まず初めに、世界で最も有名な長径間・海峡横断送電線は、イタリアの本土とシチリア島を隔てるメッシーナ海峡を横断する長径間送電線で、それは1956年(昭和31年)に建設され運転開始されている。
各径間長は、シチリア島から本土側に向かって、[引留鉄塔]-752m-[横断懸垂鉄塔]-3,653m-[横断懸垂鉄塔]-646m-[引留鉄塔]となっており、海峡を挟んで2基の懸垂高鉄塔(高さ224m)により径間長3,653mで横断しており、当時世界で最長径間長の記録を樹立した。
電圧は220KV設計当面150KV運転、当面4相架線で1回線運用し、将来2相を増架して2回線送電線とする計画であった。
しかし、シチリア島の需要が増加したため、その設備では送電容量不足となり、海底ケーブルに連系の座を譲り現在では歴史上のモニュメントとして横断高鉄塔2基を残し他の設備はすべて撤去されている。
右写真は、建設直後の写真で本土側からシチリア島を望んだものである。
なお、現在の世界一長径間・海峡横断送電線は、グリーンランド、ヌーク(Nuuk)近傍のアメレリック(Ameralik)フィヨルドを横断する送電線で、電圧132KV、1993年(平成5年)に建設されたもので、径間長5,376mである。
(当サイトの「架空送電線の分類・規模」の(世界記録)の項にて詳細解説・掲載)
500kV海峡横断送電線
In this item, the commentary about 500kV power transmission lines crossing the straits in our country is carried.
超大型構造物である500kV送電線にとって大変厳しい気象環境である海峡を越えてそれが建設されるのは希であり数少ないが、我が国では関門連絡線、本四連系線および苓北火力線の3ルートが建設されており、以下にその概要を掲載する。
さて、我が国に於ける海峡横断送電線は、日本発送電株式会社が太平洋戦争末期に敵航空機の攻撃に曝されながら空襲時にも工事中断することなく工事施工し、終戦の年の1945年(昭和20年)12月に運開させた関門海峡横断の110kV関門幹線が最初である。
右写真は、110kV関門幹線が関門海峡を横断している箇所の完成直後の写真で、下関上空から九州・門司側の横断鉄塔を撮影したものである。
その後、110kV関門幹線は1959年(昭和34年)に九州電力により220kV設備(新関門幹線)に建て替えられた。
さらに最近の電力需要の増加に対応し、かつ九州・中国地域の強固な連系系統を構築するため、この設備を500kV化することとし、電源開発では220kV新関門幹線ルートを流用し1980年(昭和55年)に500kV関門連絡線として運開させた。
また、電源開発では本州と四国を連系する500kV本四連系線を1994年(平成6年)に建設した。
そのうち瀬戸内海横断区間は瀬戸大橋にケーブル添架したが、岡山水道横断箇所は架空線で海峡横断させており、その海峡横断部分は送電線全体の運開前年の1993年(平成5年)に工事完了させている。
さらに同時期の1995年(平成7年)に、九州天草の下島に建設された苓北火力の出力を九州基幹系統に連系させるため九州電力は500kV苓北火力線を建設している。同送電線は、天草諸島の下島を起点として上島~維和島~戸馳島~宇土半島を結ぶルートで島伝いに九州本土に至っているが、島から島へ渡る際に本渡ノ瀬戸、大戸ノ瀬戸、藏々ノ瀬戸、モタレノ瀬戸の4つの海峡横断をしている。
以上3ルートが我が国に於ける500kV海峡横断送電線である。
なお、500kV未満の超高圧送電線(170kV以上)の海峡横断送電線は、下記に挙げるように瀬戸内海および九州西部などの島々の多い地区で専ら建設されている。
- 1959年(昭和34年)上述の通り九州電力により関門海峡横断の220kV新関門幹線が建設されたが、500kV関門連絡線建設に伴い撤去された。
- 1961年(昭和36年)関西電力により四国から鳴門海峡を横断して淡路島に至る187kV鳴門淡路線が建設された。
- 1962年(昭和37年)電源開発により瀬戸内海を横断して本州の広島変電所と四国の伊予変電所間を結ぶこう長125Kmの220KV中四幹線が建設された。
- 1980年(昭和55年)九州電力により長崎県の松島火力の出力を西九州変電所に送電する220kV松島幹線が松島水道と針尾瀬戸を横断して建設された。
- 1998年(平成10年)中国電力により瀬戸内海の大崎町長島に建設された大崎火力の出力を本土に送電する220kV大崎火力線が臼島を経由して本土の間に2箇所で海峡を横断するルートで建設された。
(220KV中四幹線については、我が国で最長径間長を記録しており、「歴史に残る送電線」の別項にて詳細解説・掲載)
さらに187kV未満の電圧では、中国電力により
- 1948年(昭和23年)山口県大畠瀬戸を横断する22kV大島線が同社で初めて海峡横断送電線として建設され、
その後同社で建設された主な海峡横断送電線としては、
- 昭和40年に尾道水道横断の110kV因島線、
- 昭和46年に大島線を66kV化、
- 昭和56年に110kV南広島連絡線および66kV大柿線等が次々と建設されている。
一方、九州電力では、
- 昭和57年に伊万里湾を横断する66kV伊万里土谷線が建設され、
- 最近では平成3年に呼子水道横断の66kV面高崎戸線等々が建設されている。
このように110kV~66kVの海峡横断送電線が瀬戸内海および五島列島を含む九州西部などの島々の多い地区に於いて、主に島への電力供給線路として各所に建設されている。
本項では、我が国における最高運転電圧である500kV送電線の、世界的に見ても最大級の大型設備の海峡横断線路について、高度な設計・施工技術を開発・適用して建設した概要を掲載する。
海峡横断送電線としては、設計上では長径間となる海峡横断径間で電線弛度を如何にして少なくして両端鉄塔高さを低減させるか、電線張力設計と電線線種の選定が重要課題となる。また、工法上では、頻繁に海峡を往来する船舶に与える航行傷害を如何にして回避させるか、電線架線工法の選定が重要課題となる。
したがって、上記の2点すなわち「高鉄塔、特殊電線設計」および「電線架線工法」などに的を絞って解説する。
CONTENTS
- 500kV関門連絡線2011.09.10
- 500kV本四連系線2011.09.20
- 500kV苓北火力線2011.10.17
- 追加写真掲載2012.05.17
1.500kV関門連絡線
プロローグ
冒頭で述べたとおり、我が国に於ける海峡横断送電線は、日本発送電株式会社が太平洋戦争末期に敵航空機の攻撃に曝されながら空襲時にも工事中断することなく工事施工し、終戦の年の1945年(昭和20年)12月に運開させた関門海峡横断の110kV関門幹線が最初である。
その後、関門幹線は1959年(昭和34年)に九州電力により220kV設備(新関門幹線)に建て替えられた。
さらに最近の電力需要の増加に対応し、かつ九州・中国地域の強固な連系系統を構築するため、この設備を500kV化することとし、電源開発では220kV新関門幹線ルートを流用し1980年(昭和55年)に500kV関門連絡線として運開させた。
海峡横断ルートは右図の通りで、1973年 (昭和48年)に完成した関門大橋の北側に平行して建設されている。
500kV関門連絡線の説明に入る前に、前段となる110kV関門幹線および220kV新関門幹線について簡単に触れることとする。
右図に関門海峡横断部分のルート概要を示すが、
●緑色が当初の110kV関門幹線、
●青色が220kV新関門幹線、
●赤色が500kV関門連絡線ルートである。
110kV関門幹線について
まず、太平洋戦争の最中に建設開始した110kV関門幹線であるが、起点は下関市外の長門変電所、終点は小倉市外の西谷変電所で、こう長約30km、1回線である。
戦時中のため資材調達には難航を極め全て流用品で、横断鉄塔は名港富田線のうち木曽川横断並びに揖斐川横断の特殊鉄塔撤去品、海峡横断部の電線150m㎡亜鉛めっき鋼撚線は名港富田線撤去品、がいしは八東姫路線等の撤去品で海峡横断箇所の一連個数は12個(2連耐張、2連懸垂)、架空地線は設置しなかった。
なお、一般箇所の電線はHDCC100m㎡であった。
海峡横断部の径間概要は、[門司側引留鉄塔]-289m-[横断懸垂鉄塔]-890m-[横断懸垂鉄塔]-280m-[下関側引留鉄塔]である。
また、海峡横断部の高さ関係は基準海水面上の高さで示すと、
- 門司側横断懸垂鉄塔の敷地高さ38m及び下相電線支持点高さ93.8m
- 下関側横断懸垂鉄塔の敷地高さ78.7m及び下相電線支持点高さ134.5m
- 海峡横断部の下相最低海水面高56m
である。
海峡横断鉄塔高は両鉄塔とも全長72m、海峡横断設計最大弛度は約59mである。
鉄塔は、2回線標準型を使用したが、2条宛併列とし、3相1回線として運用した。
さて、架線工事であるが関門海峡は有名な潮流の速い所で、その最大時速は7.5マイル(12km)に達し、海底には岩礁が多く電線を海中に入れて延線することはできず、潮流が急なため船艇の利用も難しく、加えて船舶の航行が頻繁なため長時間の航行禁止も許されない。これらの事情から電線を海面上常に一定の高さ以上に保って架線する工法を採らざるを得なかった。
そこで、毎日2回の潮流方向の逆転時刻の前後1時間に流速が毎時1.5マイル(2.4km)程度に減少するのを利用して、張力を加えたワイヤロープを1条延線することにした。
約100馬力の汽船を2隻両岸に用意し、また、両岸に据え付けた巻き取り機により約900kgfの張力を加えたワイヤロープの一端を汽船に固定し、同時に両岸の船を中央に向かって航行させ、船の進行に合わせて張力を保持しながらロープを海面に接触させることなく繰り出して、中央でロープを接続し海面上所定の高さ(約10m以上)に弛度を定めた。
次に電線を延線するには、既に架線したロープの一端に電線1条とロープ1条を取り付け、対岸で巻き取り延線した。
その次の電線延線は、前の巻き取った端末に電線とロープを取り付け前回と反対側のエンジンで巻き取り延線し、この作業を順次繰り返して6条の電線を延線した。
本送電線は、昭和20年12月1日送電を開始し、当初目的の電力融通の機能を遺憾なく発揮し、翌年6月商工大臣から表彰された。
ところが昭和22年5月、飛行機事故により電線6条中2条が断線する大被害を受けた。
この対策として将来の増強を考慮し、150m㎡亜鉛めっき鋼撚線を250m㎡硅銅線(2.9mm37本撚、20.3mm径、2,210kg/m、最大使用張力5,500kgf)に張り替えることとし昭和23年4月3日から同月14日にわたって施工した。
220kV新関門幹線について
我が国の高度経済成長により電力需要が飛躍的に増加したため、西地域電力広域運営を強化する必要が生じ、本州と九州を結ぶ220kV超高圧連系送電線を建設する計画が立案・具体化され、その一環として220kV新関門幹線(西谷変電所~山口変電所)が昭和35年7月完成予定で建設されることとなった。
その一部を占める関門海峡部分については、先行実施することとなり、昭和33年から翌年の34年にかけて九州電力により建設された。
そのルートは上に掲げた「関門海峡横断概要図」の青色が220kV新関門幹線であり、本送電線の完成に伴い既設110kV関門幹線を撤去するが、延線工事には既設線の電線撤去時に使用したワイヤを移線して利用するため工事中の既設線停止を極力避け得るよう配慮しつつ出来るだけ接近して建設したようだ。
本海峡横断部は長径間で、且つ大型船舶の航行上電線を海面上70mに保持せねばならないため高鉄塔となり、高張力電線を使用するため鉄塔強度を増加させる必要があり、鉄塔構造は特殊なものとなった。
設計の基本となる電圧については220kV運転であるが、275kV設計とした。
海峡横断懸垂鉄塔は、2回線垂直配列型、両岸の鉄塔とも同じ設計で塔高93.2m、質量140t、使用鋼材は溶接組立結構WEL-TEN50とし塔体は45度回転とした。
この鉄塔は、右写真の通り、塔体が45度回転した構造で、且つ部材は四角断面の溶接構造材という特殊構造であったため、作業員は過去に経験したことが無く、組立作業には大分苦労したようだ。
電線は、IACSR480m㎡(高張力48,400kgf)、単導体とした。
がいしは、280mm懸垂がいし、連結個数一連19個とした。
海峡横断部の径間概要は、[門司側引留鉄塔]-465m-[横断懸垂鉄塔]-888m-[横断懸垂鉄塔]-297m-[下関側引留鉄塔]である。
電線弛度張力設計は、電線最大使用張力12,000kgf、延線張力(最大)6,000kgf、緊線張力8,300kgf、下相電線の海面高は71.6mを確保し、海峡横断径間の設計最大弛度は約41mとした。
延線の最初となる海峡ワイヤ横断は、既設電線撤去で使用した18mmワイヤを移線して使用した。
電線延線工法は、ループ方式と一般的な1本引方式があるが、単導体6条の延線規模ではループ方式は設備費が高く、設備の流用性に難があるので後者の1本引方式を採用したとのことである。
この延線では、最大使用荷重6,000kgfの1.5m径の直列2輪延線車を用い、延線時ワイヤの張力を出来るだけ低く、しかし海面高は最低30m以上を保持し、航行船舶のマスト高さを監視するシステムを構築して、高いマストの船舶が接近した場合には5分以内に既設電線の海面高57m以上に上昇させ得るようにして工事を進め、予定通り昭和34年6月に工事を完了させた。
500kV関門連絡線
昭和50年代に入り旺盛な電力需要の増加に対応し、かつ九州・中国地域の強固な連系系統を構築するため、220kV連系系統設備を500kV化することが決定され、電源開発では北九州変電所~新山口幹線No180鉄塔間(64km)に1980年(昭和55年)に500kV関門連絡線を建設した。関門海峡横断部分については220kV新関門幹線ルートを流用し建設した。
本工事は、500kV4導体送電線であり規模が大きいことと、海峡周辺が九州側の「めかり公園」および本州側の「火の山公園」さらに送電線と平行して昭和48年に関門大橋が架けられており、景観に恵まれた場所であるため既設220kV新関門幹線ルートを流用し同線路を撤去して工事を行うことが条件となり、且つ環境に与える影響が少なくなるように設計、施工及び環境対策について検討を行った。
関門海峡を横断するこう長1,872mの区間は、前出の「関門海峡横断概要図」の赤色が500kV関門連絡線ルートである。
すなわち、[門司側引留鉄塔(海-1)]-578m-[横断懸垂鉄塔(海-2)]-998m-[横断懸垂鉄塔(海-3)]-296m-[下関側引留鉄塔(海-4)]である。
下関側の「火の山公園」山頂ロープウエー駅舎から俯瞰したルート写真である。
逆光のため送電線がやや見にくい。
「海-1」が建っている山が九州側「めかり公園」である。
海峡南西(唐戸~門司港間の関門連絡船)から撮った写真である。
送電線は関門大橋の奥側にあるので視認しにくい。
海峡の左側の高い山が下関側「火の山公園」である。
高さ関係は基準水面上の値で、
- 門司側懸垂鉄塔(海-2)は、敷地EL16.3m、下線電線位置EL127.3m、GW位置EL176.3m
- 下関側懸垂鉄塔(海-3)は、敷地EL55.5m、下線電線位置EL127.5m、GW位置EL176.5m
- 最下電線海水面高EL71.83m
である。
なお、最高高潮面と基準海水面(EL)の関係は、前者がEL1.55mである。
この最下電線海水面高は、関門大橋の高さ63mに500kV保安離隔距離7.28mを加え更に最高高潮面EL1.55を加えたものであり、連続許容電流時(摂氏90度)に保持されるように設定した。
鉄塔は中空鋼管鉄塔を使用し、最も塔高が高いのは敷地が最も低い門司側懸垂鉄塔(海-2)で、塔高160m、質量435tである。
電線は、一般箇所ではACSR410m㎡4導体を使用しているので、これと同等以上の電流容量を確保でき高張力に耐えうる電線を30種以上比較検討し、SI-33 ACSR/EST 450m㎡(最小引張荷重46,590kgf)4導体とした。
がいし装置は、懸垂装置は400mm耐霧がいし(一連34個)2連(66tf)、耐張装置は420mm懸垂がいし(一連34個)4連(216tf)、を採用した。
右写真は、下関側から門司側に建設された横断鉄塔(海-2)を撮ったもので、右端に関門大橋が写っている。
左側で最も奥に写っている鉄塔は門司側引留鉄塔(海-1)である。
写真に見える山全体が和布刈(めかり)公園である。
右写真は九州・門司側の海峡横断鉄塔を組立工事中に撮影したもので、遠景は本州・下関市側が写っている。
左端鉄塔は今回撤去の220kV新関門幹線の海峡横断懸垂鉄塔で、 鉄塔構造が45度撚回しているめずらしい結構の鉄塔である。
この鉄塔の左側径間が海峡横断径間である。
中央の鉄塔は、上記の鉄塔に隣接した敷地に於いて組立中の500kV関門連絡線鉄塔で海峡横断懸垂鉄塔(海-2)である。
鉄塔組立は、鉄塔建設用地がめかり公園・風致地区内あるいは関門大橋に隣接した場所で、高鉄塔組立を行う工事用地としては狭い面積しか確保できず大変苦労したそうである。
当時、主として使用されていた組立用の地上せり上げデリック「YSタワー」は、そのブームの旋回を行うのに先端に取り付けたトラ綱を地上で作業員が引っ張るやり方であった。しかし、狭隘な工事用地では作業面・安全面で問題があった。
そこで、自動旋回型のクレーンが必要となり、電動式で片側190度、両側380度旋回可能な、バックテンション無し構造のクレーン(YSK型)を開発し、効率よく施工することが出来た。(右写真)
以後このクレーン型式に種々の改良が施され大型鉄塔組立機械の主流になった。
架線工事は、関門海峡が1日に千隻もの船舶が行き交う重要航路であり、航行の停止が困難なため、最も問題となるメッセンジャワイヤの架線については、航行を一切停止せずに既設線の撤去に使用したワイヤを張力を保持したまま新設鉄塔に移線することで問題を解決した。
また、既設線の撤去と新設電線の架線は、延線中に電線、ワイヤがずり込む心配が無く安定した延線が行えるループ延線工法を採用した。
このループ延線では、最大使用張力8tfで、ワイヤの2条繰り出しおよび片巻の行える構造のループ延線車を開発・適用し、他にも高張力に耐える多くの機械・工具開発を行った。
電線延線は、上図「電線延線工法」の通り九州・門司側の引留鉄塔(海-1)の塔上に直径1mの戻り金車を配置して、直径2mのループ延線車で電線繰り出しとワイヤ巻き取り速度を同期させて、両回線同時にループ延線させた。
ただ戻り金車に電線を通過させると電線に損傷を与える可能性があるので、戻り金車には電線を通過させない「つるべ式」を採った。
すなわち、予め各アーム毎に4導体電線延線用メッセンジャワイヤとして4本のワイヤを、1線2条引きで延線・増架しておき、そのワイヤを用いて4導体用の4本の電線を1本引きで上図のように下関側から門司側に延線した。
延線時の最低海面高は、40m以上、夜間停止時及び緊急時は10分以内に63m以上とすることで関係行政等と協議し、そのために電線の最大延線張力は8,000kgfとなった。
延線工事は昭和54年11月から昭和55年3月にかけて順調に施工され予定通り竣工した。
なお、4基全ての鉄塔が60mを越える高鉄塔であるため昼間航空障害標識(赤白塗色)を施すべきだが、瀬戸内海国立公園内で風致景観保護などの理由で了解が得られなかったので、それに代わる高光度航空障害灯を我が国で始めて設置適用した。
追加写真(2012.05.17)および(2013.02.24)掲載
本項(関門海峡横断の項)、冒頭にもパノラマ写真追加掲載(2013.02.24)
門司側のめかり公園から見た関門海峡横断の写真である。
手前が海峡横断懸垂鉄塔(海-2)であり、対岸に海峡横断懸垂鉄塔(海-3)および引留鉄塔(海-4)が見える。
左の橋は高速道路の関門大橋である。
門司側の引留鉄塔(海-1)で、中空鋼管鉄塔材を使用している。
左径間が海峡横断径間で、右側径間は一般径間である。
よく見ると塔頂に避雷針が2本立っている。
ベンド下の構造が樹木に隠れて見えないが、線路方向の大きな荷重に対処するため、線路方向に幅の広い矩形鉄塔になっている。
地際の寸法は、線路と直角方向は14m、線路方向は19mとなっている。
微風振動対策としては、単導体の架空地線が問題となるが、ベートダンパを試作して実証試験を行い、全長14.8m、3/70m㎡AS線2条の構造で、ストックブリッジダンパと組み合わせたものを開発した。
海峡横断懸垂鉄塔にも同様な装置を設置している。
海峡横断引留耐張装置は420mm懸垂がいし(一連34個)4連(216tf)、を採用した。
一般径間側は、2連耐張装置を使用している。
写真は、門司側の海峡横断懸垂鉄塔(海-2)である。
鉄塔は中空鋼管鉄塔を使用し、最も塔高が高いのは敷地が最も低い門司側懸垂鉄塔(海-2)で、塔高160m、質量435tである。
懸垂がいし装置は、400mm耐霧がいし(一連34個)2連(66tf)である。
写真では見え難いが架空地線に微風振動対策として引留耐張鉄塔箇所と同様なベートダンパが設置されており、4導体電力線にもベートダンパを設置している。
また、頂部には避雷針が2本立っている。
門司側懸垂鉄塔(海-2)を見上げたものだが、ベンド点から下の主柱材の継手にウイング継手を使用しているため、ゴツゴツした感じが少ない滑らかな構造である。
公園内に建設する鉄塔では美観上、フランジ継手に比べ好ましいと思われる。
ウイング継手の概要は、右図の通りで主柱材鋼管の端部に管軸方向に6個の溝を設け、この溝にウイングプレートを差込み溶接するものである。
接続に当たっては、上部材と下部材の各ウイングプレートをスプライスプレートで挟み込みボルト締めする接続方式である。
この継手は、1978年に九州電力が220kV西九州武雄線用に初めて開発したものである。
門司側引留鉄塔(海-1)および海峡横断懸垂鉄塔(海-2)を下関側から見た写真である。
次に、門司側から見た下関側の海峡横断懸垂鉄塔(海-3)および引留鉄塔(海-4)である。
懸垂鉄塔(海-3)の建設地点は地盤が軟弱で地滑りの可能性も指摘されたため、右写真のように東側斜面に対してはPC鋼棒による深礎滑り対策、格子桁による表層滑り対策および地下水位低下を目的とする集水井設置などを広範囲に行っている。
鉄塔敷地東斜面の地滑り対策工事は、樹木植生などにより周囲環境に大変良くマッチさせている。
引留鉄塔(海-4)は、ルートが右方向に約50度もの急カーブで曲がっているため、手前回線のジャンパ線は錘付きV吊り装置(標準がいし一連42個連結)を各相とも3箇所用いてクリアランスを確保している。
門司側の引留鉄塔(海-1)と同様に海峡横断引留耐張装置は420mm懸垂がいし(一連34個)4連(216tf)、を採用しており、一般径間側は、2連耐張装置を使用している。
海峡横断部分の電線張替工事
電気新聞、2014年11月19日の第1面に掲載された記事によると、500kV関門連絡線・海峡横断部の電線等が一部経年劣化の兆候があることから、この度電線張替工事を施工することとし、先般10月から工事が開始されたとのことである。
本送電線は、1980年(昭和55年)5月に建設・運用開始され、Jパワー(電源開発株式会社)が管理・保守運用しているもので、運転期間は34年になる。
海峡横断箇所のような塩害汚損が厳しいところでは、外観点検以外に非破壊検査の一種の過流探傷等を用いて電線の残存断面積の調査をしているが、架空地線、電線、架線金具に腐食のデータが見られたので全面的に張替工事を計画したものである。
工事は秋期及び春期の負荷が軽く連系潮流が少ない時期に行うこととし、片回線停止で1号線は2014年10~11月および2015年5月に2回に分けて実施し、2号線は2015年度末~2016年度上期中に実施する予定のようである。
海峡部の関門海峡は、一日当たり約千隻もの船舶が行き交う超過密な国際航路で、一瞬たりとも船舶の航行を止めることはできないので工事工法の選定には大変な苦労があったことと思われる。
工事工法は具体的には、約10年前に220kV中四幹線の海峡横断部分の撤去工事に使用した日本最大級の直径2.5mのタンデム型ループ延線車を「海-4鉄塔(下関側)」直下に配置し、一方「海-1鉄塔(門司側)」に戻り金車(搭上用1m直径リターン金車)を配置して、本送電線の新設延線時と同様にループ延線工法を採用している。
右写真は、現地に据え付けた「R652D型・2.5Mシューチェン式タンデム型ループ延線車」の写真である。
延線工事は、まず架空地線と上相電線4導体のうちの電線1条をループ状に接続して撤去工事に入る。
本送電線の新設の時には延線時の最低海面高は40m以上であったが今回は海峡水面上の電線高さは63m以上確保するよう行っている。
延線時の海峡水面上の高さを63m以上確保するために電線の最大延線張力は8,000kgfとなる。このため今回は延線車の許容張力が巻き取り側25,000kgf、送り出し側22,000kgfの日本最大級の直径2.5mのタンデム型ループ延線車を適用したものと思われる。
右写真は、工場にて同上延線車のメッセンジャワイヤ1線2条引き試験運転を行っているところである。
延線車の大きさ等は、全長:11m、全幅:3.02m、全高:3.965m、質量:67tonである。
上記の通り、架空地線と接続した電線1条の端末にメッセンジャワイヤを接続して架空地線と電線1条を撤去し、一旦全てワイヤに張り替えし、その後は行程毎にメッセンジャワイヤを1線2条引きし、既設電線の撤去、新規架空地線の延線、新設電線の延線は全て1線1条引きで行うことを繰り返し、リターン金車には電線を通過させないよう、つるべ方式で電線撤去・新設を行う。
すなわち、ループ延線を1線1条引きで行うときは、片方のドラムを繰出し(延線)、片方のドラムは巻取(ウインチ)で使用し、ワイヤ延線時の1線2条引きでは、片方のドラムにワイヤを2条、もう片方に延線ワイヤを入れて行っている。
なお、延線工事の最後に残ったメッセンジャワイヤは、細径化し、耐熱性、引っ張り強度および弾力性に優れたアラミドロープに引き替えた上で、径間ごとに電力線に宙乗りして回収する工法を採用するとのことである。
今回の工事で最大の特徴は、片回線停止の長径間工事で、片側の回線は充電されているため、静電および電磁誘導対策を行うために、周到な準備と延線工事には時間をかけて行うので、片回線の工事工期が秋期と春期にまたがったものと思われる。
当初の電線は、重防食のSI-33 ACSR/EST 450m㎡(最小引張荷重46,590kgf)4導体を採用したが、今回は鋼芯にアルミ覆鋼芯を使用しており、架空地線も同様である。
また、光ファイバーは当初巻き付け型になっていたが、内蔵型のOPGWを使用している。
2.500kV本四連系線
電源開発では本州と四国を連系する500kV本四連系線を1994年(平成6年)に建設した。
この送電線は、四国電力讃岐変電所を起点として、中国電力東岡山変電所を終点とするこう長約127km、送電容量120万kW(1回線当たり)の大容量送電線である。
ルートは、起点の四国電力讃岐変電所から北上して瀬戸内海を横断し本州に渡るのだが、瀬戸内海を横断する区間は架空設備ではなく瀬戸大橋にケーブルを敷設し添架させた。
本州に渡った児島地点から北北東に直線ルートを採れば終点の岡山県吉井町の中国電力東岡山変電所に最短距離で至るが、岡山市街地がありルート取得は不可能であるため、瀬戸内海海岸沿いに東に転進し児島半島を縦断して岡山市街地を大きく東に迂回し、反時計回りに東岡山変電所に至った。
このルートを採ると児島半島先端で岡山水道を横断せねばならず、そこを架空線で海峡横断させた。
この海峡横断箇所のルート概要は右上図の通りで、起点側(西側)の児島半島・岡山市小串宝録山から終点側(東側)の岡山市正儀平岩山間で海峡横断している。
その海峡横断部分については送電線全体の運開年月平成6年10月に対して、1年以上前の平成5年6月に先行して工事を完了させた。
本項では、この岡山水道横断箇所について解説する。
架空線部分の鉄塔は標準的2回線垂直配列で中空鋼管鉄塔を使用している。
また、一般区間の電線はACSR410m㎡4導体で、架空地線はAC150m㎡2条、であるが海峡横断箇所では長径間・高張力架線となるため、電線はACSR410m㎡と同等の電流容量を有し引張荷重が強いI-33 ACSR/EST 450m㎡(中防食・最小引張荷重46,590kgf)4導体とし、架空地線はEAC360m㎡2条(中防食)を採用した。
がいしは、一般区間では280mmおよび320mmを使用したが、海峡横断箇所では340mmおよび380mmを適用し、汚損設計を等価塩分付着密度0.5mg/c㎡としてそれぞれの一連個数を43個および38個としている。
写真は海峡横断箇所を南側から撮ったものである。海峡の奥には岡山市街地が写っている。
海峡横断は、写真の左端に見える鉄塔が西側の引留鉄塔(海-1)で、最も塔高が高いのが横断懸垂鉄塔(海-2)、横断箇所右側の鉄塔が引留鉄塔(海-3)である。
なお、右端に見える鉄塔は横断鉄塔(海-3)に隣接する一般鉄塔である
海峡横断箇所は、一般的には2基の懸垂鉄塔で横断し、その背後に引留鉄塔が両端に配置されるが、この送電線ではルート選定条件から、片側は懸垂鉄塔ではなく、いきなり引留鉄塔が配置されている。
海峡横断部の径間概要は、[西側引留鉄塔(海-1)]-434m-[横断懸垂鉄塔(海-2)]-1,575m-[東側引留鉄塔(海-3)]である。
右写真は、海峡横断の西側引留鉄塔(海-1)と海峡横断懸垂鉄塔(海-2)を撮ったものである。
引留鉄塔は可能な限り塔高を低く取り、経済建設を考えた設計としている。
この撮影が12月初旬であったため、ちょうど山々が紅葉していた。
西側(起点側)引留鉄塔(海-1)のクローズアップ写真である。
右側径間が高張力設計の海峡横断で、電線はI-33 ACSR/EST 450m㎡(中防食・最小引張荷重46,590kgf)4導体である。
架線設計では、鉄塔高を極力低くするため高張力で電線を張ることとし、最大使用張力は1条当たり14,500kgfとしている。
これを引き留めるがいし装置は、写真では見にくいが、380mm懸垂がいし一連38個連結、4連耐張装置で水平配列の装置となっている。
横断径間の水平電線間隔は下相が最も広く35mとして長径間での風による電線横振れ対策をしている。
500kV送電線の一般的な水平電線間隔は20m程度であるのに対して1.75倍の広い間隔を採用している。
一般径間である左側の径間では、下相水平電線間隔は18.6mとして一般的な値を採っている。
懸垂鉄塔(海-2)のクローズアップ写真である。
長径間箇所では、高張力架線が経済的に有利であるため、高張力に耐える電線を選ぶことになるが、建設施工費低減のために既存の架線機械・工具が使用可能な電線であることが重要な線種決定要因である。
そこで本送電線では関門連絡線で使用実績のあるI33 ACSR/EST 450m㎡(中防食)を選定した。
次に電線最大使用張力の値を適切に決めることが経済性を左右する重要事項である。
その決定に当たっては、各張力別に鉄塔および基礎の試設計を行うと共に工事に使用する延線車等の適用条件も加味し経済比較を行った結果14,500kgfが最も適しているとの結論を得た。
この張力値は、電線の許容疲労限応力面からEDS=18%程度であること、および電線の安全率は最悪時で3.0以上確保できることが確認されている。
一方、電線の海面高は、船舶マスト高さ42.0m、保安距離7.28m、および東京湾中等潮位TP(=EL)と現地最高高潮面の差1.42mを加えて50.7m(EL)を確保することとした。
懸垂鉄塔の高さは、径間中央で電線海面高50.7m(EL)と電線最大弛度約135mを勘案して、下相電線支持点高さが212m(EL)以上必要なことから、鉄塔敷地面レベル87m(EL)に加えて敷地面から下相電線支持点のまでの鉄塔高さを125m以上必要とすることになり、全長185mとした。
懸垂鉄塔の各電線支持点に作用する荷重は、長径間のため極めて大きくなり約50tfとなる。我が国ではこの値に対応する既存のがいし装置がないため、新たに開発をした。
右の写真の通り、340mm懸垂がいし一連43個の装置を4連正方形配列とし、鉄塔から1点支持方式で吊り下げた。
懸垂クランプは電線振動に対して素線が疲労破断しないよう、曲率半径を大きく1,690mmとすると共に最大弛度時のカテナリー角に対応するよう先端下向き角度を片側26度とした。
このためクランプの線路方向の長さは約1.6mにもなった。また、防振対策として6.5m長さの分布型のベートダンパを取り付けた。
なお、海峡横断区間の中で最も規模が大きい懸垂鉄塔は、その質量が850tonにもなった。
海峡横断東側の引留鉄塔(海-3)である。
長径間海峡横断の鉄塔としてはめずらしく30度のルート水平角度を持った耐張引留鉄塔である。
海峡横断・高張力架線径間側は380mm懸垂がいし一連38個の4連がいし装置を適用している。
後方の一般径間は、320mm懸垂がいし2連がいし装置を適用している。
本鉄塔は、高張力架線の引留鉄塔でありながら、海峡横断鉄塔であり鉄塔高は117mの高い鉄塔であるため、鉄塔質量は約800ton、基礎荷重は引揚力1,300tf、圧縮力1,700tfとなり極めて大きく、コンクリート打設量は2,000立方メートルにも達したとのことである。
なお、基礎型は深楚基礎に各脚間に不同変位抑制の地中梁を設けた門型ラーメン構造とした。
海峡横断送電線の工事で最も重要な作業は、電線架線工事の最初の作業であるメッセンジャワイヤを如何にして張り渡すかである。
従来から、ワイヤを気球またはヘリコプターで空中に浮かせる、またはワイヤに浮子を取り付けて水面に浮かせるなどの各種の工法が実施されているが海峡を航行する船の数、或いは潮の流れ具合などの諸条件等で各海峡毎に適した工法が採用されている。
当海峡については、各種の優劣比較を行なった結果、クレーン船を用いてワイヤ高さを所定の海面高を確保し、延線中も船舶の航行を許容する船舶の航行制限の少ない方式を採用した。
まず、クレーン船を海峡西側岸壁に係留し、引留鉄塔(海-1)後方にセットした延線車から17.5mmハイテンモノロープを左右回線1条宛、2条繰り出し引留鉄塔(海-1)および懸垂鉄塔(海-2)に架け、ワイヤ先端をクレーン船のアーム頂部(海面高60m)に固定する。
このクレーン船を6隻のタグボートで、毎分30m(1ノット)の速度で、ワイヤ海面高を30m以上確保して海峡を約20分で横断させた。
延線車とクレーン船団との同期は引留鉄塔(海-1)に設置したカウンタウエイトを用いた定張力装置により安定した延線を行った。
写真に見えるように、小型船舶はワイヤ延線中に自由に航行できた。
ただ、海峡東側の約250mは水深が浅くクレーン船の進入が出来ないため浮子方式でワイヤをクレーン船まで渡した。
電線延線は、前項に掲載した500kV関門連絡線の延線工法と略同じで、東側引留鉄塔(海-3)の塔上に戻り金車(リターン金車)を設置し、ループ延線車を西側引留鉄塔(海-1)の西側に配置して、ループ延線工法を適用した。
すなわち、この工法は上図の通り引留鉄塔(海-3)の塔上に直径1mの戻り金車を配置して、直径2mのループ延線車で電線繰り出しとワイヤ巻き取り速度を同期させて、両回線同時にループ延線させた。
ただ戻り金車(リターン金車)に電線を通過させると電線に損傷を与える可能性があるので、関門連絡線と同様に戻り金車には電線を通過させない「つるべ式」を採った。
すなわち、予め各アーム毎に引きワイヤ1条、4導体電線延線用メッセンジャワイヤとして4本のワイヤ、および次回ループ用ワイヤ1条の合計6条のワイヤを、1線2条引きで延線・増架しておき、そのワイヤを用いて4導体用の4本の電線を1本引きで延線した。
延線作業中は、30m以上の海面高を確保するようにし、緊急時および夜間の作業休止時には海面高を42m以上確保した。
船舶の通行する上空作業であることから船舶の監視を的確に行う必要から、2マイル遠方の船舶を捉え、マスト高、通過時刻の予測などの情報をドラム場の延線車操作所にミリ波で伝送する「船舶監視システム」を開発し、円滑に工事を推進することができた。
工事は予定通り順調に進捗し平成5年6月、無事海峡横断工事を完了させた。
3.500kV苓北火力線
500kV苓北火力線は、1995年(平成7年)2月に九州電力が天草の下島に建設した苓北火力の出力を九州基幹系統に連系させるため建設し運転開始した送電線である。
本送電線は、天草諸島の下島を起点として上島~維和島~戸馳島~宇土半島を結ぶルートで島伝いに九州本土に至っているが、島から島へ渡る際に本渡ノ瀬戸、大戸ノ瀬戸、藏々ノ瀬戸、モタレノ瀬戸の4つの海峡横断をしている。
本送電線は、苓北火力を起点として熊本市南部の南熊本変電所の間を結ぶ、こう長89kmの500kV設計送電線であり、当面220kV運転を行っている。
本項では、上記4海峡横断の内最も長径間かつ大規模設備となった、右図に示す大戸ノ瀬戸横断箇所について解説する。
写真は大戸ノ瀬戸横断箇所を八代港側(東側)から撮ったもので、写真の左が南、右が北方向である。
左の陸地が天草諸島の上島、右が維和島で、2基の懸垂鉄塔で海峡を横断している。
海峡横断部の径間概要は、[南側(起点側)引留鉄塔(海-1)]-554m-[横断懸垂鉄塔(海-2)]-1,463m-[横断懸垂鉄塔(海-3)]-361m-[北側(終点側)引留鉄塔(海-4)]である。
右写真は大戸ノ瀬戸横断箇所を南側上空から撮ったもので大戸ノ瀬戸の様子がよく分かる素晴らしい写真である。
最も手前の鉄塔は海峡横断設計区間に隣接する一般鉄塔である。
次の鉄塔から海峡横断設計区間で、「南側引留鉄塔(海-1)」、「横断懸垂鉄塔(海-2)」、海峡を横断して「横断懸垂鉄塔(海-3)」と続いている。
鉄塔は、海峡横断部に限らず中空鋼管鉄塔を採用した。
海峡横断高鉄塔の根開きが大きな鉄塔基礎は、従来の海峡横断送電線では平脚の深礎ラーメン基礎が採用されているが大戸ノ瀬戸は雲仙天草国立公園内のため環境への影響を低減させるためと施工性向上を考慮し、独立の深礎基礎を採用した。
横断懸垂鉄塔(海-3)は敷地の傾斜角度が30度近い急傾斜地であり、根開きが32mと広く片継脚長が20mにもなるため、長大な片継脚構造に対して新しい設計手法の導入と縮小モデルによる強度確認試験と破壊試験を行い、更に工法についても水平支持梁工法を開発して対処したそうである。
電線は、本送電線の一般区間ではACSR 410m㎡4導体方式を採用しているが、大戸ノ瀬戸海峡横断箇所では径間長が1,463mにもなるため必然的に高張力架線となるので、施工性および経済性について検討した結果、KTACSR/Est 450m㎡(中防蝕)4導体方式を採用した。
その電線水平間隔は、最も幅の広い下相について一般区間が23.6mのところ、長径間であることから34mと約44%幅の広い設計とした。
また、大戸ノ瀬戸横断箇所の架空地線は高張力電線に対応しOPGW 490m㎡(中防蝕)2条とした。
大戸ノ瀬戸横断箇所のがいしは、汚損設計等価塩分付着密度1.0mg/c㎡として、懸垂装置は39tf/相に耐えうる400mmスモッグ一連39個連結の4連装置(四角配列)、耐張装置は58tf/相に耐え得る380mm懸垂がいし一連42個4連装置(水平配列)としている。
海峡横断部で最も問題となる架線工事工法であるが、大戸ノ瀬戸横断箇所では最初に張り渡すロープ延線は、海峡を定期船、小型漁船などが頻繁に航行しており海上封鎖が困難なことから、ヘリコプターを使用した。
この場合、軽くて強いロープが必要になるが、1,463mの径間を弛度約160m以内、海面高60m以上を確保し、ヘリが牽引可能な張力約150kgf以下とする条件にマッチするロープとしてテトロンロープ10mm(質量0.077kg/m、引っ張り強さ2.23tf)を採用した。
ヘリの機種は、アエロスパシアルSA315Bを使用し計画通り順調に延線することができた。
電線延線工法は、延線時の張力変動が少なく安定した延線が可能なループ延線工法で、前出の本四連系線で採用したと同じ延線方式を採用した。
すなわち、延線場を「海-1」鉄塔近くに設置し、「海-4」鉄塔に戻り金車を設置して、延線張力8tfの延線車を使用し、つるべ方式のループ延線工法を採用した。
延線時の電線海面高は20m以上とし、休止時には40m以上を確保した。
海峡横断部の高さ関係は基準海水面上の高さ(EL)で示すと、
- 南側横断懸垂鉄塔(海-2)の敷地高さEL32.2m、下相電線支持点高さEL165.1m、塔頂高さEL226.7m(鉄塔全長194.5m)
- 北側横断懸垂鉄塔(海-3)の敷地高さEL48.8m、下相電線支持点高さEL185.7m、塔頂高さEL247.3m(鉄塔全長194.5m+FL4.0m)
- 海峡横断部の下相最低海水面高48m、海峡横断設計最大弛度は約127m
である。
海峡横断鉄塔高は両鉄塔とも全長194.5mで、質量は南側横断懸垂鉄塔(海-2)が933t、北側横断懸垂鉄塔(海-3)が975tとなり我が国最大級の鉄塔規模となった。
追加写真2012.05.17
上に掲げた写真は大戸ノ瀬戸横断箇所を八代港側(東側)から撮ったもので、写真の左が南、右が北方向である。
左の陸地が天草諸島の上島、右が維和島で、写真に写っている2基の懸垂鉄塔で海峡を横断している。
海峡横断部の径間概要は、[南側(起点側)引留鉄塔(海-1)]-554m-[横断懸垂鉄塔(海-2)]-1,463m-[横断懸垂鉄塔(海-3)]-361m-[北側(終点側)引留鉄塔(海-4)]である。
陸地は天草諸島の上島で、右端鉄塔は海峡横断懸垂鉄塔(海-2)(鉄塔高194.5m)、その左が南側(起点側)引留鉄塔(海-1)である。
陸地は維和島で、左端鉄塔が海峡横断懸垂鉄塔(海-3)(鉄塔高194.5m)、その右が北側(終点側)引留鉄塔(海-4)である。
右写真は、南側(起点側)引留鉄塔(海-1)である。
背後の鉄塔は隣接する一般鉄塔である。
電線水平間隔は、最も幅の広い下相について一般区間が23.6mのところ、海峡横断区間は長径間であることから34mと約44%幅の広い設計としており、写真の背後の一般鉄塔に至る径間での電線幅の縮小変化が分かると思う。
南側(起点側)引留鉄塔(海-1)を下から見上げた写真である。
写真の上側が一般鉄塔への径間で、下側径間が海峡横断径間である。
海峡横断径間のがいし装置は、58tf/相に耐える380mm懸垂がいし一連42個4連装置(水平配列)としている。
右写真は、海峡横断懸垂鉄塔(海-2)である。
懸垂がいし装置は39tf/相に耐える400mmスモッグ一連39個連結の4連装置(四角配列)としている。
海峡横断径間の微風振動対策は、架空地線が7ループのベートダンパ、電力線が4ループのベートダンパを使用している。
右写真は、四角配列・4連懸垂がいし装置のクローズアップ写真である。
2つのうち右側の写真は、海峡横断懸垂鉄塔(海-2)の敷地に立って、地際から見上げた写真である。
鉄塔全長194.5mの海峡横断懸垂鉄塔(海-2)の敷地に右の看板が立てられていた。
ちなみに、日本一は220kV中四幹線の瀬戸内海横断箇所で、大久野島に建設された高さ226mの鉄塔である。
(歴史に残る送電線の項に掲載)
なお、世界一は、中国、江蘇省の長江(揚子江)を挟む江陰市~靖江市間における長江横断の500KV送電線で、鉄塔高346.5mである。
右写真は、海峡横断懸垂鉄塔(海-3)である。
鉄塔高は前掲の海峡横断懸垂鉄塔(海-2)と同じである。
海峡横断懸垂鉄塔(海-3)は、鉄塔敷地の地盤傾斜角度が30度近い急傾斜地であり、根開きが32mと広く片継脚長が20mにもなるため、長大な片継脚構造に対処した設計になっていることがよく分かる。
長大な片継脚構造に対して新しい設計手法の導入と縮小モデルによる強度確認試験と破壊試験を行い、更に工法についても水平支持梁工法を開発して対処したそうである。
一般区間の懸垂鉄塔である。
一般区間の軽角度耐張鉄塔である。
耐塩害設計上、がいし装置が長大になるためジャンパ線が極めて長くなるが、それに対しジャンパの大きさの縮小化と軽量化を図る努力がなされているのがよく分かる。
大戸ノ瀬戸の北側で、維和島(写真の左側)と戸馳島(写真の右側)間の藏々ノ瀬戸を横断する箇所の写真である。
海峡横断径間長は766m、海峡横断懸垂鉄塔の塔高は維和島側が112.9m、戸馳島側が110.7mであり、それほど特殊な長径間箇所ではない。
しかし、電線張力を高めたり、風の影響を考慮して、下記の設計を採用している。
- 電線水平間隔は下線の値で一般箇所23.6mに対して28mと1.19倍に広げている。
- 電線弛度を抑制し電線を張り上げるため、使用電線は一般箇所ACSR410m㎡に対してKTACSR/EST420m㎡を使用している。
- 架空地線は一般箇所OPGW/AS250m㎡に対して290m㎡を使用している。
- がいしは、懸垂装置で一般箇所320mmスモッグがいしに対して400mmスモッグがいしを使用している。
上記と同一箇所だが、撮影地点を変えルートと直角に近い方向から撮影した写真である。
なお、このほか本送電線は下記の海峡を横断している。
- 本渡の瀬戸(天草下島~天草上島間、海峡横断径間長776m)
- モタレノ瀬戸(戸馳島~宇土半島間、海峡横断径間長891m)