2.電線・地線設計The design of conductor and ground wire
電線設計の基本は、計画された電力を、電線の劣化を起こさず低損失で送電させることである。
(1)電気的性能The electrical performance of conductor
求められる性能を列記すれば次の通りである。
定められた常時の送電電流を、定められた電線温度以下で送電し、耐用年数内では性能劣化しないこと。
同一の送電系統の他の送電回線が、事故などで送電不能になったとき、短時間ではあるが通常より多くの電流を送電せざるを得ないときでも、定められた電線温度以下であること。
常時の送電電圧で、異常放電をせず、送電線に近接した場所でラジオ受信に雑音障害を与えないこと。
(2)機械的性能The mechanical performance of conductor
電線は過酷な気象条件にも十分な強度を保ち、電線温度が上昇し弛度が増加しても規定の地上高を確保するよう、下記の条件を考慮して張る。
台風などの強風に耐えること。
電線に着氷したり、着雪したときの重量および風圧荷重、そのときの異常電線動揺(スリートジャンプ、ギャロッツピングなど)に耐えること。
規定の電線温度上昇時、規定の地上高を確保すること。
ごく弱い風(微風)のとき発生する電線振動を抑制し、それに耐えること。
海岸付近の塩分、工場地帯の有害汚損空気に耐えること。
(3)電線の選定The choice of the kind of conductor
送電線が建設運用され約110年が経つ。
初期の頃は「硬銅より線」が使われた。
銅は電気導電性能が良く、送電途中でのロスが少なく電気的には優れた材料である。しかし、一方で価格が高く、機械的強度が弱く、重いため工事施工での取扱が難しい点がある。
現在では導電性能がやや劣るものの、安価で軽く機械的性能が良い「鋼心アルミより線(ACSR:Aluminum Conductor Steel Reinforced)」が主に使われている。
鋼心アルミより線(以下ACSRと表記)の太さ・外径は、工事施工上のことを考え、約16~38mmのものが多く使われており、一般にアルミの断面積で電線を呼称・識別している。
ほとんどの送電線で、ACSR 120m㎡(外径16.1mm、許容電流390A)~ACSR 810m㎡(外径38.4mm、許容電流1,240A)の電線が使われている。
どの太さの電線を使用するかは、送電する電流値により決定する。
特に大電流を流したい場合は、後述の耐熱性能を向上させた「鋼心耐熱アルミ合金より線(TACSR)」を選定し、かつ太い電線を使用することがあり、使用実績としては TACSR 1520m㎡(外径52.8mm、許容電流約3,000A)を採用した例がある。
ACSRは、連続して電流が流れ、電線温度が上昇しても引っ張り強度が低下しないよう、90℃以下の温度で運転出来る太さの電線を選定する。
経過地の最高気温と最高許容温度90℃との差が大きければ流せる電流も多くなるが、その差が小さいと流せる電流は少なくなる。
したがって、経過地の最高気温が送電容量を決める大きな要素になる。
例えば、関東平野では、設計に用いる最高気温を40℃とし、風速0.5m/Sec、日射量0.1w/c㎡の気象条件の時に、電線輻射率0.9として、電線温度が90℃以下となる最大電流値を決める。
最近は、130~150℃の高温に耐える「鋼心耐熱アルミ合金より線(TACSR)」が開発され多く使用されている。この電線を使用すればACSRと同じ太さで40%以上多くの電流を流せる。
電圧275KV未満の送電線では、通常電線を1相当たり1条使用しているが、275KV以上の超高圧送電線では、電線から発生するコロナ放電によるルート付近のAMラジオに与えるノイズの影響を抑制するため、2条以上の複数条の電線を用いると太い電線を張ったと同じノイズ低減効果を得られるので、1相当たり2~8条の電線を使用している(多導体送電線という)。
また、電圧275KV未満の送電線でも、送電容量を増大するとき、1相当たり複数条の電線を使用することがある。
これらの多導体の送電線では、同一相内の電線は密着させず、電線相互間を数十cm以上離し、正多角形に配置し、風による横振れにも規定の間隔を保持し、電線接触を防ぐ「スペーサ」と称する金具を数十mおきに使用する。
市街地又はその付近で、人家がルート近傍にある地域では、電線が風を受けて発生する「風騒音」を低減する設計を取り入れた電線の使用も行われている。
電線の撚り方向
さて、電線の最外相の撚り方向には右写真のように2種類がある。
撚り線機の後方から見て最外相の素線ボビンを右回転させて撚っていくのを「右より」と言い、素線のより方向がS文字状となっているので「Sより」と言う。
また、最外相の素線ボビンを左回転させてよっていくのを「左より」と言い、素線のより方向がZ文字状となっているので「Zより」と言う。
「右より」、「左より」は英語では逆になっていてそれぞれ「Left hand lay」、「Right hand lay」と表現されているので英文を読む時は注意を要する。
なお、このどちらの電線を使用するかは、電力会社によって異なっている。
東電の場合は「Sより」を採用している。
(4)地線の選定The choice of the kind of ground wire
地線、正確には架空地線は、落雷時、電線(電力線)に雷が直撃しないよう、支持物の最上段に配置し、地線に落雷させて雷電流を大地に流す役目をしている。
地線は常時送電電流は流れず、導電性能は重要視されない。
機械的性能が十分であればよく、低電圧送電線では「亜鉛めっき鋼撚り線(GSW)」が使用される。
重塩害地域などでは塩害対策として亜鉛めっきの代わりにアルミを厚く被覆した「アルミ覆鋼撚り線」が使用されている。
ただ一線地絡事故時には、大電流が瞬間的に流れるが、この電流に耐え得る必要があり、直接接地系統の超高圧送電線では、特に大電流となるため普通のアルミよりも機械的強度を強くした、「鋼心イ号アルミ合金より線」の細い電線が使用される。
また、最近は、送電系統の制御信号その他通信用の信号を伝送するため、地線の内部(中心部)に光ファイバー伝送路を設け、効率的かつ機械的に安定した通信回路を確保することが行われており、このために開発された「光ファイバ複合架空地線(OPGW)」を使用するケースが多くなった。
なお、避雷効果を確実にするため、地線の弛み(弛度:ちど)は電線のそれよりも少なくするため、軽く、かつ機械的強度のあるものを選定する。
(5)架線設計Stringing design
電線をあまり緩く張ると、支持物が異常に高くなり、建設費が高く不経済になり、逆にあまりきつく張れば強い特殊電線が必要となり、また頑丈な支持物を建設しなければならず建設費がかさむ。
したがって適度な弛度張力で、総建設費が最も安価になるような架線設計が求められる。
送電線の各支持物間に電線を張る、設計の基本事項と手順は次の通りである。
台風や着氷雪時の過酷な気象条件でも、規定の張力内に収める。(張力の条件) この条件で各支持物間の電線長さ・弛度を決める。
上記の条件を満足するよう、張った電線の弛みは、規定の負荷電流が流れ電線温度が上昇して弛度が増大しても、電線地上高は規定値以上に確保され、電線直下の工作物等との安全離隔を確保する(支持物高さを決める)。(弛度の条件)
さらに、送電線が健全な状態で運転出来るよう、送電線周囲の状況を常に監視・管理することが大切である。
2003年8月14日に発生した北米東部とカナダの大停電 は、送電線に過大電流が流れ電線弛度が増大し、線下の樹木に電線が接触してフラッシオーバしたのが最初の原因だったが、架線設計および線下の樹木管理に問題があったためである。
電線の架線設計をするときの具体的な条件は次の5つである。
電線の許容張力
最大風速条件
着氷雪条件
経過地の気温
電線の許容温度
ⅰ.電線の許容張力
長期にわたって電線の機械的性能を劣化させないため、電線の抗張荷重(引っ張り強さ)に対し、安全率をACSRの場合は2.5以上とし、許容張力を定める。
例えばACSR410m㎡の電線では、抗張荷重136,122N(13,890kgf)であるので許容張力(最大使用張力)は2.5分の1以下で使用することとし、54,448N(5,556kgf)以下の値を選定する。
一般には49,000N(5,000kgf)の値を採用することが多い。
電線に作用する最悪荷重として、下記の「高温季荷重」または「低温季荷重」の大きい方の荷重を基に、最も強く張る場合でも、許容張力内に収めるのが架線設計の基本である。
ⅱ.最大風速条件(高温季荷重)
電線に真横から風が当たると、電線は横に振れるとともに風圧で電線張力が増加する。
この時に規定の電線許容張力を超えないように架線設計をする。
一般には経過地の最大風速は台風襲来時に発生するが、その値は平均風速40m/sとして設計する。この風速が年平均温度のときに電線に当たり、そのとき電線には約980N/㎡(100kgf/㎡)の横荷重が作用するとして架線設計を行う。
この条件を「高温季荷重」 という。
ⅲ.着氷雪条件(低温季荷重)
冬季は、経過地にもよるが、日本列島の大部分の地域では、電線に着雪や着氷することを考慮して架線設計をする。
電線に氷雪が付くと、その自重と風圧荷重で異常に大きな力が加わり、最悪の場合断線することもある。
そこで、経過地で発生が予測される着氷雪条件を綿密に調べ、設計に反映させる。
一般には、最低気温で風速28m(約490N/㎡(50kgf/㎡)の横荷重)の風が吹いたとき、比重0.9の氷雪が電線の周りに6㎜厚さに付着した条件で電線許容張力を超過しないようにする。
この条件を「低温季荷重」 という。
ⅳ.経過地の気温
電線架線に際しては、経過地の最高気温と最低気温を確実に把握する。
日本列島では、北海道を除き、最高気温と最低気温の温度差は60℃とみる。
また、年平均温度は、関東以西では15℃、東北・信越・北陸では10℃とみる。
したがって、関東以西では周囲温度の最高気温を45℃、最低気温を-15℃とし、東北・信越・北陸では最高気温を40℃、最低気温を-20℃として架線設計を行うのが一般的である。
ただし、経過地が高標高の山岳地帯では、その地域の最高・最低気温で設計する。
電線の弛度設計は、まず、上記の「高温季条件」または「低温季条件」で最大張力が加わても規定許容張力以下になるよう、電線を張るが、経過地の最高気温時(関東以西では45℃)の無風状態での弛みで規定の電線地上高が確保出来るよう、支持物の高さを決めるのが基本である。
ⅴ.電線の許容温度
電線温度が経過地の最高気温(関東以西では45℃)の時の無風状態での弛(たる)みで、規定の電線地上高が確保出来るように支持物の高さを決めるのが、弛度設計の基本であると前述した。
しかし、送電線に流れる最大電流により電線温度が最高気温値以上に上昇し、許容温度まで上昇して弛度が増大することもあり得る。
したがって、送電線毎に、出現する「最大電流」→「最高電線温度(電線許容温度と同じかそれ以下)」をチェックし、その条件で電線の弛みを計算し、電線の直下にある工作物、樹木などに対して離隔距離をチェックすることが必要になることがある。
一般に使用されているACSR電線は、高温になることによる機械的強度の低下を防ぐため最高許容温度を90℃として夏期の過酷な気象条件(気温40℃、風速0.5m/Sec、日射量0.1w/c㎡)でも90℃以下になるよう送電線に流す電流を制御している。
ただ、故障時などで30分から1時間程度の短時間の場合には100℃まで許容してもよく、これを短時間許容温度という。
耐熱アルミ電線(TACSR)では、耐熱性能に富むので最高許容温度を130℃~150℃、短時間許容温度を150℃~180℃まで許容できるので、送電線に流す許容電流もACSRに対して40~50%多く流せる。
例えば、ACSR810m㎡では許容電流は、夏期の過酷な気象条件で90℃のとき1237A、100℃のとき1404Aである。
また、TACSR810m㎡では許容電流は、夏期の過酷な気象条件で130℃のとき1788A、150℃のとき2006Aである。
ただ、一般には電線許容温度を決めた過酷な気象条件(気温40℃、風速0.5m/Sec、日射量0.1w/c㎡)になることは極めて希で、最大電流を流しても電線温度が電線許容温度まで上昇する確率は極めて少ないといえる。
したがって前述のように経過地の最高気温時(関東以西では45℃)の無風状態での弛みで規定の電線地上高が確保出来るよう、支持物の高さ(電線地上高)を決めても、問題となるような不都合が生じることは殆どない。
(6)電線付属品(気象条件対策用)The accessories (weather measures) of conductor
電線は、長年にわたり過酷な気象条件に曝されるが、それでも性能を劣化させないで良好に機能を発揮させなければならない。
そこで、厳しい気象条件に対応し、いろいろな工夫を施している。
ⅰ.風による電線振動対策
風速数m程度の微風が電線に直角に一様にあたると、電線の後方(風下側)でカルマン渦が発生し、電線に上下方向の力が働く。
このとき、その力の働きがたまたま電線の固有振動数と一致すると、振幅が増幅され(共振して)電線が上下にゆれる(微風振動という)。
この微風振動で、電線に繰り返し応力がかかり、電線の支持物取付点等で電線が損傷することがある。
この対策として、振動を抑制するため下記のような装置のいずれかを取り付ける。
a.トーショナルダンパ
鋼線の両端に錘をつけたもので、電線支持点から振動ループ長の1/2~1/3の位置に取付け、電線の振動エネルギーを吸収し、振動を防止する。
トーショナルダンパは、なす形の錘を互いに反対向きにセットし、電線の上下振動をねじり振動に変え、振動を防止する。
b.パイプレスダンパ
このダンパは、ストックブリッジダンパの重錘構造を簡略化し、かつ、ダンパケーブルに捻れを生じるように棒状重錘が偏心して固定されている。
エネルギー消費機構はストックブリッジダンパと同じようにダンパケーブルの変形によるが、ストックブリッジダンパよりも広い周波数範囲をカバーできる。
c.べートダンパ
ベートダンパは、電線に添え線式に別の電線をほぼ無張力で取り付け、微風振動エネルギーを吸収させる。
d.ストックブリッジダンパ
鋼線の両端に錘を取り付けたもので、考案者のStockbridgeの名前をとって名付けられた。
振動エネルギー消費機構は、電線の上下振動によりダンパケーブルに変形が生じるが、その素線相互の摩擦による。
このダンパは世界的に最も広く使用されている。
e.アーマーロッド
また、電線の支持点の補強をするものとして、アーマーロッドが使用される。
これは、電線に巻き付けたときほぐれないよう、アルミ線を工場でスパイラル状にくせをつけ、(プレフォームド)成形したものを数本束ねて電線に巻き付けたものである。
ⅱ.着雪対策
a.難着雪リング
冬季に、電線に雪が異常に多く付着(直径数㎝の電線に10㎝以上の厚さの雪が付くこともある。さらにそれがべタ雪の場合氷状になることがある)すると、過大な張力が生じ、電線が切れたり、場合によっては支持物が倒壊することがある。
また、電線切断、支持物倒壊に至らなくても、着雪が一斉に脱落すると電線が跳ね上がり(スリートジャンプして)上部の電線に接近し、フラッシオーバ事故を起こすことがある。
そこで着雪を防ぐため、付着した雪が電線の撚りに沿って滑って移動し、電線下部に溜まるのを、電線に数十㎝間隔にプラスチックのリングを取り付け、そのリングで雪の移動を断ち切り、付着成長する前に強制的に落下させる装置として、難着雪リングを部分的に設置している。
この難着雪リングは、送電線の設備対策と、同時に着雪が成長して電線から雪の大きなかたまりが落ちてくるのを防止する、電線直下の対人・対物安全対策として効果を発揮している。
b.捻れ防止カウンタウエイト
また、電線 に着雪した場合に電線が回転し、円筒形状に次第に厚く着雪するのを防ぐため、電線に錘(カウンタウエイト)を取付け回転・捻れを抑制し着雪を防止する、捻れ防止カウンタウエイトを取り付ける。
この捻れ防止カウンタウエイトは、径間長に応じて1個~数個が径間に分散して取り付けられる。
ⅲ.着氷対策(ギャロッピング対策)
冬季に電線に氷が付着することがある。この着氷現象は地域的条件が大きく左右することが知られている。
厳寒の地域でも着氷の多い場所と少ない場所がある。
着氷のメカニズムは、空気中に過冷却水滴が存在し、それが風で電線にぶつかって結氷し、次第に電線の風上側に飛行機の翼のように発達する。
したがって、厳寒の地域でも過冷却水滴が多くなければ、着氷現象は発生しない。
着氷現象の最大の防御手段は、送電線ルートを着氷の可能性のある地域に選定しないことである。
一般に、過冷却水滴は、海、河川、湖などから水分が蒸発して空気中に含まれ、それが山岳地を上昇して断熱膨張し、温度が0℃以下となっても凍らない状態で生じる。東北の蔵王山系の樹木に付着する樹氷現象が有名である。
このように電線に非対称に氷が付くと、風で揚力が生じ、電線がランダムな上下左右運動を起こす。この動揺をギャロッピング現象と言うが、この電線動揺を抑えることは困難である。
注 ギャロッピング現象動画追記掲載(2013.01.16)
ギャロッピング現象については、発生するタイミングを的確に予測し観測することが難しいため、発生チャンスを捉え撮影・記録し、且つ公開されているものは極めて希であるが、カナダのマニトバ水力発電会社のホームページに載せてあるのを見つけたので紹介する。
そのURLは下記の通りである。<画面にある「PLAY」ボタンを押すと見られる>
http://www.hydro.mb.ca/corporate/facilities/galloping_powerlines.shtml
この動画は、ウイニペグにある115kV送電線で、マニトバ水力の社員が2008年4月24日に撮影したものである。
なお、このギャロッピング現象は、着氷現象が無くても、着雪後に雨に変って付着した雪が氷状(シャーベット状)に変化したときなど、非対称着雪状態になったときに強風で発生することもある。
このギャロッピング現象がひどくなると、径間の途中で電線相互が接近・接触して線間短絡を発生することがある。
これを防止するため、ギャロッピング現象発生が懸念される箇所では、各種の対策を施している。
このギャロッピング対策は、まず送電線ルートを着氷の可能性のある地域に選定しないことであるが、完全に回避することは困難である。
そこで、実際には「基本的設備設計」と「対策品取付」の2種類の対策を行う。
前者の「基本的設備設計」としては、
A:多導体の単導体化: 多導体より単導体の方がギャロッピングを発生しにくく対策として有効である
B:特殊電線の採用: 電線断面および表面形状について、着氷してもギャロッピングの発生しにくい空力特性のものにする
C:鉄塔装柱を工夫: ギャロッピング発生時の電線運動許容空間を確保する
などがある。
A: の多導体を単導体にする対策は、2導体を単導体に変更した例として蔵王山の近くを経過する275KV送電線、および奥利根山岳地帯を経過する275KV送電線での対策例がある。
B: はほとんど採用されていない。
C: は水平配列化および線間距離拡大の例がある。
後者の「対策品取付」としては、
A:相間スペーサ
B:捻回抑制装置(TCD:Torsional Control Device)
C:スパイラルロッド(空力特性制御)
D:偏心重量錘(位相制御)
E:回転自在型(ルーズ)スペーサ
F:フリクションダンパ
が使用される。
我が国では、「相間スペーサ」が圧倒的に多く採用され、次が「捻回抑制装置」であろう。「フリクションダンパ」はほとんど採用されていない。また、「偏心重量錘」と「回転自在型(ルーズ)スペーサ」を組み合わせたものが、超高圧多導体送電線に次第に採用されている。
ここでは、以下に、写真収集ができたものを掲載する。
a.相間スペーサ
径間の途中で、電線と電線間に絶縁物で出来た棒状の、相間スペーサを取り付けるものである。
本対策が最も一般的である。
この装置は、多くのモードのギャロッピングに効果が期待でき、軽量で取付作業性も良く、かつ、着雪時の電線垂下対策にもなり、多く採用されている。
絶縁物としては、磁器がいしと有機がいしの2種類がある。
右に275KV4導体に使用された例を掲載しているが、500KVでは相間スペーサが長尺になり機械的強度を確保することが難しく、その限界は275KV迄であろう。
b.回転自在型(ルーズ)スペーサ
超高圧多導体送電線では、多導体用スペーサにギャロッピング現象抑制効果をもたせた「回転自在型(ルーズ)スペーサ」を採用し、ギャロッピング抑止効果を発揮させる送電線が次第に建設されている。
すなわち、多導体の素線がスペーサで固定されると、着氷時に各素線の着氷形状が略同一になり、風により各素線の受ける力も略同一となるので、多導体の動揺は単導体に比較して大きくなる傾向にある。
そこで、各素導体をスペーサ部分で固定せず、素導体の内一部の電線を一定角度の範囲内で自由に回転可能な構造にすることで、着氷時に各素線の着氷形状が同一になりにくく、風により各素線の受ける力が異なり、多導体の動揺は各素導体が固定された状態よりも小さくなり、ギャロッピングは抑制される。
右写真は、275KV2導体送電線への、ルーズスペーサ適用例である。
左側の把持部が一般のスペーサに用いられている、いわゆる「固定把持部」であり、右側の把持部が+-90度弱の範囲内は自由に回転可能な構造の「ルーズ把持部」となっている。
c.回転自在型(ルーズ)スペーサ+偏心重量
超高圧多導体では、多導体用スペーサにギャロッピング現象抑制効果をもたせた「回転自在型(ルーズ)スペーサ」と、「偏心重量錘」を組み合わせて取り付け、ギャロッピング抑止効果を発揮させた送電線も建設されている。
d.捻回抑制装置(ギャロッピング防止ダンパ)
このダンパは、電線と重錘をケーブル(亜鉛メッキ鋼線)で連結し、反力で大きな捻回トルクを発生させ、(錘の位相を、電線変位に対して遅らせ)、大きなエネルギー消費を生じさせてギャロッピングを抑止するものである。
(写真上側の電線把持部の中央部分は、電線と平行に設けられた鋼線ケーブル端に固定された4個の錘が、シーソーのように上下に回転できる構造になっている)
この装置は日本で開発されたものであり、Type1、Type2の2種類があるが、右写真はType2の方である。
(7)電線付属品(機械的・電気的機能発揮用)The accessories (mechanical and electrical measures) of conductor
機械的・電気的機能を発揮するための付属品としては、
・多導体用スペーサ
・直線スリーブ
・引留クランプ
・ジャンパー装置
などがある。
ⅰ.多導体用スペーサ
多導体の送電線では、同一相内の電線を密着させず、電線相互間を数十cm以上離して正多角形に配置し、風による横振れがあっても規定の間隔を保持し、互いに接触しないよう、「スペーサ」と称する金具を数十mおきに使用する。
一般には、多導体の電線相互の間隔は数十㎝である(40~50㎝が多い)。
超高圧6導体送電線で安定送電容量を増加するために電線相互の間隔を80㎝に広げ、電線束径を160㎝とした送電線もある。
a.2導体スペーサ
右の2導体スペーサ写真は、電圧:275KV、電線:ACSR330m㎡、素導体間隔:400mm
右の2導体スペーサ写真は、電圧:275KV、電線:TACSR1520m㎡、素導体間隔:1000mm
これは、線路のインダクタンスを低減させ、その結果、送電線の安定度を高め送電容量増大を図るため、2導体の素導体間隔を通常(400~500mm)の約2倍の1000mmに広げ、大束径2導体架線を採用した例である。
右は、垂直2導体スペーサ写真である。
電圧:275KV、電線:TACSR1160m㎡、素導体間隔:300mm
これは、我が国初の垂直2導体送電線に採用したスペーサで、中部電力が建設したものである。
b.3導体スペーサ
右の3導体スペーサ写真は、電圧:500KV、電線:TACSR810m㎡、素導体間隔:600mm
c.4導体スペーサ
右の4導体スペーサ写真は、電圧:275KV、電線:ACSR410m㎡、素導体間隔:400mm
d.6導体スペーサ
右の6導体スペーサ写真は、電圧:500KV、電線:TACSR810m㎡、素導体間隔:500mm
束導体径(最も長い対角線距離)1000mm
右の大束径6導体スペーサ写真は、電圧:500KV、電線:TACSR410m㎡、素導体間隔:800mm
束導体径(最も長い対角線距離)1600mm
これは、2導体の所で述べたが、線路のインダクタンスを低減させ、その結果、送電線の安定度を高め、送電容量増大を図るため、素導体間隔を通常(500mm)の約1.6倍の800mmに広げた大束径6導体の例である。
e.8導体スペーサ
右の8導体スペーサ写真は、電圧:1000KV、電線:ACSR810m㎡、素導体間隔:400mm
束導体径(最も長い対角線距離)1045mm
ⅱ.直線スリーブ
電線は、製造工場で通常1~2Km内外の長さで製造され、各現場へ運搬するときは、ドラムに巻いて届けられる。
現場では、それを連結しながら3~6Kmの延線区間毎に支持物に吊り渡していく。
したがってドラム条長毎に、接続箇所が発生する。
その接続箇所をつなぐのが直線スリーブで、ACSR電線接続箇所に鋼線用の鋼パイプとアルミ線用のアルミパイプを被せ、そのパイプをそれぞれ断面中心方向に圧縮し、電線の引っ張り強度以上の力に耐えられるようにする。
具体的には、接続する左右電線端のアルミ素線を、鋼線用パイプの1/2長さ分だけ切り落とし、露出した鋼芯線をそのパイプに左右から挿入し鋼芯線を圧縮する。次に予め電線に被せておいたアルミパイプを鋼線用パイプの真上に移動させ、圧縮して完了させる。
ⅲ.引留クランプ
電線を支持物に引き留めるには、がいし装置を介して支持物に留めるが、電線をがいし装置に繋ぎ、固定する金物として、次の3種類がある。
ボルトで締め付け固定する金物:ボルト締め付けクランプ
楔効果で固定する金物:楔式クランプ
電線にパイプ状の金物を被せそのパイプを断面中心方向に圧縮して電線を固定する金物:圧縮引留クランプ
一般に、ボルト締め付けクランプ、楔式クランプは「がいし装置」として区分し、圧縮引留クランプは電線付属品として区分しているが、ここでは一括して電線付属品として説明する。
a.圧縮引留クランプ
圧縮引留クランプは、鋼芯線とアルミ線を別々に圧縮する構造になっている。
準備として、引留クランプのアルミ本体部分を当該引留箇所の電線に被せ、電線に挿入しておく。
次にアルミ素線を、鋼クランプの鋼芯用パイプの長さ分だけ切り落とし、露出した鋼線部分を鋼芯用パイプに挿入してまず鋼線を圧縮し、次にその上に予め電線に被せてあるクランプのアルミ本体をスライドして定位置に被せ、アルミ線を圧縮して完成させる。
最近は、電線メーカーの工場で、各径間毎に架線する電線の長さを正確に計尺し、両端の圧縮引留クランプを電線に圧縮し取り付けて現場に運搬し、現場でそれを延線してがいし装置に取り付ければ架線工事が完了する工法も行われている(プレハブ架線工法と呼いう)。
圧縮引留クランプは、施工に際し必ず電線を切断するので、次に述べるボルト締め付けクランプおよび楔式クランプに比べ、現場作業は増える。
しかし、引き留め能力は最も大きく、どのサイズの電線でも引き留め可能であり、特に張力の大きな場所にはこのクランプが最適である。
b.楔(くさび)式クランプ
次に、電線をボルトで締めたり、楔効果で固定する金物、すなわちボルト締め付けクランプ(注参照)および楔式クランプについて説明する。
この両方の金物は圧縮引留クランプと異なり、電線を切断せず、電線の最外層を掴んで電線を引き留める構造となっている。
まず、楔式クランプは、右図のように楔金具を電線に装着して、電線が架線による引っ張り力で滑り抜けようとする力に対し、楔効果で電線を締め付け固定するものである。
c.ボルト締め付けクランプ
ボルト締め付けクランプは、金物で電線を挟み、その金物をボルト・ナットで締め付け、電線を固定する。
このボルト締め付けクランプおよび楔式クランプは、電線を切断しないので延線・緊線作業が効率的にできる。
しかし、電線の最外層を締める方式なので、太いACSR電線では鋼心線に確実に把持力を伝達・分担させることが難しいケースもあり、張力条件を含めた使用時の条件を十分検討する必要がある。
また、緊線作業は、多径間同時並行作業は出来ず、片方からの順繰り作業となる。
(注)「ボルト締め付けクランプ」のことを、通称「OBクランプ 」と呼ぶことがある。これは、当初、この方式のクランプがアメリカの「Ohio Brass Company」で製造された品物を輸入して使用されたため、会社名を略し「OBクランプ」と言ったのが、現在に至っている。
ⅳ.ジャンパ装置
耐張がいし装置の支持物で、左右径間の電線を引き留めているクランプの間を電線で接続するが、この電線を「ジャンパ線」という。
電線をボルトで締め付けたり楔効果で固定する、OBクランプまたは楔式クランプの場合には電線を切断しないので、緊線作業で片側のクランプに電線を固定した後、ジャンパ線の長さ分だけ確保してジャンパ線を施工し、反対側のクランプで電線を固定する。
緊線作業で余った電線を次の径間に送り出し、順次電線を支持物に固定するとともに、ジャンパ線を同時施工して架線していく。
圧縮引留クランプの場合には、引き留め箇所で電線を切断するので、延線・緊線作業を行ない電線を支持物に固定させた後に、左右のクランプ部分にジャンパ線を取付け施工する。
低電圧・小容量送電線では、単導体を使用しており、ジャンパ線も小形・単純で手作業で施工出来るが、超高圧・大容量の送電線では多導体を使用しており、ジャンパ線も大きく手作業では施工が困難である。
高電圧線路の大型ジャンパ線は電線の代わりに太いアルミパイプを使用するなど、複雑な構造となるため、予めジャンパ装置として電線メーカーで作成し、現場では組み立て取り付け作業を行っている(プレハブジャンパ装置という)。
ジャンパ線は、線路の水平角、電線引き留め点の電線垂直角、送電電圧および鉄塔形などによって、いろいろ工夫され、より経済的かつ安全性の高い各種のジャンパ装置 が開発・使用されている。
3.がいし設計Insulators design
(1)電気的性能The electrical performance of insulators
がいし設計は、常時の運転電圧、地絡事故時の異常電圧および発変電所での遮断器開閉時の異常電圧(開閉サージ電圧)などに耐え得るよう行う。
我が国で最も多く使われているがいしは、直径約250㎜、高さ約150㎜の磁器製の、傘形の懸垂がいしである。
磁器表面が清浄時の注水時耐電圧は40KVであるが、塩分付着などで汚損されると耐電圧はその数分の一以下に低下する。
実際の送電線では複数個を直列につなげ、使用する。
すなわち常時の運転電圧に対し、海から風でとばされた塩分ががいしに付着し、水分を含んで湿潤状態になると、絶縁性能が極度に劣化するので、ルートにおける塩分付着濃度を調査し、それに対応したがいし連結個数の設計とする。
塩害対策設計
最近の火力発電所は大量の冷却水を必要とすることと、燃料搬入の便を考え、海岸に建設されることは周知の通りである。
また、その発電所の出力は大容量化しているため、引き出し送電線は超高圧送電線が必要とされ、塩害対策設計が重要な問題となる。
このため、多くの実証試験・研究(等価霧中法・0201)がなされ、海岸付近の重塩害地域を含めた塩害対策設計が確立されている。
がいしへの塩分付着は、台風が襲来した時の急速汚損と、平常時の累積汚損(季節風)の2種類がある。
台風の急速汚損に対しては、想定等価塩分付着密度(250mm懸垂がいしの下面(但し中心部は除く)への付着)は海岸~3kmで最大値は0.5mg/c㎡、海岸から遠くなるにしたがって次第に少なくなり、50km以上の地域で0.06mg/c㎡のデータが得られている例がある。
また、平常時の累積汚損では、海岸~1kmで最大値は0.5mg/c㎡、海岸から10km以上の一般地域で0.06mg/c㎡のデータが得られている例がある。
このように、台風の急速汚損は平常時に対して5倍以上内陸まで達しているのが分かる。
275kV線路では、
想定塩分付着密度0.06mg/c㎡地域では、がいしの設計耐電圧は10.3kV/個、がいし連結個数は16個(287.5/√3=166kV対応)となり、
一方0.5mg/c㎡地域では6.8kV/個に低下して必要連結個数は25個に増加する。
さらに、海岸近傍でしぶきがかかる地域では、懸垂装置の場合、がいしの設計耐電圧は5.0kV/個まで低下し、がいし連結個数は34個と大幅に増加する。
なお、500kV送電線については、設計対地電圧として1線地洛時の健全相対地電圧について常規対地電圧の1.2倍を採っている。
実際の線路設計では、台風が襲来した時の急速汚損と、平常時の累積汚損の双方を考慮しつつそのルートで最適ながいし設計を行う。
各電力では「汚損区分表」を作成して各送電線に適用している。
塩害対策としては、標準懸垂がいしを増結させる対策の他に、「耐塩がいし」、「大型高強度がいし」、「有機がいし(コンポジットがいし)」の使用などがある。
特に、2012年のCIGRE大会では、フランス、アメリカ、イタリア、南アフリカ、インド、及び中国などから有機がいし(コンポジットがいし)が塩じん害対策に効果があるとの論文が発表されており、今後有機がいし(コンポジットがいし)が世界的に注目されていくように思われる。
アークホーンの設置
落雷時の雷電圧に耐えられる設計は不可能で、閃絡(フラッシオーバ)を前提として、フラッシオーバ時に設備(がいし・電線)に被害を生じないようにするため、我が国ではほとんどの送電線にアークホーンという金具(電極)を設置している。
高温となるアークすなわちフラッシオーバ通路をがいしから離れた位置のアークホーン間で通電させて、がいしに熱被害を発生させないよう設計を行う。
フラッシオーバが発生した時には、必ずアークホーン間でフラッシオーバが起こるように、がいし連長に対してアークホーン間隔を75~80%の長さに設定している。
しかし、欧米などでは理由が不明だが我が国と異なりアークホーンを設置していない送電線が多く見られる。
なお、フラッシオーバが発生した時には瞬時に正常状態に復帰出来るよう、変電所で遮断器等を設計・設備し運用している。
逆フラッシオーバ
送電線路で発生するフラッシオーバは、雷が 電線に落雷して電線の電位が上昇し、がいし連またはアークホーン間でフラッシオーバが起こり雷電位は鉄塔を伝わって大地に流れるが、逆に鉄塔または架空地線に落雷して電位が上昇して、鉄塔アームと電線間あるいは架空地線と電線間でフラッシオーバが発生する現象を逆フラッシオーバ言う。
絶縁間隔
送電線の絶縁間隔には、標準絶縁間隔、最小絶縁間隔および異常時絶縁間隔の3種類がある。
「標準絶縁間隔」は、落雷に対応して設けられるもので、がいし連が静止している状態では、落雷時に必ずがいし連でフラッシオーバさせ、電線鉄塔間などではフラッシオーバさせないように絶縁間隔を確保するように設けた間隔である。 アークホーンを設置していない送電線では、がいし連の50%インパルスフラッシオーバ電圧に等しいインパルスフラッシオーバ電圧を有する電線-鉄塔間の間隔(棒ギャップ)を標準絶縁間隔とする。 一方、アークホーンを設置している送電線では、実験結果から概略、L(標準絶縁間隔)=1.115Z(アークホーン間隔)[m]とすれば良いことが分かっている。 いずれも落雷時に必ずがいし連で、アークホーンを設置している送電線ではアークホーン間でフラッシオーバさせ、その他の箇所(電線鉄塔間)などではフラッシオーバさせないように絶縁間隔を確保するように設けた間隔である。 275kV送電線で、250mm懸垂がいし一連16個でアークホーン(ホーンギャップ1.87m)を設置している送電線の場合の例では、標準絶縁間隔は2.10mである。
「最小絶縁間隔」は、内部異常電圧(開閉サージ電圧swiching surge voltage)に対して十分な絶縁間隔を確保するもので、台風などの強風時に電線が横振れ(超高圧送電線では横振れ角45°、それ未満の送電線では55°)した場合でも保持すべき間隔である。 この時は雷撃はないものとし、がいし連の商用周波注水フラッシオーバ電圧に対する棒ギャップから算定する。 275kV送電線で、250mm懸垂がいし一連16個の送電線の場合の例では、アークホーンの有無に拘わらず最小絶縁間隔は1.60mである。
「異常時絶縁間隔」は、最小絶縁間隔が比較的発生頻度の高い風速に対して対応するのに対し、異常時絶縁間隔は想定最大風速(40m/s)に対してがいし連やジャンパ線が横振れした時に保持すべき間隔で、その線路の最高許容電圧(対地)に対し、注水耐電圧でチェックすることが奨励されている。 この絶縁間隔は、70°~80°の大きな横振れの時でも使用電圧ではフラッシオーバしない間隔であり、500kV以上の送電線の絶縁設計時に多く用いられている。 275kV送電線で、250mm懸垂がいし一連16個の送電線の場合の例では、アークホーンの有無に拘わらず異常時絶縁間隔は0.70mである。
クリアランス設定
送電線では、電線およびがいし装置と、支持物との間の絶縁が対地絶縁の最低箇所となり、それ以外の箇所では落雷時のフラッシオーバをさせないように必要な絶縁間隔を確保させるため、クリアランスダイヤグラムを作図して充電部と支持物との間のクリアランスを決定する。
クリアランスダイヤグラムは右図の通りで、懸垂鉄塔ではがいし連の横振れ角0°~20°の範囲は、標準絶縁間隔をとり、次に154kV以下では横振れ角20°~40°、超高圧系統では20°~35°に対しては標準絶縁間隔と最小絶縁間隔の平均を取り、さらに40°~55°、超高圧系統では35°~45°では最小絶縁間隔をとる。
また、耐張鉄塔ではジャンパ線の横振れ角0°~15°では標準絶縁間隔をとり、15°~40°に対しては最小絶縁間隔 をとる。
ジャンパ線の大きさ(ジャンパ線と上部腕金との垂直間隔)は、スケルトン図に現れないジャンパ線とがいし金具との間隔、および施工上の裕度などを見込み標準絶縁間隔の1.2倍としている。
なお、異常時絶縁間隔のチェックは275kV以下の線路では省略しても良く、500kV以上の送電線の絶縁設計時に多く用いられている。
(2)機械的性能The mechanical performance of insulators
がいしは電線を支持物に吊す、または引き留める役割を持つので、電気的性能と同時にこの機械的性能の両方を満足させなければはならない。
特に、電線を支持物に引き留める「耐張がいし装置」は、電線の張力(数十~数百KN)に見合う機械的性能が要求される。
がいしの引張破壊荷重は、種類によって異なるが約100~500KNで、安全率を見込んだ許容引っ張り荷重はこの数分の一になるので、電線張力の大きな送電線では、複数個並列に使用して1個当たりの分担荷重を低減させている。
(3)がいしの選定The choice of the kind of insulators
がいしには、次のような種類がある。
・磁器がいし
・強化ガラスがいし
・有機がいし
良質の磁器が得られない外国では強化ガラスがいしまたは有機がいしを使用している国もあるが、我が国では主として耐候性に優れた磁器がいしを使用する。
なお、有機高分子材料を用いたがいしは、有機がいし、複合がいし、ポリマーがいし、コンポジットがいし、ノンセラミックがいし、高分子がいし、高分子複合がいしなどといろいろな呼ばれ方をしているが、本サイトでは「有機がいし」と記載する。
がいしは上記のようにいろいろな種類があるが、基本的な形状は、雨の当たる上面は埃、塩分、その他電気的性能を劣化させる化学有害物質などを雨で洗い流すように滑らかな形状にし、下面はがいし表面距離を増加させるため同心円状に凹凸のひだを付けて沿面閃絡距離を長くしている。
ⅰ.磁器がいし
a.ピンがいし
右の写真は66KV鬼怒川線に使用されたピンがいしである。
鬼怒川線はすでに撤去されて現存しない。しかし、この写真のがいしだけは、かろうじて「東京電力・電気の史料館」に展示されている。
「東京電力・電気の史料館 」には、この他貴重な資料が多数ある。
b.懸垂がいし
写真の白がいしはクレビス・アイ型
茶がいしはボールソケット型
磁器がいしのうちでも、最も使用されているのは懸垂がいしであり、その種類は次の通りである。
250mm懸垂がいし(磁器直径254㎜・高さ146㎜)・強度:120KN(クレビス・アイ型)、および165KN(ボールソケット型)
280mm懸垂がいし(磁器直径280㎜・高さ170㎜)・強度:210KN(ボールソケット型)
320mm懸垂がいし(磁器直径320㎜・高さ195㎜)・強度:330KN(ボールソケット型)
340mm懸垂がいし(磁器直径340㎜・高さ205㎜)・強度:420KN(ボールソケット型)
380mm懸垂がいし(磁器直径380㎜・高さ240㎜)・強度:530KN(ボールソケット型)
通常はこれらの懸垂がいしを送電電圧に応じ、複数個直列に接続し、電線の張力に応じ複数個並列に並べ、金具を用いて一体の装置となし支持物と電線間に設置する。
(250mm懸垂がいしだけが数値に端数が付いているが、当初インチサイズのものを輸入したからで、それ以外は我が国で独自に設計製作したのでメートルサイズになりキリの良い数値になった。)
c.耐塩懸垂がいし
耐塩(スモッグ)懸垂がいしは、標準懸垂がいしに比較してひだを深くし、塩分を含んだ大気をひだの奥まで到達し難くし、がいし下面のひだ表面に塩分を付着させ難いように配慮したがいしで、がいし全体の表面漏洩距離を多くし、耐塩特性を向上させたものである。
このがいしを使用することで、塩分汚損地区では標準懸垂がいしに比較して連結個数を20~30%少なくできる。
右写真は250mm耐塩がいしである。
d.長幹がいし
長幹がいしは、ひだが浅く雨洗効果が大きく、塩害対策地域で使用すると効果がある。
しかし、横方向からの衝撃荷重に弱く、使用する箇所の選定には注意を要する。
e.ラインポストがいし
ラインポスト(LP)がいしは、鉄構や床面に垂直に固定する構造になっている。
長幹がいしと同様の中実の磁器体が用いられ、その頭部に電線を固定する金具が付いた構造になっている。
主に77KV以下の線路の直線箇所での電線支持、およびジャンパ線振れ止め用に使用される。
左写真は直線箇所の本線支持に使用された例、右写真はジャンパ線に使用された例である。
ⅱ.強化ガラスがいし
ガラスがいしは、我が国ではほとんど使用されず、主に欧米で使用されている。
右の写真は「東京電力・電気の史料館 」に展示されているもので、我が国ではあまり見ることの出来ない貴重ながいしである。
東京電力管内では、66KV高崎線、66KV上信線、および伊東線などのごく一部に試験的に使用されている。
使用されているがいしは、大きさが250mm標準がいしとほぼ同じで、等価な性能と評価して使用されている。
66KV高崎線および伊東線では、昭和47年頃に国内で試験的に製作されたものを使用し、66KV上信線では、昭和43年に西欧から輸入したものを使用している。
ⅲ.有機がいし
有機がいしは、ごく最近になって開発され、約100年の歴史がある磁器がいしに比較し、使用実績はまだ浅く、長期間に亘る信頼性は確立されていない。
しかし、汚損特性および軽量性の点で有利で、その特性が強く要求される箇所には、部分的に使用されている。
具体的には、我が国では軽量性が求められる「相間スペーサ」に、1990年頃から多く使用されており、電力会社によって使用比率はまちまちだが、我が国の設備総数の10%以上が有機がいしであろうと思われる。
また、常時非課電の避雷装置にも多く採用されている。
しかし、本線用がいし設備には、コスト、施工性、耐候性、保守における劣化診断・検出方法などから豊富な実績の磁器がいしを凌ぐには至らず、コンパクト送電線などの特殊装置以外では、ほとんど使用されていない。
有機がいしの構造は、芯にFRP(Fiber Reinforced Plastics)を用い、それを包むように外皮として撥水性の良いシリコーンゴムあるいはEPDM(エチレン、プロピレン、ジエン化合物)が用いられる。
この外皮は、表面漏洩距離を増加させるため、右写真のように、長幹がいしと同様な傘形のひだを重層構造に設けた形状になっている。
機械的性能は芯のFRPが分担し、電気的性能は外皮のシリコーンゴムあるいはEPDMが分担している。
海外では、北米でバンダリズム対策(注参照)として、あるいは欧州で重汚損地区対策として使用されている。
(注:バンダリズム=芸術、文化、建物、公共物などを故意に破壊する暴力行為で、送電線絡みでは銃の標的としてがいしが破壊されるケースを指す)
(4)がいし装置Insulators device
現在最も多く使われているがいしは「懸垂がいし」であるが、がいし1個で絶縁性能を得るのは無理で通常は直列に複数個つなげる。また、電線の張力に応じ、並列に2列(連という)または3列(連)使用することが多い。
このように直列・並列にがいしを使用するとき、それらを1つの装置としてまとめる金具が必要になる。
この金具は、電気的にはコロナ放電開始電圧が電線より充分高く、耐雷性能が充分あるなどの条件を満足し、機械的には耐張装置は電線より引っ張り強度が強く、懸垂装置は吊る電線重量(風圧および着氷雪荷重を含む)に耐える強度を持ち、電線取付点が縦方向・横方向に自由に動ける構造で電線を傷を付けない構造を要求される。
また、がいし複数並列仕様の時はその中の1列(連)が破損・破断しても、衝撃で残りの連が破断せず、電線に損傷を与えない構造としている。
がいし装置には次の種類がある。
ⅰ.懸垂装置
a.直吊懸垂装置
直吊懸垂がいし装置は、主に送電線路の直線箇所で、水平角度荷重が加わらない箇所に用いられる。しかし、わずかな水平角度箇所にも、常時振れっぱなしの形態で使用される。
また、がいし装置に加わる垂直荷重に対し、がいしの許容荷重以下の荷重を分担させる(安全率2.5以上を確保する)よう、加わる荷重に応じ1連装置、2連装置あるいは3~4連装置を用いる。
使用されるがいしは懸垂がいしの他、耐塩がいし、長幹がいしが用いられる。
最近は、飛来物との衝突、あるいは閃絡時の胴切れを懸念して、長幹がいしを使用しない線路が多い。
1連懸垂がいし装置
2連懸垂がいし装置
b.V吊懸垂装置
V吊懸垂がいし装置は、電線把持部が横振れをしないため、直吊装置に比較し電線と鉄塔との間の水平間隔を狭くすることが出来るので、電線路の線下幅(左右回線の水平間隔)を狭く設計でき、結果的に用地幅を狭くすることが出来る。
このため、ルート選定の自由度が増すと共に、建設費の低減に資することができ、最近の送電線では、この装置を採用する送電線が多い。
適用箇所、使用がいしの種類などは直吊装置と同じである。
ⅱ.耐張装置
耐張がいし装置は、
・線路の水平角度が多い箇所
・始点、終点などの引留鉄塔箇所
・技術基準で耐張型支持物が必要な箇所
・谷底に支持物が建ち前後径間の電線が引き上げ状態の(垂直荷重の加わらない)箇所など懸垂装置が適用できない箇所
などに用いる。
電線張力に応じ、1連装置、2連装置あるいは3~4連装置が使用される。
使用されるがいしの種類は、懸垂がいしの他、耐塩がいし、長幹がいしである。
最近は、閃絡時の胴切れを懸念して、長幹がいしを使用しない線路が多い。
1連耐張がいし装置
2連耐張がいし装置
3連耐張がいし装置
4連耐張がいし装置
ⅲ.ジャンパ支持装置
・直吊懸垂型ジャンパ支持装置
・V吊懸垂型ジャンパ支持装置
・長幹支持がいし装置
(電線設計・ジャンパ線の項 各種のジャンパ装置 参照)
ⅳ.特殊装置
a.セミストレーン装置
セミストレーンがいし装置は、懸垂形鉄塔で使用される。
セミストレーンがいし装置は、当初直吊りがいし装置を使用していた箇所で、運用開始後に塩害対策でがいし一連個数を増加させる必要が生じたり、その他の理由でがいし連結個数を増加させる必要が発生したときなどに、クリアランス不足となる場合の対策として、半分耐張状(ハの字形に)に斜めにがいし装置を取り付ける使用されることが多い。これは、バランス耐張装置と使用目的がほぼ似ている。
また、前後径間で張力条件の異なる箇所に使用することもある。
b.アームがいし装置
アームを絶縁体のがいし装置で構成し、電線幅および電線の垂直間隔を狭め、コンパクトな設備設計とするときに使用する。
例えば、66KV設備の規模で154KVで運用する設備が建設可能である。
c.タイダウン装置
タイダウン装置は、山岳地で前後径間の高低差が激しい谷間の鉄塔では両径間の電線が引き上げ状態となり懸垂装置が浮き上がる箇所、および直吊懸垂がいし装置を設置すると、線路の水平角度が大きく、がいし装置の常時振れ角度が大きくなり絶縁間隔が保持できない箇所などに、下アームに向かってがいし装置を設け、正常な状態を保持する装置である。
d.バランス耐張装置
バランス耐張装置は、当初は懸垂型鉄塔として建設されたが、時代と共に何らかの理由で電線地上高が不足し、ほぼ懸垂がいし装置の高さ分だけ電線を嵩上げしたいとか、あるいは塩害対策上がいしを増結したいが絶縁間隔が不足する等の理由から適用される。
鉄塔強度は懸垂型なので片側径間が断線したとき、反対側の径間に耐張装置がスライドし、張力を低下させて各部材の応力を鉄塔設計値以下に納める工夫がなされている。
右はバランス金具のクローズアップ写真である。
4.支持物基礎設計Designs of foundations of Support
上部構造物から受ける重力方向の圧縮荷重、や反重力方向の引上荷重に耐え得る構造とする。
荷重は、上部構造が鉄塔の場合、4本の脚材を通じ基礎に伝達される。
すなわち、電線の張力荷重、風圧荷重及び重量、並びに鉄塔の重量及び風圧荷重などは、全てほぼ垂直に配置された鉄塔主脚材を通じて圧縮または引き上げ荷重となり基礎に伝わる。
基礎の設計は、考えられる最大荷重が各脚に加わった場合、圧縮荷重であれば沈下しないよう、引き上げ荷重であれば引き抜けないよう、いずれの場合にも僅かの変位も生じないよう設計する。
適用する基礎種類は、鉄塔地点の地形(平地か傾斜地か)、地質(堅いか軟弱か)、土地所有・利用形態(農地、宅地等の私有地か、公園、河川敷等の公有地か)などの条件により、適切に保守運用でき、かつ建設費が最も経済的なものを選定する。
基礎の種類は、下記に示すように送電用支持物設計基準(JEC-127-1979)に定められている。
基礎の種類と概要図
基礎は、上記の各種基礎に対して鉄筋コンクリートを用いた基礎が主に使われているが、その主な形状は、右の「基礎の種類と概要図」に示す通りである。
以下に個々の特徴を解説するが、最も数多く一般的に用いられるものは、「逆T字型コンクリート基礎」である。
良質な地盤の箇所にはほとんどこの形の基礎が用いられ、地質が軟弱な箇所では、この基礎形状に杭を打って対応するのが一般的である。
(1)直接基礎General foundations
ⅰ.逆T字型基礎
「逆T字型」基礎は、「T」の字を逆さにした形状で、掘削した穴に逆T形の鉄筋コンクリート構造体を作る。
特徴は基礎床版に広い面積をとれる形状にして、圧縮耐力を確保し、その上に掘削した土を再びかぶせ、引き上げ荷重に対する耐力を確保する。
この基礎は、施工が簡単で信頼性も高く経済的にも優れていることから、比較的地質の良いローム層の山林、畑地などに最も広く使用されている。
床板は、正方形と円形の2種類がある。
ⅱ.オーガコンクリート基礎
大口径オーガ機械で比較的良質な地山を削孔し、穴の中へ鉄筋かごを挿入し、コンクリートを打設して基礎体を構築するものであるが、あまり多くは用いられていない。
ⅲ.べた(マット)基礎(つなぎ梁基礎、門型基礎)
4脚又は2脚の基礎床板を一体化して上部構造を支持するもので、地盤が軟弱な箇所で、基礎底面接地圧を減少させると共に、不同沈下による上部構造への悪影響を阻止する目的で使用される。
一体化する構造としては床板のみならず地表部分まで一体化した「つなぎ梁基礎」(右写真)もこの分類に入る。
また、主に河川敷内に建設する場合に用いる「門型基礎」(右写真)もこの分類に入る。
ⅳ.鋼材基礎
一時的な仮工事などの短期間だけ使用する基礎には、建設・撤去が簡単にできるため、鋼材を基礎床板に敷くだけの構造の基礎が用いられることがある。
ⅴ.直埋基礎
鉄塔基礎材を地山に直接埋設しただけの基礎で、耐力はほとんど期待できないので、送電線草創期の明治大正時代の規模が小さい鉄塔に用いられていたが、現在では使用されていない。
(2)杭基礎Pile foundations
水田、砂地など、地盤が軟弱な地質の場所で、「逆T字型」などの直接基礎では圧縮荷重に対し地耐力が期待出来ない場所に使用するもので、基礎の床版の下方に地耐力が期待出来る地層まで杭を打ち、圧縮荷重に耐えるようにしたものである。
逆T字型基礎、べた基礎、つなぎ梁基礎などと組み合わせて用いる。
ⅰ.木ぐい基礎
杭の材料として昔は松杭などが使用されたが、現在では鋼管杭またはコンクリート杭などが使用されており、ほとんど使用されていない。
ⅱ.既製コンクリート杭基礎
製作した杭を現地に運搬して杭打機で打ち込み使用する。
打設音が大きく、打設振動が大きいので、最近は環境対策条件から、低騒音貫入工法もあるが、あまり使用されていない。
ⅲ.木ぐい基礎
上記のコンクリート杭の代わりに鋼材を使用したもので、上記と同様、環境に与えるデメリットからあまり使用されていない。
ⅳ.木ぐい基礎
最近は小型で効率の良い騒音振動対策を施した削孔機が開発されており、それで掘削した穴に現地でコンクリートを流し込み鉄筋コンクリート柱を造る、いわゆる「場所打ち杭」工法が盛んに用いられる。
主な工法として、「カルウエルド工法」、「B・H工法」、「ベノト工法」および「リバース工法」などがある。
(3)ピア基礎Pier foundations
ⅰ.深礎基礎
深礎基礎は、大きな荷重が加わる基礎で傾斜が急な山岳地斜面に建設する場合など、「逆T字型」基礎では急斜面で引き上げ荷重に対して基礎床版上部の土の重量が期待出来ない場所、などに適用する。
通常は直径数メートルの穴を垂直に掘り(数m~深いもので数十m)、コンクリートを流し込みその重量と側面摩擦力で引き上げ荷重に対する耐力とする。
最近は、経済性の向上を図るため、基礎底部を拡幅して、基礎体長を短くする拡底深礎基礎が多く用いられている。
この基礎は、主に山岳地を通過する大型超高圧送電線で採用されている。
ⅱ.井筒基礎
この基礎は、軟弱地盤で湧水が多く、他の工法では施工困難な場合に適用される。
本工法は、コンクリート井筒を構築し、内部を掘削しながら井筒を沈下させるもので、オープンケーソン工法ともいう。
ⅲ.ニューマチックケーソン基礎
本工法は、井筒底部に気密室を設け、圧縮空気によって内圧をかけ、内部への湧水を防ぎながら掘削を行うものである。
(4)アンカ基礎Anchor foundations
本基礎は、逆T字型基礎、べた基礎と組み合わせて使用するものである。
本基礎は、堅固な地盤又は岩盤で掘削が困難な箇所の地盤又は岩盤を削孔してアンカ鋼棒を挿入し、モルタル等を注入してアンカとし、その上に基礎本体を設ける。
ⅰ.アースアンカ基礎
地盤にアンカ(鋼棒)を施工し、アンカと地盤のせん断力または付着力によって引き上げ力に抵抗させ、圧縮に対しては、地盤の圧縮耐力に期待するものである。
ⅱ.ロックアンカ基礎
岩盤にアンカ(鋼棒)を施工し、アンカと岩盤のせん断力または付着力によって引き上げ力に抵抗させ、圧縮に対しては、岩盤の圧縮耐力に期待するものである。
5.上部支持物設計(鉄塔)Steel towers designs
ここでは鉄塔に限って説明する。
鉄塔は、上空に張った電線を引き留めたり吊すために高い塔体を有し、また、高い電圧が荷電されている電線と塔体間を短絡させないよう塔体から充分離れた位置まで鋼材を水平に伸ばしてその先端にがいしを介して電線を引き留めたり吊している。
すなわち、鉄塔は、「鋼材を用い垂直に建てられた塔体」と、「塔体から水平に伸ばされた腕金」の組み合わせで出来ている。
塔体
塔体は、本項で以下に述べるように細長い鋼材を組み合わせ、一般に四角形の断面を持ち、その高さは低いもので10m程度から高いもので東京タワーより高い鉄塔高346.5m(「世界記録・日本記録」参照 )まである。
鉄塔の設計については、下記腕金を含めた鉄塔全体の構造物に対して加わる荷重として、
鉄塔の風圧荷重、および電線・地線・がいしの風圧荷重
電線の張力による荷重として水平角度荷重・垂直角度荷重、不平均荷重、電線断線時の不平均張力およびねじり力
鉄塔・がいし・電線の重量による荷重
があり、鉄塔の高さ、種類(懸垂型、耐張型、引留型等)毎に詳細な計算手法が定められている。
この計算手法は、電気設備の技術基準、JEC-127(1979)および電気協同研究・第62巻第3号(送電用鉄塔の設計荷重~現状と将来展望~平成18年11月)等に掲載されており、近々JEC-127の改訂版が発刊される見通しなので、そちらをご覧いただきたい。
腕金(アーム)
送電線の電圧階級により、「電気設備の技術基準」に基づいた地上高に電線を張るために必要な高さの塔体位置から水平に鋼材を伸ばし、高い電圧が荷電されている電線と塔体間を短絡させないようにして、その先端にがいし連を介して電線を固定するための設備である。
我が国の送電線は三相3線式交流方式の2回線垂直配列形がほとんどを占めており、塔体の左右に対称的に1回線ずつ縦に3相を配置しており、この形の鉄塔を標準型としている。(下記:ⅱ.全体形状による分類-a.標準形を参照 )
したがって、塔体の左右に対称的に3段垂直に6本のアームが設置されているのが標準型である。
アームの大きさ・長さは前記「クリアランス設定」の項で解説した大きさ・長さになる。
さて、鉄塔設計の基本は、まず経済的であることが第一であるが、過酷な自然条件の中で高電圧の電線を確実に支持し、鉄塔自身の折損、倒壊などを起こさない機械的強度を持ち、かつ電線が風で横ぶれしても電線・鉄塔間及び電線相互間の絶縁間隔を保ち、電線の地上高を充分確保し地絡事故などを起こさず、安定した送電を維持することである。
さらに、周囲環境に極力マッチした形状であることが要求される。
特に自然公園内など、景観を重要視した地域に建設するものは、景観に融和し目立たない配色および立地地点が要求されるため、調査時点から充分配慮する。
(1)材料Steel tower materials
送電鉄塔は、一般に細長い鋼材を組み合わせ、十数m~数十m上空に張る電線を支える構造物である。
なかには景観を配慮し、スマートな印象を強調する目的で、直径数十㎝~数mの鋼管柱を使用する「鋼管単柱」を用いることがある。
一般には、鉄塔材料は、細長い鋼材の「等辺山形鋼」または「中空鋼管」を使用する。
ⅰ.等辺山形鋼
等辺山形鋼は、細長い棒状の鋼材で、断面は二等辺三角形の底辺が無い2辺で、「く」の字形状をしている。
2辺の折れ曲がり角度は90°・直角で、各辺は等しい幅である。
使われる鋼材の大きさは、概略、
・辺の幅45㎜・厚さ4㎜~辺の幅250㎜・厚さ35㎜
のものが使用される。
鋼材の強度は、引っ張り強さ1m㎡当たり約400~590Nのものが使われる。
ⅱ.中空鋼管
中空鋼管も細長い棒状の鋼材で、その断面は名前の通り中空の筒状であり、使用するときは座掘強度を高めるため中空の部分にモルタルまたはコンクリートを流し込んで使用することもある(次項「MC鋼管」で解説する)。
なお、モルタルまたはコンクリート充填は中空部分に隙間無く充填する場合(MC鋼管鉄塔)と、鋼管を回転させモルタルを一定の厚みで鋼管に付着させる場合(TP鉄塔)の二通りの方法がある。
MC鋼管鉄塔は主に関西電力で使用されており、TP鉄塔は一時期東京電力で使用されたが現在では使用されていない。
使われる鋼材の大きさは、外径約50㎜・厚さ2.4㎜~外径約1,100㎜・厚さ24㎜のものが使われ、その引っ張り強度は、等辺山形鋼と同じである。
中空鋼管は太いものが製造出来るので超高圧大型送電線のような大きな構造物で、大きな荷重がかかる鉄塔に向いている。
中空鋼管を使用する山岳地での大型鉄塔では、下部の部材は強度が要求されるので太く重いものを使用することになる。
外径が約1mになると重量は約5N/m(0.5tf/m)にもなるため運搬手段がヘリ運搬に限定される施工条件の箇所では、単体重量が厳しく制限を受けることがあり、ジョイント箇所を何処に設定するかは、工事施工条件を考え設計時点で充分考慮すべき重要ポイントである。
右の写真は、山岳地に建設されたUHV(100万V設計)送電線の巨大な主柱材・基礎立ち上がり部分である。
この鉄塔の場合、最下部の主柱材の外径が1mを超えたため最下部付近の主柱材は3メートル以下の長さに製作し、単体重量をヘリ運搬可能なように配慮せざるを得なかった。
ヘリコプターは気温が低く空気密度が高い時に運搬能力が最大限に発揮されるが、その時の運搬能力ぎりぎりの重さで主柱材を製作した。
すなわち、少しでも主柱材を長尺物にし、ジョイント箇所を少なく、鉄塔全体の重量を軽くすると共に施工を効率化するため、この現場が積雪地帯で冬季間の工事は出来ないにもかかわらず、最下部の主柱材だけは冬季積雪期直前にヘリ運搬を実施し、組立工事は翌年の春以降に行った。
ちなみに、この基礎は深礎基礎である。
ⅲ.MC鋼管
中空鋼管の座屈強度を高めるため、中空の部分にモルタルまたはコンクリートを隙間無く充填するMC鋼管は関西電力で多く使用されている。
MC鋼管は、モーター・コロンブス社が1946年(昭和21年)に開発したもので、関西電力では昭和30年に77KV枚方向日町線で初めて導入した。
その後、昭和35年に275KV北大阪線で超高圧送電線に初めて使用し、以降同社では鋼管鉄塔の主柱材にはMC鋼管鉄塔を使用している。
このように、鋼管鉄塔は、中空のまま使用する場合と、コンクリートを充填するMC鋼管の2種類があるが、その両者は製作、施工面で一長一短を有し、各電力会社で評価の仕方が異なるので、使われ方は各社各様となっている。
(2)形状Shapes of the steel towers
鉄塔は、上記の等辺山形鋼または中空鋼管を使用し、荷重がかかる部分は必ず三角形構造(ラーメン構造の鉄塔は除く)とし、各鋼材(部材)には圧縮または引っ張り荷重だけが加わり、曲げ・ねじり荷重はほとんど加わらないように組み合わせ、各鋼材を複数個のボルト(直径16~42㎜)で接続して組み立てる。
鉄塔の柱体は、標準型形状の鉄塔の水平断面は正方形をなし、各4面の鋼材組み合わせは、どの面も同じ構造となる設計とする。
鉄塔柱体の部材の組み方(骨組み構造)には、下記の構造方式がある。
また、電線の配列の違いで、全体形状が大きく異なる。
ⅰ.塔体骨組み構造による分類
シングルワーレン構造
ダブルワーレン構造
Kトラス構造
プラット構造
ブライヒ構造(現在最も多用されている)
ラーメン構造
耐雪構造(積雪地帯の最下部構造として使用されている)
現在最も多く使用されている骨組み構造は、「ブライヒ結構」 である。66KVからUHV送電線に至るまでほとんどの送電線でこの構造のものが用いられている。各鉄塔とも、主に塔体中間部より下部に用いられている。
この骨組み構造は、昭和10年代から50年代に活躍された鉄塔設計の第一人者の堀貞治氏(1900~1993)が昭和16年に考案・開発されたもので、他の構造に比較して経済性および安全性(強度、耐久性)に優れており、それ以降この構造のものが広く適用されている。
ⅱ.全体形状による分類
a.標準形
(四角形断面、電線配列は3段アームで左右対称に1回線づつ垂直配列、架空地線が2条のものは4段アームとなる)
右の写真は275KV・2回線標準鉄塔
b.多回線標準形
(標準型の4回線以上の多回線鉄塔)
右の写真は、154KV・4回線鉄塔
c.片側垂直配列形
(狭いルート幅しか確保出来ない場所に適用)
77KV送電線で、鉄道と道路の間の狭隘なベルト地帯に施設されている。
d.えぼし形
(着氷雪地帯で、スリートジャンプ事故回避のため適用、電線配列は1回線水平配列)
写真は、275KVえぼし形水平配列送電線。
e.ドナウ形
(鉄塔高を低減したい箇所に適用、電線配列は左右対称に2段アームで、上アーム1条および下アーム2条水平配列)
右の写真は、275KV・4導体送電線で河川横断で長径間となるが、鉄塔高を60m未満に抑え、夜間航空障害標識の設置を回避するためドナウ型としたもの。
f.矩形(長方形)
(鉄塔高を低減する箇所、その他特殊箇所に適用)
右側の写真は、線下幅を狭くする箇所での標準的4回線形、左側の写真は、他送電線の下くぐり箇所で鉄塔高を極力低くした箇所での矩形鉄塔。
何れも同一の66KV送電線。
g.門形
(鉄道軌道上の送電線に適用)
鉄道軌道上に施設された66KV送電線。
h.三角形
(三角形断面。塔体を三角形状にして四角形鉄塔より主柱材を1本減らすことで、鉄塔重量が低減できたり、基礎工事量を低減させ得る設計条件の箇所で、建設工事費が軽減できる箇所に適用。三角形状は、正三角形または二等辺三角形。)
写真は500KV山岳地送電線に適用された2回線懸垂形三角鉄塔。
(3)使用目的による分類The classification by the purpose of use
支持物を使用する目的で分類すると、次の通りとなる。
この分類は、電気学会・電気規格調査会標準規格(JEC:the Japanese Electorotechnical Committee)の「送電用支持物設計標準 (JEC-127(1979))」で定めている。
支持物が鉄塔の場合について、分類を示せば右記の通りである。
標準形の説明
懸垂形 は、垂がいし装置(直吊、V吊等)を使用した鉄塔である。
直線鉄塔
線路の水平角度が全くない直線箇所に用いる。
写真は275KV中東京幹線の例である。
角度鉄塔
線路の水平角度がある箇所に用いる。
写真は、154KV猪苗代旧幹線の例である。
左回線では、振れっぱなしの角度を抑制するため錘を付けている。
耐張形 は、耐張がいし装置を使用した鉄塔である。
直線鉄塔
線路の水平角度が全くない直線箇所に用いられる。
直線箇所はほとんど懸垂形を用いるが、地形条件、狭線間設計送電線など懸垂形が適用できない理由で耐張形にすることがある。
写真は、超狭線間設計とした275KV港北線の例である。
角度鉄塔
水平角度のある箇所に用いられ、耐張形の代表的使用例として挙げられる。
写真は、ごく一般的な66KV送電線である。
引留鉄塔
線路の始端または終端変電所引き込み箇所あるいは電線架線設計条件が前後径間で異なり、常時アンバランス張力が加わる箇所等(前後径間で電線種別、導体方式が変わる箇所など)に用いる。
写真は、4ルートの275KV送電線が変電所に引き込まれている箇所で、いずれも鉄塔の右側径間の電線張力を完全に引留める設計とした「引留鉄塔」である。
左径間は変電所鉄構との間の短径間で、極めて弱い張力で架線されており、鉄塔設計上はほぼ無視し得る荷重となっている。
保安鉄塔
線路の直線部分で、懸垂鉄塔が連続する場合に補強目的で用いたり、前後径間の径間長の差が大きく、不平均張力が加わる箇所に用いるもので、補強設計を施した鉄塔である。
軽保安鉄塔 :懸垂形を10基以上連続して使用する場合には、10基以下ごとに補強のためこの鉄塔を設ける。また、前後径間の径間長の差が大きく軽度の不平均張力が加わる箇所に用いる。
重保安鉄塔 :長径間と、それに隣接する径間との間には、不平均張力が生ずるが、そのような大きな不平均張力が加わる箇所に適用する。
特殊形の説明
長径間箇所、海峡または河川横断箇所、撚架箇所、分岐箇所、および引き回し箇所等で、標準形が使用できない特殊箇所に使用する鉄塔を全て特殊形として分類する。
(別項「特殊な・めずらしい形の送電線 」の「ワンポイント特殊設計箇所 」に掲載した鉄塔は、矩形鉄塔、1回線水平配列鉄塔および錘付懸垂鉄塔などを除き、「特殊形」に分類される鉄塔である)
以上のように送電鉄塔にはいろいろな分類の仕方があり、電圧の違いで小型のものから大型のものまで、多種多様の形の鉄塔が建設されている。
鋼管単柱の説明は省略する。