備被害の概要について
- 38 運転歴約100年を記録した送電設備
- 37 関西電力が電線(ACSR)腐食劣化調査の新技術を開発
- 36 東京電力がベトナムで1100kVUHV送電線の実現可能性検討調査実施
- 35 世界最長の送電線が中国で運転開始
- 34 Smart Grid(その8) <:「系統最適制御技術実証事業」の発足>
- 33 世界初の直流UHV±800kV送電線運転開始
- 32 Smart Grid(その7) <官民挙げて動き活発化>
- 31 書籍「忘れられたルーツ」が発刊された
- No16(2009.02.01)~30(2009.12.17)
-
- 30 第6回大電力系統運用者国際会議が開催
- 29 ブラジルで大停電発生
- 28 世界記録を目指す直流送電・巨大プロジェクト
- 27 Smart Grid(その6) <国際標準獲得へ国が始動>
- 26 Smart Grid(その5) <国際標準化戦争>
- 25 Smart Grid(その4) <国際規格化検討開始>
- 24 「鉄塔技術の歴史を語る講演会」講演録発刊
- 23 日本発UHV・1100kV世界標準電圧に認定
- 22 送研・創立60周年記念懇親会開催
- 21 本サイト関連記事書籍に掲載
- 20 UHV国際標準化および中国UHV送電線情報
- 19 Smart Grid(その3)
- 18 Smart Grid(その2)
- 17 Smart Grid
- 16 中国100万ボルト・送電線運転開始
- No 1(2007.12.11)~15(2009.01.01)
-
- 15 送電鉄塔国産化100周年
- 14 電気学会、第1回電気技術技術顕彰10件名を発表
- 13 日本鉄塔協会、鉄塔技術の歴史を語る講演会を開催
- 12 UHV国際標準化制定作業大詰め
- 11 日本鉄塔協会・40周年記念
- 10 駒沢線鉄塔・世田谷区・地域風景資産登録
- 9 大雪害・続報(その4)
- 8 大雪害・続報(その3)
- 7 大雪害・続報(その2)
- 6 大雪害・続報(その1)
- 5 中国・中・南部で大雪害発生
- 4 送研・関東支部50周年記念
- 3 森田健作氏「電力マンへの思い」記事
- 2 UHVDC±800kV建設開始
- 1 鬼怒川線鉄塔など近代化産業遺産登録
No.73 東京・中部間連系直流送電線の運転開始
当ページ、最近のトピックスNo.60「東西連系・直流送電線建設の現地展開を開始」で述べた送電線(名称は、その後決定し「飛騨信濃直流幹線」)が2021年3月31日に運転を開始したので、ここでは、国や東京電力パワーグリッド(株)公表の資料を参考に、この送電線建設工事の詳細を述べる。
日本で使われている電気の周波数は、西日本が60Hz、東日本が50Hzである。2011年3月に発生した東日本大震災では、多数の大規模発電所の被災により東日本の供給力が不足したため、この周波数を変換する設備(周波数変換設備)を活用して東西の電力融通も最大限行った。しかし変換設備の容量により融通可能な電気の量に限度(※)があり、供給力が不足し、計画停電が実施される等国民生活に大きな影響を与えた。
※発災当時の東西の融通可能容量は、新信濃変電所:60万kW、佐久間周波数変換所:30万kW、東清水変電所:10万kWの合計:100万kW。その後、東清水変電所が増強され2013年2月末時点での合計融通可能容量は120万kW。
そこで、国は「地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会」を設置(※)し検討を行った結果、周波数変換設備を2020年度を目標に90万kW増強することとなった。
※国による検討の背景として以下の3点が挙げられている。
- 東日本大震災時のように大規模電源が脱落した場合においても電力供給に支障を来すリスクを低減する必要がある。
- 再生可能エネルギーの導入拡大を図るために必要な地域間連系線が十分に整備されていない。
- 市場分断を減少・解消させることを含めた全国台での電力取引の活性化が必要である。
また、検討の中では、東西の周波数統一についても検討されたが、50Hz地域を60Hzに設備変更するとした場合、電気事業者の設備変更だけでも約10兆円を要し、さらに需要家側の設備取替も必要となることに加えて、切り替えは広範囲で一斉に行う必要がり、電力需要が逼迫する時期には行えない等の課題が上げられた。
その後、経済産業大臣の指定を受けた一般社団法人電力系統利用協議会が、増強の基本プランを提言し、この提言に基づき、一般送配電事業者9社(※)が周波数変換設備の90万kW増強に向けた具体的検討を進め、下図の直流送電線「飛騨信濃直流幹線」の工事は東京電力パワーグリッド(株)が実施することとなった。
※北海道電力ネットワーク(株)、東北電力ネットワーク(株)、東京電力パワーグリッド(株)、中部電力パワーグリッド(株)、北陸電力送配電(株)、関西電力送配電(株)、中国電力ネットワーク(株)、四国電力送配電(株)、九州電力送配電(株)
この「飛騨信濃直流幹線」は、亘長約90kmの送電線であり、ルート調査を含めた標準的な工事期間は11年であるが、2020年度運転開始の目標を達成するため、関係法令上の手続き等の円滑化を目的として、経済産業大臣より「重要送電設備等の指定」の第1号を受けた。
直流送電の採用理由
交流送電線で連系する場合は、下図のように異周波数を接続する個所に周波数変換設備を設け、そこまで交流送電線を建設することになる。
周波数変換設備は、交直変換設備を二つ合わせたもの(交直変換(60Hz⇒直流)+交直変換(直流⇒50Hz))であり、交直変換設備を2カ所の別な場所に設置してもコスト増加は限定的である。
一方、交流送電線に比べ直流送電線は、送電線条数が少なく(電蝕や通信線の対策を施せば1条でも可)、設備をコンパクト化できるため、コスト的にも景観的にも有利である。
このため、飛騨信濃直流幹線では、直流送電線を採用している。
このように、交流の電力を一度直流に変換して送電する方式をHVDC(High Voltage Direct Current)と言い、50Hzと60Hzの異周波数間を連系する直流送電線は国内初である。
経過地概要
本送電線は、中部電力パワーグリッド(株)が岐阜県高山市に新設した飛騨変換所を起点として東に進み、長野県との県境は標高が比較的低い野麦峠近傍を通過し、鉢盛山(標高2,447m)を北側に迂回する経路で、長野県朝日村に位置する東京電力パワーグリッド㈱新信濃変電所に至る。
経過地の大半は山岳地(標高700~1,800m、平均標高1,170m)であり、設備設計や工事工程には、積雪が考慮された。
また、経過地周辺には、クマタカやオオタカ等の希少猛禽類の生息が確認されるエリアがあり、また、多くの景観資源近傍を通過することから、工事に際しては、環境保全へも配慮された。
設備概要
設備の概要を下表に示すが、支持物、電線等の構成材料は、交流送電線とほぼ同じである。
区間 | 飛騨変換所~新信濃変電所 |
---|---|
亘長 | 89km |
電圧 | ±200Kv |
回線数 | 双極1回線 |
支持物 | 山形鋼鉄塔197基 |
電線 | 本線 ACSR/AC810㎟(一部に低騒音型を採用)×2導体 |
帰線 TACSR/AC610㎟×2導体 | |
地線 | AC260㎟ 2条(飛騨変換所引込径間のみ) |
がいし | 本線 320㎜直流懸垂がいし 15個/連 |
帰線 | 280㎜ボールソケット型懸垂がいし 4個/連 |
直流送電線固有として、「双極」あるいは「帰線」という用語があるが、「双極」とはプラスとマイナスの両方があること、「帰線」とは電流の帰路としての線路(海外では大地を帰路している直流送電線もある)のことであり、下図に鉄塔の形状と双極1回線のイメージ図を示す。
工事施工概要
本送電線の建設工事は、約2年間の調査期間を経て2017年3月に着工し、2021年3月31日に運転を開始した。亘長89km、鉄塔197基、経過地は山岳地、かつ降雪や猛禽類保護のための工事中断がある送電線を4年間という驚異的なスピードで完成させた。
施工体制
東京電力パワーグリッド(株)では、岐阜県高山市に東西連系線岐阜建設事務所を、長野県松本市に東西連系線長野建設事務所を設置し、下表の体制で工事を推進。
行政区分 | 工区 | 亘長 | 基数 | 施工会社(竣工時点の名称) |
---|---|---|---|---|
岐阜県 | 1工区 | 9.6km | 20基 | (株)ヒメノ |
2工区 | 9.0km | 21基 | 岳南建設(株) | |
3工区 | 7.1km | 19基 | (株)タワーライン・ソリューション | |
4工区 | 9.2km | 24基 | (株)サンテック | |
5工区 | 10.6km | 25基 | 東光電気工事(株) | |
6工区 | 8.0km | 15基 | 日本リーテック(株) | |
長野県 | 7・8工区 | 24.1km | 47基 | (株)タワーライン・ソリューション |
9工区 | 11.3km | 26基 | (株)タワーライン・ソリューション |
特筆事項
- 山岳地通勤における安全確保と作業員の疲労軽減のため、通勤モノレールを採用
- 積雪による損傷を避けるため、冬季中断中は越冬対策(仮設一部撤去)を実施
- 架線工事時の作業個所間の連絡手段は、無線通信網(Wi-Fi)を整備
- 電線宙乗り作業時には、電動アシスト宙乗機を全面採用
- 花崗岩等接地抵抗低減が困難な鉄塔では、ボーリング掘削等による対策を実施
参考文献
- 「中間報告書」地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会(平成24年4月)
- 「東京中部間連系設備の増強に係る提言」一般社団法人電力系統利用協議会(平成25年1月23日)
- 経済産業省ニュースリリース(平成26年8月22日)「電力システム改革による広域系統運用の拡大措置「重要送電設備」の指定をしました」
- 送研リポート595巻「±200kV飛騨信濃直流幹線新設工事の運転開始について」
No.72 東北・東京電力間連系線の増強
東北電力・東京電力間の連系は、東北電力の500kV相馬双葉幹線(東北電力南相馬変電所(福島県)~東京電力南いわき開閉所(福島県)26.3km)で行っており、両電力の連系接続点は500kV東京電力南いわき開閉所1箇所(1地点)である。
相馬双葉幹線の東北から東電向けの送電容量は現在500万kWで、2021年には570万kWに増強される予定である。
相馬双葉幹線の送電容量に対して、潮流の予想をすると、2019年以降は95%を上回りその後は送電容量を上回る予測が出ている。
この原因は、2016年4月に控える小売り全面自由化を契機に、東北電力管内に発電所を建設し、東京電力管内で販売しようとする計画が相次いでいるためである。
電源開発に伴って連系線を利用したい事業者は、4月に発足した「電力広域的運営推進機関(以下広域機関という)」に意思表明をすると先着順に空き容量を押さえられる。
さっそく、福島県内で、LNG火力建設計画を進める石油資源開発(JAPEX)が1機目の60万kWを押さえたこと、および相馬共同火力・新地発電所の96kW計画をしている東京電力の発電計画等を勘案し、広域機関は、安定供給確保や広域的な電力取引の拡大等を目的に連系線と供給エリア内の基幹送電線の整備を主導する役割を担うため、増強ニーズを把握するとともに容量検討に役立てるために4月中旬から約1ヶ月間にわたり将来的に連系線の利用を希望し、費用負担の意思のある事業者を募集した。
その結果、新聞報道によると応募したのは16社で、電源容量は約527万kWになったとのことである。
50万kW以上の大規模電源は4基で、関電エネルギーソリューションと丸紅が秋田県内で計画する合計130万kWの石炭火力、相馬共同火力の新地発電所の3、4号計200万kW、JAPEXのLNG火力2基目の60万kW等とみられるとのことである。
これらの利用希望を合計すると、2023年度には既設と合わせて1000万kWの連系運用容量を確保する必要があることが分かったとのことである。
広域機関は、現在、対策の方向性の検討を本格化させ、既設の建替又は新規ルートの建設など、複数案を比較し、この9月には増強容量および概略ルート、概算工事費など増強抜本策を示す予定とのことである。
No.71 コンポジット(有機)がいしの有利性Because four articles were announced in CIGR meeting of 2012, about "the advantageous nature of composite insulators for ouver head power transmission lines", I introduce below.
少々旧聞に属する情報で恐縮だが、2012年のCIGRE提出論文でコンポジット(有機)がいしに関する論文が架空送電線部門で4件もの多くが提出されて、コンポジットがいしが耐汚損性能で従来の磁器およびガラスがいしに比べて有利であることを報告しており、今後のがいし素材については世界的にコンポジットがいしが注目されると思われる。
各論文の要旨は下記の通りである。
CIGRE 2012 B2-304
Referbishment of Transmission lines Resulting in Improvement in Polution Performnce in Northern Region in India
(インド北部地域の送電線路の更新による汚損性能の向上)
<論文提出者>
- POWER GRID CORPORATION OF INDIA LIMITED (インドパワーグリッド社)
- PANKAJ KUMAR General Manager
- RAJEEV KUMAR Chief Manager
<要旨>
インド北部では、過去40年間の膨大な産業開発の結果、大量の工業汚損が発生している。
その主なものは、煉瓦窯とサトウキビ工業の影響、一般工場と自動車車両、農産物の廃棄物の燃焼、鳥の排泄物と一般廃棄物等であり、大ヒマラヤ山脈のもとで冬期に発生する霧と汚染物質の結合が原因である。
この対策として、EHV/UHV線路に対して、コンポジット長幹がいしは同じ漏れ距離のガラスや磁器がいしに比べて疎水性が良く汚損性能にすぐれており、軽量で高強度且つスリムな形状等の利点もあり、48線路に73600個を設置し、良好な結果を出している。今後も適用を拡大していく。
CIGRE 2012 B2-302
Example of refurbishment of overhead lines 400kV at Western Cape after major polution event in February 2006
(2006年2月の重汚損事象後に西ケープ400kV架空送電線路を更新した事例)
<論文提出者>
- L.GUTMAN STERI Sweden
- W. L.VOSLOO ESKOM South Africa
- L.APPOLLIS ESKOM TRANSMISSION South Africa
- L.APPOLLIS ESKOM TRANSMISSION South Africa
<要旨>
この論文はESCOM (南アフリカ電力)の送電線路の西部系統で2006年に発生した重汚損事象と、西アフリカ地域の400kV架空線路の再絶縁と更新に至る歴史を記述したものである。
2006年に始まった事象は、極めて乾燥した夏期に大気中の塵埃粒子が通常より多く(主に高頻度の山火事による)、海水温は平均より低い特徴があった。
これらの異常な要因が重なり、付着した塵埃と海塩による苛酷な急速汚損事象が形成された。
400kV西部系統の架空線路の標準絶縁は漏れ距離が約16mm/kVの23個或いは最近のIEC 60815-1従い、統一特定漏れ距離(USCD:Unified Specific Creepage Distance)が27mm/kVのキャャップピンタイプのガラス懸垂がいしで構成されていた。
汚損事象発生時の危険レベルを評価し、再絶縁(即ち更新)に対する勧告を行なうために、広範囲に亘る調査プログラムを作成し、これらにはケープ地域にあるKoebergがいし汚損試験所に於ける汚損分析及び各種がいしの劣化とフラッシオーバ特性、西ケープ周辺の自然汚損度の測定、各種タイプのがいし(磁器とコンポジット)に対する適切な統計的寸法特定を可能にするがいし選定ツールプログラム(IST)による計算及びAC架空線路及び変電所に対する最近勧告されたIEC 60815への準拠が含まれる。
これらの調査研究結果から、送電系統に適切なコロナリングを付けた開放形状の段違い笠のシリコンラバーがいしを設置し、固有漏れ距離が31mm/kV (USCD:54mm/kV)設計により再絶縁すべきであることが示された。
これらを実際に適用し、絶縁強化を危急な架空線路から開始して殆ど終了した。現在は既に22,000個のがいしの90%以上がシリコンラバーがいしに交換されている。再絶縁は活線で行なわれた。
CIGRE 2012 B2-301
Upgrading the performane of the Apollo-Cahora Baasa 533kV links
(アポロ-カオラバッサ533kV連系線の絶縁強化)
<論文提出者>
- S ,Narain,V.Naidoo,R.V ajeth
- ESKOM (南アフリカ電力) South Africa
<要旨>
533kV HVDCアポロ-カオラバッサ線路(双極)は南アフリカ電力網へのグリーンパワーである唯一の実質的な電源線を代表する。
しかしながら系統のなかでワースト特性の線路であり、多数の絶縁不良は火事と汚損に起因する。
野火は2005年以来殆ど指数的に増加し、2007年にピークに達した。
汚損は一年を通じて変わらず、或る部分は鳥害と局地的な塵埃によるものである。
絶縁不良は乾期に線路のガラスがいしの区間に集中しており、再絶縁の対象になっている。
繰返し発生する絶縁不良は、供給の質的低下及び故障した機器取替による損害により、系統に苛酷なインパクトを及ぼしている。系統負荷の要求の出現により、線路は1800Aに代わり定格限界の3300A/極近くで運転することが要求されている。
この論文は双極送電線路の再絶縁の必要のためにフォローすべき手順と研究に関するものである。
この論文の主眼点は、アポロ-カオラバッサHVDC計画の一部を形成する双極送電線路の再絶縁の提案にある。
双極の亘長1414kmの長距離線路は1974年に完成し、±533kV、1極あたり1800Aで1920MWを送電している。
結論としては、戦略的なアポロ-カオラバッサ533k VHVDC基本系統に生じた多数の絶縁不良により、線路の性能を改善するための研究が必要になり、運転費支出或るいは投資支出の二者択一を必要とする選択肢が調査され、これに対して実施に至らなかったが電圧を533kVから600kVへ上げることも含まれた。
確認出来た事故の多くは絶縁に関連し、特にキャップ・ピンガラスがいしの区間にあり、双極の事故の60~70%を占めたので、これらは再絶縁の対象になった。
これらの努力は次の勧告によって完結された。
(1)533kV運転の選択肢に対して漏れ距離が40mm/kV及び連結長が4712mmのコンポジットがいしを用いて全ての極を絶縁すること。
(2)多数のケースで1対1のがいし取替えの実施、例えば既設のI吊りがいし連をI吊りのコンポジットがいし連に取替えること。
(3)更なる性能改善の一部として、既設の遮蔽線のガラスと磁器キャップ・ピンがいしを33kVのコンポジットがいしに取替えてコロナノイズを低減し、それにより遠隔信号の低下を少なくした。
(4)大きな汚損の原因の一つを低減するため、防鳥ガードを全ての鉄塔に設置した。
(5)絶縁不良に関連する火事を抑制するため、植栽管理を継続的に実施した。
CIGRE 2012 B2-214
ASSESSMENT OF THE CONDITION OF OVERHEAD LINE COMPOSITE INSULATORS
(架空送電線路用コンポジットがいしの状態アセスメント)
論文提出者
- P.SCHMUCK Pfisterer Sefag Swizerland
- J..SEIFERT Lapp Insulator Germany
- I.GUTMAN STRI Sweden
- A.PIGINI Consultant Itaiy
<要旨>
コンポジットがいしは世界中のAC及びDC高電圧レベルの送電線路に於いて、従来のがいしに代わり盛んに開発されている。
しかしながら、取組むべき重要な問題がある。
即ちこれらの運転状態の評価、特にがいし、がいし装置、ダンパー或いは導体の補修や取替え時の活線作業(LLW)を行なう前に、これらの運転状態を評価することが困難なことにある。
現在は豊富な経験と進歩した診断ツールが利用可能にも拘わらず、コンポジットがいしを用いた架空送電線路の活線作業は、最近の標準や国際標準化委員会の作業に導入されていない。
この論文はCIGREワーキンググループB2.21がこのトピックに参加した作業の現状を示す。
15年以上前に導入された診断ツールを更に進歩させて正確に用いれば、活線作業の対象になるがいしのリスク評価に十分な情報が与えられる。
各国に於ける活線作業方法の実例を紹介する。
すなわち、最初のコンポジットがいしは1970年代に配電系統に適用され、送電線路への適用は1980年代に始まった。
最初はコンポジットがいしは高価なため特別な地域への適用に限定され、例えば従来がいし以上に汚損性能を要求される地域或いは野蛮行為(ライフルショット等)を受ける地域に限定されていた。 CIGREワーキンググループ(WG) 22.10によって1988年にコンポジットがいしの設計に対する最小必要条件の定義に伴い、目覚ましい技術開発がトリガーされた。
現在、コンポジットがいしは在来のガラスがいしや磁器がいしに対して屡々競争力があり、製造規模の経済的効果によるものである。
コンポジットがいしは多くの利点があるので、送電線路に広く使用されるようになった。
コンポジットがいしの使用拡大に至る新たな機会は次の通りである。
①既に存在するl000kV AC或いは800kV DC及び検討されている1200kV AC送電線路の導入に伴い、軽量で比較的短い(磁器長幹がいしと比較)コンポジットがいしの使用により、かなりのコスト節減が可能である。
10m以上のがいしは現在一体製造であり、機械的定格は1000KN(100tf級)以上迄供給される。
②多くの国で環境に配慮したエネルギーシフトのため、既設送電線路の電圧上昇或いは既設送電線路をACからDCへ変換することは、エネルギーの流れの変化に従い最とも実用的な方法である。
同じ鉄塔又は場合によって同じ導体を用いて輸送を要求される追加電力に依存する場合、このような設備更新は一般的にコンポジットがいしの使用を要求される。
これもACのDC変換に対して有効であり、ここでコンポジットがいしはその汚損性能に関する利点により好ましい解決策を与えるかもしれない。
③更に、環境調和設計を考慮したコンパクト線路の使用には、シルエットの薄いコンポジットがいしが必要とされる。
さて、市場へのコンポジットがいしの浸透とがいしの信頼性を評価するために、CIGRE WG B2.21は世界中の電力事業者へアンケートを発送する予定である。
彼等の解答は更なる調査のベースになり、1990年から2007年以前のアンケートを更新するであろう。
DC送電線路に関して、1995年に行なわれたCIGRE WG 22.03の調査によると、最初のコンポジットがいしの適用は1980年代初期に始まった。
11.000個以上のコンポジットがいしが現在、中国の±500kV及び±800kV送電線路に設置されている。
入手可能な限られた情報から外挿すると、世界中でDC線路に設置されたコンポジットがいしの数は100,000個のオーダーになるかもしれない。
ACより遙かに少ない数は、DCとAC送電線路数の現在の比率を反映している。しかしながらACと同じように、DC線路のコンポジットがいしの使用は指数的に増加するとみられる。
事実としてDCに於けるコンポジットがいしの利点はACよりも明かであり、汚損下では磁器がいしより性能が優れており、これがDC架空線路に対する寸法決定ファクターになっているからである。
この論文の結論としては次のことが言える。
①コンポジットがいしは多くの利点があるため世界中め送電線路に広く使用されている。現世代のコンポジットがいしの信頼度は磁器のキャップピンがいしと同程度と考えられる。
②コンポジットがいしの広範囲な適用を制限する本質的な問題は、運転状態特に活線作業工法適用前の状態の評価にある。
③適用可能な診断原理は過去15年間に於いて顕著に変わらなかった。しかしながら、診断ツールと測定の解釈は著しく進歩している。
④活線作業に対する診断は一層容易になり、その狙いは特定された作業者の活動に危険の可能性がある導電性或いは半導電性の欠陥を確定することにある。
⑤利用可能な診断方法を十分に選択して組合わせることにより、コンポジットがいしに危険な欠陥が無いことを確定し、コンポジットがいしを設置した架空線路で磁器やガラスがいしと同じ方法により安全に活線作業の遂行が可能になる。
No.70 東西電力融通300万kWの方針決定Frequency of the electricity is different from east area of Japan in 50Hz and 60Hz each in the west area.
Ministry of Economy, Trade and Industry decided to reinforce electricity flexibility capacity between east area and the west area in 3000MW from current 1200MW on April 16.
経済産業省は、4月16日、周波数が50Hzと60Hzの地域間の電力を融通する送電容量を2020年代後半には300万kWまで増強する方針を決定した。
現在は、その融通容量は、新信濃周波数変換所で60万KW、佐久間周波数変換所で30万KW、東清水周波数変換所で30万KW、合計120万kWであるが、その2.5倍の300万kWまで増強する方針とした。
この増強策の背景にある事象の1つとしては、東日本大震災直後に生じた電力不足の苦い教訓であり、西日本から東日本に十分な電力が送れず、東京電力管内では地域ごとに日時を区切って電気を止める「計画停電」を余儀なくされたことなどを踏まえて決定したものである。
増強策の一環としては、既に90万kWの増強策として当トピックスNo60「東西連系・直流送電線建設の現地展開を開始」でも解説した通り、東電新信濃変電所(長野県朝日村)~中電500kV越美幹線近傍(高山市内)の双方に設置する交直変換設備間のこう長:約90kmに東京電力が施工するHVDC・200kV直流送電線、仮称:東京中部間直流幹線の建設準備が開始されている。
従って、既設の120万kWに加えて200kV直流送電線の90万KWで、210万kWまでの増強は確定しており、今回更に90万kWを増強する方針を決めたものである。
電気新聞の報道によると、この90万kWの増強は、佐久間周波数変換所および東清水周波数変換所が分担するとのことである。
具体的な増強計画の詳細は4月1日に発足した「電力広域的運営推進機関」で決めることになるのではないかと思われる。
No.69 AC送電線のDC化による送電容量の増加策Several alternative technologies are at hand for increasing the capacity of existing AC transmission lines, such as current or voltage.
However, conversion to DC is generally considered the most effective way of gaining major increases in the capability of stability-limited AC lines, as discussed in the previous TB 425 in CIGRE.
「既設交流戦路を直流運転へ変換するための手引き:GUIDE TO THE CONVERSION OF EXISTING AC LINES TO DC OPERATION」 が SIGRE の 「Working Group B2.41」 で検討され、2014年5月に発刊された。
その概要は、既設の交流・AC送電線を直流・DC送電線に改造して運転させることで、送電容量を飛躍的に増加させる手法の具体的な検討を行った報告書である。
以下にその概要を紹介する。
既設AC送電線の容量増加に対して、定格電流或いは定格電圧上昇など幾つかの代案技術が手近にある。
しかしながら、一般的にDC転換は安定度が限られたAC線路の容量を増大するのに最とも有効である。
既設AC線路をDC運転に転換するにはDCがいしの寸法決定、コロナや電界の影響など、多くの電力会社にとって幾つかの新たな側面が存在する。
この文書の狙いはACのDC転換の可能性や制約を検討し、これらの特別な側面や計算方法を知らせることにあり、第1章から第6章までを使って解説している。
第7章では実質的な送電容量増加がDC転換により達成可能なことを示す数例のケーススタディを解説している。
本項では、そのうち「287kV フーバーダム-ロサンゼルス線」について検討した具体例に絞って紹介する。
支持物および電線2相は既設設備をそのまま使用し、がいしを直流用に変更するとともに電線1相をHTLS(High Temperature Low Sag)電線に張り替えして、分割双極方式のDC構成を採用することが最も実現の可能性が考えられ、その結果としてAC線路の直列コンデンサー補償により達成されるより遙かに大きな容量増加が得られることを述べている。
この287kV フーバーダム-ロサンゼルス線については、建設時はボルダーダム-ロサンゼルス線と呼ばれていたので、その名称でこちらのページで解説しているので参照されたい。
287kV フーバーダム-ロサンゼルス線は、起点の フーバーダム水力発電所から、終点のロサンゼルス中心市街地まで、こう長約428kmであり、2回線が1936年に建設されたが、現在では途中のVictorville変電所までは1回線に変更され、Victorville変電所から終点のCentury変電所間、こう長142.8km区間が建設当初の2回線設備のまま運転されている。
Victorville変電所から終点のCentury変電所間の設備形態は、Victorville変電所から77.8kmまでの区間は1回線えぼし型鉄塔の2ルートで、ロサンゼルス市街地に近い地点から終点側65km区間は2回線垂直配列の鉄塔で1ルートである。
今回DC化検討の対象としたのは、Victorville変電所から終点のCentury変電所間142.8km区間であり、右図の通りこの線路は強力な500kV系統の下位にあり、同じ経路と目的を共有している。
定格電流は900AのHDCC250m㎡相当の中空銅線の単導体である。
287kV 1回線の負荷は280MW (2回線で560MW)が限界であり、初期の中空銅線導体を用いてオートトランスにより500kV送電網に接続されている。
これらの線路の過負荷は常に並行する500kV回線の停止条件を制約している。
直列コンデンサー補償は精々、負荷限界を僅かに増す程度である。
MW定格の適切な増加はDC転換により有効に達成可能である。
右図のように、東部経路の全潮流限界は、287kVAC送電線と500kV送電線の組み合わせでは4000MW(400万kW)であるが、以下に述べるようにDC±245kV2分割双極構成運用の場合には、AC287kV2回線での送電容量560MWに対して3倍以上の1762MWに増加するので、系統全体としては5200MW(520万kW)に増加する。
DC化にあたり、種々な構成を用いて、如何にすればAC線路をDCで運転が出来るかが記述されている。
単極構成
3つの導体全てを送電に用いる。
具体的には、3相電線全てに+極の電圧を印加する。
この案は、大地帰路を必要とするため、地域事情など幾つかの理由から 出来ない可能性がある。
双極構成
通常の運転に対して送電に2相の導体のみを用い、第3導体は事故時にメタリツクリターンとして用いる。
双極構成に於いては、色々な導体の配置転換により既設導体の利用を高められる可能性がある。
双極構成で、3相の3条の電線を全て使用し、外相の2条の電線に+極(または-極)を印加し、中相の電線に反対の極を印加する2分割双極構成は、他の案に比較して最大の送電容量を確保できる。
なお、2分割双極構成で電圧に差をつける方式も検討された。
すなわち、1回線目の3相の電線に、+250kV、-240kV、+250kVを印加し、2回線目の方には、-290kV、+210kV、-290kVを印加する案も検討されたが変換設備が大がかりになるので、等電圧方式の方が有利であることが分かった。
2分割双極の選択肢に対して、鉄塔の変更は予想されないが、中相導体は既設導体の2倍の電流容量のHTLSに張り替える必要がある。
また、上述のように非対称電圧が検討されてある程度の利益が示されたが利点は非常に少なく、結果として等電圧2分割双極が最とも魅力的であると考えられる。
3極構成
両方向変換器の追加使用により、一定の範囲迄の送電に対して、3つの導体全てを用いる方式だが、電線の垂直配列と水平配列の必要条件と相容れないため除外された。
上述の通り、等電圧2分割双極が最とも魅力的であると考えられるが、その系統概略図を示すと右図のようになる。
この案は、中相の電線に2倍の電流が流れるので、電流容量が大きいHTLS等の電線に張り替える必要がある。
この電線には、我が国で用いられているUTACSR 610m㎡(連続1798Aで160℃)でも対応可能であろう
設計上の特記事項は次の通りである。
コロナと電界影響
既設AC287kV送電線のANは低騒音であることから、+極及び一極に対して夫々24kV/cm及び26kV/cmの電位傾度が適用された。
ちなみにPeekの式によれば、DCコロナ発生の電位傾度は標準状態で29.8KV/cmである。
導体表面の電位傾度は26kV/cmに到達することはなく、DC線路の経過地の騒音法令の調査結果に基づきROW端部の騒音レベルは39dbAに設定された。
AC運転の場合、同じ計算方法によれば、水平配列及び垂直配列では夫々48dbA及び46dbAが示される。
電界影響については、カリフォルニア州の法令はサージレベルに無関係にDC線路の導体地上高に対して最低30フィート(9m)のクリアランスを規定している。
実際の知覚レベルはイオン流の発生により大きくなることを認識して、地表電界を13kV/mに設定した。
EPRI & BPAの±600kV迄の直流送電線の参考書によれば、ダレス試験線下の感知実験では27kV/mの電界強度により頭髪の刺激、耳と毛に僅かな感触があり、ある程度の不快感を報告する被験者がいた。
15V/m以下では感知は報告されていないので、13KV/mは適切な選択と考えられる。
すなわち地上の電界影響は非常に小さい。
絶縁
がいし汚損は、DC課電下では汚損条件に対してACよりも汚損性能が劣るので、DCの高電圧レベルに大きな障壁になる。
AC用のキャップ、ピンがいしはDC運転下で腐食問題があるために取り替える必要があり、汚損性能の問題はACがいしを特殊なガラスがいし或いは一定の長さで優れた汚損性能を持つコンポジットがいしに取り替えることによって、ある程度迄は解決出来る。
カリフォルニア州の安全規定は一般的な電圧階級に対して、一定の最小クリアランスを定めており、低いサージレベルの設定による利得が妨げられている。
しかしながら、既設のがいし連長は漏れ距離が455mmの高さ146mm、21個のフォグタイプがいし(全体の漏れ距離が9555mm)を収容できる。
控えめな38mm/kVの基準が選定されても、251kVに耐えられるであろう。
コンポジツトがいしを用いたなら、更に高い電圧が可能であろう。
これは中汚損地域に適用可能とされており、IEC 60815-4 DC Draftを参考にすると等価塩分付着密度は0.04mg/c㎡程度に該当するようである。
変換所設置面積
必要なAC/DC変換設備設置面積の算定結果は、約27,000㎡であり、面積不足で最もネックになるだろうと思われたCentury変電所の面積が約115,000㎡で空きスペースもかなりあり、既設設備を部分的に移設・改造すれば十分建設可能と思われる。
他に考慮する問題
がいしの交換は活線作業に加えて開閉インパルス対策により、AC運転或いはDCの営業運転中に実施可能と思われる。
また、軽負荷時に片回線停止で、電線1条の張替工事を行うことが可能か否かで実現性が判断できる。
全般的な結論としては、選択肢の等電圧2分割双極方式は最とも実現可能なDC構成と考えられ,AC線路の直列コンデンサー補償より遙かに大きな容量増加を達成できるので、具体的建設の手続きが進むことが期待される。
No.68 電力改革が始動The big reform work of Japanese electric power company organizations (electric power systems) was started in April, 2015 according to policies of the government.
1.はじめに
我が国では、第二次大戦中、電力発送電部門を国策会社化し「日本発送電株式会社」として全国を一つの国営会社で発電と送電の運用を行っていた。
戦後、電力事業を民営化することとし、1951年(昭和26年)5月1日付けで全国を九つの地区(北海道、東北、関東、中部、北陸、関西、中国、四国、九州)に分割し、それぞれその地域の配電会社と合併して、例えば関東地区では日本発送電株式会社の関東地区供給系統を運用する部門と、関東配電株式会社が合併して、東京電力株式会社が設立され、現在に至っている。
なお、誕生したばかりの電力会社は資本的にも非常に貧弱で、復興のために必要となる電力を満足に供給できず、発電所新設の投資も困難な状態であったため、国内での電力需要の増加に対応して制定された電源開発促進法により、1952年(昭和27年)9月16日に国の特殊会社として「電源開発株式会社」が設立され(資本構成は66.69%を財務大臣、残りを9電力会社が出資)、佐久間ダム、奥只見ダム、田子倉ダム、御母衣ダムなど大規模なダム式水力発電所を建設してきた。
また、1972年(昭和47年)5月には沖縄県の日本復帰により沖縄電力が設立され、電力会社は現在10社になっている。
この10社の電力会社は、発電から配電まで一貫して電力供給を行う組織であり、管轄地域に対する電力供給責任を負うため、全ての職員は良質な電力供給(周波数及び電圧が一定で、停電時間の極力少ない安定した電力供給)を目指して、どの会社も全ての社員が一致団結して業務を遂行してきた。
特に、昭和30年代初めから昭和40年代の後半にかけての高度経済成長時代にあっては、発電・送電・変電・配電の各電力インフラストラクチャー(設備)を電力需要の増大に対応させるため、長期の供給計画を綿密に立案して各社とも期待通り経済成長を支え、社会の要求に応えてきた。
ちなみに、東京電力では、1951年(昭和26年)の設立時には最大電力は僅か167万KWであったが、半世紀・50年が経過した2001年(平成13年)には最大電力は6,430万KWとなり、40倍に近い世界的にみても大規模な電力需要に供給する堅固な電力インフラストラクチャーを有する会社となり、他社についても規模は異なるものの充実した電力インフラを有する会社に成長した。
結果として、充実した電力インフラにより、2004年~2007年の時点では我が国の電力の品質は世界一であり、年間の停電時間比較は、イギリス100分(2006年)、フランス57分(2004年)、ドイツ37分(2006年)、米国・カリフォルニア州162分(2006年)、などに対して日本は僅か16分(2007年)となっている。
2.電力改革
ところで、東日本大震災や東京電力・福島第一原子力発電所の事故を契機に、従来の電力システムが抱える様々な限界が明らかになった。
原子力発電所が停止し、その依存度が低下する中で、分散型電源や再生可能エネルギーをはじめ、多様な電源の活用が不可避となったり、地域毎に電源を確保する仕組みではなく、広域的な系統運用を拡大して発電所を全国的レベルで活用することが必要となってきた。
また、従来の電力会社ではなく別の電力会社や料金メニューあるいは発電電力の種類を選びたいという需要家の要求に応えることが求められるようになってきた。
更に、需要に応じて供給力を積み上げる従来の仕組みだけでなく、需要の状況に応じて、「ピーク」と「ピーク以外の時間帯」の料金に差をつける等の工夫によって、需要抑制(デマンドレスポンス)をすることが必要になってきた。
このような課題に対応し、これまでの地域毎に独占的電力事業者が供給をする仕組みを見直し、様々な事業者の参入や競争、全国レベルでの供給力の活用、需要家の選択による多様な消費方式など、より柔軟なシステムにより、電力の低廉かつ安定的な供給を一層進めることへの社会的要請が高まってきた。
このため、政府は電力システムに関する改革を推進することとして、その目的と柱、およびスケジュールについて改革方針を平成25年4月2日に閣議決定した。
●電力システム改革の3つの目的
1.安定供給を確保する。
2.電気料金を最大限抑制する。
3.需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する。
●電力システム改革の3本柱
1.広域系統運用の拡大。
2.小売り及び発電の全面自由化。
3.法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保。
●電力システム改革の3段階の実施スケジュール
電力システム改革を以下の3段階に分け、各段階で課題克服のための十分な検証を行い、その結果を踏まえた必要な措置を講じながら、改革を進める。
実施時期 | 法案提出時期 | |
【第1段階】 電力広域的運営推進機関の設立 | 平成27年4月1日に設立した | 平成25年11月13日成立 |
【第2段階】 電気の小売業への参入の自由化 | 平成28年を目途に実施 | 平成26年6月11日成立 |
【第3段階】 法的分離による送配電部門の中立性の一層の確保、電気の小売り料金の全面自由化 | 平成30年から平成32年を目途に実施 | 平成27年通常国会に法案提出することを目指すものとする |
電力システム改革の第1段階については、経済産業省は「電力広域的運営推進機関」の発起人代表(電源開発株式会社 取締役社長 北村雅良氏)から出されていた設立申請を平成26年8月22日付けで認可し、この度、平成27年4月1日付けで経済産業省の認可法人として設立された。
この「電力広域的運営推進機関」(以下「広域機関」という)は、全国規模で電力の需給調整を行う「司令塔」となるもので、1年後の電力小売り全面自由化を視野に新電力が増え、太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入も進む中、送電網の増強という大きな課題に挑戦するすることになる。
広域機関は、電力系統利用協議会(ESCJ、3月31日解散)から給電連絡業務を引き継ぎ、東京都千代田区内の事務所で、実質的な業務を開始した。
広域機関は、電力会社からの出向者など約120人体制で発足し、新電力など約600社が加盟。
理事長には政策研究大学院大の金本良嗣副学長が就任したほか、東京電力や電源開発(Jパワ-)、新電力のエネットの出身者が理事に就任した。
冒頭に記載した通り、発足の背景にある事象の1つとしては、東日本大震災直後に生じた電力不足の苦い教訓である。
西日本から東日本に十分な電力が送れず、東電管内では地域ごとに日時を区切って電気を止める「計画停電」を余儀なくされた。
当時、全国の送電網の運用を管理してきた電力系統利用協議会の業務は、送配電の支援だったが、これに対し、広域機関はより強い権限を持つもので、災害時など緊急時に電力需給が逼迫した場合、電力会社に地域間の電力融通を命令できる。
平常時でも送電設備の増強などを電力会社に指導する権限を持ち、電力の安定供給を確保できる。
すなわち、広域機関は全国の需給状況を監視し、電源の増出力や一般電気事業者の供給エリアをまたぐ電力融通を指示でき、電源を広域的に活用するための送電網整備も進めることが出来るので、供給信頼度の向上が期待される。
また、広域機関は、加盟社の供給計画や長期の需要予測を基に、上述の通り送電網の整備計画を決めることができるが、全国規模の送電網の増強には数兆円ものコストがかかるとされ、広域機関は誰がどのように、費用を分担するかなど難しい問題に対応することになる。
大量の電気を売りたい発電会社と、コストを極力抑えたい小売会社は利害が対立するので、広域機関が利害の調整役となるが、大変難しい舵取りが待ち構えているようだ。
3.あとがき
さて、電力改革は始動したが、我が国の電源構成比率(エネルギーミックス)についてはどのような内容になるのか、2030年(平成42年)時点の望ましい電源構成比を決める作業が、経済産業省の有識者会議で議論されており、6月までに決定したい方針で、大詰めを迎えている。
4月7日には、自民党の原子力政策・需給問題調査会は、原子力や石炭火力などのベースロード電源の割合を現在の4割から国際標準の6割程度にするよう求める提言をまとめて安倍晋三首相に提出したとのことであり、一方、経団連は4月6日、2030年(平成42年)の電源構成比率に関して、太陽光などの再生可能エネルギーは総発電電力量の15%超、火力は60%程度にすることが妥当との提言を発表した。
経済産業省の有識者会議では、火力を50%超とする一方、再生エネを25%程度、原子力を20%程度とする案が有力との新聞報道がある。
太陽光や風力など再生エネの急速な拡大を主張する意見もあるが、再生エネは環境負荷が小さいものの、供給安定性に欠け、発電コストが高く電気代値上げなどの副作用も大きくなる。
既に再生エネの固定買い取り制度の急拡大で、電気代に上乗せされる今年度の家庭向け賦課金は昨年度に比べて倍増するそうである。
再エネ先進国のドイツ及びスペインなどでは固定買い取り制度の大幅見直しを行っているとのとであり、普及の度合いや電気代への影響を見ながら、着実に進めることが重要と思われる。
いずれにしても、6月に発表される政府方針の最適な電源構成比率(ベストミックス)が、今後の送電網の増強に大きく影響するので注目される。
No.67 欧州・日食による電力危機回避A solar eclipse was seen at the European whole on March 20, 2015.
Because solar power generation facilities increased in Europe, the possibility that electric power systems became unstable was pointed out, but preinclination of "European Network of Transmission System Operators for Electricity" (ENTSO-E) worked, and confusion was evaded.
2015年3月20日、欧州では午前中にアフリカの北部からロシアを含む広範囲な場所で日食が見られた。
皆既日食帯は、欧州北部のグリーンランドの南方北大西洋上で始まり、アイスランドとイギリスの間のフェロー諸島、更には北上してスバールバル諸島で見られ、最後は北極点付近で夕日として終わった。
部分食は欧州全体と、アフリカの北部からロシアを含む広範囲な場所で見られた。
特に太陽光発電設備建設が進んでいるドイツでは、午前9時半から正午にかけて最大で太陽が80%欠ける部分食となったため、日食が始まるとその発電量が急減して送電システムの混乱を引き起こす可能性があった。
そのため、欧州送電系統運用者ネットワーク(European Network of Transmission System Operators for Electricity)(ENTSO-E)と加盟各国の系統運用機関では数ヶ月前から対策準備を行い、火力・揚水発電といった従来型電源のバックアップとともに、大口需要家にも事前に協力を要請し電力多消費のアルミニウム製造企業に日食中の電力消費を減らしてもらったり、一部の太陽光発電を系統から切り離して出力変動の影響を抑え、乗り切ったとのことである。
ドイツでは、太陽光発電が総発電量に占める割合は6%に達し、最大3,800万KWの発電能力があり、欧州の太陽光発電容量の半分を占めるまでになっている。
この日は晴天で、部分日食が始まって太陽光発電出力は45分間で1,300KWから600万KWに急減し、日食が終わると2,100万KWに急増したそうである。
今回は、電力危機を回避できたものの、今後ますます増加する太陽光と風力発電を中心とした再生可能エネルギーの増加で、次の皆既日食が2026年に再び来ることなどを考えると、今後のエネルギーミックスの議論では再生可能エネルギーの比率を何処まで増加させ得るのか、どこかで歯止めをかけることが必要になるのではないかと思われる。
No.66 電中研・釧路で雪害研究開始Central Research Institute of Electric Power Industry built the snow damage examination facilities in Kushiro-shi of Hokkaido and began observation from the winter season in 2015.
電気新聞、2015年3月10日付けの第1面および第9面で報道されたように、電力中央研究所・地球工学研究所・流体科学領域気流気象グループでは、湿雪が電線に付着して電線が異常動揺(ギャロッピング)を起こす現象を解明するため、釧路市内に2013年(平成25年)から観測施設の建設を行ってきたが、昨年2014年(平成26年)に設備が完成し、今冬から本格的に観測を開始したそうである。
全国の気象条件を調査し、最も多湿の雪が降りやすい場所として釧路を選定し、実規模鉄塔3基を建設して、そこに4導体および単導体を架線し、リアルタイムで諸観測データを千葉県我孫子市の研究所に伝送する体制を整え、観測を開始したそうである。
その地点は、釧路空港から約6km東南東に行ったところであり、下記の地球座標文字列(英数文字列)をコピーしてGoogle Earthの検索窓に貼り付けると、自動的にその場所に画面が移動するので、そこで北側に通っている道路に設定されたStreet Viewを立ち上げると設備を見ることが出来る。
地球座標文字列「43 01 44.03 N 144 15 54.83 E」
設備の概要は、最も西側に建設した鉄塔がNo1鉄塔(鉄塔高42.5m)で、東南東方向に径間長400mの場所にNo2鉄塔(鉄塔高42.5m)が建設され、その間に4導体2相が架線されている。
また、No1鉄塔とNo2鉄塔の間で、No1鉄塔から径間長300mの場所にNo3鉄塔(鉄塔高16m)を建設し、No1鉄塔との間に単導体5条が架線されている。
ぜひ、早期に貴重なデータが観測されることが期待される。
なお、電中研では、乾型着雪については富山県の北陸電力の送電線に、着氷については福井と滋賀の県境に設置されている関西電力の試験送電線にセンサーやカメラを設置して観測しているとのことである。
No.65 電気新聞に当HP記事掲載The introduction article of the homepage that I established was placed in News Paper "Denki Shimbun" dated January 8, 2015.
当ホームページは、2005年6月開設以来、多くの皆様に訪問・閲覧して頂いており、お陰様で2014年11月4日に訪問者数(トップページのアクセスカウンター)が延べ50万人を超えることができた。
このことを電気新聞の藤田記者に友人を通じて話したところ、2014年12月にインタビューの時間を頂くことができて、当サイトのことを藤田記者が大変忙しいなか、1時間以上に亘って紹介させてもらった。
その結果、紹介記事を掲載して頂くことができ、大変光栄に存じている次第であります。
この記事の反響は大きく、最近の一日当たりの訪問者数は約300およびその方々が閲覧するページ数は約500だったのに対し、掲載当日(1月8日)はそれぞれ2,700および5,000と、約10倍に激増し、その後落ち着いてきた1月中旬では、それぞれ約500および約800と掲載前に比べ1.5倍程でリピーターの方が増えた状態で推移している。
今後は、歴史的事実の更なる発掘、および最新の送電線に関する技術開発の動向などについて国際大電力システム会議(CIGRE)、国際電気標準会議(IEC)、あるいは米国電力中央研究所(EPRI)などの論文等に目を光らせて最新技術動向を紹介するなど、当HPを訪問される方々のためになる情報をできるだけ掲載していきたいと考えている。
No.64 エジソン記念碑Thomas alva Edison used the bamboo which grew in the Iwashimizu Hachiman shrine neighborhood of Kyoto for a filament for the incandescent electric lamp which Edison invented.
Then it was longer life most.
Therefore Thomas alva Edison imported the bamboo into U.S.A. in large quantities and used it.
In commemoration of it, the Japanese electricity person concerned installed "Thomas alva Edison monument" in this place.
アメリカ合衆国の最も有名な発明家、企業家であるトーマス・アルバ・エジソン(Thomas alva Edison)(1847-1931)は、1880年12月に世界で初めてニューヨークでエジソン電気照明会社(EELC:Edison Electric Illuminating Company)を設立し、翌1881年に電気事業活動を開始し発電から送電・配電までを含む電力システムの事業化に成功したことが最も大きな功績とされている。
現在の電力事業は彼の功績の基に発展したものであり、その功績を称えた記念碑が京都府八幡市の石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)の境内にあるので、電力会社に勤務した者としては是非一度は訪れてみたいと思っていたが、この度、2015年1月20日に石清水八幡宮に初詣に行った際に拝観してきた。
この碑は、御影石を使って作られ、高さ1.7m、幅6.3mである。
何故、石清水八幡宮の境内にあるのかだが、エジソンの発明した白熱電球に石清水八幡宮近辺に生えている真竹を炭化してフィラメントに使用すると最も長寿命であったため大量に輸出・使用されたことを記念してこの場所に設置されたものである。
写真の左側には「Genius is one percent inspiration, 99 percent perspiration(天才とは1%のひらめきと99%の汗の結晶)」という、エジソンの言葉が刻まれている。
写真は、記念碑の脇に立っている説明板で記念碑の由来が書かれている。
エジソンが製品化した白熱電球は1879年(明治12年)に完成したが、50年後の1929年(昭和4年)に電灯発明50年を記念して世界各国で電灯黄金祭が開催された時、我が国もこれに加わり記念事業の一つとしてこの地に記念碑を建ててエジソンの功績を永久に伝え讃えることになった。
このため、電力関連の学会・協会、帝国発明協会、日本ラジオ協会など10の社団法人が1934年(昭和9年)4月に記念碑を製作したが神社境内への建設が不許可だったために隣接する北側の民有地に建設した。
その後、境内に建設の許可が下りたので1958年(昭和33年)3月に電気・電機・電力関係者が堀新氏(当時の関西電力会長)を会長とするエジソン彰徳会(日本電気協会内)を作り現在の場所に記念碑を移設・建設した。
更に1984年(昭和59年)10月に現在の姿に再建したものである。
本記念碑の碑前では、エジソンの誕生日2月11日にエジソン生誕祭、命日10月18日にエジソン碑前祭を斎行しており、両日とも日米両国の国歌奉奏、国旗掲揚がなされ、世界の発明王の「努力とひらめき」を讃えている。
特に10月18日のエジソン碑前祭においては、八幡宮職員やエジソン彰徳会、電力会社関係者の参列のもと、カーネーションの花輪が毎年捧げられている。
さて、エジソンが発明した白熱電球の話になるが、右の絵が電気事業を興したときのプロトタイプの電球で、左右のターミナルに100V電源線を差し込みネジで留めて使用する。
白熱電球は、エジソンの発明であると今日世界的に認識されているが、実際にはイギリスの物理学者、化学者であるジョセフ・ウイルスン・スワン(Joseph Wilson Swan)(1828-1914)がエジソンより早く発明したもので、エジソンより1年前の1878年に特許を取得している。
スワンは、木綿糸を苛性ソーダで処理したのち炭化させたものをフィラメントに使用した。
しかし、その寿命はわずか40時間で電気抵抗が小さい欠点があり実用化にはほど遠い物であった。
これに対してエジソンは、フィラメントの材料として世界中から数千種類もの材料を取り寄せ研究した結果、日本の京都府八幡市に生えている真竹を炭化したものががフィラメントの材料として最適であり、電気抵抗が大きく寿命も2000時間を超える実用的製品を創り出した。
しかし、厳密に言えばエジソンの発明ではなくスワンが発明したものの改良・実用化を行ったものと言うべきであろう。
ただ、単品としての白熱電球に絞った議論ではエジソンの発明ではないと言えるものの、それを用いた発電から送電・配電まで、多くの発明を含む「白熱電灯電力供給システムの事業化」に成功したことが最も大きな功績であることを考えるとエジソンの発明と言えるのではなかろうか。
具体的には、エジソンが電力システムを検討していた時期には、生涯で最も多くの発明特許出願をしており、1880年は60件の出願をし、1881年は89件、1882年は107件でその大部分は白熱電球を含む電灯システムに関わる発明出願だったそうである。
エジソンの電力事業では、ニューヨーク金融街のパールストリート(257番地)に発電所を建設し地下埋設ケーブルの±100Vの3線式直流系統を用いて発電所から1平方マイル(2.6k㎡)の範囲の需要家に電力を供給し、白熱電球をパラレルに接続する系統方式で事業化した。
運用開始は、1882年(明治15年)9月4日で、発電機の原動機は125馬力の蒸気機関であり、16燭光の電球1,200個を灯すように設計され、850Aを供給できたそうである。
その後、発電所は増強を続けていたが1890年に大火災に遭い、大損失を被った。
しかし、その時点での事業規模は、顧客の数が1,698件で、電球数(16燭光)は64,174灯に拡大していたそうである。
なお、1888年時点でエジソンの電灯会社はニューヨーク以外で、ミシガン州デトロイト、ルイジアナ州ニューオリンズ、ミネソタ州セントポール、イリノイ州シカゴ、ペンシルバニア州フィラデルフィア、ニューヨーク州ブルックリン、国外ではミラノとベルリンに中央電灯ステーションを開設していたとのことである。
エジソンが製造した真竹のフィラメント白熱電球は、アメリカ国内だけで約600万個、世界的には1千万個以上使用されたと思われるが、開発から約10年後にはセルロースフィラメントに取って代わられ、更にタングステンフィラメントになった。
なお、エジソンが開発した直流送電システムは、発電所の近くのごく狭い範囲しか供給できず、電力系統の拡大には交流方式と比較して不適合だったため、J・P モルガンから巨額の出資・援助をしてもらい設立したエジソン・ジェネラル・エレクトリック社(Edison General Electric Company)の創設者になったものの直流方式にこだわり続けたため退社せざるを得なくなり、その後は電力関係の表舞台には殆ど出なくなったとのことである。 同社は、エジソンの名前を削除して現在のジェネラル・エレクトリック社として大活躍している。
しかし、アメリカ国内の電力会社で今もってエジソンの名前を冠している会社は少なくない。
有名な会社としては、ニューヨークのコンソリデーテッド・エジソン、ロサンゼルスのサザンカリフォルニア・エジソン、シカゴのコモンウエルズ・エジソンなどが挙げられる。
エジソン記念碑が設置されている石清水八幡宮は、859年(貞観元年)にこの地に勧請され、翌年に創建された神社で、神社の祭神は応神天皇・神功皇后・此咩大神の三神である。
社殿は将軍徳川家光の造営によるもので、右の写真のように誠に立派であり国の重要文化財に指定されている。
右写真(左:表面、右:裏面)は、八幡宮で販売しているエジソン絵馬であり、努力を尊しとするエジソンにあやかって学芸の上達を願う受験生に人気があるそうである。
兼好法師(1283(弘安6年)-1350(観応元年))の著作である徒然草・第52段に石清水八幡宮のことが書かれており、その時代から有名な神社だったことが分かる。
徒然草・第52段追加情報(2015.10.17)
仁和寺にある法師、年寄るまで、石清水を拜まざりければ、心うく覚えて、あるとき思ひ立ちて、ただひとり、徒歩(かち)よりまうでけり。
極楽寺・高良などを拜みて、かばかりと心得て帰りにけり。
さて、かたへの人にあひて、「年比(としごろ)思ひつること、果たし侍りぬ。 聞きしにも過ぎて、尊くこそおはしけれ。そも、参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん、ゆかしかりしかど、神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」とぞ言ひける。
すこしのことにも、先達はあらまほしき事なり。
<極楽寺:男山八幡宮の麓にあった、付属の寺で、神社本殿は山頂にあり。極楽寺は1888年焼失し現存していない。>
<高良:極楽寺の隣にあった付属の神社で現存している。>
石清水八幡宮:国宝へ
文化審議会は2015年10月16日、石清水八幡宮本社(京都府八幡市)を国宝に指定するよう文部科学相に答申した。近く答申通り指定されることになる。 石清水八幡宮は平安時代の860年に創建。現在の本社社殿群は江戸幕府が1634年に建て替えた。文化相は「古代の荘厳な形式と近世らしい装飾を兼ね備えた完成度の高い建築で、広く浸透した八幡信仰の象徴としても深い文化史的意義がある」と評価した。・・・・(産経新聞より抜粋)
No.63 IEC東京大会が開催されたFrom November 4 (Tue.) to 15 (Sat.), 2014, "The IEC (International Electrotechnical Commission) General Meeting in Tokyo 2014" was held at the Tokyo International Forum, which was an annual meeting of the IEC.
At "The IEC General Meeting in Tokyo", Japan, as the host country, set a unique meeting concept titled “Integration toward a Smarter World”.
Through them, Japan’s outstanding technologies and efforts were conveyed to the world so as to contribute to solve global challenges.
IEC東京大会
国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)は、毎年加盟国の持ち回りで大会を開催している。そのIECの組織概要は右図の通りである。
2014年度の大会は、東京で2014年11月4日から15日まで、東京・有楽町の東京国際フォーラムで行われたが、日本での開催は1999年の京都大会以来で、4回目となる。
大会のコンセプトは「Integration toward a Smarter World (よりスマートな世界の実現に向けたインテグレーション)」である。
IECの会長には本年1月より野村淳二氏(パナソニック(株)顧問)が就任(2014~2017年)しているが、日本人がIEC会長を務めるのは10年ぶり3人目であり、このタイミングで日本がホスト国として大会を開催することは素晴らしいことであり、スマート分野に関するIECの取り組みを加速するとともに、国際標準化活動での日本の存在感を高めることを目指した大会であった。
IEC大会が日本で開催されることは、日本のIECへの貢献になるだけでなく、これまでIECの活動に関わりの無かった人たちに国際標準化活動の重要性を訴える貴重な機会となった。
その一例として挙げれば、2012 年から実施している次世代の標準化人材養成プログラム(ヤングプロフェッシ ョナル・ジャパン)の修了者約 50 名が、2014 年 IEC 東京大会において、ヤングプロ フェッショナルズプログラムや個別のTC/SC 等への会合に参加したそうである。
今大会では、50以上のTC(専門技術委員会)、SC(分科委員会)およびその参加ワーキンググループなどが開催され、大会に参加した人数は約2千人になったそうである。
特に我が国の得意とするスマートグリッド(次世代送配電網)関連分野では、電気エネルギー貯蔵システムに関するTC120、UHVに関するTC122など、発電・送電・配電の基盤となる要素技術に関するものが注目を集めた。
これらの会議は日本で開催されることはあるが、今回のように多数の会議が集中的に開催されることは珍しく、身近な場所で開催されるため参加しやすく、日本の関係者にとってはこれまで参加したことのない会議に参加する絶好の機会になった。
なお、柏市で行われている「柏の葉スマートシティ」のほか、複数のスマート実験施設の見学も行われた。
国際標準化の重要性
従来から、さまざまな分野の国際規格に関しては、欧米に席巻されており、電力分野でも同様の状態であって、我が国は常にその後塵を拝してきた。
日本に有利な貿易を展開するためには世界貿易機構(WTO:World Trade Organization)が「貿易の技術的障害に関する協定」で定めた国際基準に準拠することを要求している貿易条件をクリアーする必要があるが、このためには国際標準化を獲得することが必要であり、獲得した国際標準化により大手を振って世界に広めていけることとなる。
特に市民生活の最も重要な基盤である「電力流通設備:ライフライン」に関しては、それを他国に牛耳られないよう、各国とも世界標準を獲得して、その国が獲得した国際標準技術で盤石なインフラストラクチャーを構成することが肝要と考えており、各国ともしのぎを削って技術の国際標準争奪に国を挙げて取り組んでいる。
すなわち、国際標準を獲得するには、激しい駆け引きの中で「政治力と、したたかさ」が特に必要であると言われており、国の主導が求められている。
このような厳しい環境の中で、電力関係で最も重要なUHV交流電圧の国際標準化に向かって、IEC委員を中心に官民一体となり懸命に努力した結果、標準電圧は日本発となる1100kVが2009年5月22日に承認された。
更に試験電圧規格についても規格最終案がと同年10月30日に承認され、試験電圧は日本提案の低減された雷インパルス耐電圧値1950kV(変圧器用)と2250kV(GIS用)が規格化され国際標準化された。
このUHV交流電圧1100kV国際標準化の件については、NHK-TV 「国際標準化・きょうの世界(BS-1 2009.8.4)」および「追跡!A to Z:激突・国際標準戦争ニッポン生き残りの鍵逆転へ、巨大電力市場巡る秘策(地デジ 2009.8.8)」で放映されたのでご覧になった方も多いと思われる。
番組に登場した日本規格協会の原田節雄主幹が掲げたメッセージでは、
・味方を作れ(世界を相手に、Give and Take の精神で)
・標準化のプロの育成(政治力と技術力を持ったプロ)
・国の支援(標準化を国益とする欧米に追いつけ)
が今後の我が国の課題として放映されたのには、その通りと感銘を受けた。
上記規格に続いてUHVの送変電全般に亘る規格化に当たっては、上記のUHV1100kV標準電圧規格に引き続き機器(変圧器、遮断器、開閉機器、避雷器など)の規格化が必要になるが、これらについても日本発の技術を反映させるため、2012年を目標にして本格的に機器規格化の作業が行われ、既に機器規格の国際標準化を達成し、標準電圧及び試験電圧を含め12の国際規格化を達成している。
しかし、IECの本部はスイスのジュネーブに置かれており、諸委員会のメンバーは圧倒的に欧米人が多いため、各委員会の開催地は必然的に欧米が多く、我々極東のメンバーは委員会出席のために多額の旅費と時間を要するので、多くのハンディを背負って苦労しているのが実情である。
今後の国際標準化の推進
今後は、国際標準化活動での日本の存在感を高めるため、官民一体となって戦略推進し、提案迅速化に制度改革を行っていく方針であり、国際標準獲得に向けた取り組みを強化している。
昨年5月の安倍首相の成長戦略指示で、インフラ戦略として現在10兆円の海外セールスを30兆円に拡大するための取り組みの3本柱として、トップセールス、戦略的な経済協力、国際標準の獲得が挙げられた。
さらに昨年6月に決定された日本再興戦略では、日本企業の知見がより有効に活用されるように、国際標準化機関での規格開発に関わる幹事国引受件数を国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)を含め、2010年末の78件から2015年末までに95件に増加させるなど、戦略的に 国際標準化を推進することが明記されている。
また、スマートグリッドや省エネ・インフラなど、日本が強みを有する分野の国際標準を先導するため、東南アジア諸国を中心とした新興国標準機関との連携を強化することも挙げられた。
このほか、国内に国際的に通用する認証基盤を整備するとともに、海外生産拠点で国内同様の認証サービスが提供されるよう、日本の認証機関の海外進出を促進するための技術協力を行うことなどが示され、現在はこれらの方針に基づく国際標準化活動が進められている。
以上は経済産業省が主導していおり、一方、IEC国内対応民間組織としては「日本工業標準調査会(JISC)」が当たっている。
さて、日本は迅速な国際提案を目指し、「トップスタンダード制度」の活用も進めている。
従来の国際標準発行のプロセスでは、国内の業界団体などのコンセンサスを求めており、国際提案を行うまでに2~3年を要していた。
しかし、「トップスタンダード制度」は業界コンセンサスを求めず、個々の会社やグループの優れた国際標準提案を日本工業標準調査会が迅速に調査し、国際提案する仕組みで、これにより2~3ヶ月で国際提案する道を開いた。
2012年10月にオスロで開催されたIEC大会で承認された「電気エネギー貯蔵システム」に関する専門委員会TC120は、東芝と日立製作所が設立提案を行い、日本が幹事国に選ばれた。
この新しいTCはスマートグリッド分野で初めて日本が主体となって設置されたもので、「トップスタンダード制度」を活用した初の事例となった。
電気エネギー貯蔵システムは日本企業が強みを有する分野であることから、国際標準化の議論を主体的にリードし、グローバルビジネス展開につなげていくことが期待される。
更に今後の標準化活動については、UHV交流送電設備の「システム全体の規格化」をするべきであると言われており、「計画面、デザイン面、技術的必要条件、建設工法、信頼性、有効性、設備運用および管理」などを網羅して規格化する専門技術委員会を、我が国として立ち上げる提案をした。
この件については、2013年10月にIECニューデリー大会のSMB(標準管理評議会)で承認され、「UHV交流送電システム」に関する専門委員会(TC122)が新設され、日本が幹事国に選ばれた。
日本はUHV交流送電で高い技術を有しており、オールジャパン体制で国際標準化を推進してきた成果といえる。
TC122は今後、UHV交流送電システム全体のの標準化を精力的に進めていく予定である。
No.62 超狭根開き鉄塔の開発・実用化It is difficult for us to expand the steel tower sites by the rebuilding construction the high steel tower of power transmission lines via the city area.
Therefore we developed steel towers of the extremely narrow steel tower central pillar materials interval.
The steel towers can operate at the small steel tower site.
By these steel towers, as for us, the rebuilding construction of power transmission lines of the city area was enabled.
市街地化された送電線ルートの鉄塔建て替え工事に当たっては、資材搬入方法および周囲環境にマッチした工事工法選択など色々な面で困難に直面するが、立て替えに当たり既設鉄塔よりも鉄塔高さを高くしなければならないことが殆どで、鉄塔敷地を広く確保したいことが多いもののそれが出来ないことが最も大きな問題である。
従って、基礎を含め既設鉄塔を完全に撤去して既設敷地内に既設と同じ根開きのややスリムな高鉄塔を建設することが出来れば、最もオーソドックスな立て替え方法である。
しかし、市街地化された場所では仮工事が出来ない状況であり、その工法では一旦電線を撤去し再架線工事が必要となるが、そのような電線工事を伴う工法は採用できないことが殆どである。
そこで、市街地化された場所では、
- 既設鉄塔が活用できる場合には基礎を補強して鉄塔下部に継ぎ足し部材を挿入する工法(嵩上げ工法)とか、
- 運良く鉄塔敷地に余裕があったり、拡張ができれば、既設鉄塔を囲んですぐ外側に新設鉄塔を建設する工法(包み込み工法)、で建て替える、
- 鋼管単注鉄塔に建て替える、
などの工法を採用してきた。
ところが、これらの工法では適用可能な場所がごく一部に限られたり、工事費が高額になったり、工事期間が長期化するなどの問題点があり、如何にこれらの問題点をクリヤーできるか、各電力会社では各種の対策を研究開発している。
この度、東京電力では、その解決策の一つとして既設の鉄塔主柱脚内に大幅に狭い脚間隔の超狭根開き鉄塔(Super-Slim鉄塔:SS鉄塔 )を建設する工法を開発・実用化した。
このSS鉄塔については、平成11年(1999年)に研究に着手し、「根開き」対「鉄塔高」が、標準的には1/7程度のところ1.3m/37.5m=1/29の実規模鉄塔を用いた倒壊試験を含めた諸試験を実施し、1/20程度の超狭値開き鉄塔の実用化が可能との確認を行った。
東京電力では、この研究・開発成果を66kV杉並線No43鉄塔の建替工事に適用することとして2013年末から建設工事に入った。
この66kV杉並線No43鉄塔は、JR中央線・高円寺駅から北東に約1kmの所にあり住宅街を経過している場所に建っており、既設鉄塔敷の周囲は住宅に囲まれていて敷地を拡張することは出来ない環境にある。
従って、東京電力ではSS鉄塔の適用を決めたものである。
既設鉄塔は、右の写真の通り矩形鉄塔で高さ約26mである。
(本ページの全ての写真は、工事を請け負われた「株式会社システック・エンジニアリング」様から提供していただいたもので、同社に厚く御礼申し上げる次第です)
今回は、この鉄塔の内側中心にSS鉄塔(高さ34m、根開き1.8m,「根開き」対「鉄塔高」1/18.8)を建設して、既設鉄塔を除却する工事である。
まず、SS鉄塔を建設するためには、既設鉄塔中心に直径約2mの円形(円筒形)空間を確保して、基礎資材搬入および SS鉄塔組み立て工事を行う必要があり、このため平面材を撤去するとともに右写真のように鉄塔長辺の部材を外側に張り出す改造工事を第一段階として開始した。
その後、右写真のように電線を地上から約20m高さまで下げて塔体に仮留めし、基礎工事に入った。
たまたま、鉄塔敷の隣接地に16tクレーンが進入できるスペースがあったので、基礎工事及び組立工事にはクレーンを使用し、効率的に工事を進めることが出来た。
基礎は、SS鉄塔4脚一体型基礎で深礎基礎を建設した。
SS鉄塔の組立は、基礎工事が完了した4月から開始して、仮留めした電線を新設SS鉄塔に移線し、6月末には既設鉄塔の撤去を完了させた。
右写真は、高さ34m、根開き1.8m,「根開き」対「鉄塔高」=1/18.8のSS鉄塔完成写真である。
このSS鉄塔適用によるメリットについて概要を述べると以下のようである。
- 資材代は、鋼管単注鉄塔に比べ等辺山形鋼を使用するため、単価が安くなった。
- 組立工法は等辺山形鋼を使用する構造であり、従来の工事用機材および工法で施工できるため工事費が安価になった。
- 工事工期については、鋼管単注鉄塔では足場組立・現地溶接および溶射・塗装・足場解体と多くの作業段階を踏む必要があり、また、天候・湿度・気温などの厳しい現場管理が必要となるため実稼働日数を1ヶ月程度要するのに対して、SS鉄塔では6日程度で組立工事ができるため、大幅な工期短縮が図れた。
- 運搬については、鋼管単注鉄塔では道路条件に合わせてコンパクト化する必要があり、コストアップにつながる可能性が多いが、SS鉄塔では部材を小分けして運搬できるため車両制限のある道路でも通常の許可申請で運搬可能で、コストアップにつながる要因はなく、安価に出来た。
- 工事施工会社としては、鋼管単注の場合には組立施工が別会社施工(鉄塔メーカー)となるため一括施工が出来ないが、近隣住民との調和および円滑な安全管理の点で一括施工管理の大きなメリットがあった。
- 電気新聞情報によると、電力会社としては、工期短縮および資材代の低減などで約30%ほど総工事費が低減出来る見込みがあるとのことである。
さて、完成した写真を見ると、そのスリムな構造から鉄塔ではなく、鉄柱と呼ぶべきではないかという方もおられるのではないかと思われる。
そこで鉄塔と鉄柱の区別について調べてみた。
まず、我が国で鉄塔の最高権威者として活躍された堀貞治氏(1900-1993)が執筆された「送電用鉄塔鉄柱の設計」には、次のように書かれている。
- この区別は、鉄塔は各主柱ごとに、鉄柱は、各主柱共通に1個の基礎を有するものをその区分の標準としているが、実際にはなかなか難しい問題である。
要するに、鉄塔設計標準によって設計されたものは鉄塔であり、鉄柱設計標準によって設計されたものは鉄柱であるとも言えるのであるが、この言い方でも問題がある。
それは、柱の根開きの点で鉄塔と鉄柱は大分異なっている。
すなわち、鉄塔の根開きは1/4.5~1/8程度であるが、鉄柱は1/9~1/12程度が普通である。
と解説している。
また、「電気設備の技術基準の解釈及び解説」第58条「架空電線路の強度検討に用いる荷重」(省令第32条)の解説では次のように記載されている。
- 鉄塔と鉄柱の区別は、鉄塔は各主柱ごとに、鉄柱では各主柱共通に1個の基礎を持つことを標準としている。
なお、鉄柱は鉄塔に比べて一般に根開きが狭少で、かつ、根開きと高さの比率が著しく小さく、鉄塔は原則として支線で補強できないが、鉄柱は支線で補強しても差し支えない等の差もある。
しかし、型などによって明確には分け得ないので、鉄塔といえば鉄塔の設計条件を満たすものが鉄塔であり、鉄柱の設計条件に適合するものが鉄柱と考えて支障ない。
鉄塔と鉄柱の設計条件の違いの主なものを掲げると下表の通りである。
電気設備に関する技術基準を定める省令 | 電気設備の技術基準の解釈 | 鉄塔 | 鉄柱(B種) | 備考 |
---|---|---|---|---|
第6条 (電線等の断線の防止) |
第63条 (架空電線路の径間の制限) |
・170kV未満:600m以下 ・170kV以上:800m以下 ・長径間工事箇所では電圧にかかわらず無制限 |
・250m以下 | |
第32条 (支持物の倒壊の防止) |
・長径間工事箇所では500m以下 | |||
第57条 (鉄柱及び鉄塔の構成等) |
・主柱材部材の厚さ5mm以上 | ・主柱材部材の厚さ4mm以上 | 山型鋼 | |
第58条 (架空電線路の強度検討に用いる荷重) |
・構成材の垂直投影面に加わる風圧力:2840Pa | ・構成材の垂直投影面に加わる風圧力:2350Pa | 山型鋼 | |
第59条 (架空電線路の支持物の強度等) |
・荷重:常時想定荷重の1倍及び異常時想定荷重の2/3倍 ・支線を用いてその強度を分担させてはならない |
・荷重:常時想定荷重 ・支線を用いる場合は、鉄柱自体で全体の風圧荷重の1/2に耐える必要があること |
要するに、構造的に(見た目で)一線を引いてここまでが鉄塔で、その向こうが鉄柱であるとの単純な区分はできず、設計条件でその区分ができるということである。
従って、SS鉄塔は見た目は鉄柱のようであるが、鉄塔の設計条件で設計しているので、鉄塔の区分に入るものである。
さて、余談であるが、鉄塔建替工事のQ&Aである。
<質問>
「鉄塔嵩上げ工事」が世界で初めて本格施工されたのは、いつ頃・何処でしょうか。
<答え>
1923年(大正12年)、アメリカ・カリフォルニア州です。
詳細は、下記のページをご覧ください。
「世界初の超高圧(220kV)送電線誕生の物語」
No.61 経産省が実施した送電鉄塔の耐力調査結果Ministry of Economy, Trade and Industry carried out the proof stress examination of transmission steel towers recently.
It was reported that the results of he proof stress examination were good for the council on May 14.
当ページ、最近のトピックスNo55 「経済産業省が送電鉄塔の耐力調査」で解説したように、実際に現場で長年稼働してきた送電鉄塔の部材強度を検査してその耐力の良否を判定するとともに、電気事業者の保守管理などについて評価した結果がまとまり、先般5月14日に担当する審議会に報告がなされたので、その概要を紹介する。
本件の事務局は、経済産業省・商務流通保安グループ電力安全課で、いろいろある審議会の中で「産業構造審議会」の下部機構である「保安分科会」の更に下部機構である「電力安全小委員会・電気設備自然災害等対策ワーキンググループ」が担当している。
この調査の概要は、下記の通りである。
- 調査趣旨:電気設備のうち送電鉄塔を対象として、現行の技術基準及び電気事業者の保守管理方法について、点検・評価するとともに、自然現象に対する耐性等の調査を実施
- 委託先:一般社団法人エネルギー総合工学研究所
- 事業期間:平成25年9月~平成26年2月
- 検討体制:専門的な検討を行うために「電気設備(送電鉄塔)検討委員会(委員長:大熊武司神奈川大学名誉教授)」を、具体的な調査を推進するために「電気設備(送電鉄塔)検討ワーキンググループ(座長:塩原等東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授)」を設置
この委託調査報告の概要は、
- 技術基準による設計や高経年化等も考慮した保守管理方法等の妥当性とともに、今後想定しうる過酷なハザード事象(過去最低中心気圧の台風)を評価した結果、現行の電気事業者の取り組みは、送電鉄塔に係る事故等を未然防止又は軽減することに資するものと評価できる。 とのことである。
この報告のうち、当サイトとして最も紹介したい事項は、「保守管理方法等の妥当性」を判定する一環として行われた、現場で長年稼働してきた送電鉄塔の部材強度を検査してその耐力の良否を判定する事項であり、その概要は以下の通りである。
- 試験概要:電力4社の撤去鉄塔から、1基あたり5部材程度(概ね鉄塔の上・中・下段)を引き取り、引張試験を実施することで、経年鉄塔に於ける要求機能性能が低下しているかを検証。
- 検証結果:材料の引張強さの最小値から算出された値と建設当時の許容引張応力度を比較対照することで試験した材料においては、実耐力が設計応力規格値を上回り、問題ないことを確認。
- 試験鉄塔数:4基の鉄塔のうち1基は鋼管鉄塔で稼働年数40年、3基は等辺山型鋼鉄塔で稼働年数43~88年のものであった。
なお、検証の考え方は、送電鉄塔の設計平常時荷重、作業時荷重の設計応力に対する構造用鋼材の許容応力度については、送電用支持物設計標準(JEC-127-1979)の条件に基づき、(建設当時の許容引張応力度)≦0.7×(今回の材料の引張強さの最小値)/1.5を満足すれば「良」として評価するものとし、上記「検証結果」の通り全て「良」の評価であった。
今後の検討課題としては、下記が挙げられた
- 送電設備の安全と品質の維持向上に向け、自主保安の高度化に努めていくことが重要であり、以下の点についても対応していく必要がある。
- 送電鉄塔の要求機能性能(特に耐震性能)の明確化
- 通常想定される範囲を超えたハザード事象への対応の考え方の整理
- 現行の設計・保守・早期復旧に係る技術水準の維持向上
経済産業省としては、今後の対応として、本調査報告を受けて、事業者の経年劣化に係る取組を含め、引き続き定期的にフォローアップしていくとのことである。
以上報告書の詳細については、「資料5 平成25年度災害に強い電気設備検討調査(送電鉄塔)<経済産業省委託事業>の報告を踏まえた今後の送電鉄塔に係る安全対策の検討について」をご覧頂きたい。
No.60 東西連系・直流送電線建設の現地展開を開始The construction offices of direct current power transmission line (HVDC) which cooperated with 50Hz areas in 60Hz areas was developed in the field on July 1.
It will be likely that local construction duties of HVDC are started in earnest in future.
当ページ、最近のトピックスNo57 「経済産業省が「重要送電設備」指定制度を創設」で解説したように東京電力では 東西連系・直流送電線(HVDC)建設工事のための調査を昨年から推進しているが、電気新聞情報によると、このほど7月1日付けで現地事務所を開設し本格的に現地展開を開始したそうである。
この東西連系・直流送電線(HVDC)の建設イメージは右図の通りである。
(右図は、2013.4.10付で電気新聞に掲載された2022年度末中部電力系統図を参考にして作成したものである)
その記事概要については下記の通りである。
- 7月1日付けで長野県松本市と岐阜県高山市に現地事務所を開設し、候補ルートの測量および地質調査を行うため行政等に事業説明を開始した。
- 経済産業省に対して、6月18日付けで「重要送電設備等指定申請書」を提出した。
本工事は国家プロジェクトとしてはじまったもので、重要送電設備指定を受ければ第一号であり、2020年度運開の達成へ地元理解や行政手続きの面で大きな後押しとなることが期待される - 直流送電線の設備概要は次の通り。
- 電圧:±200kV
- 区間:東電新信濃変電所(長野県朝日村)~中電500kV越美幹線近傍(高山市内)の双方に設置する交直変換設備間
- こう長:約90km
- 鉄塔:鉄塔基数は200~250基、鉄塔高は平均50~60mの見通し
- 送電容量:900MW(90万kW)、国の方針に従い更に900MW(90万kW)を追加することも計画
- ルートで設計上最も重要な箇所は、長野県と岐阜県の県境で、標高が高く自然環境が厳しい北アルプスを越える高標高地点であるが、標高1,672mの野麦峠付近を候補としている。
- 工事工期は、2018年度に着工し、2020年度に竣工を予定し、工期は3年を予定しているが、猛禽類保護、冬期の降雪により施工可能な期間は年間4ヶ月程度と予想されるので、極めて厳しいと予測される。
なお、トピックスNo57では、送電容量900MWに追加して900MWを加え合計1,800MW設計とする場合には、2回線4極構造の鉄塔となり世界初の鉄塔構造となると解説したが、中国で±500kV2回線4極構造の直流送電線が南方電網有限責任公司管内で既に建設されているので、世界初ではないことが分かったため、その表記を訂正した。
2014.08.28追記重要送電設備に初指定
東京電力および中部で力は、経済産業省に対して、6月18日付けで「重要送電設備等指定申請書」を提出していたが、このほど8月22日付けで指定を受けた。
東西連系・直流送電線(HVDC)の建設工期は極めて短期間での施工を予定しているが、今回の指定を追い風に両電力は工程を出来るだけ前倒しして進める模様である。
No.59 直流送電線の送電容量・世界記録を更新(中国)The transmission capacity of the +-800kV UHVDC power transmission line in China reached 8000MW at the maximum and updated a world record.
現在までの超超高圧直流送電線(UHVDC)の送電容量世界記録は、当トピックスNo44「世界最長の送電線記録、更新へ」で解説したとおり、2012年6月に工事竣工し営業運転に入ったUHVDC±800kV錦屏-蘇南線で、その送電容量は720万kW(7,200MW)であり、それまで640万kW(6,400MW)が限界と思われていた送電容量を80万kW(800MW)増加させて世界記録を樹立した。
直流送電線の場合は、交直変換装置のサイリスタおよび多量のコンデンサ装置を用いるため、送電容量を増加させることは交流送電線に比較して困難な壁が多く立ちはだかっていた。
ところが、今年に入って2014年1月27日に運開操業を開始した「哈密南―鄭州線」および2014年7月3日に建設工事を完了させ操業を開始した「谿洛渡左岸-浙江金華線」は、その壁を突破して送電容量を800万kW(8,000MW)に増加させて、世界記録を更新した。
(右図では赤色で表示している)
この「哈密南―鄭州線」は、豊富な新疆ウイグル自治区の石炭を原料とした大容量火力発電所の出力を電力需要地の河南省に送電するもので、こう長は2,192kmと中国のUHVDC線路の中では最も長いものである。
その送電線に使用した電線はACSR1000m㎡・6導体を使用しており、 また、大型の鉄塔構造を少しでも小型軽量化化するため懸垂形装置では、がいし吊型をV吊りではなくY吊りにしたほか、新型の摩擦に強い金具を採用したそうである。
一方、「谿洛渡左岸-浙江金華線」は、水力発電所のある「谿洛渡」から四川省「宣賓」までの短区間は交流で連系し、「宣賓」に交直変換所を建設して浙江省の「金華」に建設した交直変換所の間1,653kmをUHVDC±800kVで結ぶものである。
なお、その途中では湘江を横断する2,718mの長径間箇所のほか2,446mの長江横断長径間箇所があり、高度な施工技術を要したとのことである。
ところで、中国では、送電線を管轄運営する会社は南部の雲南省から広東省方面を管轄する電力会社「中国南方電網有限責任公司」と、それ以外の中国大部分を管轄する電力会社「国家電網公司」の2社で電力系統を運用している。
右図の「±800kV UHVDC送電線概略図」に示した直流送電線は、ほぼ1,400kmを超える長距離の大規模設備について示している。
南側の2線路は中国南方電網有限責任公司が建設・管理運用しているもので、
- 雲南(Yunnan)-広東(Guangdong)線(2009年12月28日運開、1,373km、5,000MW、Thyr:Siemens)
- 粫扎渡(Nuozhadu)-広東(Guangdong)線(2014年6月30日運開、1,413km、6,400MW、Thyr:ABB)
である。
一方、それ以外の4線路は国家電網公司が建設・管理運用しているもので、
- 向家堤(Xiangjiaba)-上海(Shanghai)線(2010年7月8日運開、1,916.5km、6,400MW、Thyr:ABB)
- 錦屏(Jinping)-蘇南(Sunan)線(2012年6月27日運開、2,059km、7,200MW、Thyr:ABB)
- 哈密南(Hami)―鄭州(ZhengZhou)線(2014年1月27日運開、2,192km、8,000MW、Thyr:ABB)
- 谿洛渡左岸(Xiluodo)-浙江金華(Jinghua)線(2014年7月3日運開、1,653km、8,000MW、Thyr:ABB)
となっている。
2014年7月現在、大規模±800kV UHVDC線路は6ルートにあがっており、そのこう長の合計は約1万600kmに達している。
No.58 世界最長の直流送電線(HVDC)が運開(ブラジル)The Rio Madeira HVDC Transmission System comprises a total of 6,000 MW of capacity required to transmit the power from the hydroelectric plants of Santo Antonio and Jirau, located on the Madeira river close to Porto Velho, to local load centres and to the main consuming areas in south-eastern Brazil.
The two trunk transmission lines to the south-east are rated ± 600 kV and extend over 2,385 km.
This capacity is divided among two bipolar transmissions rated 3150 MW each and two back-toback blocks of 400 MW each.
ブラジルで建設されていた世界最長の送電線(超高圧直流送電線・HVDC)は、2013年11月に完成し、営業運転に入ったとのことである。
現在、ブラジル北西部アマゾン川の支流であるマデイラ(Madeira)川に建設中の二つの大容量水力発電所から、電力需要地のサンパウロ近郊間にこう長2,385kmを超える±600kV大容量直流送電線(HVDC)を2ルート建設完了させたものである(2ルート合計送電容量約6,000MW)。
本送電線は、今まで世界最長であった中国のUHVDC±800kV錦屏-蘇南線(こう長2,059km)(最近のトピックスNo44で解説)の記録を更新するもので、世界一長い送電線となるものである。
ブラジルは、南東部の電力需要地である大都市(サンパウロ、リオデジャネイロ等)から遠く離れたアマゾン地方に膨大な量の水資源を有する国であり、一方直流送電線では1984年以来30年間にわたってイタイプ(Itaipu) HVDCプロジェクトで±600kVの超高圧設備を運用してきた高度な技術を有する国である。
従って、電源から数千km離れた需要地に電力を送電する計画の具体化については早くから取り組んでおり、今回の巨大プロジェクトについても順調に推進し、送電線工事はほぼ2年で竣工させた模様である。
本プロジェクトは、「PAC(Programa de Acceleracao do Crescimento)」と呼ばれるブラジル政府の進める開発計画の一つで、アマゾン川の支流の一つであるマデイラ(Madeira)川に2箇所の水力発電所(Jirau 44台330万kW、Santo antonio 44台315万kW)を建設しているが、その出力の大部分を大都市のサンパウロ近郊まで送電するものである。
この2つの発電所は当面数台の発電機を運転開始させ、最終的に2017年に全ての設備を完成させる予定とのことである。
送電線は、既にブラジルで1984年以降長年の実績のある±600kVイタイプ-サンパウロ間DC送電線(当HP、海外の送電線、ブラジル編参照)と同等の設計で、起点はマデイラ(Madeira)川河畔のポルトヴェリョ(Porto Velho)、終点はサンパウロの北西約250kmのアララカラ(Araraquara)で、その間を結ぶこう長2,385kmを超える世界最長距離の送電を行おうとするものである。
本プロジェクトの主体は、スペインのInabensa S.AとブラジルのAbengoa建設会社の合弁企業で、2009年7月にその企業から世界的に有名なスイスのABB社が交直変換設備を受注し、建設事業が本格的に開始された。
なお、同時にブラジル北西部周辺の500kVおよび230kV交流系統との間で、交直変換設備を通して(Back-to-back station方式で)80万kW(40万kW、2設備)の電力を送電することとしている。
この計画については、EMTP-ATPおよびEMTDCなどを駆使して安定運用解析、ダイナミックパフォーマンスおよび経済評価を考えつつ実現可能性調査として調査分析された。
この計画では、3案が検討された。
まず、右図の通りの
●±600kV DC-bipoles(2ルート)案
が調査検討された。
この2ルートはそれぞれ5~10km以上離れたルートをとるように設定された。
次に、右図に示す
●±600kV DC-bipoles、および500kV AC2回線(2ルート)のハイブリッド案
が調査検討された。
第3案として、右図の通り、
●765kV AC3回線(3ルート)案
が調査検討された。
その結果、安定運用解析、ダイナミックパフォーマンスおよび経済評価等の評価結果から「±600kV DC-bipoles(2ルート)案」が最適との結論を得た。
この検討の中で特に興味深いのは、
●送電損失は、ブラジル政府の定めた7.15%以下でなければならないとの条件で、これをクリアーするのはDC案であった。
また、
●今回建設する2つの発電所の顕著な特徴は、ダム水位は川の自然な洪水水位を上回らないほど低くタービン水頭は低いことで、そのため小さな定格(83MW)のバルブタービンを使用し慣性モーメントが小さいため、送電線運用時の電力遮断および再投入時等の加速トルク等をシミュレーションしたところ、AC案は不適合でDC案が適合した。
このマデイラ送電線設備構造は、イタイプHVDC送電線とほぼ同じ設計で、その鉄塔、がいし装置等の設備構造はやはりほぼ同じと思われる。
(イタイプ送電線は、海外の送電線「ブラジル」に掲載されいてるのでご覧ください)
2012年にCIGREに提出された資料等によると、送電線の概要は以下の通りである。
- 電圧:標準電圧:±600kV、最高電圧:±620kV
- 線下幅(Right Of Way):79m
- 線路こう長:Bipole1=2,381km、Bipole2=2,397km
- 鉄塔:第一ルート(Bipole1)については、基数4,300基、懸垂鉄塔(支線付き)3,440基(80%)、耐張鉄塔(4脚自立型)860基(20%)
(第2ルートのデータはないが、或る施工会社の資料によると、2ルート両方で鉄塔基数は約1万基とPRしている) - 電線幅(アーム幅):懸垂鉄塔:16.5m、耐張鉄塔:20.6m
- 使用電線:硬アルミより線1156m㎡(素線数91)×4導体、電線相互間隔457mm、電流容量:5,250A
(使用電線はACSRではなく、オールアルミの硬アルミより線を使用しているが、高低差の厳しい場所での引き下げ荷重の大きな鉄塔、あるいは長径間箇所などで、支持点張力の大きな箇所での電線保護対策をどのようにしているのか知りたいところである) - 架空地線:2条(鋼より線1条、OPGW1条)
- 2ルートのルート間隔:5~10km間隔を保持
マデイラ送電線については、アメリカの電力専門ニュースホームページ(http://tdworld.com/overhead-transmission)にて、2013年6月にAbengoa建設会社がブラジル政府と今後5年間の保守運用契約を締結したとのニュースが掲載されている。
本送電線は100以上の自冶体を経過するほか、ユネスコ世界遺産のパンタナールMatogrossense(アクセスするのが難く環境的に重要な地域)を横切るので設備維持運用に高度な技術が要求されるとのことである。
なお、YoutubeにMadeira川に建設している大容量発電所についてPRしているサイトがいくつかあるので、その内3サイトを紹介する。
ただし、解説言語はポルトガル語である。
http://www.youtube.com/watch?v=JItnnNdz3RM&hl=pt-BR
http://www.youtube.com/watch?v=7JAviy4rCxY&hl=pt-BR
http://www.youtube.com/watch?v=7Z32pmJFrSY&hl=pt-BR
No.57 経済産業省が「重要送電設備」指定制度を創設Ministry of Economy, Trade and Industry founded a system to appoint "important transmission facilities".
2011年3月の東日本大震災における大規模電源の被災や原子力発電所の定期検査後の再稼働の問題により、全国大で電力の供給力が大幅に不足する事態が発生したが、このような状況に於いて、東西の周波数変換装置(FC)や地域間連系線の容量の制約などにより、供給力の広域的な活用には限界があり、国民生活に大きな影響を与えた。
そこで経済産業省は、電力会社が供給エリアをまたぐ送電線や周波数変換設備(FC)などを建設する場合、それを「重要送電設備」に指定する制度を創設した。
すなわち、電力システム改革の柱の一つである「広域系統運用の拡大」に向けて送電網の増強を後押しする体制を整えたもので、建設工事に国がお墨付きを与えて地元との理解を得易くし、工期短縮につなげるものである。
具体的には、供給エリアを跨ぐ地域間連系線(FC、交直変換設備を含む)やエリア内の250kV以上の基幹送電線が対象で、当該電力会社は指定を受けたい場合は経済産業省に申請すると、資源エネルギー庁が都道府県と協議し、広域的な安定供給確保の要件を満たしていれば一ヶ月程度の短期間で指定されるとのことである。
当面、申請が予想されるのは2件で、東京・中部間で東京電力新信濃変電所から中部電力の500kV越美幹線までを直流送電線(HVDC)で結び両端に交直変換設備(900MW、90万kW)を新設するもので、通常は10年以上かかる工期を7年程度まで短縮し2020年度の運用開始を目指すものである。
また、北海道・本州間は、北海道電力が北本連系設備(600MW、60万kW)を30万kW増強するもので、2014年に着工し2019年3月の運用開始を目指す2件であり、早ければ11月にも指定される見通しとのことである。
(右図は、2013.4.10付で電気新聞に掲載された2022年度末中部電力系統図を参考にして作成したものである)
前者は、東日本エリア(50Hz)と西日本エリア(60Hz)の系統連系容量を120万kW(1,200MW)から210万kW(2,100MW)へ増強するもので、現在新信濃FCが60kW、Jパワー(電源開発)FCが30万kW、中部電力東清水FCが30万kW合計120万kWだが、電気事業連合会は非常事態が発生しても東西両エリアで供給予備率3%を確保するには90万kWの増強が必要と提案し、経済産業省に設置された「電力システム改革専門委員会」の下部機構として設置された「地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会」ではこの内容を妥当として、2020年度までの実現を目標にすべきと結論付けた。
前述のように、単純に新信濃FCを増強しないのは中部電力側の系統構成を考慮して500kV越美幹線に接続するためである。送電線は交流より直流の方がコスト面で有利なことから交直変換設備を分散させて、両端の交直変換設備工事は東電と中部電力がそれぞれ行い、直流送電線は東電が担当するとのことである。
送電線こう長が約100kmという規模を考えれば、ルート調査に3年、環境アセスメント・用地交渉・設備設計に3年、工事施工に5年の計10年程度が必要だが、冒頭に述べた 「重要送電設備」の適用を申請し、地域との関係を円滑に進めるなど国のバックアップを得て7年という異例の短期工事期間内に工事完了させる目標で、既に今年4月から調査等の実務に入っているそうである。
なお、経済産業省に設置された前述の「研究会」報告では90万kW増強を2020年度までに実現すると結論付けているが、さらにそれ以降出来るだけ早期に東西連系容量を300万kWまで増強すべきとしている。
その場合には、今回増強する送電線設計としては送電容量が90万kWの場合には、双極±250kV1回線でよいが、更に将来90万kW上乗せして送電容量180万kWに対応する設備として今回建設する場合には双極±250kV2回線設計としなければならず、設計・工事期間は一層厳しいものになるものと想定される。
右写真は双極±250kV北本連系線の耐張がいし装置鉄塔であり、超高圧直流送電線(HVDC)としては双極の2相が鉄塔の左右に水平配列されている世界的にも標準的タイプの送電線である。
世界各国は、双極2回線が必要な場合には殆どの場合1回線毎に別ルートを確保する設計としているが、我が国の場合には別ルートの確保は難しいため、アームをもう一つ下段に設けて、そこに増設の双極2相を架線する設計になるものと思われる。(図参照)
すなわち、1基の鉄塔に4相が架線される送電線構造になるものと思われる。
なお、右写真は電線が単導体であるが、中部・東京連系線は送電容量が90万kWと多いので複導体となろう。
No.56 アメリカに於ける自然災害による被害対策In U.S.A., there is much damage of the electricity grid caused by hurricanes every year.
Therefore the federal government is going to strengthen measures
アメリカでは、自然災害による流通設備被害が近年増加しており、特に2012年10月末にニューヨーク州を含む米北東部を襲い800万戸以上の広域大停電を発生させたスーパーストーム「サンデイ」による被害が突出して大きく、その被害総額は5兆2000億円にも達したとのことである。
ハリケーンや暴風雨などの自然災害による大規模停電被害は、この10年間で毎年70件ほど発生しており、「サンデイ」を除いた一年間当たりの被害総額は多い年で3兆3000億円になるとのことである。
アメリカでは、日本と異なり電力会社数は誠に多く3000社を超える数で、送電網を所有する会社と所有しない会社が混在し、それぞれが州毎に異なる規定・基準のもとに会社経営をしているため、連邦政府が目指す電力会社間の相互応援体制は必ずしも効率的に行われていないようで、オバマ政権は連邦政府の役割を強化して、迅速な復旧活動を行う方針を打ち出した。
その一環として、2013年5月には、大統領自らが出席して電力トップとエネルギー省(DOE)とで会談を行ったとのことであり、そこで「サンデイ」襲来時に連邦緊急事態管理局(FEMA)と電力業界が効率的連携を図ったことが、迅速な復旧活動に繋がったと評価されたので、電力業界は一層協調し災害対策を強化していくことで合意したそうである。
一方、オバマ大統領は2014年度予算教書でエネルギー省の災害対策予算を大幅に増額し、災害発生の際の電力業界、州政府、自治体等が協力して迅速に復旧活動を行うことが出来るようにするとともに、詳細は不明だが連邦政府が直接電力網コントロールをすることが可能なような「連邦オペレーションセンター」を設置して専門家の教育増強を目指し災害対応体制を整備するとのことである。
しかし、異常気象は年々確実に増えており送電網の拡充強化が一層求められている。
なお、日本と同様、経年設備が増加しているため、その対策をも含めスマートグリッドの導入を国立標準技術研究所(NIST:The National Institute of Standards and Technology)を中心にして強力に推進していることは、皆様がよくご存じの通りである。