(注7)ボルダーダム-ロサンゼルス線解説
Boulder Dam Los angeles Line
ボルダーダム-ロサンゼルス線の解説の前に、その電源となるボルダーダムについて簡単に紹介する。
ボルダーダム(Boulder Dam) は、アメリカ合衆国の多目的ダムで、コロラド川がグランドキャニオンを流れて、そこから下流(西方)に直線距離で約160kmほどの所にあるブラック峡谷およびボルダー峡谷に建設したダムで、アリゾナ州とネバダ州の州境の位置ある。
建設の目的は、ルーズベルト大統領(就任期間1933~1937)のニューディール政策の一環として建設されたとの話もあるが、着工は大統領就任の前で1931年である。
実際には、ハーバート・フーバー(Herbert Clark Hoover)大統領(就任期間1929~1933)が就任期間中に着工し、1929年に始まった大恐慌対策として国家事業として建設を促進せたものである。
右写真は建設工事中のボルダーダムである。
ダムの諸元は下記の通りである。
ダム位置:北緯36度0分56秒、西経114度44分16秒
河川:コロラド川(Colorado River)
目的:水位調整,発電,水道
型式:重力式アーチ、堤高:221.4m、堤頂長:379.4m
湛水面積639k㎡
有効貯水容量:344億ton、(琵琶湖の貯水量約280億トンより多い)
工事着工:1931年、竣工:1936年(ダム建設会社6社は、1936年3月1日(2年以上予定より早く)に、ダムを連邦政府に引き渡した)
ダム湖名称:ミード湖( Lake Mead)
発電容量:2,080 MW(発電機数17台)
電力供給先会社名:右岸(ネバダ州側)発電設備(Los Angelse Bureau of Power and Light (60Hz)、Metropolitan Water District (60Hz))、左岸(アリゾナ州側)発電設備(Los Angelse Bureau of Power and Light (60Hz)、States Arizona and Nevada(60Hz)、Southern California Edison Co. Ltd (50Hz)、Southern Sierras Power Co (60Hz))
下記の赤い文字列をコピーして、Google earthの検索窓に貼り付けると自動的にダム地点に画面が移動するので、そこで Street Viewを立ち上げると現在のダム写真が見られる。
「36 00 59.48 N 114 44 16.12 W 」
ダムは、当初、地名のボルダーダムと命名されたが、建設着工時のハーバート・フーバー(Herbert Clark Hoover)大統領の名にしたいとの論争があり、1947年に、米国議会は満場一致で名前を「フーバーダム」に改称することで議会両院を通過し、現在フーバーダムと名づけらている。
フーバーダムは1985年にアメリカ合衆国国定歴史建造物に指定された。
なお、フーヴァーは地質学を専攻した技術者で、コロンビア大学から、トーマス・エジソンと並んで「アメリカ史上2人の偉大な技術者」として表彰されている。
ダム名称は改称されたが、当解説ページでは建設当初の「ボルダーダム」の名称で解説する。
287kVボルダーダム-ロサンゼルス線(Boulder Dam Los angeles Line)は、ロサンゼルス局パワー・ライト(Los Angelse Bureau of Power and Light (60Hz))が建設した送電線で、ロサンゼルスおよびその周辺の自冶体(Burbank、Glenale、Pasadena)の約234,000世帯に供給する送電線である。
その送電容量は240,000kW(発電機4台)で、1936年10月に運転開始した。
ルートは右図面に示す通りで、そのこう長は約428kmであり、起点側の殆どの地域は、乾燥した起伏の多い半砂漠地帯で、大きな峠が3カ所ありその最高標高地点は1,482mであった。
このルートでは、かなり頻繁な雷雨を伴う嵐と、殆ど山道を押し流してしまう季節降雨があり、ルート設定に困難を要した。
一方ロサンゼルスに近い終点側の部分は豊かな農業域と人口稠密な地域で、建設コスト低減策として極力通行権を設定する線路幅(Right of Way)を狭める設計にした。
すなわち、起点側約363kmは1回線えぼし型鉄塔2ルート設計とし、終点側約65kmは2回線垂直配列鉄塔の1ルート設計とした。
本送電線の電圧の採用に当たっては、動的安定性を最も重視した設計を目指して早くから研究を重ねた。
具体的には、220kV~330kVの間で最適な電圧を研究した。
「220kV 3回線」、「287kV 2回線」、「330kV 2回線」の比較研究の結果、330kVではコロナ損失対策として電線直径の増大など建設費用が高いと算定され、「220kV 3回線」も建設費が高くなり、最適な電圧は「287kV 2回線」と結果がでてそれを採用した。
本送電線のコロナ損は、0.7kW/kmである。
ボルダーダムの概要は右図の通りで、本送電線は赤で示したコロンビア川右岸(ネバダ州側)のダム本体に最も近い発電プラントから引き出されている。
システムの安定送電容量は、事故時に迅速な遮断をすることが必要となり、電線地洛事故時に同期を失うことがなく、240,000kWを送電可能な遮断時間は0.11秒と算定され、当時極めて高度な要求であったがG.Eに発注され製品化された。
また、事故時対策としてルート途中に2カ所の開閉所を設けて、正確にルートを3等分することとし、右図に示す系統構成にした。
下記の赤い文字列をコピーして、Google earthの検索窓に貼り付けると自動的にビクターヴイル開閉所地点に画面が移動するので、そこで Street Viewを立ち上げるとビクターヴイル開閉所写真が見られる。
開閉所に向かって、右側の2回線が本送電線である。
「34 33 55.92 N 117 19 02.92 W 」
1回線えぼし型鉄塔は、ウエストから下部を45度ひねった回転タイプ構造とした。
この回転タイプ鉄塔の理論は、電線断線事故の場合に、最も厳しい回転モーメントが横荷重と縦荷重の組合せで起因するということで、それは送電線の方向に対して45°の合力を発生する。
この場合、全部の4本の鉄塔脚が回転力に抵抗して、それによって基礎荷重と従ってコストを下げようとするものである。
荷重の通常の状態の下では、横の荷重だけが発生して、斜め対角の2本の脚は、回転モーメントに対応する。
明らかに、横と縦の荷重がほぼ等しいとき、非回転タイプに対して回転タイプで最も大きな利点は、懸垂がいし装置を用いる直線箇所と少ない角度懸垂箇所にある。
下記の赤い文字列をコピーして、Google earthの検索窓に貼り付けると自動的に1回線2ルート地点に画面が移動するので、そこで Street Viewを立ち上げると現在の送電線写真が見られる。
「34 18 48.09 N 117 29 13.44 W 」
「34 27 03.54 N 117 23 58.16 W 」
設計条件の概要は次の通りである。
平均径間長は300m、最低地上高は電線温度65.6℃無風状態の時8.2mとした。
また、常時の電線張力は約2ton、架空地線は約0.8tonとした。
最大使用張力は、-12.2℃で12.7mmの着氷を見込み、39kg/㎡の風圧で3,940kgとしたが、この値は電線の引っ張り強さの40%である。
懸垂鉄塔の設計条件は、最大使用張力の時、同じ径間で同じ側の電線1条と架空地線が断線する条件に耐える設計とした。
架空地線遮蔽角は、13.4°で、鉄塔質量は、約8.3tonである。
1回線型鉄塔総基数は2,422基で、1回線2ルートの総延長はこう長363kmの2倍の726kmであり、平均径間長は約300mである。
鉄塔制作メーカーはTower Builders Inc.である。
なお、このウエストから下部を45度ひねった回転タイプ構造の鉄塔は、ボンヌヴィル(Bonneville)系、およびテネシー川流域開発公社(Tennessee Valley Authority)等でも使用された。
前述したように、ロサンゼルス・終点側約65kmは2回線垂直配列鉄塔の1ルート設計とした。
右図がその鉄塔概要図である。
下記の赤い文字列をコピーして、Google earthの検索窓に貼り付けると自動的に1回線2ルートが2回線垂直配列鉄塔に変わる地点に画面が移動するので、そこで Street Viewを立ち上げるとその地点の写真が見られる。
「34 09 26.83 N 117 40 02.62 W 」
また、終点の Century変電所は、
「33 56 53.00 N 118 15 18.24 W 」
である。
設計条件は、1回線えぼし型鉄塔と同様とした。
2回線型鉄塔総基数は272基で、2回線区間のこう長は65kmであり、平均径間長は約239mである。
平均径間長が300mに満たないのは、市街化区域に近いためルート選定に当たり直線ルートの確保が困難であったためと思われる。
なお、2回線垂直配列鉄塔区間のうち、9kmは市街地化が進んだ地域であるため、他の送電線を併架して4回線設計・4回線架線とした。
鉄塔制作メーカーは、McClintic Mashallである。
全ての基礎は、右写真のように基礎底辺のパッドと脚柱に鉄筋を巻いた鉄筋コンクリート構造である。
1回線鉄塔の場合は、基礎底盤が1.2m直径の円形で、基礎の深さは2.1mである。
引き上げ荷重に対しては30度の円錐形の土の重量をを設計耐力として見込んだ。
各施工基地で、右写真のように鉄筋を基礎底盤パッドにタック溶接し、それを各鉄塔位置に運搬した。
掘削した基礎穴に基礎材を下ろし、円形型枠をセットするとともに基礎材天端に4脚をつなぐ仮設鋼材水平梁をボルト締めして位置がずれないよう正確に保持する。
右写真は基礎材の位置を調整しているところである。
この状態にしたところで、各鉄塔位置に水、セメント、骨材を積載した移動式セメントプラント車を移動させて生コンクリートを練り基礎にコンクリートを充填していった。
1回線2ルート区間については、乾燥した砂漠地帯で岩の多い地質のため、基礎の接地抵抗が高くなり埋設地線(カウンターポイズ)を設置せざるを得なかった。
本送電線では、160km(100miles)当たりの落雷事故頻度を年1回以下にする設計とし、そのため、接地抵抗を17~25Ωとすることとし、右図のようにカウンターポイズを設置したところ、実際の値は0.8~7.6Ωに収まった。
2ルートの間隔は約80mで各鉄塔当たり2条のカウンターポイズ銅線(直径6.35mm銅線)を設置し、更にそれらをクロス結合させる設計とした。
カウンターポイズ銅線と鉄塔材の間の電解質作用を考慮して、カウンターポイズ銅線を直接鉄塔材に接続せず、2つの同心円状の真鍮で1.6mmのエアギャップのある円筒状の装置で接続することとし、それは1,000Vでスパークする設計とした。
カウンターポイズの埋設工法はは、最も効率的に行うため、トラクターに引かれた鋤(すき)に、直径12.7cmの太さの、長さ約1mの黒銅のロッドをセットし、それを地中に刺して動かし、カウンターポイズ銅線の埋設溝を掘っていった。
右写真はその溝掘り作業の様子を撮ったものである。
さて、電線の設計であるが、結論から言うと右写真のような中空銅線が使用された。
右写真は我が国の275kV新北陸幹線で使用された電線である。
この電線は250m㎡中空銅線(直径28mm、HB型8セグメント)であるが、ボルダーダム-ロサンゼルス線では、写真と同様の形状でやや大きいHB型10セグメント(Grooved Interlook方式)、直径35.6mm、断面積260m㎡、質量は2.33kg/m、電流容量1,020Aの仕様の電線を使用した。
(HB型:ドイツのHeddernheim氏が開発したもので、内面に凹凸のないのがA型、右写真のように凹凸があるのがB型である)
本送電線の設計を開始するまでは、コロナ損失データは直径26mmまでのデータしかなかったので、ロサンゼルス局パワー・ライトはスタンフォード大学の電気工学部の協力を得て直径29.2~50.8mmの電線データを試験研究し取得した。
その結果、直径35.6mmが最適であるとの結論が出た。
しかし、この太い電線を使用すると送電容量240,000kWに対しては十分すぎる過剰な断面積となり、電線質量が重くなり、建設工事費が高価になるので、中空銅線として送電電力に見合う必要な断面積を確保して軽量(2.33kg/m)な電線を使用することとした。
この中空銅線は、電線接続直線スリーブおよび電線引留クランプの構造がやや複雑になるのでそれらを新規に開発した。
また、風による振動に対して弱点があることが分かっていたので風洞実験等で徹底的に試験研究を行い、適切なストックブリッジダンパーを使用している。
なお、最大径間長は、670mとなった。
電線メーカーは、General Cable Corpである。
架空地線は、亜鉛メッキ鋼撚り線、直径12.7mmを使用した。
がいしは、直径10インチ(254mm)、高さ5インチ(127mm)の標準的懸垂がいしを使用した。
(現在使用されている標準懸垂がいしは直径は同じだが、高さは146mmで当時より高さが高い)
ルートの大部分は、年間雷雨発生日数の多い区間を経過しているが、西端は塵挨汚損と霧汚損地域である。
このルート状況から、がいし連長を3mとした。
従って、懸垂がいしは一連24個連結とし、耐張装置は26個連結として、特に電線張力が大きい箇所では2連耐張装置とした。
インパルス耐電圧は、1,870kVである。
懸垂クランプは、右写真のようなセンターフリータイプの新規開発品を使用した。
がいしメーカーはOhio Brass Coである。
右写真は電線延線工事の写真である。
延線工事は延線車を使用し、延線張力を適切に管理しつつ行われた。
各延線区間は、約1,500m、5径間とした。
電線が鉄塔を通過する箇所に金車が写っていないが、金車を使用せず、直径の小さなコロ状の滑車を直列に数個配置して延線したと思われる。
以上、287kVボルダーダム-ロサンゼルス線の概要を述べたが、世界初の250kVを超える電圧の超高圧(EHV)送電線であったため、コロナ問題の解決に当たり、大変苦労した様子が伝えられている。
参考文献
Electrical World 誌、1935年版、その他
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