1.延線用金車Stringing block
1輪金車
送電線建設工事で最も神経を使うのは、道路、鉄道など地域社会の重要インフラを横断するなどして作業を行う電線延線工事である。
その延線工事では、電線を如何に傷つけずその性能を劣化させないで、各支持物に電線を張り渡すか、延線車および架線ウインチの性能もさることながら、その鍵を握るのが各支持物に設置される延線用金車である。
まず、その構造であるが、右写真に最も一般的なウレタンゴム張りの直径300mm金車(質量約15kg)を示す。
電線を乗せて回転するホイールには、
- 鉄製
- アルミ合金製
- 鉄またはアルミ合金の上にウレタンゴムをライニングしたもの
の3種類がある。
- 鉄製は、次に掲げる写真に示すが、適用する線種はワイヤロープ、硬銅撚り線、鋼より線などに使用される。
- アルミ合金製は、鋼心アルミ撚り線(ACSR)などに使用される。
- ウレタンゴムライニング製は、ワイヤロープにACSRなどを直結して延線する場合に、両方の線種をそのまま通過させる時に使用するもので、先行するワイヤロープを延線してもホイール溝部に傷が付かず、したがって後続の電線に傷が付かないようにしたものである。
さて、右写真の手前側フレーム上半分が手前に倒れているが、この状態で電線等をホイールに乗せ、その後このフレームを上に持ち上げて開かないようロックし、電線等が金車から脱落しないようにして使用する。
通常は支持物アームに金車コード(ワイヤ)を取り付け、そのコード下方先端を写真頂部のボルトに通して使用する。
右写真は200mm直径の鉄金車(質量約10kg)である。
鉄金車は、主としてメッセンジャワイヤを延線するので一般にホイール溝径が300mm以下の小さいものが用いられている。
現在送電線工事で使用されている金車は、
- 鉄金車では、ホイール溝径で150~300mm
- ウレタンゴム張り金車では、ホイール溝径で200~1000mm
が主として用いられている。
右写真は、275kV ACSR330m㎡2導体送電線の延線状況である。
金車溝径 600mmを使用している。
同上送電線で、延線が終了し緊線作業中の写真である。
上の写真に比較し緊線時の金車は直径の小さいもので十分なので、溝径 300mmを使用している。
通常架線工事は、数kmおきに設置されたドラム場とエンジン場の間を一つの延線区間として、ドラム場からエンジン場に向かって各支持物にセットされた金車に電線を架け、エンジンで引いて電線を張り渡す。
したがって、各延線区間には数個から10個以上の金車が配置され、その上を電線が移動する。
以下、鋼心アルミ撚り線(ACSR)の場合について解説する。
電線が金車上を移動する際には、押し圧力が電線に加わるが、電線が撚り線であるため、電線進行方向に対して撚り線の各素線の向きが異なるために素線がホイール面でこじられて移動する。
この現象により、延線抵抗が発生すると共に素線に僅かの伸びを生じる。
また、電線重量と延線張力により電線がホイール面に押しつけられてニッキング(素線表面に傷が付く)を発生させる。
このニッキング現象は、アルミの最内層素線に最も多く発生する。
ニッキング量は、金車通過回数が多いほど、金車上での押し圧力が大きいほど大きくなる。この押し圧力は電線張力に比例し金車径に反比例する。
さらに、金車通過時に電線が回転する現象も発生する。この抑制方法については後に掲げる図面で説明する。
これらの物理的現象から、電線アルミ部は素線の移動で伸びが発生し、また回転による撚り戻り又は撚り締まり現象でも伸びが発生し、更にニッキングでも伸びが出て、いわゆる永久伸びが発生する。
このため、最外層のアルミ線が部分的に飛び出したり、素線間に隙間が発生し外観が著しく変化する「電線の笑い」が発生することがある。
また、アルミ線に永久伸びが発生するとアルミ線の分担張力が減り、鋼心の分担張力が増加することになり、ACSR電線としての引っ張り許容荷重が低下することになる。
特に、アルミ層が多く、アルミ層と鋼心の断面積の比率が大きいACSR810m㎡(14.5倍)、ACSR1520m㎡(12.1倍)、といった大容量電線を高張力で多数の金車を通過させる場合には詳細な検討を要する。
具体例として、ACSR610m㎡相当の電線が直径1000mmの金車を通過するときの、延線張力に対する金車抵抗比は、電線の金車抱き角(電線の金車接触角)に拘わらず約1%であるが、金車径を小さくしていくと、
直径500mmの金車では、
- 金車抱き角:25度で約2%
- 金車抱き角:45度で約3%
- 金車抱き角:65度で約4%
直径200mmの金車では、
- 金車抱き角:25度で約3%
- 金車抱き角:45度で約8%
- 金車抱き角:65度で約10%
と金車径が小さくなるにしたがって金車抵抗が増加し、金車抱き角が大きいほど金車抵抗が大きくなるという実験データがある。
従ってニッキングおよび回転による伸びなどの現象で電線性能を劣化させないためには、延線張力を低くし、電線径に適合した大きな金車径のものを使用し、且つ金車通過回数を少なくすること、更に金車抱き角を小さくする延線計画を立てることでそれらを抑制することができる。
しかし、山岳地で高低差のある地形の場所では、山頂の鉄塔などでは急峻な上昇角度で金車に電線が入り、かつ急峻な下降角度で電線が出ていくために、金車抱き角が大きくならざるを得ないので、高低差の多いルートでは一つの延線区間を短くしてそのような箇所を延線区間内で極力少なくすることが求められる。
電線の性能劣化の大きな原因となる「電線の笑い」を伴う電線の伸びは、主として電線が金車を通過するときに生ずる回転現象により発生する。
この電線の回転は、ルートの水平角度のない場所では軽微であるが、右図のように水平角度の大きな場所では大きくなる。
これは、電線が右図のホイール溝B点のほかに溝の縁A点およびC点にも接触するが、金車周速が異なるために強制的に回転させられるためである。
実際に角度箇所の通過実験をしたところ、金車10個通過時の電線伸びが0.25%に達した記録例もある。
プレハブ架線では、電線伸びのオーダーを0.1%前後に想定しているので、回転による影響が大きなことに注意しなければならない。
特に大容量送電線では太い電線を使用するが、その場合には金車も大きなものを使用するので、ルート水平角度の大きな箇所では延線張力が大きくても金車は傾斜せず自重でほぼ垂直になったままである。(右図の青色の状態)
この対策として、右図(黒色の金車)のように金車面を電線通過面と同じに傾けてやれば金車と電線の関係は水平角度のない箇所と同じとなり、電線の回転は抑制される。
この金車を傾ける装置の一例を示すが、この装置は重錘を金車片側にセットするもので「金車自重補正装置」と呼ばれ安価で作業性も良く、昭和50年代の初めから大容量・山岳地送電線建設現場で用いられてその成果を発揮している。
適用する金車径としては、概略電線外径の15~20倍が推奨されており、ACSR410m㎡(外径28.5mm)では450mm金車を、ACSR610m㎡(外径34.2mm)では600mmを、ACSR1160m㎡(外径46.2mm)では800mmを通常使用している。
アルミ層と鋼心の断面積の比率が大きいACSR810m㎡などの太い電線を山岳地で延線する場合は、延線によるアルミの永久伸びに伴う鋼心の分担張力の増加を抑制する延線計画を立案することが大事だが、延線張力を低くし電線に見合った大きな金車径のものを使用し、且つ金車通過回数を少なくすることである。
ルート状況にもよるが延線張力3.5tf以下であれば金車通過回数を15回以下とするのが妥当であろう。
クローラ金車
さて、電線の金車通過時のアルミ線永久伸びやニッキングなどは、電線の面圧に比例して大きくなるが、金車径の大きな金車では面圧を小さくできるので、前述のように金車抵抗は減少し電線性能に与える影響は少なくなり有利である。
しかし、金車径1m以上の大きな金車は現場で取り扱うのが困難である。
そこで、右写真のような半円形のクローラ金車が開発された。
この金車は、小さな形状でも電線が接触する部分の曲率半径を大きくできるので現場での取扱に大変便利である。
特に、ACSR1160m㎡以上の太い電線とか、プレハブ延線で圧縮引留クランプを延線する場合、あるいは大きな面圧を嫌うOPGWに適している。
この構造は、半円形に閉じたレールの上にローラー付きのコマを直列に数珠つなぎにエンドレスにセットして、レールの上をコマが移動できるようにしたものである。
右写真は、コマのクローズアップである。
写真では見えないが、各コマの四隅内側に合計4個のローラーがと取り付けられていて、レールの上を左右に移動できるようになっている。
電線は、濃い緑のウレタンゴムのコマに乗せる。
クローラ金車のうち、最も多用されている曲率半径が600mmで金車溝径1200mm相当のものの概要図を右に掲げる。
このクローラ金車で、コマを変更することによりACSR410~1160m㎡、OPGW290~500m㎡の電線に適用できる。
定格荷重は7tf、質量は115kgである。
また、ACSR1520m㎡用として曲率半径が1000mmで金車溝径2000mm相当の大型の製品も実用化されている。
右写真は、実際に延線作業でメッセンジャワイヤを通過させている状況を撮ったものである。
これは、ちょっと特殊な使用例だが、鉄塔の直下にドラム場があり、そこでプレハブ延線用圧縮クランプを電線に圧縮したものをアーム位置まで垂直に持ち上げクローラ金車を使用して画面の左方向にある次の鉄塔に延線する作業をしているところである。
まさに圧縮クランプが金車を通過しようとしているところである。
クランプ出口にセットしたプロテクタで電線を保護している様子がよく分かる。
3輪金車
超高圧複導体送電線では、同じ相の電線を2条同時に延線することが多いが、その場合には右写真の3輪金車を使用するケースが多い。
右写真は、3輪金車による1線2条引き延線(メッセンジャワイヤ1条で電線2条を延線)で、両端はウレタンゴム張りホイールとなっており電線を延線しているところである。
3輪金車でも複数のワイヤを同時に延線するときに使用するのが右写真の3輪鉄金車である。
この写真は、1線3条引きワイヤ延線に使用しているところを撮ったものである。
1線3条引きワイヤ延線の、牽引ワイヤ1条とそれに続く3条のワイヤ接続点に於ける使用工具例である。
まず、最右端のワイヤコネクタ(A)に牽引ワイヤ1条を接続する。
次にフレシキブルなチェーン状のロッド(B)に三日月型の傾斜補正・回復ロッド(C)をつなぎ、次に赤いヨーク(D)をつなぐ。
三日月型の傾斜補正・回復ロッド(C)は、これが金車を通過するときに、自動的に後続のヨークが水平になるように傾斜補正動作を行う機能を持つものである。
このヨークに金車通過型カウンタウエイト(E)をセットする。
また、このヨークの両端にチェーン(F)をつなぐ。
チェーンの左端に別のヨーク(G)をつなぐ。
このヨークの左に3条のワイヤを接続する3本のワイヤコネクタ(H)をつなぐ。
このコネクタにそれぞれワイヤを接続する。
工具の組合せは、以上である。
牽引(延線)方向は右方向である。
5輪金車
現在はあまり使用されていないが、1条のワイヤで4条のワイヤを延線する延線方式を採ることがある。
右写真は5輪鉄金車で、1線4条引きワイヤ延線に使用するものである。