スウェーデンは、右図のように北極圏(北緯66度33分以北の地域)から南西に下がるスカンディナビア半島を、ノルウェーと縦(南北方向)に2分した半島の東側に位置する国で、南北に細長い国である。
その水力発電適地はその85%が北極圏に近い同国の北側に位置し、反対に電力需要地は首都のストックホルムをはじめ南側にある。
したがってスウェーデンでは、豊富な水力エネルギーを有効利用するため、北部から南部への長距離送電線を必要とし、1936年には首都のストックホルムから約500km北方に建設した水力発電所から、同国初めての220kV超高圧送電線を完成させている。
1950年時点では、開発可能な水力資源の約3分の1が開発され、ストックホルムから約500km内外の地点のオンゲルマン川(Angerman-alven)、インダルス川(Indals-alven)などに開発された水力発電所からスウェーデン南部まで、右図には表示していないが、6ルートの220kV送電線が建設されている。
第二次大戦後、経済発展に合わせて220kV送電線では毎年、つぎつぎと新規ルートを建設しなければならないと予測され、したがって大容量の送電線建設が望まれた。
1946年の秋に北極圏にあるハースプランイェト(Harspranget)水力発電所の開発検討を開始したが、特に大容量化の必要性が叫ばれた。
このHarspranget発電所はスウェーデン最大の規模で、当初300MW(30万kW)の開発を計画した。(2007年現在総出力は830MW(83万kW))
この発電電力を電力需要地のスウェーデン南部のハルスベリ(Hallsberg)まで送電することにしたが、こう長は955kmと極めて長距離送電となるため、送電線電圧を世界最高電圧の380kVに目標を定めた。
世界初の複導体送電線誕生の物語 A story of the world's first bundle conductors power transmission line birth.
Sweden needed the long-distance power transmission line which was near to approximately 1,000km from the northern part to the southern part to make good use of abundant waterpower energy in the northern Arctic Circle in Sweden.
Therefore, Sweden built the power transmission line of the world's first bundle conductors method in 1951 to perform with the world's first 380kV extra-high-voltage power transmission line that was able to transmit large-capacity electricity to the far-off place.
スウェーデンは、北極圏(The Arctic Circle、北緯66度33分以北の地域)から南西に下がるスカンディナビア半島を、ノルウェーと縦(南北方向)に2分した半島の東側に位置する国で、南北に細長い国である。(下図参照)
その水力発電適地はその85%が北極圏に近い国の北側に位置し、反対に電力需要地は首都のストックホルムをはじめ南側にある。
したがってスウェーデンでは、豊富な水力エネルギーを有効利用するため、北部から南部への長距離送電線を必要とし、1936年には首都のストックホルムから約500km北方に建設した水力発電所から、同国初めての220kV超高圧送電線を完成させている。
1950年時点では、開発可能な水力資源の約3分の1が開発され、ストックホルムから約500km内外の地点のオンゲルマン川(Angerman-alven)、インダルス川(Indals-alven)などに開発された水力発電所からスウェーデン南部まで6ルートの220kV送電線が建設されている。
しかし、旺盛な電力需要に対して、ストックホルムから約1,000km北方の北極圏における水力開発を推進することとなり、長距離大容量送電線の建設が必要となった。
このため、世界初の超高圧380kV送電線を技術開発し、且つ世界初の複導体(2導体)方式送電線を建設することとなった。
本項は、困難を極めた送電線設計・建設の諸問題に挑戦し、それを克服し送電線を完成させたた物語を掲載する。
はじめに
さっそく送電電圧の検討を始めたが、検討は直流を含め、330、380、440kVについてスウェーデン電力庁が中心となり同国工業界が協力して、調査、試験・実験等を行ない優劣比較を行った。
その結果、1946年12月に380kVを採用することに決定した。
この電圧レベルについては、その後、運用最高電圧を400kVとし、「400kV系統」と呼称することに決定した。
もし、従来の220kVを採用したら、スウェーデンにおける全ての水力開発に見合う送電線数は新しく20ルートを必要とするのに対して、380kVであれば6ルートで十分であり、環境保護面と土地利用面等から高電圧化が強く望まれた。
この送電電圧380kVは世界で誰も運用した経験がない未知の領域の電圧であり、様々な問題を克服しなければならず、広範囲の調査研究が必要になった。
最大の問題はラジオ受信障害と送電ロスを発生させるコロナであり、この対策としては電線を2導体化することが不可欠である。
ところが、電線の2導体化は、また、世界で誰も運用した経験がない未知の領域であり、そこで、まず2ルートの220kV送電線を2導体設計として事前の工事経験を積んだ。
このHarspranget~Hallsberg間の380kV送電線の中間地点には、既に多くの水力発電所が建設され、その出力の一部を南部に送電することが求められるため、中間地点のミドスコィ(Midskog)に中間変電所を設けた。
Harspranget~Midskog間はHarspranget発電所の出力30万kWだけの送電であるが、中間変電所から南側のMidskog~Hallsberg間は400MW(40万kW)を送電することになる。
なお、工事の完成は当初1950年としたが、1年遅れの1951年に完成し運転に入った。
しかし、380kV用変圧器及び周辺機器の開発・調達が遅れるため、当面は220kV運転し、1952年当初に380kV昇圧した。
ところで、スウェーデンの地形は南北に走るノルウェーとの国境が山岳地帯で標高が高く、東側のボスニア湾に向かって次第に標高が低くなる。
したがって、多くの河川はノルウェーとの国境を水源地として西から東に流れボスニア湾に流れ込んでいる。
スウェーデンの大規模水力発電所は、上図に記載した「Lule」、「Ume」、「Angerman」、「Indals」の4大河川に集中している。
送電線の設計
世界初となる380kV送電線の開発と、同時に世界初の2導体方式送電線の開発を極めて短期間で行うため、スウェーデン国家電力庁では国を挙げて調査研究を進めた。
送電線の設計は、電力庁とスウェーデンで代表的な電力機器製造会社であるASEA(Allmänna Svenska Elektriska Aktiebolaget、英語表記:General Swedish Electric Company)の緊密な協力によって行われた。
更に、ストックホルムの60km北のウプサラ(Uppsala)にあるスウェーデン高電圧研究所をはじめ多くの研究機関等の高度な支援により順調に問題点の解決が図られたが、中でも、フランス電力公社(EDF)の協力度は顕著で大きな成果を上げた。
具体例を挙げると、電線の架線設計および最適径間長の調査研究では、ウプサラの高電圧研究所に、200m、300m、460mの3径間の試験線を建設して調査・観測し、標準径間長を決定すると共に2導体の挙動を把握した。
また、鉄塔部材(特に鉄塔頂部の部材と支線)の風圧荷重と振動対策等については、空軍研究センターの風洞実験設備を活用して最適設計値を探求し、一方鉄塔全体の強度は、実規模鉄塔試験設備で破壊に至るまでの荷重試験を行い、安全性の確認を行った。
本送電線の標準的な懸垂鉄塔の概要図を右に掲げる。
後にその詳細は述べるが、2本の主柱がトラス構造ではなくラーメン結構(フィーレンデールトラス:Vierendeel Truss)になっているのが大きな特徴である。
<設計条件>
- 標準スパン:320m
- 最大スパン:550m
- 鉄塔質量:7.2ton、24ton/km
- 電線:2×ACSR 593m㎡、3相
- 2導体電線間隔:450mm
- がいし:20個×170mm
- 地線:st 67.9m㎡、2条
- 遮蔽角:24°
鉄塔写真は、手持ちがないので、お手数をおかけして恐縮だが、下記の座標文字列(英数字)をコピーして、それを「Google earth」の検索窓に貼り付け、誘導された地点にて「Street view」を立ち上げて鉄塔写真を見ていただきたい。
- 標準的な懸垂鉄塔写真:
65 43 46.15 N 18 39 25.00 E - 水平角2~10°までの軽角度振れ放し懸垂鉄塔写真:
61 11 31.38 N 15 05 35.51 E - 水平角8~20°までの重角度振れ放し懸垂鉄塔写真:
65 31 57.78 N 18 14 23.08 E - 軟弱地盤用懸垂鉄塔写真(支線付):
59 16 52.52 N 15 00 13.78 E - 耐張鉄塔写真:
62 20 31.26 N 15 08 19.44 E
電線設計
まず、径間長については、詳細調査を行い建設費が最低となる径間長を319mと算出しそれに近い値320mを標準径間とすると共に、最大径間長を555mと決定した。
送電線が例外的に重着氷に曝される地域では、一般地域の着氷加重が3.3kg/mに対して標準張力で4kg/mの加重が加わっても良いように、径間長を短くした。
2導体の風による荷重を計算する時に、日本では風圧荷重を単導体の90%に低減しているが、スウェーデンでは風圧低減は考えないこととした。
電線線種はACSR 592m㎡(Al:522m㎡,St:70m㎡)を採用した。
その直径は31.7mmで、ACSR 592m㎡2導体は銅線の330m㎡2本に相当する。
電線の張力は風による振動により制限されるが、従来からの経験で0℃のとき静荷重(Dead Load)条件で約6 kg/m㎡(約3.6ton)とした。この時の弛度は標準径間で電線温度50℃のとき10.2mである。
2導体は水平配列とし、リアクタンスを低くして送電容量を多くするにはその間隔を広げれば広げるほど有利であり、一方コロナ電圧は30㎝の時に最大となるが、双方の妥協点を考え45㎝とした。
このタイプの電線は、3導体、4導体を含めて徹底的に試験を行い決定した。
素導体間隔45㎝のとき、リアクタンスは26%低減する。
この結果、送電線安定性が改善し、コロナ発生臨界電圧は上昇した。
この電線配置では、1相およびkm当たり電気抵抗は0.0275Ω、リアクタンスは0.33Ωとなった。
ライン・キャパシタンスは0.011μF/kmで、リアクティブパワーが380kVの時、500KVA/kmに相当する。
電線配置は大規模な実験を行い、コロナロスおよびラジオ受信障害を考え決定したが、その詳細は「CIGRE-412-1948」に公表している。
2導体の採用については、様々な試験と研究により決定したが、送電電力を増加出来ることと、コロナ電圧が高くなり、且つ電線の製造及び架線工事が有利であることが採用を決定づけたが、しかし一方、このシステムはがいし装置、支持物、及び基礎などに大きな荷重をかけることになるため強度を増加させなければならない。
そこで、大直径のACSR 908m㎡単導体と、ACSR 592m㎡の2導体の場合でHarspranget~Hallsberg間の建設費比較をしてみると、単導体総建設費を100%として具体的に算出した結果は次の通りとなった。
費用項目 | ACSR 908m㎡ | 2×ACSR 592m㎡ |
---|---|---|
基礎費 | 16.7 | 19.4 |
支持物費 | 23.6 | 29.5 |
電線と地線費 | 27.3 | 36.0 |
がいし装置費 | 7.1 | 8.2 |
管理費 | 12.0 | 13.8 |
その他 | 13.3 | 13.0 |
合計 | 100.0 | 119.9 |
比較計算の結果、建設費は約20%増加するが、送電容量は30%増加し、また送電損失が減少するので2導体が有利であると分かった。
2導体は、電磁気力の引力によりお互いに引き寄せられて接触してしまう。
この力は、静電界によるものは反発力となり、電磁界によるものは吸引力となるが、重潮流では後者の力が支配的である。
計算とテストでは、2導体の間隔を保つには330m以下の径間にしなければならない。
コロナ電圧をラジオ受信障害が発生しないようにするため、限界以下のコロナ電圧にしてはならないが、風のことも考えて20㎝よりも狭くしてはならない。
20㎝より狭くすると、上掲グラフのようにコロナ電圧は急激に低下する。
電線相互の運動メカニズムを確認するため、冒頭で述べたようにウプサラの高電圧研究所に実規模の200m、300m、および460mの試験設備を設け試験した。
この試験結果を「CIGRE-410-1950」に公表したが、電線間隔が5cm以下になる回数を21~24m/sの風速下において調べたところ、200mでは数千回、170mでは数百回起こったのに対してスペーサ間隔150mでは数回に減り、130m以下では全然起こらなかった。
このテストの結果、スペーサを下記の通り130m間隔で設置することにした。
径間長 | 個数 |
---|---|
0~130m | 0個 |
130~260m | 1個 |
260~390m | 2個 |
390~520m | 3個 |
520以上 | 4個 |
スペーサは電線がある角度以内では自由に動けるように設計した。
スペーサは、鋳物用アルミケイ素合金と鉄で作られ、電線の縦方向の動きが出来るようにした。
電線の標準相間隔は、前掲の「懸垂鉄塔概要図」のとおり、12mとした。
電線は鍛鉄で作られた懸垂クランプで吊され、アルミニウムアーマーロッドで保護されている。
電線には、振動対策としてダンパーが懸垂クランプの両側にセットされており、線路の終端での振動対策としても効果を発揮している。
がいし設計
右図のように、がいし装置は高さ170mmの懸垂がいしを適用し、懸垂箇所の一連個数は20個とした。
最も多用されている磁器がいしを用いる1連懸垂がいし装置の最大耐荷重は10tとし、運用荷重を4tとした。
懸垂がいし装置に働く荷重が大きく、磁器がいしでは2連がいし装置が必要となる箇所については、可鍛鋳鉄または高強度のキャップのガラスがいしを適用し、許容荷重を5.5tとした。
がいし連には、上部にあーキングホーンを、電線側に最下がいし2個の分担電圧を補正する保護リングを設けた。
引留及び角度箇所支持物では、スチールヨークを用いた3連(または4連)がいし装置とし、ガラスがいしを適用した。
右図は使用したガラスがいしの図面である。
笠径300mm、高さ170mmである。
スウェーデンでは、大規模ながいし性能試験設備が最近完成するまではガラスがいしを使用してこなかった。しかし、諸試験の結果は磁器がいしの最高の特性と同様の良いデータが得られた。
ガラスがいしの特有の特性はガラスディスクが破損を受けた時にはキャップの中は正常で、ガラスが完全に壊れることである。同時に振動試験及び引っ張り試験では、ガラスの破壊が引っ張り耐力低下を発生させないことが分かった。
ガラスがいしの使用は、がいしの数を削減するため工事費の低減に寄与することが分かった。
地線設計
送電線は、亜鉛めっき鋼より線 67.9 m㎡の2条の架空地線を設置し、電線に対し24°遮蔽角を持つように設置されている。
雷に対する保護として遮蔽角は出来るだけ小さいほどよいが、その場合にはお互いに接近しないように地線をより高くしなければならない。
このことは、遮蔽角を小さくする設計は送電線の設計の困難さを増大させ、また、支持物の水平交差アーム上の腕金に地線を留める困難な工事施工を避けることが望まれる。
ちょうど建設が始まった380kV第2ルート目のストルフィンフォルセン(Storfinnforsen)~エンヒェーピング(Enkoping)間の送電線(前掲の地図で点線のルート)では、右図の通り地線を留める構造を斜めに延ばしたアームではなく、主柱材を高く延ばした先に留めるように構造変更した。
この構造にすると、電線への直撃雷の危険度が増加するが、しかし、逆閃絡(フラッシオーバ)が減ることで相殺され雷保護は概ね同じになる。
架空地線は振動による障害リスクを減少させるため、横軸方向に動くような留め金具で固定されており、地線にはダンパは付けていない。
スウェーデンの地質は導電性に乏しいので低い接地抵抗を得ることは建設費が高価になるので、接地抵抗は20~30Ωを限界とした。
鉄塔設計
スウェーデンにおける非常に長い送電距離は、高電圧送電線の設計思想に大きく影響を及ぼしている。
経済的な理由から、1回線送電線を建設する必要性が大きいが、一方でサービスの信頼性配慮で厳しい要求に従わねばならない。
設計者は、氷および風加重による妨害を避けるため、送電線は相対的に長径間で水平配列とした。
この理由で、第一次大戦と同じ頃に3相電線を支持するのに、前掲「懸垂鉄塔概要図」のような「Hフレーム」または「門型構造」を使用し始めた。
門型構造はスウェーデンの環境の元では経済的であり、美的で魅力的である。このタイプは200kV送電線に適切であったし、今度の380kV送電線にも適切であると分かっている。
鉄塔重量を軽くすることは極めて重要なことだが、輸送と組み立て工事を容易にすることが何より重要であり、送電線の建設工事では輸送問題が大きな比重を占めているためである。
送電線が通過する大部分の地域は殆ど道路がない。したがって、1kgでも軽くすることは重要で、そのため高張力鋼を採用することとし、部分的に、出来るだけ鉄塔材の厚さを薄くするために特殊な形状にした。
送電線はスウェーデン電気規格「SEN 12-1945」に適合するようにデザインした。
北部の山岳地帯を通過する区間では、計算ではこれらの規定よりも更に厳しい氷と風荷重が免れないことが分かった。しかし、積雪量は少なく、耐雪構造は不用と判断した。
各鉄塔の基礎は、防腐剤をしみ込ませた木製の根太で出来た2つの基礎からなっている。その根太の数は8~12本で、埋設深さは約2mである。
木材用防腐剤をしみ込ませた根太の耐久性は鉄塔と同じくらい期待できる。
根太は、その上面をDimel製の I ビーム(H鋼)、底辺は鋼鉄の平板でお互いに固定されている。
基礎の安定性は、回転力を抑制することで決定されるが、この回転力(モーメント)は、広範囲な限界で変化する。
適切な標準値は、鉄塔当たり90 ton-mであり、最大値は130 ton-mである。
地盤が横転モーメント耐えることが出来るために、基礎の深さを変える必要があるが、しかし、これは常に満足するわけではないので3種類の異なるタイプの基礎を適用した。
これらのタイプは、許容加重が1.0kg/㎠より多い地質の全ての種類に適切であると確信している。
非常に軟弱な地質では、一つの基礎は圧縮加重に支配され、もう一つの基礎は引き揚げ荷重を受けるようよう、支線を使用していて、標準の根太は特に長い木材に替えられており、この設計は、地盤の耐荷重が0.2kg/㎠ 以下で鉄塔に用いることが出来るようにした。
基礎の設計では、既設の送電線建設で得られた経験を活用しており、本送電線の基礎は軽い重量で、運搬が容易である。
根太の有利な点は、標準基礎では、たったの590kg であり、最大の部材は260kg である。
この基礎の軽さは、基礎を構成するビーム材が標準鋼「St52」を部分的に使用していることにもよっている。
鉄塔は、右図のようにフィーレンデールトラス(Vierendeel truss) (ラーメン構造)として設計されていて、先端に向かって細くなっている(テーパーが付いている)。
鉄塔の重量を軽くするため、縦方向の主柱材に引っ張り張力が最低52kg/m㎡の高張力鋼「St52」の使用を決定し、また、特殊な波形の形をした標準鋼「St44」を水平部材に使うことを決定した。
標準鋼「St44」および「St52」を使用した垂直材の効果は、部材「St44」使用のケースより約25%重量軽減が図られた。
水平材の断面図は図のようであり、それは4.25mm厚さで、地表レベルから上の部分の構造材である。
波形をした形を使用するのは、薄い部材の曲げおよび捻れの応力を増加させるためであり、波形の水平材に従う重量の軽減は、鉄塔の全重量の19%になる。
もし、全て鉄塔が標準鋼「St44」で、平面の形の水平材で、造られていれば、標準鉄塔の全重量は40%も重くなったであろう。
標準鉄塔の重量は7.2tonで、24ton/kmである。
地形のために鉄塔は異なる高さが要求され、高さの変化は19.1m~30.3mが必要であった。
鉄塔の輸送を容易にするために、それは3セクションに分割されていおり、すなわち、上部、中間部、下部である。それらは、はめ込み式ジョイントという極めて簡単な方法で現地で組み立てられる。
2本の主柱材を水平に結ぶクロスアームの設計は垂直方向の荷重で決定されるが、しかし、電線または地線の断線に起因する異常時荷重も考える必要があり、スウェーデンの基準に従って、電線1条または地線の断線が設計に反映される。
異常時荷重は引っ張り力が各相の2導体電線で約14 ton、そして地線では約4ton になり極めて厳しい。この荷重のケースは異常時状態として考慮される。
クロスアームは電線または地線の断線による力に耐えなければならないため、クロスアームの下部の骨組みは、アーム主材が溝型横梁(チャンネルビーム)を使用し、部材が波形の形状で出来ていて、ラーメン構造として設計されている。
クロスアームについて考えると、全て3相の電線が留められている点に垂直荷重を等しく受けるので、鉄塔のトップに於いて内側に作用する力と比較して外側方向に作用する力の方が大きい。
これらの力に対抗するために、鉄塔の頂部において水平に連結ロッドで結合した。
このロッドは、地盤沈下によって引き起こされる圧力に耐えられるように特殊なアタッチメントで固定されている。
鉄塔の頂部で連結される支線と連結ロッドは、通常の地形条件で強風により振動しないように設計される。
これらの部材に十分な面積(太さ)を決めるために、空軍研究センターの風洞実験設備を活用して実規模試験を行った。
荷重計算は、実規模試験で確認された。
このテストで、構造物は、最初に全ての3相の電線と全ての地線の引留点に加えられた水平方向の連続する荷重が破損に至るまで加えられ、最後には電線と地線に着氷が付いた時の風の影響に対応する荷重が加えられた。
最終的には、荷重は増加され鉄塔は破壊したが、最大荷重は、計算で得られた結果とほぼ一致した。
鉄塔の総数の80%は、標準タイプの鉄塔B1であり、相間間隔は12mである。
B2型鉄塔は、相間間隔は13mであり、がいし連は風で大きく振れた場合にも許容されるよう、取り付け点をクロスアームの下方に伸ばされている。
B3型は、より極端な型で、相間間隔は14mである。
V1型は、角度型で2°までの小さな角度に使用する。
V2型は、支線を備えており、水平角10°までに適用する。
最も大きな角度には、20°まではV3型で、主柱は3本配置されている鉄塔を使用するもので、2本の主柱には基礎に引留られた支線を装備する。
最後に、B1M型、およびB1LL型は、非常に軟弱な地盤に建設するよう特殊設計されている。
鉄塔の工事に使用する材料の殆どは、スウェーデン製である。
送電線の建設に使用する鋼材の総量は、25,000tonであり、ルクセンブルクから買ったDimel Iビーム3,300tonを含み、アメリカから買ったアングル材2,500ton、イギリスから買ったアングル材の700tonを含む。
水平支柱の波形材の製造では、鋼材シートを特殊な幅の細長い1片に切り出し、冷間圧延で形成される。
計画では、熱間圧延形成をしたかったが、その時点ではスウェーデンおよび外国の圧延ミルでは快く引き受けてくれなかったためである。
3,000基の鉄塔はスウェーデンで製造した。この大仕事は、幾つかの小さい規模の工場にも分配し、各工場は限定した部材を製作したが、おかげで短時間に完成した。
鉄塔は数段の作業段階で溶接された。
始めに、屋内設備で、水平材が2本の鋼材にハシゴ状に溶接された。この2本のハシゴから、完全な鉄柱は、他の設備で組み合わされた。次に大規模工場の一つは、一回の操作で鋲溶接によりお互いに付き合わせられた。最後の溶接は、設備の屋外で行われた。
最も重要な部材への水平材の溶接は、部材の端部が水平でなければならないが、この平面化は、部材が剪断機で切られる時に自動的になされた。
溶接では、基本的な電極が用いられ、溶接接続は、1段目がお互いの片面で、そして2段階塗りで仕上げられた。
単階層の溶接も容認したが、このケースでは、溶接の根の片面の気孔が出来ないよう、また、更に十分であるよう、溶接接続は銅による補強をしなければならなかった。
溶接の任意サンプルは、X線で検査された。
鉄塔は、熱亜鉛メッキで錆から保護された。
それに加えて、基礎と鉄塔脚部の地表下の部材は、0.5mm厚さの亜鉛シートで覆われた。
以前に建設された送電線での経験は、この保護方法は効果があると示されている。
鉄塔の建設期間中、材料調達では大変な困難に出会った。
例として、0.4%以上にカーボン含有量を有する硬い鋼を、アメリカの標準鋼「St52」ロットが含んでいたし、それを除外するのに長時間がかかった。
水平材のパーツは、標準的平炉鋼で製造するが、それは切断して冷間圧延後にエージングを経て不安定になるため、検査でその傾向が観察された後、溶接の前に内部応力(ストレス)を除くこととし、全ての標準的平炉鋼プレートを焼き直さなければならなかった。
鉄塔基礎の重要な材料に使用されるスウェーデン製の「St52」アングル材は、これもまたトラブルを引き起こした。
あるケースでは、クラックが溶接接続付近のアングル材に発生した。
これらのクラックは、不安定なゾーンとして突き止められた。
このクラックを引き起こす原因究明と観察は完全ではなかったので、事前の試験を行ったがこの鋼が硬くなりやすいことを示す結果が得られた。
今後、スウェーデン鉄鋼会社と専門家の協力で、この関連での良い性能を持つ標準「St52」鋼材の生産に取り組んでいくこととしている。
建設工事施工
本項では、建設工事の管理に従事した最高技術責任者の回顧録からピックアップした工事の概要を以下に掲載する。
まず、ルートの地域事情については、ルートの北側(起点側)半分の地域は未開の地域で山岳地帯でありルート沿いには道路が殆ど無く資材運搬に極めて苦労した地域で、作業者の宿泊できる設備は全く無かった。
気候は寒い地域だが、積雪深は少なく、鉄塔の下部構造は耐雪設計が必要ない地域である。
したがって、工事は厳冬期でも可能で、かえって大地が凍結し道路がないところでは雪の上をそりで自由に走れるので資材運搬が夏期より容易である。ただ気温は-20℃~-30℃になる。
955kmにも及ぶ長距離送電線で、且つ世界初の380kV超高圧であり、世界初の2導体設計であるため、予測できないファクターが多く、それを4年という短期間で建設させる計画で困惑した。
まず人集めから出発したが、現在スタッフが75人のところ新たに70人集める必要があった。
従来の200kV送電線では、一人の班長が受け持つ範囲は50~60kmであったが、今回は長距離になるので80~90kmに拡大した。それで全こう長955kmを12工区とした。
施工計画
スウェーデン議会は、1946年9月に本送電線計画を承認した。
そこで早速下図の通り全体工程を作成したが、この承認計画では1950年10月1日に運転開始することになっていた。
- 現場技術員による予備調査
- 測量、土地権利取得、境界杭打ち、地質調査
- 運搬路建設
- 基礎材運搬
- 基礎工事
- 鉄塔材運搬
- 電線・地線運搬(起点側1/4区間)
- 鉄塔組立
- 電線・地線運搬(終点側3/4区間)
- がいし運搬
- 電線・地線架線(延緊線)
- 通信ケーブル敷設
- 現場技術員による検査
- 最終検査
- 予備期間
- 運転準備
- 補充・追加工事
冬期は気温が低いものの積雪量は少なく、通年工事が可能と判断した。
工程で最も問題になったのは、資機材の運搬であり、ルート沿いの公道が殆ど無い地域が多いので、その時期は冬期に凍結した雪の上を運ぶのが経済的に安いと判断した。
中間変電所Midskog S.Sと起点のHarspranget発電所間(ほぼ線路の半分の長さの区間)は未開地で、必要とする工事作業員が宿泊できる設備は殆ど無く、その対策が大問題であった。
工事作業員の数を少しでも少なくするためと工程を短縮するために、時間と人手のかかる手掘り作業の代わりに掘削機を導入して機械化し、また基礎材の組み立て、吊り下げ、埋め戻し等を行うブルドーザーを出来るだけ投入することとした。
これらの機械は主にアメリカに発注した。
この場合、その機械のメンテナンスが工程管理上大切な仕事になるが、スウェーデンでは既設の工場がないので、新規にガス溶接および電気溶接も可能な大規模メンテナンス作業所を建設した。
ブルドーザー、雪かき機、クレーン、ウインチ、巻き上げ機などを装備する60台のトラクター、14台の掘削機、10台のトレーラー、17台の水陸両用車、その他多量のソリ、などを手配し運用した。
前述のルートの北半分の区間では、16部屋の食事の出来る狭い一人部屋に一人ずつ合計16人の作業員が住める仮設住宅を40棟設置し、移動式のダブルガレージ50台を用意した。
しかし、この住宅は快適ではなかった。したがって、工事期間中4年間も長期に居住するので、次第にグレードアップした。
改良した住宅は、広い各部屋に4人が暮らせるようにし、各部屋はより上等にした。また、上等な入浴施設、乾燥部屋、上等な家具、セントラルヒーティング、突然のビジターに対する宿泊部屋なども設置した。また、屋外にトルコ風呂(蒸し風呂)も設けた。
結局、当初70人が必要と考えたが、50人のスタッフを雇って15人は事務所に、35人は現地に現場技術員として配属した。これらの新入社員に対する教育は、送電線建設の知識を一から教えるので大変だった。
現地調査と運搬問題
どの工事でも同じだが、ルートの設定は思いもかけない各種の障害、すなわち地主の反対、広大な射撃場、鉱区権設定地等、に遭遇し苦労した。
最初の計画では1946年夏にルートを決定する予定だったが、1年遅れの1947年の夏になった。
ルートの用地確定杭打ちは1946年末に計画通りに開始したものの、全て完了したのは1947年夏になった。
right of wayの敷地境の杭打ち完了と共に即座に、ルート測量、鉄塔位置の確定、地質調査、鉄塔型の確定を行ったが、材料の手配開始は1947年の春になった。
計画では、180本の公道と500橋を運搬に利用したいと思っていたが、公道の半分は重量制限が2tonであり、56%の橋は許容荷重が2.7tonで、使用できない道路と橋が多くあった。
また、その56%の橋はキャタピラートラクター対応の14ton荷重に改善可能であった。 行政当局と協議の結果、車輪荷重を2.7tonに抑えることに決定し、使用することとした。
申請の結果、一部の道路と橋梁ではそれ以上の荷重を許可され、更に一部の道路では補強と改造が許可された。
更に、特殊なソリを用いた鉄塔材運搬の特殊車量を製作し、水陸両用車両も使用した。
鉄塔基礎工事と組立工事
アメリカに発注した掘削機が届いたのは、非常に遅れた。そしてそれを運用し始める前の段階で、スペアパーツを国内で入手するのが困難で大問題であった。
基礎材および鉄塔下部材の入荷が異常に遅れた。
計画では、75%の基礎を掘削機で掘り、残りを手作業で行う予定であった。しかしこれらの遅れのため40%しか実行できなかった。更に予想より地質が硬くて掘るのに機械が使用できなかった。
それにも拘わらず、掘削機を使うと手作業の5倍も捗るので、掘削機を利用して工程を短縮した。
鉄塔間の機械の移動は、当初の期待以上で、特に困難な立地条件ではトラクターが役立った。
工程を短縮するため、14台(内8台は自前の機械)の掘削機を使用したが、更に幾つかの特別の掘削機を借りることにした。
掘った穴への基礎材と鉄塔最下部材のセッティングは、地上で双方を組み立てて、トラクターまたは掘削機で穴の中に下ろす。そしてブルドーザーで土砂を埋め戻すが、機械で行うとほぼ1時間で埋め戻しは完了する。
鉄塔基礎材の垂直方向の誤差は、1:600以内、すなわち3mあたり0.5cm以内とした。
鉄塔の組み立ては、まず主柱材を全長接続し、それに主アームの1/3部分を取り付けて地上に寝かせ、さす股クレーン(逆V字型のロッド)にワイヤをセットし、トラクターでワイヤを引いて引き起こす方法で建柱する。
これを2回行って左右の主柱2本を建てる。最後に主アーム(クロスアーム)の中間部を吊り上げて組み立てを完了する。
架線工事
電線・地線の延線は、1台または2台のトラクターで電線6条と地線2条の合計8条を同時に引く。
まず、1条のメッセンジャワイヤロープをドラムとトラクター間に張り、そのドラム側端部にヨークを用いて8条のワイヤを接続し線交わししながら金車上にワイヤを張り、その末端部にそれぞれ電線・地線を接続し延線する。
電線・地線ドラム長は1,300mで、3ドラム分延線したところで地上で直線スリーブで電線・地線を本接続し仮上げする。直線スリーブは金車通過させない。
直線スリーブは圧縮接続スリーブで水圧式圧縮機により圧縮する。
延線は、延線車を使用せずドラムから直接電線・地線を引き出して低張力で延線する。
(当HP開設者注:線下は樹木を全て伐採し裸地になっているので、低張力のため延線中の電線が地面に接する箇所が出ると思われるが、恐らくローラー(コロ)を用いて電線保護しつつ延線したと思われる。)
ドラム場とトラクター間は携帯式ラジオテレフォンで連絡した。
懸垂クランプ箇所は、アーマーロッドを巻いた。
冬期には-20℃~-30℃になるが、地上30mの鉄塔上で時には手袋をはめないで、素手で作業したこともあった。
1949年9月の時点では、97%の鉄塔が建設され、27%の電線・地線とがいし装置が工事完了していた。そしてその時点での最新のスケジュールでは、工事竣工予定の1950年3月中旬で工程は1.5ヶ月遅れの予想であった。
工事の遅れに脅かされていたが、発電所機器の遅れで1951年当初以前には発電所が運開しないことが分かった。しかし、1951年の当初までに工事完成させるためには、それでも急いで工事をする必要があった。
とにかく鉄塔の入荷が1年遅れとなり、一部では鉄塔組立と同時に電線・地線の延線を行った。
大量の運搬をしなければならないため多くの車両を投入したが、工事完成を目の前にした1951年の2月には、凍結が短期間でしかも積雪が多く、じめじめした大地にキャタピラが刺さって錆び付き破損し不都合な天候に大いに悩まされた。
おわりに
本送電線ルートの地域環境については、ルートの北側(起点側)半分の地域は未開の地域で山岳地帯でありルート沿いには道路が殆ど無く資材運搬に極めて苦労した地域であり、作業者の宿泊できる設備は全く無かった。
このような厳しい環境の中で、約1,000kmに及ぶ大規模設備をほぼ4年という短期間で建設出来たことは、設計・施工に携わった技術者・作業員の献身的な努力の賜と言えよう。
本送電線は、35タイプの約3,000基の鉄塔からなり、高さにより20クラスに分けられ、更に鉄塔部材の厚さの違いで4クラスに分けられ、それらの組合せで現場に上手く適用させることができたし、2導体架線も比較的順調に出来た。
鉄塔材の総重量は25,000tonで、運搬総重量は75,000tonであった。
車両による1月当たりの走行距離は300,000kmになった。
作業員数は、最盛期に700人以上になった。
建設工事管理に従事した最高技術責任者のKurt Fr. Trädgårdh氏は次のように回顧している。
本工事は、工程管理上多くの苦労をしたが、今までで最も魅力的な工事であった。
また、スウェーデン及び外国のエンジニアとジャーナリストなど多くの関係者は、この送電線の技術革新に大きな喜びを感じている。
送電線建設部門の一人として、この魅力的な送電線の建設に参加できたことは誠に幸運であった。
我々は、次に続く380kV送電線建設のための、貴重な経験とデータを得ることが出来たことに感謝する。
参考文献
- 「380kV Transmission Line Harspranget to Hallsberg 」by David Zetterholm and Kurt Fr. Trädgårdh
本送電線が送電する電力等によって繁栄している首都ストックホルムの一風景。