充電している電線の周囲には電界が発生し、この電界の中に大地と絶縁された物体が入ると帯電して大地との間に電圧が生じる。
この現象を静電誘導と言い、充電電圧が高いほど、また、充電電線に近づくほど電界は強くなり、誘導電圧は高くなって超高圧送電線の停止回線では2万ボルトに達することもある。
静電誘導による人体の電流感知は、活線による感電とは異なり、人命に関わる傷害を及ぼすことはほとんど無いが、ショックによる墜落、転倒などの2次的な災害を起こす恐れがある。
片回線停電工事などでは放電後も静電誘導電流が流れ続けるため、感電事故に繋がる可能性もある。
したがって、架線作業等では、例えば上図のL3地点で作業する場合には、その地点で電線を接地させて作業場所での誘導電圧を除去する対策を行うことが必須である。
また、超高圧送電線では塔上作業者にも静電誘導電圧が生じ、その電圧は数千ボルトになることもある。
そこで超高圧送電線で充電部に接近する塔上作業などで人体に静電誘導電圧が生じる環境では、導電性作業服や靴を装備して常に人体をシールドして電荷を人体の皮膚を介さずに放電させることが必要である。
誘導対策 Preventive measures against disasters by induction phenomena
2回線送電線で片回線を停電して作業したり、作業する電線路が他の送電線と平行接近する場合など、いわゆる充電部接近作業では、作業する電線に充電回線から静電誘導と電磁誘導の2種類の誘導を受け、停電させているはずの電線に高電圧が発生したり、誘導電流が流れて感電の危険を生じることがある。
したがって、誘導現象が生じる可能性のある場所では、適切な誘導災害防止の安全対策、すなわち接地対策および誘導電流バイパス対策が必要になる。
CONTENTS
1.誘導現象の種類と誘導災害防止対策
(1)静電誘導
(2)電磁誘導
充電している送電線に電流が流れている場合には、充電回路が1次コイル、作業中の電線やワイヤが2次コイルとなって、変圧器と同じように1次コイルにより発生した磁界によって2次コイルが閉回路であればに電磁誘導作用で電流が発生する。
この現象を電磁誘導と言い、お互いの接近距離が近いほど、また、充電回路に流れる電流が大きいほど大きくなる。
この電磁誘導電流には、充電回路の常時電流によるものと地絡事故時の電流によるものの2種類がある。
前者の誘導電流は充電している送電線電流の1割を超える場合もあり、後者の誘導電流は充電送電線が154kV級以上では10ヘルツ以内に遮断されるものの数万アンペアになることもある。
作業場所の電線等は、作業を行う電線路の両端の変電所または作業箇所近傍に設置した作業区間接地など(延線作業のワイヤや電線では起終点のドラム場及びエンジン場等)で必ず接地を付けて大地を通じた閉回路を構成している。
このため電磁誘導電流は作業場所で上図のように接地を付けても付けなくても、接地の有無に拘わらず流れているものである。
もし、作業でジャンパ線を開くなどして回路を開くとその開いた両端に電磁誘導電圧が発生し感電する危険がある。(下記数式「E」の電圧)
したがって、電磁誘導対策は、必ず大地を通じた閉回路を維持させて電磁誘導電流を遮断させないことが必要である。
作業で電磁誘導が発生している回路を開くときには、予め電磁誘導電流の流れ道(接地を付けたバイパス装置)を確保しておくことが必要である。
また、その電磁誘導電流バイパス装置は誘導電流に見合った電流容量が大きい装置が必要である。
2回線送電線で1回線を停止して工事を行う場合、充電線路から誘導される常時電磁誘導電圧は、各相の電線配置、各相と誘導を受ける電線との距離、充電各相の電流値、および平行接近するこう長によって定まる。
詳細な計算は、充電回線各相と被誘導電線との相互インダクタンスを各相毎に求め、その際カーソンポラチェック式を用い、複素数の記号法を用いた行列式を解く必要があるが、ごく大雑把な概算値は下記の式で求められる。
E=k×I1×L [V]
I0=E/(Z×L+R1+R2) [A]
E:常時電磁誘導電圧 [V]
I0:作業区間接地などの接地線に流れる電流 [A]
I1:充電線路の相電流 [A]
L:誘導を受ける区間のこう長 [km]
Z:大地帰路抵抗 [Ω/km]
不明な場合は1Ω/kmと見れば安全側である
R1,R2:作業区間両端に付けた接地の接地抵抗(当該鉄塔の接地抵抗)[Ω]
k:係数
220kV以下・・0.02~0.03
275~500kV・・0.04~0.05
2.接地用具の種類と用途
静電誘導や電磁誘導の作用により、作業で取り扱う電線などに高電圧が発生する場合には、電線などを接地(アース)してその電圧を除去する必要があるが、その際使用するのが接地用具である。
作業現場に於ける接地用具の取付概要例は、右図の如くである。
右図には接地用具を全て網羅して示しているが、実際には「主接地用具」および「ジャンパ主接地用具」などは、各々の目的に応じて設置すればよいので、必ずしも全ての鉄塔に両方を重複して設置する必要はない。
(1)乙種(C)設置用具
主接地、補助接地の着脱作業の補助として被接地金具やジャンパ線に付け、静電誘導電圧の除去およびジャンパ線着脱時の電磁誘導電流をバイパスさせるために使用する。
接地棒(絶縁棒)は、右図例のように数段階の伸縮可能な構造で、先端に行くほど細くなって収納時には手元の太い部分に納まるようになっているものと、一方、手元から先端まで同じ太さの着脱可能な数本のパイプを接続するものの2種類がある。
接地棒の種類は、適用電圧別に10種類ほどあり、
最も大きいものは、
●適用電圧:500kV、電流規格値:150A、継本数:6本、作業時長さL(収納時長さL1):8700mm (1750mm)、質量:8.2kg
小さいものは、
●適用電圧:77kV、電流規格値:100A、継本数:2本、作業時長さL(収納時長さL1):1970mm (1300mm)、質量:2.54kg
などがある。
乙種(C)接地用具の写真を右に示す。
この写真は、接地棒の継本数が2本で、作業時には内側の棒を伸ばして2倍の長さになる。
(2)主接地用具
作業区間の両端、又は当該鉄塔に付けて電線と鉄塔間の電位差を無くし、外部からの異常電圧の進入を防止するためのものである。
この接地用具を作業区間の両端接地に用いる場合には、その区間に発生する電磁誘導電流が本装置を通じて流れることになる。
したがって電磁誘導電流に対して十分な電流容量を持つ必要があり、取付金具は接触面積が大きく、確実に電線を把持出来る構造となっている。
右図の装置は、常時電流容量は、360Aで、瞬時(1秒)電流容量は23.5kAであり、質量は30kgである。
主接地用具の写真を右に示す。
写真では、右端の「鉄塔取付金具」が外されている。
(3)ジャンパ主接地用具
ジャンパ線の両外側に取り付け、ジャンパ線着脱時のジャンパ線に流れる電磁誘導電流をバイパスさせるためのものである。
右図の装置は、常時電流容量は、360Aで、瞬時(1秒)電流容量は23.5kAであり、質量は41kgである。
(4)補助接地用具
アークホーン間に取り付け、主接地およびジャンパ主接地に流れる電磁誘導電流を分流させ、またがいし連上を移動する作業員に対して、静電誘導電圧から保護するためのものである。
右図の装置は、常時電流容量は、150Aで、質量は3.9kgである。
補助接地用具の写真を右に示す。
両端に取り付けるホーンクランプは、写真では外されている。
写真の接地線は裸線ではなく被覆されている。
(5)過渡電流用接地用具
電線切断や接続点の両側に事前に取り付け、電線の切断や接続時の電磁誘導電流をバイパスさせるものである。
具体的例としては、冒頭に掲げた「接地用具取付概要図」で示したように、圧縮引き留めクランプのジャンパソケットを取り外す作業では、事前に本接地用具を取り付けて作業することにより、電磁誘導電流をバイパスさせて、外した両端に電磁誘導電圧が発生することを防止できる。
市販されている用具では、適合する電線外径(Dc)がACSR160~1520m㎡までをカバーする3種類がある。
最も一般的なACSR410~810m㎡用では、接地線の許容電流は150A(銅撚り線22m㎡)、質量は4.5kgである。
過渡電流用接地用具の写真を右に示す。
(6)接地ローラ
延線中のワイヤロープや電線に取り付け、電線延線時の静電誘導電圧の除去および電磁誘導電流を分流させるものである。
バランスウエイトにより姿勢を制御できる。
地上でも塔上でも取付けが可能である。
右図の接地ローラは、適用電線ACSR810m㎡以下用で、最大通過物径は直径100mm以下であり、許容電流150A、質量は27kgである。
上図とは異なる規格製品であるが、接地ローラ写真を右に示す。
この写真の製品は、主に静電誘導電圧対策用として使用される。
(7)接地金車
上記「接地ローラ」同様、延線中のワイヤロープや電線に取り付け、電線延線時の静電誘導電圧の除去および電磁誘導電流を分流させるものである。
右図は直径600mmアルミ金車の例であるが、ウレタン張り金車も適用できる。
右図の接地金車は、適用電線ACSR810m㎡以下用で、許容電流150A、質量は27kg(金車本体を除く)である。
上図とは異なる規格製品であるが、接地金車の写真を右に示す。
この写真の製品は、主に静電誘導電圧対策用として使用される。
右写真は、クローラ金車に接地機能を組み込んだ仕様の接地金車である。
クローラ金車の場合は、金車溝に接する電線長さ(接触面積)が一般金車に比較して大きいので、接地ローラを新たに付加しなくても、電磁誘導電流に耐えらるため、取扱が簡単で便利である。
右写真は、金車溝のコマ機構をクローズアップした写真である。
各コマの両端の金属部分が電線と接触し十分な電磁誘導電流を流すことが出来る。