欧米送電線の建設工法
The construction method of the European and American power transmission line
Mr. Kiyoshi Hayashi (an excellent power transmission line engineer) worked on investigation coverage of the power transmission line construction in U.S.A., Canada and the Europe for 1968-1969 years.
This page displayed "the many data and photographs" which he got by the activity.
欧米の送電線建設工法については、我が国に比べ土地が広大で人口密度が低く、送電線ルート選定の自由度が高かく直線ルートが多こと、及び全般に土地の高低差がなだらかであり、更に広い送電線専用用地(Right of way)を確保しているため、大型機械工具の適用が可能であって、早くから機械化・スピード化が進んでいる。
また、工事の発注方法、工事会社の位置づけ、及び作業員の位置づけが、我が国と大きく異なるため、必然的に工事工法にも大きな差異が生じてきている。
1.電力会社からの工事の発注方法
まず、電力会社からの工事の発注方法であるが、もちろん我が国と同様な発注方式を採る会社もあるが、電力会社が設計から大型建設機械も保有して直営工事を行う会社(TVA,Ontario Hydroなど)、技術の責任までを含めコンサルタント会社を通しての発注(BC Hydroなど)、或いは設計から工事施工まで一括して一工事会社への発注(イギリス Central Electricity Generating Boardなど)もあり、電力会社によって大きく異なっている。
2.工事会社の位置づけ
また、工事会社の位置づけであるが、アメリカにおいては、各工事会社は作業労務者を直接雇用したり下請け個別契約をせず、必要に応じて電気工事協会を通じて職能別電工労働組合から派遣を求めることとしており、設計を含めた工事受注及び施工管理の業務に専念し、技術者を中心とした少数社員で運営している。
工事に使用する機械工具については直接保有したり、高価なものはリース契約によっている。
なお、アメリカ、カナダにおいては、各工事会社はワシントンに本部を置く電気工事協会(NECA:National Electrical Contractors Association)に加盟(1968年当時で会員数約5,000社)しており、個々の会社組織では力の及ばない政府機関との交渉、技術の向上策、各種基準の制定、その他諸々の電気工事業発展のための活動を任せ、大きな効果をあげている。
我が国の「送電線建設技術研究会」の活動に比較し、配電、通信、電鉄及び放送部門などを加えた大型組織と言えるであろう。
3.作業員の位置づけ
さて、作業員の位置づけであるが、我が国では元請け電気工事会社の社員あるいは下請け電工会社の社員として雇用されているのに対し、アメリカ、カナダにおいては、職能別電工労働組合(IBEW:International Brotherhood of Electrical Workers)に全ての作業員が属し(1968年当時で組合員数約85万人)、その中から各工事に必要な作業員数がその都度各電気工事会社に派遣される仕組みになっている。
このIBEWに属する作業員は、送電線作業員の他に配電、通信、電鉄及び放送部門など全電機産業に従事する電気作業員が組合員として所属しており、そこでは新規採用から熟練工までの電工教育が徹底して行われ、また安定した賃金及び定年後の生活保証まで充実している。
以上のように、工事会社は作業員の労務管理から解放され、受注管理と工事技術管理・監理に集中した活動を行っており、一方作業員は職能別電工労働組合からの派遣で賃金は高額であり、必然的に工事工法の技術的検討に経営資源を集中させ機械化・スピード化を図って労務費を極力低減することが各工事会社の最も挑戦するべき課題となっている。
このような背景、および広大な土地環境で機械化に適した長距離直線ルートの建設工事が多いなどの条件から、アメリカ・カナダでは特に建設工法の機械化・スピード化が進んだわけである。
以上述べた工事会社及び電工の立場の情報、並びに以下に記述する建設工法などの情報については、1968~1969年に当時古河電工顧問で送電線建設技術研究会の活動に尽力しておられた林潔氏がアメリカ、カナダ、ヨーロッパを調査取材活動された際のデータ及び写真を基に掲載した。
すなわち、林潔氏が所有しておられた写真について、御子息である林喬氏(東京電力副社長を経て現・関電工会長)の御厚意で当サイトに掲載の許可を頂き、以下に掲載をさせていただけたことに厚く感謝を申し上げる次第です。
CONTENTS
アメリカ及びカナダに於ける建設工法 The construction method of the Canadian and American power transmission line
ヨーロッパに於ける建設工法 The construction method of the European power transmission line
メッシーナ海峡横断長径間送電線 The power transmission line which crosses the Messina straits
1.アメリカ及びカナダに於ける建設工法The construction method of the Canadian and American power transmission line
以下に掲載する写真および諸情報については、1968年(昭和43年)に送電線建設技術研究会が主催した「米・加送電線工事調査」に副団長として参加された林潔氏の撮られた写真および同氏の調査報告書データを使わせていただいた。
同調査には、電力会社の送電部門および工事業界から30名が参加され、約一ヶ月をかけてアメリカ西海岸~東海岸~カナダの送電線工事現場を主体に調査活動したものである。
当時は、我が国では東京電力が500KV設計房総線を2年前の1966年(昭和41年)に完成させ、続いて各電力が続々と500KV送電線を建設開始する時期で、各電力とも工事工法の合理化に最優先で取り組んでいた時期であった。
一方のアメリカでは、これも送電線建設の最盛期で各地で大型の工事が数多く進められていた時期であり、調査には打って付けの環境にあった。
この調査は、今から40年も前のものであり、現在ではその情報が陳腐化しているのではないかと思う方もおられようが、その後、アメリカでは1970年代中期における販売電力量の伸び鈍化、或いは電力の自由化に伴い、送電線建設の勢いは消失して、その後の新規送電線建設工事は極めて少なく、昨今少しずつ回復傾向にあるものの、以前の工事工法が大きく改革・革新されたとは考えられない。
したがって、40年前の情報にもかかわらず現在でも生きた情報として捉えることが出来よう。
(1)基礎工事
基礎形状は、我が国と同様の逆T字型コンクリート基礎、ロックアンカー基礎、杭基礎が用いられているが、最も広く使用されているのが、穿孔コンクリートケーソン基礎(Drilled-in Concrete Caisson Footing)である。
まず、スクリューオーガで垂直または主柱材の転び角度方向に斜めに穴を掘り、次に右の写真の拡底ケーソンで基礎底部を拡げ(穴の中に挿入後、本体から拡底掘削部を引き出し・広げ回転させて拡底部を掘削する)、直ちにコンクリートを打設するもので、型枠も埋め戻しも必要なく、極めて短時間に施工可能である。
工事の機械化・スピード化に最も適した基礎工法である。
穿孔コンクリートケーソン基礎の概念図である。
施工工程は下記の通りである。
まず、スクリューオーガで垂直または主柱材の転び角度方向に斜めに穴を掘る
次に拡底ケーソンで基礎底部を拡げる(穴の中に挿入後、本体から拡底掘削部を引き出し・広げ回転させて拡底部を掘削する)
鉄筋かごを挿入する
テンプレートを使用して基礎材を据付ける
直ちにコンクリートを打設する
オーガー掘削機に拡底用ケーソンをセットしたクローズアップ写真である。
Commonwealth Edison Co.の345KV 1回線鉄塔建設現場でのケーソン掘削は、懸垂鉄塔は1日3基、耐張型鉄塔では1日1基の工事スピードで施工されている。
基礎材の据付は、すべて1脚据付で、右写真のような治具(テンプレート)を利用してスピード化を図っている。
すなわち、基礎材はテンプレートを用いて宙づりの状態でコンクリート打設がなされる。
基礎材は、埋め込み長さが我が国のものよりも短い傾向にあるようだ。
(2)組立工事
アメリカでは、工事施工班の受け持つ作業は専業的で、鉄塔建設では、
・掘削
・据付
・コンクリート打設
・鉄塔地上組(Pre-assembling)
・鉄塔組立(Tower erection)
・資材運搬
のために別々の6班が次々に中断無くシリーズに仕事をこなし、作業能率および機械の稼働率を最高に高く維持している。
組立工事は、ルートが直線状でしかもRight of wayとして線下補償がなされているため、広い工事用地を使用でき、起伏も緩やかで大型重機が何処でも使用できるので、ほとんどは大型クローラクレーンを使用している。
まず、鉄塔地上組(Pre-assembling)班が小型クレーンで地組を行い、次に鉄塔組立(Tower erection)班が大型クローラクレーンを使用し組み立てる行程で、次々と移動しながら組立を完了させる。(右写真)
しかし、一部クローラクレーンが搬入できない山地では、塔体中央に吊ったジンポール(Floating Gin-pole)も使用されている。
(3)架線工事
アメリカ、カナダの送電線は、殆ど障害物のない平坦な地形のルートを直線的に走っており、保安耐張鉄塔を設置する規定がないため、数十基も懸垂鉄塔が連続することがめずらしくなく、したがって、1延線区間に耐張がいし装置の鉄塔が全くないケースもあるようだ。
鉄塔工事と同様に大型機械を駆使して機械化、スピード化を図っており、延線スピードは4導体の場合、線交わし無し4条同時延線で毎分100m以上のスピードで行い、作業は細かく分割してそれぞれ専業班が移動しながら流れ作業的に極めて能率的に進めている。
工区の規模も我が国の10倍~20倍で、スピードも10倍以上であり、例えば、工事区間200km、1回線4導体の線路であれば総勢50人程度の人数で3ヶ月程度の短期間で全ての架線工事を完了させているそうだ。
鉄塔組立で述べたように、作業班の仕事は専業的であり、架線工事でも、
・防護設備
・金車吊り
・ワイヤ延線
・電線延線
・緊線
・がいし吊り
・スペーサ取付
の各作業を各班毎に専業で実施し、ルートに沿って次々と移動しながら架線工事を完了させていく。
使用する延線用機械は、ルートの起伏が緩やかで大型重機が何処でも使用できるので、トラックに乗せた車載型のものを使用している。
右写真、左の機械はBPAのワイヤ架線車であり、右側のものは、2導体用・直列2輪並列型延線車である。
右写真は、BC Hydro の直列2輪・4線引き延線車である。
自走式トラックに搭載されたもので、制動源のエンジンは送稿用とは別に1基備えてある。
電線巻き付けシープは、軸受けで各個別に回転するようになっている。
カナダの Canadian Hoosier Engineering Co 使用している4導体用直列2輪並列型延線車で、極めてコンパクトに造られている。
自走はできず、トレーラ牽引型である。
電線の巻き付け、繰り出しの双方に同型の延線ガイドローラを備えている。
ブレーキ機構は小型のエンジンを1基設置して圧縮によるエアブレーキとしている。
上写真のクローズアップである。
仕様は、巻胴径:1.8m*2輪*4列、溝数:6条、エンジン:17.5HP、張力:12.5tf、質量:13.8t である。
クローラ式ワイヤ直接巻き取り式の巻込型架線車である。
3/4インチのワイヤを6.4km巻き込めるそうである。
向かって左側線路が、工事中の±375KV直流送電線で、アメリカ西海岸を約1,400kmに亘って南北に走る送電線である。
電線はACSR 2導体で、電線延線工事のエンジン場を撮影した写真であろう。
電線の延線は、多導体の場合は1条のワイヤで多導体を同時に延線する工法を採っており、4導体の場合には、写真のようにワイヤ1条引き4条同時延線工法を採用している。
延線ヨークの中央にはチェーン式カウンターウエイトが装置され、撚回防止の働きをしている。
延線ヨークの後方に撚り戻し器(Swivel)を取り付け、その後方に細い鋼より線を網目状に編み上げたプーリンググリップで電線を把持している。
各鉄塔のV吊りがいし装置の先端には、5輪金車を取り付け、線交わし無し工法を採っている。
写真は、木柱で試験的に金車通過テストをしているところで、ちょうど延線ヨークが金車を通過した場面で、ヨークが金車の陰に隠れて見えない。
4線引き用の5輪金車のクローズアップ写真である。
金車径610mm、ネオプレーン張り、中央のシープ上をワイヤおよびチェーン式カウンターウエイトが乗るようになっている。
ちなみに、質量は95kgである。
4導体用宙乗り器の一例である。
カナダの工事会社 Canadian Hoosier Engineering Coが開発したもので、アルミ製、動力源はガソリンエンジン7.5HPを用い可変流・油圧ポンプを駆動させて車輪際に取り付けた油圧モータで走行させるものである。
向かって左側線路が、±375KV直流2導体送電線で、アメリカ西海岸を約1,400kmに亘って南北に走る送電線である。
ちょっと見にくいが、2基目、3基目に電工が昇塔して緊線作業を行っているところである。
右側の線路は287.5KV単導体送電線であろう。
鉄塔構造が途中から45度撚回しているめずらしい結構の鉄塔である。
2.ヨーロッパに於ける建設工法The construction method of the European power transmission line
「ヨーロッパに於ける建設工法」については、林潔氏が1969年にイギリス・オックスフォード付近の400KV4導体工事およびドイツ・レーゲンスブルク付近の110KV架線工事を視察・見学されたときの情報を基に以下に掲載した。
なお、イギリスの400KV Network 建設は1962年(昭和37年)から開始されている。
ヨーロッパの工事工法は、アメリカに於ける徹底した機械化・スピード化とは異なり、人口密度がやや多く、用地問題もあり、ルート選定の自由度がやや低く、障害物が多くて大型機械の搬入が困難な場所もあり、更に作業者の労働賃金がアメリカほど高額ではないこと等から、どちらかと言えば我が国の実状に近い工法が適用されてる。
しかし、出来るだけ機械化し、作業を単純化、専業化して労務者不足に対処しようとの傾向が見られたとのことである。
(1)基礎工事
イギリスの400KV送電線の基礎工事であるが、根開きが12mまでは、アルミ製のトラス構造の治具(テンプレート)を使用して4脚同時に据付作業を行っている。
脚材は、宙づりの状態でコンクリートが打設される。
上の写真の1脚をクローズアップしたものである。
写真は、逆T字型基礎で、型枠は標準化された鉄板をボルトで組み合わせたものを使用している。
この後、もう1段型枠を載せて生コンを打設するのであろう。
我が国と異なるのは、主柱材のフランジ面の方向と、基礎型枠面が45度ずれていることである。
我が国では、一般に、主柱材フランジ面と基礎柱体面は同一方向になるよう施工されている。
また、鉄筋が基礎柱体の2面にしか配置されていないのが少々気になる。
なお、掘削作業では大型パワーショベルが活躍している。
(2)組立工事
イギリスの送電線工事は、ルートがなだらかな起伏のある山や、麦畑、牧草地帯を経過することが多いものの、自然美や記念物の保存を要求されることが多く、アメリカと違って直線ルートをとることは一般に困難で、平均して5基に1基は角度鉄塔が必要になっている。
また、地面は一年中湿潤で柔らかいところが多く、トラックによる運搬が必ずしも楽でない場合があり、従ってクレーンによる組立が出来ないことが多く、写真のようにFloating Jib が好んで使用されていたようである。
右写真が、Floating Jib のクローズアップである。
我が国でも一時期は同様なフロートタワーを使用した時期もあったが、現在では、地上せり上げ式の組立鉄柱を使用するのが一般的である。
(現在のイギリスの工法について、最新の情報はないが、40年前に比べ各種大型クローラ式機械が開発されていて多少地質の悪い場所にも進入できるので、現在ではアメリカと同様に大型クレーンが多く使用されているように思われる。)
(3)架線工事
(a)ドイツ
ドイツの110KV送電線架線工事で使用されている延線車である。
電線がACSR230m㎡の細い単導体であるので、3溝の簡素な2輪延線車が使用されている。
簡素ではあるが、車台に載っており牽引に便利なようになっている。
一方、ワイヤ巻き取りには、9mm程度のメッセンジャワイヤの巻き戻し用も、電線を引くのに用いる太い16mm程度のメッセンジャワイヤ用も、ワイヤロープを直接巻き取るドラムタイプのワインダーを使用している。
やはり、簡素ではあるが、車台に載っており牽引に便利なようになっている。
仮ジョイントは、欧米ではどの現場でもそうだが、網状のプーリング・グリップ(ストッキング・グリッツプ)を使用し、また、撚り戻し器(Swivel)を適用して、延線中の撚りを解放させている。
ドイツでは耐張クランプはくさび型を使用し、緊線時には両側から来たジャンパ線を中央で重ねて接続する工法を採用している。
ドイツの懸垂クランプは、右写真で見られるように極めて簡素で、電線を把持する部分は合成樹脂製と思われるが、それで直接電線を把持しており、一般にはプレフォームド・アーマーロッドは付いていないし、また微風振動防止対策の防振ダンパもほとんど付いていない。
場所によって、引き下げ荷重の大きな箇所では、右写真のような我が国で常用されていると同じようなカテナリー構造の懸垂クランプを使用している。
なお、ドイツ・レーゲンスブルクの工事現場で働いていた作業員は、隣国のオーストリア、チェコスロヴァキアから来ているものが多く、週末の休日には国境を越えて100km程離れた自宅に帰る生活をしていたそうである。
労務賃金の上昇、労働者の不足は、当時のドイツでも著しく、工事業界の悩みとなっていたそうである。
(b)イギリス
イギリスの400KV・ACSR416m㎡4導体延線工事で使用されている延線車である。
2条同時延線工法を採用している。
延線車は簡単なトレーラーに搭載され、2輪式・アルミ合金製シープ10溝で、電線2条が対になって5回巻かれている。
メーカーはイタリアのC.R.F."TESMEC"である。
上の写真のクローズアップである。
電線2条が対になって巻かれているのがよく分かる。
延線距離は、普通3マイル(約4.3km)、延線速度は毎分20~60mであり、アメリカの毎分100m異常に比較しかなり遅く、延線機械も小型である。
後ろに見える電線ドラムは、ACSR416m㎡(直径28.6mm)用、電線条長 1,360mの木製ドラムである。
エンジンウインチは、85HPのやはりイタリアC.R.F."TESMEC"製で、ウインチの胴は2輪延線車のように溝付きの2輪となっていて、日本で一般に用いられている単一キャプスタンではない。
巻き取られたワイヤは、エンジンに連動されたリールワインダに巻き取られている。
2条同時延線のランニングボードの写真である。
ランニングボードは、2枚のヨークの間にバランス用の滑車が挟まれていて、両方の線の張力がバランスするように、電線に接続されるワイヤロープが前後に動くようになっている。
カウンターウエイトは2連式でその断面はコの字形で、金車通過の際上述のワイヤがカウンターウエイトの中にはまって、線交わし無し延線が出来るようになっている。
電線2条を線交わし無しで延線するための金車は、アメリカ、カナダのものとは異なり、中央にパイロットワイヤ用の小型鉄金車があって、それを両側からアルミ合金製の電線用金車が挟む構造になっている。
中央の小金車の上にはランニングボードの先端が上手く入るように鉄棒で出来たU字形のガイドが付いている。
なお、次第に4条同時延線に移行しているとのことである。
メッセンジャーワイヤはいわゆる無捻回ワイヤ(Non rotating wire)で、その撚り方は真田紐のように組み編みした網状のものを使用している。
なお、メッセンジャーワイヤの引き方は、アメリカなどと同様に、まずトラクターや人力で9mm程度の細いワイヤを伸ばし、これをドラム場のウインチでエンジン場の太さ16mm程度のワイヤをドラム場の方に引き、次に電線に接続してエンジン場のウインチで巻き戻して電線を延線している。
がいしは、ボールソケット型がいしを使用し、磁器製とガラス製の両方を使用しているが、見学できた現場ではピルキントン(Pilkington)社製のガラスがいしが用いられていた。
懸垂型は深ヒダのFog typeで強度は42万ポンド(18,900kgf)、直径356mmのものを1連24個で使用している。
耐張型には、普通ヒダの強度は42万ポンド(18,900kgf)、直径330mmのものを1連22個で使用している。
スペーサは、スプリング型とネオプレンブッシュ型があるが、見学できたのは右写真のようにネオプレンブッシュ型であった。
なお、4導体ならびに2導体の電線間隔は12インチ(30.48㎝)であるが、4導体の耐張がいし装置の所では20インチ(50.8㎝)に増加させて回転剛性を増加させている。
なお、上に掲げた写真に写っている作業員で、保安帽はかぶらず、また、上半身裸で作業しているものが居るが、当時の現場ではイギリスもドイツも安全作業の面では極めて外見不徹底の感がある。
しかし、塔上作業者は完全に服装し、安全ベルトを着けていたそうである。
工具類はイタリア製のものが多く見られ、工事労働者もイタリアなどから季節労働者的に働きに来ていたそうである。
今回見学できた、CECB(Central Electricity Generating Board:中央電力庁)から工事を請け負ったBICC(British Insulated Callender's Ltd.:電線メーカー)が施工している約80kmの400KV・ACSR416m㎡4導体2回線の現場には、鉄塔、架線あわせて約190人の労務者が投入され、工事工期は6ヶ月とのことであった。
3.メッシーナ海峡横断長径間送電線The power transmission line which crosses the Messina straits
イタリアの南端、本土とシシリー島を隔てるメッシーナ海峡を横断する世界的に有名な長径間送電線は、今から約50年前の1956年(昭和31年)に建設され運転開始されている。
右写真が海峡横断部分の写真であるが、手前側がイタリア本土で、奥側がシシリー島である。
この送電線については、多くの方々が現地見学され報告を書いておられるが、林潔氏もその翌年の1957年(昭和32年)に見学されており、その時撮影された写真を掲載する。
この長径間送電線は、メッシーナ海峡の最北端の最も狭い部分を横断している。
各径間長は、シシリー島から本土側に向かって、[引留鉄塔]-752m-[横断懸垂鉄塔]-3,653m-[横断懸垂鉄塔]-646m-[引留鉄塔]となっており、海峡を挟んで2基の懸垂高鉄塔(高さ224m)により径間長3,653mで横断している。
電圧は220KV設計当面150KV運転、当面4相架線で1回線運用し、将来2相を増架して2回線送電線とする計画である。
電線は、鋼・アルミ複合撚り線(Al-44.7m㎡,St-311m㎡)、高張力約50tfの電線を使用し、常時張力20tfで運用している。
電線の構造は、ワイヤロープ形状で、19ストランド構成であり、各ストランドは中心にアルミ線その周りに6本の鋼線を撚ったものであり7本で構成されている。
架線張力は定張力方式を採用し、本土側は通常の耐張がいし装置での引留であるが、シシリー島側はがいし装置のアース側に金車で質量40tの錘を吊るし、風圧あるいは温度変化で電線の伸縮があっても常に20tfの定張力が加わるようになっている。
鉄塔は、複合部材で構成され、塔体の向きは線路と45度方向にねじって、線路と直角方向からの風圧に強度が強くなるよう、据付されている。
横断鉄塔の懸垂がいし装置は右写真の通りで、並列8連で並列数が多いので円形ヨークにがいし連を圧縮型のスプリングを介して固定している。
定張力方式での架線のため、電線が荷重変化に応じて線路方向に移動出来るよう、クローラ金車のようなエンドレスチェーン方式の懸垂クランプを開発して使用している。
写真に見える下部の足場は工事完成と共に撤去されるものであろう。
海峡横断区間の電線張力を常に一定な張力に保つために、シシリー島側の引留点では、写真のように、がいし装置のアース側に金車を設置して、その先に質量40tの錘を吊るし、風圧あるいは温度変化で電線の伸縮があっても常に20tfの定張力が加わるようになっている。
なお、がいし装置の左に見えるリングは、引留クランプである。
ところで、この送電線の送電容量は約15万KWで、最近に至りシシリー島と本土間で必要とする送電連系容量を確保できなくなったため、海底ケーブルを敷設して連系することになり、1994年に海底ケーブルに連系の座を譲り、充電部設備(電線・がいし装置)を撤去し、現在は海峡横断高鉄塔2基だけが建っている。
その鉄塔は、現在、歴史上のモニュメント(記念碑)としての保護の下、気象観測、高建造物救出トレーニング、通信鉄塔として活用されている。
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