鉄塔製作に当たり、我が国初めての鉄塔国産化で、かつ初めての本格的鉄塔導入の線路であるにも拘わらず、その設計を行った箱根水力電気の寒川技師長は、先見の明をもって、現在世界で標準的に適用されている「片側フランジ接合方式」を採用したことは、技術的に賞賛に値すると言えよう。
すなわち、鉄塔部材は一般に「等辺山形鋼」と称し、鋼材をアルファベットのL字形(2辺のフランジの寸法は等しい)にした断面を持つ細長い棒状の部材を圧延によって製造し、使用している。
その部材をトラス(三角形)構造に組み合わせて、部材端部の各接合点をボルト・ナットで接合して鉄塔を構成していく構造を採用している。
塔之沢線鉄塔構造図
塔之沢線の鉄塔構造は、下図の構造図の通りで、鉄塔形状は2回線装柱、三相配列を正三角形配置としている。 そのため鬼怒川線の鉄塔に若干似た構造になっている。
ただ、鬼怒川線は2回線6相の配置を6角形の配置にしているのに対して、本鉄塔では正三角形を二つ横に並べた配置にしているのが異なるところである。
当時の鉄塔設計は、部材寸法がアメリカ規格だったためであろう、その寸法はインチ・フィート単位になっている。
A型鉄塔では、最も大きな部材は、メートル法で記せば「L-76.2*6.35mm」、最も細い部材は「L-25.4*3.18mm」、鉄塔高は約15m、下部電線支持点高さは10mである。
電線間隔は、正三角形配置で一辺が1.8mである。
がいしはピンがいしを、A型で1相当たり1個、B型では2個使用した。
主アーム下に小さなアームが設置されているが、通信線架線用である。
ちょっと面白いのは、例えばA型鉄塔では、主柱材の中間ジョイント位置が左右脚で150mmずれていることである。なぜ、ずらしたのだろうか。
また、昇降用ステップは、現在ではボルト状の鉄棒であるが、コの字型の形状の金具を用いている。
その各部材の端末の接合構造としては、鉄塔4本の主柱材接合を除き、腹材、補助材などについては、
- 2辺のフランジを閉じるように折り曲げボルトを貫通させる
- 2辺のフランジを開いて、平面にしてボルト締めする
- 2辺のフランジの片側フランジだけをボルト締めする(特に部材を加工しない)
の大きく3種類があるが、効率的な鉄塔製作、組立作業、および保守運用(修繕作業など)の観点からは最後の「2辺のフランジの片側フランジだけをボルト締めする」方式が望ましく、現在では世界的に広く採用されている。
この「片側フランジ接合方式」では、部材に作用する荷重が大きい場合で接合点で複数のボルトが必要になる場合には、別にプレートを必要とするため余計な資材が必要となり、かつ接合点では2辺のフランジのうちの1辺のだけのフランジ片留めなので部材本来の強度よりも耐力がやや低下する、などのデメリットもある。
しかし、現在では、「片側フランジ接合方式」はそのデメリットを帳消しにして、それ以上に鉄塔製作、組立作業、および保守運用(修繕作業など)が効率的になる観点からメリットが大きいため 世界的に広く採用されている。
ただ、ここに掲載したように、鉄塔部材が高価で貴重だった明治時代には、僅かでも鋼材使用量を少なくするため、塔之沢線とほぼ同時代の66KV鬼怒川線、77KV谷村線など「2辺のフランジを開いて平面にしてボルト締めする 」方式を採用していた送電線もある。