On this page, I displayed photographs of power transmission lines in Brazil which my close friend (he lives in Brazil) took. Representative power transmission lines in Brazil are included in this page.
彼は、私からの依頼を快く受けてくれて、この度、サンパウロから西方140kmほど離れた場所などにおいて、世界第2位高電圧の直流送電線およびブラジルで最高電圧の交流送電線などを、現地に何回も足を運んで撮影してくれた。
また、サンパウロ市内の送電線についても現場を何回も往復して撮影してくれた。
これらの写真は観光ツアーでは絶対に撮れないもので、私および本サイトを訪問されている方々にとっては誠に貴重な映像であり、彼と撮影に協力してくれたご家族の皆さんに心から感謝するものである。
さて、ブラジルの電気事業者は、連邦電力公社・エレトロブラス(Eletrobras)社、州営事業者、民間事業者の3つに大別できる。
ブラジルで最大の電力需要地、サンパウロ州およびリオデジャネイロ州では、民間事業者が発電及び配電部門を、また州営事業者もしくは連邦電力公社・エレトロブラス(Eletrobras)社の傘下の会社が送電部門を運営している。
そのほかの地域では、連邦電力公社または州営事業者が発送配電一貫体制を取っているところもある。
連邦電力公社・エレトロブラス(Eletrobras)社は国内送電線の60%を所有しているブラジル最大の電力事業者であり、基幹系統を構成する230KV、345KV、440KV、500KV、750KVおよび直流(DC)世界第2位の高電圧+/-600KVの送電線等の大半を所有運営しているようだ。
ブラジルの国土は広大で、面積は850k㎡、日本の22.5倍の広さであるが、その広い国土を500KV基幹系統が背骨のように南北に連系しており、そこから東西の主要都市にやはり500KV系統で連系していて、全国を500KV系統が担いグリッド状に結んでいる。
交流(AC)750KVおよび直流(DC)+/-600KVは、パラグアイ国境を流れるパラナー川に、ブラジルとパラグアイが共同で建設したイタイプ水力発電所(1,260万KW、1991年全出力完成)の出力のほとんどを、約850km離れたサンパウロに送電するため特に建設されたもので、AC750KVは1回線装柱・3ルート計3回線、DC+/-600KVは双極1回線(2相)・2ルート計2回線の、合計5ルート5回線が建設されている。
今回写真撮影をしてもらった送電線は、連邦電力公社・エレトロブラス(Eletrobras)社の傘下の会社 (FURNAS) が運営しているサンパウロ近傍の送電線であるが、上記のブラジル交流最高電圧の750KVおよび直流世界第2位高電圧+/-600KVの送電線が含まれており、ブラジルの誇る送電技術を紹介できる極めて中身の濃い内容である。
以下に解説と共にその写真を掲載する。
1.+/-600KV直流送電線+/-600kV direct current power transmission lines
本送電線は、ブラジルのパラナー川がパラグアイ国境を流れる地点に設けたイタイプ(Itaipu)水力発電所と、電力需要地・サンパウロの近郊間(日本で言えば東京~下関間に相当する距離)、約800kmを結ぶ+/-600KVの直流(DC)送電線(送電容量630万KW)で、ブラジルが世界に誇る直流世界第2位の高電圧の送電線である。
イタイプ(Itaipu)水力発電所~サンパウロ間には、上記の直流送電線と平行して、750KV送電線も建設され、発電所全出力の1,260万KW(ブラジル側70万KW 9台 60Hz、パラグアイ側70万KW 9台 50Hz)の殆どをブラジル国内サンパウロ方面に送電している。
すなわち、パラグアイ側には、電力需要が乏しいため、パラグアイ側の出力(70万KW 9台 50Hz・630万KW)の殆どを、一旦直流に変換して本DC送電線によりサンパウロ近郊・イビウナ(Ibiuna)まで送電し、周波数60Hzの交流に変換し需要に供給している。
さて、イタイプ(Itaipu)水力発電所は、ブラジルとパラグアイの両国が共同で建設した大規模ダム式発電所で、中国の三峡発電所(1,820万KW、最終2,240万KW予定)が完成するまでは世界一の規模を誇った大容量発電所であり、現在は世界第2位の大容量発電所である。
イタイプ(Itaipu)水力発電所は、1971年に着工され、13年後の1984年に最初の2基が竣工し、18基の全てが完成したのは1991年である。
その後、2006年および2007年に1基ずつ竣工し、最終的には20基の発電機が完成している。
しかし、常に運転を継続するのは18基(70万KW*18=12,60万KW)で、2基は他の発電機が補修等で停止しているときに運転する予備機としている。
本DC送電線は、冒頭に述べたように、イタイプ発電所に近接して設けられた交直変換所を起点として、サンパウロの西方約60kmのイビウナ(Ibiuna)に設けられた交直変換所までの、こう長約800km、双極1回線(2相)・2ルートのDC送電線である。
なお、2ルートは、両端の変換所付近を除き、約10km以上離してルート設定されている。
本DC送電線については、発電機の竣工経過に合わせ、1984年に双極1回線(2相)・1ルートを+/-300KV運転で竣工させ、翌年の1985年に+/-600KV昇圧させた。
更に、1987年に第2ルートを竣工させている。
2ルートの送電線概要は次の通りである。
●Bipole1:こう長792km、竣工:1984年
●Bipole2:こう長820km、竣工:1987年
鉄塔は、自立鉄塔と支線付鉄柱が使用されており、
●自立鉄塔:全体の20%、質量9,000kg
●支線付鉄柱:全体の80%、質量5,000kg
である。
さて、写真の説明に移るが、右写真は、直線箇所の懸垂支持物で、ガイタワー、すなわち支線付鉄柱である。
支線は、本線アームの下部に線路方向に舟形のアームを設け、その先端から四方に設置している。
電線は4導体を用い、電線線種はACSR644m㎡(45/7)が使用されている。
4導体の電線間隔は45cmである。
また、がいしは一連32個連結、がいし連長5.1mであり、単連または2連装置が場所により使い分けされている。
がいしの仕様は不明だが、我が国の320mmがいしまたは280mmがいし相当の仕様のものが使用されていると思われる。
なお、アーム長、すなわち電線水平間隔は約17mと思われる。
Right of Way 幅は、72mである。
回路構成は、大地帰路方式を採用しており、従って我が国の阿南紀北直流幹線のように架空地線を兼ねた帰路の電線は架線されておらず、シンプルな形状になっている。
右写真は、直線箇所で自立鉄塔を適用している懸垂支持物である。
直線箇所におけるガイタワーと自立鉄塔の適用区分は、直線箇所のうち、
・前後径間のアンバランスな箇所 、
・径間長の特に長い箇所 、
・標準より高い鉄塔が必要となる箇所 、
・ガイタワーが十数基連続する箇所 、
などでは、ガイタワーに代えて自立鉄塔を適用しているようだ。
ブラジルの送電線は、今回撮影したほとんどの送電線で、フラッシオーバしたときのアークからがいしを保護するアークホーンを省略した簡素な設計を採用している。
この思想は、我が国と異なり、がいし破損の確率を予測し、それが発生したときの事故停止を許容すると共に、破損がいし交換費用と建設時アークホーン設置費用との経済比較を行い、アークホーンの取り付けを省いたものであろう。
我が国では考えられない簡素な設計だ。
直線箇所、懸垂鉄塔のクローズアップ写真である。
下部2節は変形Kトラスを適用し、上部はダブルワーレンを適用している。
昇塔装置は、充電部接近箇所は正面にハシゴを設けており、下部は主柱材にステップボルトを取り付けている。
ルートの水平角度が小さい箇所では、振れ放し懸垂がいし装置を用いて耐張鉄塔よりも安価な懸垂鉄塔を適用しており、建設費の低減に努めている様子がよく分かる。
外カーブ側の懸垂装置は、風によるがいし装置の横ぶれ時にアース側のがいしがアーム主材に接触しないよう、アーム先端に設けた下方突きだし部材に取り付けされている。
後方に別ルートのDC送電線が見えるが、ルートの水平角度が大きいので、耐張鉄塔が適用されている。
右写真は、耐張鉄塔である。
鉄塔は、下部3パネルがKトラスで、上部はダブルワーレンである。
主アームは舟形ではなく角アームを適用している。
がいし装置は、4連(正方形配置)装置を用いている。
がいしの仕様は不明だが、我が国の「320mmがいし」相当であれば2連装置で十分と思われるが、4連装置が使用されているので、「280mmがいし」相当品が使用されているのかもしれない。
さて、写真が小さくて見にくいが、引留クランプからジャンパ線が下がる位置では、コロナ防止リングが取り付けられているのが分かる。
ジャンパ線は本線と同様4導体である。
なお、左隅に写っている送電線は、本DC送電線と交差し、DCの下越ししている750KV送電線である。
(写真のDC送電線は、750KV送電線の南側にルートを取っているが、DC送電線の終点が、750KV送電線の北側なので、冒頭の「送電系統概要図」 に示すとおり、終点の80kmほど手前で横断・交差しており、ちょうどその箇所で写真撮影した。)
右写真は、上と同じ鉄塔だが、ジャンパ線の錘付き支持がいし装置がよく見えるので再掲した。
ところで、この鉄塔は、750KV線路と交差し、それを上越ししている箇所なので、鉄塔高が標準より高くなっている。
なお、右隅に写っている送電線は、本DC送電線と交差し、DCの下越ししている750KV送電線である。
この写真は、終点・サンパウロ側のイビウナ(Ibiuna)変換所での引き込み箇所を撮ったものである。
この写真では写っていないが、右側にもう1ルートが引き込まれている。
更に、この写真では分からないが、冒頭の「送電系統概要図」 に示すとおり交流側は345KV、および同系統概要図には示していないが最近は500KV トランスが増設されており、共にブラジル国内の基幹系統に連系されている。
2005年に開催されたCIGREに提出されたレポートによると、1993年から2000年における8年間の運転実績は、
●事故回数:Pole1=24,Pole2=33,Pole3=7,Pole4=21、回線当たり・100km当たり・年当たり事故回数=0.659回
であった。
このうちPole3およびPole4の2回の事故は、Bipole2の鉄塔倒壊事故であったとのことである。
2.750KV送電線750kV power transmission lines
本送電線もイタイプ水力発電所から、電力需要地のサンパウロ方面に電力を送電するために建設されたもので、前項の直流送電線と平行して、発電所出力のブラジル側70万KW 9台 (60Hz)計630万KW、をブラジル国内サンパウロ方面に送電している。(前項、+/-600KV送電線に掲げた「イタイプ水力発電所 送電系統概要図」 参照)
発電所のごく近傍の箇所に、発電所引き出し電圧500KVを750KVに昇圧する変電所(Foz do Iguacu)が設けられ、そこを起点としている。
終点は、サンパウロ市東南東(都心から約45km)の地点(T.Preto)に設けたブラジル南東部系統の拠点変電所で、送電線こう長は約900kmである。
送電線は1回線装柱で3ルート・3回線あり、南側の2ルート・2回線線路はあくまでも隣接した平行ルートをとっているが、北側の1ルートは後年建設されたもので、やや離れた位置を経過している。
本送電線の最も特徴的なことは、1,000kmに近い長距離送電であるため、線路のリアクタンス(交流抵抗の一種)が大きくなり、安定して送電できる電力が低下して、数百万KWという大容量送電では適切な対策をしないと運用が不可能になることである。
これを可能にするため前出の「イタイプ水力発電所 送電系統概要図」 に示したように、線路の途中ルートの約1/3の地点に「Ivaipora変電所」および約2/3の地点に「Itabera開閉所」の2箇所の電気所を設けている。
更に、そこに線路のリアクタンスを減少させる効果を発揮する、世界でも希な超高電圧800KV設計の、直列コンデンサをサイリスターで制御する直列補償装置を8セット適用して、線路リアクタンスの約50%を補償し得たとのことである。
このことにより、安定的に送電できる電力が増加し、新たな線路建設を抑えることができ、かつ負荷の変動があっても電圧の安定性を増加させることができた。
なお、Ivaipora変電所では、ブラジル南部のシステムと連系している。
懸垂鉄塔は自立型鉄塔ではなく、V型ガイタワーが、もっぱら使用されているようだ。
鉄塔用地が広く確保できる場所では、V型ガイタワーを適用すると、設備建設費が自立鉄塔に比較し、最大40%ほど安くなるとの報告が発表されている。
この形の鉄塔は、同様の電圧を運用しているカナダの735KV設備と類似の構造だ。
支線は、中線のV吊りがいしの根本から四方に設置されている。
がいしは磁器がいしで一連33~34個が用いられている。
電線は、4導体方式で、外側線の水平間隔(アーム幅)は、約29mである。
電線線種は不明だが、単連懸垂装置が使用されているので、直流と同じく中程度の太さのACSR410m㎡程度のものと思われる。
前項で説明したとおり、ブラジルの送電線は、今回撮影したほとんどの送電線で、フラッシオーバしたときのアークからがいしを保護するアークホーンを省略した簡素な設計を採用している。
ルートの水平角度が軽角度の箇所では、自立鉄塔を適用し、かつ傾斜V吊り装置を使用して懸垂鉄塔とし、建設費の低減に努めている。
角度の外側では、V吊り装置の取付点を下方に下げて、がいしにかかる荷重をバランスさせている。
なお、耐張鉄塔も同様の鉄塔形状(えぼし型)である。
750KV送電線は、3ルートあるが、そのうち中央と南ルートは写真で見られるように接近・平行したルートを取っている。
向かって左側の鉄塔が南ルート、右側の鉄塔が中央ルートである。
この写真は、750KV南側ルートと直流+/-600KV南側ルートが交差しているところを撮影したものである。
この写真から、直流ルートが交流の上を横断しており、直流ルートが後から建設されたことが分かる。
さらに、写真の左端に見えるのは、直流線路の終点・イビウナ(Ibiuna)変換所から引き出され、直流線路とほぼ並行したルートを取っている、ごく最近建設された500KV送電線であり、500KV送電線の項で解説する。
右写真は、750KV線路3ルートのうち北側のルートを取る線路で、このルートは他の2ルートからやや離れた位置を経過している。
写真では、直線箇所であるのにV型ガイタワーが適用されていないが、この前後の箇所ではV型ガイタワーが使用されている。
上記写真に隣接した鉄塔のクローズアップ写真である。
鉄塔形状は典型的なえぼし型鉄塔である。
我が国の鉄塔構造と異なるのは、鉄塔下部構造が、変形Kトラスを採用していることである。
ブラジルでは、他の電圧階級の鉄塔も、おしなべて鉄塔下部構造として、このトラス構造を適用しているようだ。
(なお、耐張鉄塔が撮れなかったので掲載していないが、どのようながいし装置であるのか知りたいところである。 サンパウロ市の南方を本ルートが経過しているので、いずれチャンスがあれば友人に頼んでみようと思っている。)
3.500KV送電線500kV power transmission lines
(1)3導体・えぼし型鉄塔
3導体方式の500KV送電線の懸垂鉄塔であるが、独特の形状をした変形えぼし型構造の鉄塔を用いた送電線である。
直流送電線の終点であるイビウナ(Ibiuna)変換所から引き出された送電線で、北方に伸びており、「ブラジル南東部系統」の何れかの拠点変電所に接続されるのであろう。
3導体方式電線構造は、我が国と同様逆三角形構造を採っている。
がいしは、一連27個連結のガラスがいしを使用している。
外側線電線水平距離(アーム幅)は、懸垂箇所で約13mである。
なお、右側にある線路は、230KV送電線で、後に解説する。
右写真は耐張鉄塔である。
懸垂鉄塔は変わった形をしているが、耐張鉄塔は典型的なえぼし型構造である。
ジャンパ線は錘付きのジャンパ支持がいしを使用している。
耐張がいし装置は、電線1条ごとにがいし連が対応した逆3角形配列の3連装置で、この線路では耐張がいし装置の線路側にアークホーンを設置している。
ブラジルの3相識別方法は、我が国とほぼ同様の「赤・白・青」の色表示方式をとっているのが分かる。
鉄塔ウエスト部分に標示札が見える。
なお、主アームは角アーム方式を採っている。
(2)4導体・2回線垂直配列鉄塔
本送電線は、イビウナ(Ibiuna)変換所と、南部の大都市クリティーバ(Curitiba)に隣接したベティアス(Bateias)拠点変電所の間に建設された、こう長332kmの500KV・4導体方式の「Bateias-Ibiuna」送電線で、ごく最近2003年3月に竣工した送電線である。
この送電線については、現地の技術雑誌に紹介記事が載ったのを入手したので、少し詳しく紹介する。
本送電線は、2001年5月 "The National Agency of Electrical Enrgy(ANEEL:電力省)"が、電力会社:FRUNASとの間に、送電線建設に関する許可署名をして、2002年3月に工事が開始され、4つの工区に分割し同時進行させて2003年3月に竣工した。
4つの工区の内訳は、BataiasSS-1工区:95km-2工区:67km-3工区:110km-4工区:60km-IbiunaSS、で施工会社は「Camargo Crrea」と言う会社1社単独で受注し施工したとのことである。
工事費は、米ドルで4億1200万ドル、直接雇用労働者は2,800人であった。
(300kmを超えるこう長の500KV4導体送電工事を一年で完成させるのは、かなり早いペースだ。また、この規模の工事を1社単独で受注し施工するのは、協力会社があるにしても、工事用資機材および多くの電工等の現場技術者の手配能力を考えるとかなり大規模な会社と思われる。)
このルートは、サンパウロ州(経過地は、森林39.5%、牧草31%、農地15%、人口密度30人/k㎡)とパラナ州(経過地は、森林27.3%、牧草38.4%、農地17.2%、人口密度74人/k㎡)にまたがり、こう長332kmの間に鉄塔688基が建設された。
(人口密度の低いのは、ブラジルならではだ)
FRUNASは、70m幅に地役権を設定し、その線路用地(Right of Way)の確保のため、957人の地主と交渉したほか、128世帯の家族に対して建物の改造交渉を行ったとのことである。
(正確な電力線幅は不明だが、大凡20m程度と思われるのに対して、70m幅の地役権設定用地は、我が国の場合と比較し極めて広いと思うが、その根拠はよく分からない)
ところで、ルート選定に当たっては、環境省の指導の下に行われ、2回の公聴会を経て、以下の10項目にわたる環境対策を実施することでルートが決定され、建設許可が下されたそうだ。
10項目の環境対策とは、工事施工に際し環境教育の実施、工事計画の社会への発信、考古学的貴重な物の救済、鉱物権利を障害をしないよう管理、線下用地の補償、植生の移植、環境対策体制の構築、環境の質が低下する地域の回復、健康補償、および環境補償である。
(詳細は不明だが、自然保護のため非常にきめ細かな環境対策条件が付されていると思われる)
右写真は、直線箇所の懸垂鉄塔である。
ブラジルでは、土地が広大で送電線用地取得は容易であろうと想像されるが、最近の土地に関する権利意識の高まりを反映したためか、水平配列線路が多く建設されているなかで、人口密度の低い地域を経過する500KV送電線として2回線垂直配列、しかもオフセット無しにしたのはめずらしいと思われる。
総建設工事費に占める用地補償費の割合が増加傾向にあるための回避策かもしれない。
懸垂鉄塔の、クローズアップ写真である。
設計送電容量は2,000MWとのことであり、それを片回線で送電するとすれば、電線1条当たりの電流は約700Aとなるので、使用電線はACSR400m㎡程度の太さのものと想定される。
したがって、通常のがいしを使用し、1連懸垂装置を使用すれば十分荷重条件を満足するが、一連個数は23個であり通常より一段強度の強いがいし(例えば我が国仕様の320mm相当のがいし)が使用されていると思われる。
写真に見られるようにがいし装置はシンプルな構造になっている。
右写真は、耐張鉄塔である。
この送電線は、ジャンパ線が風荷重で横振れした場合には塔体に接近しクリアランスが確保できないためであろうか、ルートの水平角度の大きさに拘わらず全ての耐張鉄塔で両回線ともジャンパ支持がいしが使用されている。
また、この写真では見にくいが、耐張がいし装置は、2連耐張装置であり、前述の通り通常より一段強度の強いがいしが使用されていることが分かる。
電線とがいし装置の連結は、縦2条の電線を垂直2連ヨークで引き留め、直接がいしに連結させている簡素な構造である。
さらに、耐張がいし装置の電線側のみアークホーンが用いられている。
鉄塔最下部構造は、あくまでも4脚同一レベル構造で、片継脚設計は採用していないようだ。
4脚のうち地表レベルの低い脚は、基礎コンクリートを垂直に1m以上も立ち上げている。
右写真のように、ジャンパ線支持がいしは、かなり水平角度の大きい箇所でも左右回線の両側に使用されている。
通常、内カーブ側のジャンパ線は、塔体から十分離れるので、風による横振れが発生しても塔体に接近することはなく、クリアランス設計上は支持がいしは不要である。
本送電線では、ジャンパ線を固定してジャンパ補強対策を省略し、引留クランプのジャンパソケット部分の保護対策がその目的とも考えられる。
4.345KV送電線345kV power transmission lines
(1)ドナウ形鉄塔
右写真は、345KVドナウ形鉄塔線路の直線箇所における懸垂鉄塔である。
ブラジルでは、500KV以上の線路はごく最近建設された一部の線路を除き、1回線装柱がほとんどであるようだが、345KV以下の線路については2回線設計が多いようである。
本送電線は、4導体を使用しており100万KW級の大容量基幹送電線であろう。
がいしは、一連21個連結のガラスがいしが使用されている。
右写真は、ドナウ型鉄塔線路に於ける撚架鉄塔である。
この送電線は、こう長が100km以上の長距離線路であろう。
そのため、線路の途中で撚架をする必要があり、右写真の鉄塔のように上部4相、下部2相の、通常とは逆の電線配置をした撚架鉄塔を設けている。
すなわち、この鉄塔を全区間の1/3の箇所で1基入れ、その前後径間で電線をねじることで3相の電線位置を120度回転させることができ、更に2/3の箇所でもう1基入れ120度回転させると、計240度回転させ得るので、起終点間にこの鉄塔を2基入れれば完全撚架が1回行えることになる。
(撚架概念図参照)
世界的にもこの形の撚架鉄塔は誠にめずらしいと思われる。
しかし、径間途中の電線ねじりをきらい、多くの国では鉄塔でのジャンパ線を交差させること等で撚架を行っている例が多い。
右写真は、ドイツに於けるドナウ型鉄塔の撚架例である。
下アームの左右電線をジャンパ線で交差させて、左右位置替えしている。
(2)サンパウロ市内住宅密集地通過・狹線間鉄塔
土地が極めて広大なブラジルでも、生活に欠かせないインフラストラクチャーの宿命として、人口が密集した市街地周辺に送電線を通過させることがどうしても必要になる。
サンパウロの西側においては、都心から10~15km内外の地区を南北に345KV幹線送電線が経過している。
この送電線でも郊外に施設する場合と同様に、住宅密集地内でも送電線専用用地(Right of way)を確保し、その中には住宅等の建造物は建築禁止にしている。
本送電線は、サンパウロ市の南西部、都心から約15kmの地点にある「XAVANTES開閉所」から引き出されて、北方にルートを取っている。
線路は、狹線間オール耐張設計で、電線幅は約7mであり、送電線専用用地(Right of way)の幅は約27mである。
よく見ると、専用用地の右側に片寄って送電線が建設され、左側が空いているので、いずれもう1ルート建設することができそうだ。
電線は、4導体で電線の線種は中程度の太さ(ACSR330~410m㎡)と思われる
電線とがいし装置の連結は、4導体のうち水平の2条の電線を2連ヨークで引き留め、十字ヨークに伝達しがいしに連結させている。
圧縮引留クランプと2連ヨークとの間には、弛度調整用と思われるターンバックルのように見える金具がセットされている。
また、上線のジャンパ線と下線が接触しないよう、下線用2連ヨークがロッドで突き出されている。
がいしは、最も一般的な磁器がいしの2連耐張装置で、一連19個連結である。
鉄塔は、いかめしい形の架空地専用アームが目立ち、遮蔽角はマイナスの角度で電線を手厚く保護している。
狹線間設計のため、直線箇所も含め全ての鉄塔が耐張がいし装置を用いたオール耐張線路である。
超狹線間設計と言える線幅の狭い設計のため、充電部付近は、昇塔する作業員の昇降用装置として、塔体中央にステップボルト付きのロッドを設けている。
また、作業員の安全のためにがいし連の鉄塔側にロッドを挿入して充電部を塔体から遠ざける設計を採っていると思われる。
ブラジルと言えば、障害物のない広大な土地にゆったりとルートを確保して、送電線が建設されているイメージを持っていたが、この狹線間設計幹線送電線を見ると、大都市近郊では、我が国と同様に送電線のルート確保は極めて困難を伴っており、設計者の苦労がよく分かる。
6.ローカル送電線Local power transmission lines
ブラジルに於けるローカル系統の電圧は、69KV、88KV、138KVがあるが、サンパウロ市内・南部の拠点変電所に引き込まれているローカル系統は138KVであり、今回この系統の送電線を紹介する。
サンパウロ市内を南から北に流れるピニェイロス(Pinheiros)川に添って、138KV送電線が2ルート平行して南北方向に経過している。その用地は、河川と高速道路に挟まれた部分を「Right of Way」として活用している。
そして、市の中心に近い川沿いの地点に約16万㎡(約400m*約400m)ほどの大きな屋外変電所を建設し、ここを市内電力供給の拠点にしていて、送電線はその変電所まで延び、そこから先は主として地中線で市内供給している。
この拠点変電所に入ってくる送電線は数ルートあるが、見る限り電線設計として2~3導体方式を採用し、少ないルートで大容量電力を送電するように設計している。
電線線種はACSRであり、引留クランプは圧縮型を用いている。
鉄塔形状は、標準的2回線垂直配列で、オフセットはついていない。
市街地での土地の有効活用をはかっているためである。
がいしは、ガラスがいしを使用し、一連11個連結としている。
ただ、左奥の回線の下線がいしだけは特殊ながいしを用いているのが分かる。試験的使用のように思われる
この送電線は、ルートの直線箇所でも耐張がいし装置が使われており、懸垂がいし装置を用いない、いわゆるオール耐張送電線である。
鉄塔の形状で、特に一点だけ気づくのは下アーム・ベンド点から上部の形状がテーパー無しの主柱材が垂直の設計を採用していることである。
これは、我が国の通常の鉄塔設計手法(テーパーを付けて上に行くほど塔体を狭くする経済的設計)と違う点で、我が国では古い昔の設計で採用していた古い考え方の設計であり、やや違和感を覚える。
ただ、欧米では現在でもこのタイプの鉄塔構造を採用している国は多い。
冒頭に説明した高速道路用の吊り橋(Octavio Frias de Oliveira Bridge)付近の写真である。
吊り橋付近だけは、白い鋼管単柱支持物を適用して、吊り橋の近代的景観と調和させるよう、環境調和構造物としている。
その鋼管単柱支持物のクローズアップ写真である。
鋼管直径は、上部で1m内外、下部は1.5m程度、最下部の基礎部分は3m以上あると思われる。
バランスの取れた環境調和支持物で、美しい。
Y字形2段構造の高速道路を横断する箇所では、電線地上高を高くする必要があるので、支持物高も高くなるが、最下部基礎部分がそのままの形状で30m位の高さまで伸びているのがめずらしい。
変電所構内写真
さて、ピニェイロス(Pinheiros)川沿いに建設されたサンパウロ市内の拠点変電所で、その広さは約16万㎡(約400m*約400m)ほどの大きな屋外変電所のごく一部を撮影した写真である。
コンパクトな引き留め鉄柱から避雷器など変電所機器に電力線を引き下げているが、2導体の電線を引き下げている部分と、更に左側に延びている電線はHDCC単導体に変換されているようだ。
異種電線を使い分けている様子が分かる。
なお、引留鉄塔のジャンパ線支持がいしおよび鉄構のジャンパ支持がいしは、一般箇所のがいし連結個数11個に対して、9個連結となっている。
懸垂状に使用している部分は、連結個数を低減している。
上の写真の左側を撮ったものである。
画面の左側に見える鉄塔は、3導体送電線である。
3導体方式の送電線のクローズアップである。
3導体電線の引き留め方法は、縦配列の2連がいし装置で対応しており、なかなかユニークな設計である。
3導体のうち上2条は水平2連ヨークで縦2連ヨークの上部に接続され、下の1条は直接縦2連ヨークの下部に接続されている。
3導体ジャンパ支持がいしの部分が分かる写真として掲載した。
その部分は、クリアランスを考えて3導体水平配列になっている。
電圧が低いローカル送電線でも極力少ないルートで大容量の電力を送電したいとの設計者の苦労がよく分かる設備である。