本項に掲載する送電線写真は、平成22年(2010年)5月下旬に「アメリカ大陸横断鉄道の旅((株)ワールド航空サービス)」という観光ツアーに参加したときに撮影したものである。
アメリカの送電線を撮影すると言っても、東西約5,000kmもある広い大陸をどのように旅行すればアメリカを代表する送電線に出会えるのか、満足できる答えを得るのは難しいと思っていた。
ところが、アメリカ大陸を東西に横断する鉄道「Amtrak」に乗ることで車窓からアメリカを代表する送電線を狙える可能性が大きいことが分かり、さっそく旅行に参加してきた。
鉄道沿線の天候が良いことを願って、運を天に任せてツアーに参加したが、結果としては、一部で霧雨に遭い視界不良で撮れない箇所もあったものの、最も撮影したかったアメリカを代表する基幹系統送電線の写真は何とか撮ることができた。
アメリカの送電線 The United States of America
I traveled in the United States of America in May, 2010.
The route that I traveled was from New York to San Francisco.
The means of transportation used Amtrak.
I displayed photographs of the power transmission lines which I took during the trip on this page.
On this page, various power transmission lines are displayed.
ツアーの行程は、右図の通りニューヨーク~シカゴ~サンフランシスコ間で、Amtrak乗車距離は約5,500kmであり、ニューヨークを出発して途中シカゴまで1泊2日で移動し、シカゴ観光を挟みシカゴからは別の列車に乗り継いでサンフランシスコまで2泊3日をかけて移動した。
Amtrakの車窓からは、基幹系統をはじめ数々のローカル送電線に出会うことができた。
さらに、旅行の終点サンフランシスコでは半日の「自由行動」時間をフルに利用してサンフランシスコ近郊約250kmにわたり自動車を飛ばしてカリフォルニアの代表的(歴史的)送電線等を撮影することができた。
さて、アメリカは、面積が我が国の約25倍、人口は約3億4千万人で我が国の3倍弱であり、人口密度は我が国に比べ極めて低い。
また、地勢は有名なロッキー山脈等山岳地はあるものの、なだらかな平地が多く農耕等に利用可能な土地面積は我が国に比較して遙かに多い。
したがって、都会を少し離れるとすぐに人口密度が低い農耕地帯、未開発の平原地帯等で、都市と都市間が我が国のように住宅地で繋がっているということはなく、送電線のルート選定の自由度は大きい。
アメリカは送電線の技術開発では、本格的送電線が誕生した1890年代以降1970年代頃までは高度な技術力を背景に常に世界をリードしてきた。送電線鉄塔の形状についても最も合理的な形状である2回線垂直配列鉄塔はアメリカで開発された。
したがって、送電線専用用地(Right of way)が確保し易い土地柄であれば、過酷な自然環境に曝される送電線では1回線水平配列方式を採用するのが技術的には好ましいが、アメリカでは自国開発の2回線垂直配列方式の送電線が多く建設されている。
特にローカル系統で複数回線を必要とする送電線ではほとんどが2回線垂直配列方式を採用しているようだ。
送電線の電圧は、地域により、大きく二つの系列に分かれており、69KV~230KV~500KV、または138KV~345KV~765KV、が基本として採用されている。
最高使用電圧の大雑把な地域別概要は右図の通りである。
- イリノイ(シカゴ)からケンタッキー・バージニア州にかけては765kVを使用
- 大陸の東西両端地域が500kVを使用
- 無色の地域は230kVまたは345kVを使用
なお、一部で直流(DC)送電線を使用している。
将来的には、765kV送電線を東西大陸横断方向にに数ルート建設し、いずれも中間で「AC-DC-AC変換所」を介して東側と西側の系統を連系する構想があるそうである。
CONTENTS
- 765KV送電線765kV power transmission lines
- 500KV送電線500kV power transmission lines
- +/-375kVDC(直流)送電線375kV DC power transmission lines
- 345KV送電線345kV power transmission lines
- 230KV送電線230kV power transmission lines
- 138kV以下の送電線Local power transmission lines equal to or less than 138kV
- 美化装柱(環境調和)送電線Power transmission lines using beautified tower
Coffee Break
1.765KV送電線765kV power transmission lines
アメリカに於ける最高電圧は765kVであり、イリノイ(シカゴ)からケンタッキー・バージニア州にかけての系統で使用している。(前図参照)
なお、カナダとの国際連系送電線でカナダ・モントリオールとニューヨーク州を結ぶ送電線にも765kVが使用されている。
アメリカの765kV送電線は全て1回線水平配列で、支持物はえぼし型鉄塔が多いが一部線路では直線・懸垂箇所に自立型鉄塔ではなく、支線付V型ガイタワーを使用している線路がある。
また、ルートは1回線単独で2回線以上の複数回線ルートの送電線は見られなかった。
右写真はシカゴから約120km東のサウスベンド(South Bend)という町の付近を南北方向に経過している送電線で、撮影地点から約30km北にあるミシガン湖湖畔の大規模発電所の出力をシカゴ及びインディアナポリス方面に送電しているものである。
765kV系統の北端に位置する送電線である。
電線は4導体方式で、がいしは懸垂がいし1連30個連結・V吊り装置を採用している。
送電線線路幅は外側線間で約28mである。
がいしの大きさは我が国の320mm懸垂がいしと同等と思われる。
電線支持点ではストックブリッジダンパを4導体のうち上2条と下2条に各々水平に渡した水平バーに線路と直角方向に取り付けている。
我が国では見られない取り付け方式である。
右写真は、シカゴから約70km西側にある765kV系統の西端の拠点変電所に引き込む場所で撮ったものである。
電線及びがいし等の設計は、上記写真のものと同一であるが、耐雷設計で遮蔽角をマイナスにまでして電線を保護しているのが大きく違っている。
当地区の年間雷雨日数(IKL)は40~50日の地域で上記サウスベンド近郊の送電線と同様であるが、この送電線では特に直撃雷対策を手厚くする設計を採用したためにこの形状になったものであろう。
しかし、直撃雷対策には気を遣っているものの、がいし装置に耐アークホーンは使用されておらず、逆閃洛時等のがいし保護設計はなされていないのは我が国の設計手法からすると片手落ちではないかと思われるが、欧米ではこのような設計が多い。
電線相互の水平間隔は約14mで、左右外側の電線水平間隔は約28mである。
なお、ルートのわずかな水平角度箇所では、写真のように角度懸垂対応の鉄塔を適用してがいし装置は耐張とはせず懸垂装置を適用し建設費の低減を図っている。
耐張がいし装置の鉄塔が、乗車した列車から約1kmも離れていたため質の悪い写真になってしまったがご容赦いただきたい。
この鉄塔は軽角度鉄塔のため両外側相はジャンパ支持がいし装置無しで、中相だけがV吊りがいしを使用している。
ジャンパは手作りでかなり大きなジャンパ線である。
耐張がいし装置は4連装置で正方形配置となっており、電線1条に対して1連がいし装置が対応している。
電線地上高は我が国に比べかなり低いようで、鉄塔のウエスト部が地上から1節目にあり、その高さは地上10mも無いように思われる。
鉄塔の頂部に鬼の角のように張り出した地線用アームが兎に角目立つ鉄塔構造である。
右写真は、変電所引き込み部分の引留鉄塔である。
送電線が4導体なのに対して、変電所構内のブスは2導体である。変電所の規模は、765-345kVトランスが2バンクの設備のようだ。
ブス構造は極めて簡素である。
なお、本送電線の左隣には変電所から降圧されて引き出された345kV・2回線の2導体送電線が同じ送電線専用用地(Right of Way)の中を並走している。
後にこの送電線については別項(345kV送電線の項)で解説するが、その鉄塔は765kV鉄塔に酷似しており、将来765kV化も可能なようだ。
2.500KV送電線500kV power transmission lines
アメリカの500kV系統は、カリフォルニア州を中心とする太平洋に面した西海岸沿いの地域と、ペンシルヴェニアからフロリダ州に至る大西洋に面した東海岸沿い(東西両端)地域に分布している。(前掲、使用電圧・地域概要図参照)
今回の旅行では、カリフォルニア州サンフランシスコ近郊の500kV送電線を撮影した。
すなわち、太平洋岸を北のワシントン州から南のアリゾナ州にかけて約1,800kmに亘り南北に縦断する500kV基幹系統のうちサンフランシスコ近郊における設備を写真に収めた。
今回撮影したのは、以下に掲げる通り、えぼし型送電線1ルートおよび支線付矩形鉄塔とでも呼ぶ送電線2ルートの計3ルートが接近平行して経過している場所で、南北に走る500kVが本地点を目指して集束する送電線のメッカであった。
なお、アメリカの500kV送電線は、前述の765kV送電線と同様ほとんどが1回線水平配列鉄塔線路である。
まず、撮影地であるが、右図の通りサンフランシスコ湾が湾口から約70kmほど東方内陸に奥深く伸びている所で、サンワーキン川の中州となっているJersey Islandである。
太平洋岸に発展した諸都市を経由し南北に走る送電線は当地点ではサンフランシスコ湾地形のため内陸にルートを迂回せざるを得ず、この地点を通過するのが経済的に有利となる場所で、送電線がこの場所めがけて集束する送電線のメッカとでも呼べる場所であった。
しかし、太平洋岸からは遠いもののサンフランシスコ湾の東端に近くで塩害対策の観点からは厳しい場所であり、がいし連結個数は多めであった。
(1)支線付矩形鉄塔
写真は2ルートが並走しているが全ての区間が2ルート2回線ではなく、全体的には1ルート1回線区間が多い。
鉄塔は塔体内側に支線を設けた矩形鉄塔とでも呼ぶような構造である。
電線は2導体である。
がいし装置は標準懸垂がいしを使用し、一連個数は左側(西ルート)では直吊り34個、V吊り36個連結である。また、右側(東ルート)では直吊り33個、V吊り36個連結である。
電線相互の水平間隔は約13mで、左右外側の電線水平間隔は約26mである。
この写真は北の方角を撮ったもので、画面奥にサンワーキン川を横断する長径間・河川横断高鉄塔(後に解説する)が見える。
がいし装置であるが、写真の設備(西ルート)は1連個数のうち8~9個(約25%)は白色で、後は焦げ茶色である。
周りを見ると、全て白色が多い中に、全て焦げ茶色と右写真のような色の混在した設備が所々にに見つかった。
本地域は前述の通り塩害対策の観点からは厳しい場所であり、塩害対策の一環として部分的にシリコン樹脂をがいし表面に試験的に塗布したもののように思われる。
右写真は角度箇所の耐張鉄塔である。
外角度相および中相のジャンパ線は、錘付き直吊りがいしで風による横ぶれ対策を行っている。
がいし一連個数は耐張装置:35個、ジャンパ線支持:34個である。
(2)えぼし型鉄塔
上記支線付矩形鉄塔送電線に隣接して、その東側に3本目の500kVルートとしてえぼし型鉄塔送電線も経過していた。
この送電線は3導体方式電線で、がいしは耐霧がいし一連31個連結である。
支線付矩形鉄塔送電線が、がいし装置1連36個連結に対して耐霧がいし使用のため31個連結で5個がいし個数が少ない。
また、がいし吊り型が3相全てV吊りを採用しており、がいしの横ぶれが抑制されるため電線水平間隔も少なくて済み、外相間水平間隔は支線付矩形鉄塔送電線が26mに対して22mと15%以上狭くなっている。
本送電線は支線付矩形鉄塔送電線よりも後年に建設されたと思われ、よりコンパクトに設計されているのが分かる。
右写真は耐張鉄塔である。
懸垂鉄塔では、がいしは磁器がいしを使用しているが、耐張鉄塔では本線引留がいし装置及びジャンパ線吊架がいし装置は共に磁器がいしではなく有機がいしが使用されている。
よく見ると、本線引留がいし装置は左側のものが細く一連装置で、右側のものはやや太く水平2連装置となっており、異なった規格の有機がいしが使用されているようだ。
これも送電線コンパクト化に貢献しており、がいし装置の質量が軽くなるのとジャンパ装置の錘が不要となるので、若干軽量化が図られている。
(3)河川横断箇所
右写真は、サンワーキン川河川横断箇所に建設された高鉄塔である。
すなわち、シェラネバダ山脈から何本もの河川がサンフランシスコ湾に流れ込んでいるが、最大級の河川はサクラメント平原を北から南下するサクラメント川と、ビッグクリークを源流としてサンワーキン平原を北上するサンワーキン川である。(前掲地図参照)
この鉄塔は南から北上してサンフランシスコ湾に流れ込むサンワーキン川の河口の手前を横断するもので約780mの長径間箇所に建設されたものである。
径間長はさほど長くないが、航行する船舶のマストからの離隔を確保するため高鉄塔になっている。
画面の左径間が河川横断径間である。
左と中央の2基が支線付矩形鉄塔送電線の鉄塔(左側:西ルート、中央:東ルート)で、この鉄塔だけがえぼし型を採用している。
最も東側に位置する右端の鉄塔は、えぼし型送電線の鉄塔で逆にこの鉄塔だけがえぼし型ではなく三角配列鉄塔を採用している。
なお、3ルートとも架空地線は設けていない。各鉄塔頂部に避雷針が立っている。
電線張力は弛度を少なくするため、一般箇所に比べ高くなっているようだ。
この写真は、支線付矩形鉄塔送電線において高鉄塔の高張力電線を引き留めるために建設されたもので、各相毎に引留用塔体を建設している。
鉄塔の左側が高鉄塔側で、引留がいし装置は高張力電線を引き留めるため4連正方形配列の装置を適用している。
一般径間側は右側で水平2連耐張装置を使用している。
なお、ジャンパ線は一段上に渡した梁から直吊りがいしを吊り下げ塔体接近を回避している。
なお、写真には撮らなかったが、えぼし型鉄塔送電線では、長径間の高張力電線を引き留めるための鉄塔は3角配列四角鉄塔を使用していた。
(4)径間撚架
支線付矩形鉄塔送電線(西ルート)で径間撚架を見ることができた。
写真中央の鉄塔(東ルート)は無視して、左右両端の鉄塔に注目していただきたい。
左の鉄塔の左相電線は径間の電柱(左)の頂部めがけて降りてきて、右電柱に渡り、そこから右鉄塔の右相に至っている。
また、左鉄塔の中相と右相は、右鉄塔の左相と中相に移行している。
すなわち、「径間撚架」を行っているのである。
径間にある電柱のようなものは、クローズアップすると右写真の通りで、左から来た電線を鉄柱に引き留め、直角に奥の方に位置替えして奥側の鉄柱から右方向に出している。
この「径間撚架」を線路の起終点間で2回行うことで1回の完全撚架を実施することができる。
しかし、この撚架方法では当該径間では電線地上高が極端に低くなるため全面的に立ち入り禁止区域にしなければならない。
欧米では地価が安価で線下補償費が安いので、広範囲に立ち入り禁止区域を設けても建設費への影響は軽微と思われ、鉄塔には手を加えずもっぱらこの「径間撚架」が採用されている。
一方我が国では、撚架用特殊鉄塔を建設して鉄塔で撚架を行い、線下土地の利用を阻害する径間での電線入れ替えは実施していない。
ちなみに欧州スペインに於ける径間撚架設備を掲げると、右写真のごとくである。
やはり撚架箇所の線下は、電線地上高が低く、立ち入り禁止になっていると思われる。
(5)Amtrakとの交差箇所
前掲の支線付矩形鉄塔送電線であるが、前掲撮影地点から約60km北上した地点(サクラメント市の西郊外)を南北方向に単独ルートで経過している東ルートをAmtrak車窓から撮影したものである。
送電線が延びる遙か彼方(北端)はワシントン州とオレゴン州境を流れるコロンビア川河畔のポートランド近郊で、ルートは本地点から更に延々と約800km続く。
障害物がないため遙か彼方まで見事に直線ルートを取っている。
径間長は400~420mである。
がいし一連個数は36個である。
上記東ルートがAmtrakと交差する箇所から南西に35kmほどの所、サクラメント市とヴァレホの中間地点を南北方向に経過している2ルートの内の西ルートを、やはりAmtrak車窓から撮ったものである。
がいし一連個数は33個である。
なお、左隣・奥に並走している送電線はピットリバー線と呼ばれる世界最古の超高圧220kV送電線で、建設当初の鉄塔設備である。
右写真は、前述のJersey Islandでのえぼし型鉄塔送電線がAmtrakと交差する箇所で撮ったものである。
前述の通りJersey Islandで500kV・3ルートのうち最も東側のルートであったえぼし型鉄塔送電線は、約50km北上したAmtrakとの交差点では支線付矩形鉄塔送電線2ルート(東・西ルート)の中間を経過していて、鉄塔形状は途中から右写真のように三角配列鉄塔に変わっていた。
がいし一連個数は24個で、がいし種別も標準懸垂がいしが使用されているようであり、Jersey Islandで耐霧がいし使用の31個連結だったのに比較して本地点では塩害対策が解除されているのが分かる。
線路幅は約10.5mで、えぼし型鉄塔ルートでは22mであったのに対し半分の面積に減少している。
これは農耕地を通過するために建設・用地補償費節減方策として線路占用用地面積を低減させる目的で、三角配列鉄塔にしたものと思われる。
3.+/-375kVDC(直流)送電線375kV DC power transmission lines
右写真はアメリカに於ける最も大規模なDC(直流)送電線の写真である。
ワシントン州とオレゴン州の境を流れるコロンビア川は豊富な水量の大河で、水力発電量は極めて多い。
この潤沢な水力発電電力を南部の火力発電の多いロサンゼルスに送電するために太平洋岸を南北に貫き建設されたのが本送電線である。
(冒頭の「使用電圧・地域外要図」参照)
発電所と需要地との間が1,300km以上も離れており、大容量・長距離送電をするため送電安定度の観点から直流方式を採用したものである。
起点は、オレゴン州ポートランドの東、ザ・ダレス(The Dalles)に建設したCelilo交直変換所で、終点はロサンゼルスの北に建設したSylmar交直変換所である。
送電線概要は、電圧:DC+/-375kV、こう長:1,370km、送電容量:1,350MW、電流:1800A、運開年:1969年である。
電線はACSR 1170m㎡ 2導体(導体間隔:457mm)である。
がいしは懸垂がいしを使用し、一連個数は耐張27個(直径320mm、水平2連装置)、懸垂24個(直径292mm、直吊り1連又は2連)で、材質は緑色ガラスがいしである。
ジャンパ線はプレハブで、中央の底に補強ロッドを設置し弛みの大きさ抑制を図っている。
使用がいしの概要図を右に掲げる。
懸垂鉄塔は、右写真の自立型鉄塔と、次の写真のような支線付鉄柱が使われている。
自立型鉄塔は、前後スパンの不揃いによる不平均張力の発生が予測されるような所とか、道路等の横断箇所、或いは引き下げ荷重が大きな場所などに使用されているようだ。
また、薄い水平角度箇所で懸垂直吊りがいし振れっぱなしの箇所にも使用されている。
この箇所では偏心アームが採用されている。
右写真は、Amtrak車窓から1km以上も離れた場所にあるものを撮ったので質の悪い写真となったがご容赦いただきたい。
支線付鉄柱のを撮ったものだが、前後径間に重要横断物はなく、かつ荷重条件が厳しくない場所に適用されているようだ。
4.345KV送電線345kV power transmission lines
アメリカ大陸中央部の主役は345kV送電線および次項で解説する230kV送電線である。
東西約5,000kmの広さの大陸全体を単一の系統で連系することはできないが、部分的に広範囲の系統を連系して地域の安定的運用を図っている。
この連系送電線の主役が345kV送電線および次項で解説する230kV送電線であり、各地域によっていろいろな支持物形状を持ったものが建設されている。
(1)ニューヨーク近郊
ニューヨークのマンハッタン地区は世界で最も過密な地域で、人口密度が高く単位面積当たりの電力需要は世界一ではないかと思われるが、そのマンハッタン地区への電力供給で主となる送電線ルートはニューヨーク州北部からの345kV送電線が建設されている。
すなわち、マンハッタン地区は、ハドソン川が北から南に流れる左岸河口に発展しているが、そこへの主な送電ルートはハドソン川の左岸(東岸)に添って北から南下するルートをとっている。
写真撮影は出来なかったが、送電設備は右図(ルート断面の一例)のごとく345kV2回線垂直配列の標準型鉄塔線路であり、それを2~3ルート並走させて計4~6回線のいずれも2導体方式架空送電線により電力供給している。
右図は、並走2ルートで耐張鉄塔と懸垂鉄塔がたまたま並んだ場所でのルート断面図を図示した。
このルートは市街地に近いためルート幅を極力狭くするよう2回線垂直配列の標準型鉄塔を使用し、部分的に懸垂はV吊りがいし装置を使用し一層線路幅を縮小している所もある。
ところで、マンハッタン地区供給ルートの写真は、Google earthのStreet viewに所々で写っている。その中から見栄えがよいものを3点を掲げるとその地点(北緯、西経を表す座標)は次の通りである。
- 41 08 09.82 N 73 48 56.07 W
- 41 07 58.21 N 73 49 03.78 W
- 41 03 44.87 N 73 49 19.73 W
Street view写真を見るときは、上記座標文字列をコピーして、Google earthの検索窓に貼り付けると自動的に当該地点の近傍に誘導されるので、その地点付近のStreet viewを立ち上げると送電線写真を見ることができる。
右写真は、マンハッタン地区から約60km北上したクロトン(Croton-on-Hudson)付近で撮ったものである。
ごく近くのハドソン川河畔に大規模発電所があり、その出力を前出のマンハッタン地区供給系統に連系するために建設されたものである。
発電所から、マンハッタン地区方面には345kV3回線が引き出されていて、その2回線は右写真の矩形鉄塔で4回線垂直配列回線のうち左右外側回線・2回線を使用して送電されている。
残りの1回線は、下の写真のように並走する鋼管単柱送電線で送電されている。
いずれも2導体方式送電線である。
矩形鉄塔の内側2回線は230kV送電線である。
なお、矩形鉄塔の直線懸垂箇所では左右外側回線・345kV2導体回線はV吊りがいし装置、中230kV2回線は直吊りがいし装置を使用している。
345kV送電線のがいし設計は、標準懸垂がいしを使用するときは一連個数18個が標準である。
だが、4回線矩形鉄塔ではがいし一連個数15個、鋼管単柱送電線では耐張がいし一連個数16個およびジャンパ線用は一連15個、と2~3個少ない。
写真では判別できないが、標準がいしより高性能の我が国の規格で言えば笠径280mm相当以上の高性能のがいしが使用されているようだ。
4回線矩形鉄塔ではジャンパ線支持がいしには有機がいしが使用され、鋼管単柱送電線もジャンパ線横振れ防止用に有機支持がいしが使用されている。
345kV回線では、耐張がいし装置電線側にはコロナ防止リング(ホーン)が使用されている。一方、230kV回線では使用しれていない。
本撮影地点は、市街化が進んでいる地域であるため、送電線建設用地の確保に困難を伴う地域と思われ、アメリカではめずらしく4回線併架鉄塔(線幅約22m、各線間間隔約7m)を使用している。
また、鋼管単柱ルート(線幅約7m)では多角形(8角形)プレハブ鋼管を使用し現地での建設工事労力と工事用地面積を極力少なくするよう配慮している。
右写真は、マンハッタン地区から約170km北上したハドソン(Hudson)付近で、西から東にハドソン川を横断しようとしている鉄塔を撮ったものである。
写真の鉄塔はハドソン川右岸(西岸)に建つもので、川横断スパンはさほど長径間ではなく約660mであるが、河川上の電線地上高を高くするため鉄塔高は120m程の高さになっている。
ハドソン川を横断した後、すぐに上図に示したマンハッタン地区供給系統南下ルート上に設置した変電所で同系統に連系している。
外側線幅約19~20m、電線は水平2導体、がいし一連個数は20個である。
マンハッタンに近い場所では2回線垂直配列の標準型鉄塔を適用しているが、市街地から離れ人口密度が低く、地域環境がゆったりとした場所では、技術的に有利な本ルートのような水平配列送電線が多い。
(2)シカゴ付近
右写真は、既に述べた765kV送電線と平行している送電線で、シカゴから約70km西側にある765kV系統の西端の変電所の近くで撮ったものである。
この送電線はその変電所から765kVと並走して20km程は同一の送電線専用用地(Right of Way)にルートを取り、約50km南方にある大規模発電所を結んで発電所の出力を345:765kV変電所を通じ765kV系統に昇圧送電するための送電線である。
この送電線のこう長約60kmの半分はこの写真のように765kVに即使用できると思われる鉄塔を使用している。
電線は水平2導体で、がいし一連個数は18個である。
米国の345kV送電線は、がいし汚損地区以外の一般区間では、がいし設計は標準懸垂がいし一連18個を標準として採用しているようだ。
耐張がいし装置電線側にはコロナ防止リング(ホーン)が使用されているが、懸垂装置には使用されていない。
とにかく架空地線用アームがいかめしく、目立つ鉄塔である。
この鉄塔は765kVに即使用できると思われる構造の鉄塔を使用している。
耐張がいし装置は水平2連装置で、左から2番目と4番目の鉄塔主柱材に接近するジャンパ線では、有機がいしを用いたジャンパ吊りを使用し、ジャンパ線の大きさの抑制と横振れ対策をしている。
スペーサはワイヤを用いた巻き付け式のものを使用している。
シカゴの西約50kmの町エオラ(Eola)で撮った345kV2回線垂直配列鉄塔線路である。
市街地化された町の中を通過するので、2回線垂直配列鉄塔を使用している。
一般には、オフセットを付けた鉄塔は中相が最もアーム幅が広く外側に張り出しているが、アメリカの345kV2回線垂直配列鉄塔では写真のように中アームが逆に狭くなった形状になっているものが多い。
がいし一連個数は18個で標準的設計である。
コロナ防止リングは最下部電線側がいし部分に小さいものが取り付けられている。
シカゴの東約130kmの地点(サウスベンド(South Bend)の東方)で撮ったものである。
平地に建設されているにもかかわらず、我が国の降雪が多い山岳地帯の鉄塔に似て、オフセット量が大きく中アーム幅すなわち線路幅は22mと広く、上記の鉄塔の線路幅13mと比べると70%も広い。
本地点はミシガン湖の南端にあり、冬期には、ミシガン湖上空を吹き抜けてくる北風はミシガン湖から蒸発した水分を多く含んだ氷雪害を起こし易い強風となってそれら送電線に横風として襲いかかると思われる。
電線に着氷あるいは着雪すると、ギャロッピングとかスリートジャンプが発生し、短絡事故あるいは支持物倒壊に至る大事故の可能性もある。
したがって、ミシガン湖の南岸近くを東西ルートとする送電線は、電線着氷対策としてオフセットを大きくした設計としているようだ。
がいし一連個数は15個で標準的個数18個より3個少ないが、標準がいしより高性能の我が国の規格で言えば笠径280mm相当以上の性能のがいしが使用されているようだ。
電線は水平2導体である。
上記の近くに建設されている同様の設計の送電線である。
重角度鉄塔が撮れたので掲載した。
濃霧のためやや霞んでいるがご容赦いただきたい。
シカゴ市内の道路・鉄道の専用用地内で撮ったものである。
目が点になった、兎に角驚いた!!
電圧345kVの超高圧架空送電線が高速道路の下をくぐっているのにはびっくりした。
送電線が平地で高架の高速道路と交差するときには、必ず送電線が道路の上を跨ぐのが常識であるが、どんな理由なのか不明だがこのような事例もあると言うことが分かった。
支持物は、鉄筋コンクリート柱をH柱状に組み合わせたものを前後に2基使用している。
各電線間隔は約7~8.5mで2回線最外相間隔約38mである。
電線は2導体で、奥に見える鉄塔から引き下げられて道路下くぐりしている。
下くぐり箇所は、電線地上高が低いので恐らく立ち入り禁止区域となっているものと思われる。
(3)コロラド州・デンバー付近
デンバーの東140km程の地点・フォートモルガン(Fort morgan)の東で撮影した送電線である。
アメリカの穀倉地帯で農地と荒野が半々の見渡す限り何もない平原地帯であった。
所々に町が点在し、それらの町に電力を送電するための送電線である。
電線は水平2導体、がいし一連個数18個の標準的設計の送電線である。
ルートは人がほとんど近寄らない荒野を経過しているため、懸垂箇所ではコロナ対策リングは省略されているようだ。
ルート選定に当たり障害物は皆無で自由自在にルートを選定できそうだが、現実には土地所有者の用地境に沿ってルートを選定しているようで、直線ルートがどこまでも続いているルートにあって所々で突然直角に曲がったルートをとっているのが多く見られた。
右写真はデンバー郊外で撮影したものである。
この送電線は、人口約60万人の地方都市・デンバーに電力を供給する基幹系統として運用されている送電線の一つである。
Amtrakの車窓からは同一設計の線路を2ルート見ることが出来たが、左右回線の設計が異なっているのがこの送電線の特徴である。
すなわち、右側の2導体回線はがいし一連個数16個で345kV送電線の標準がいし個数18個に対して2個少ないものの345kV送電線の標準的形状をしているが、左側の単導体回線はがいし一連個数14個でがいし個数が345kV送電線の標準がいし個数18個に対して4個(23%)も少なく、左右アンバランスな設計となっている。
ただ、左右回線のがいし連長はほぼ同じなので、左回線・単導体用のがいしは高性能のがいしを使用していると思われる。
とにかく、左右回線の電線・がいし設計を意図的に違えた送電線はめずらしい。
これは、がいし装置の絶縁性能は同じだが、使用電線・がいしの種類を左右回線で違えた設計にすることで、自然環境の脅威(風、汚損、雷、氷雪等)に対して2回線が同時に被害を受けることを避けるためであろうと思われる。
(4)コロラド州・ロッキー山脈山中
ロッキー山脈の山中は、森林公園が数多く指定されていて、万年雪を戴く標高の高い山が多く水量の豊富な河川があるため、さぞかし水力発電の開発が各地で進められているものと思っていた。
しかし、少なくとも自然(景観)保護を優先する国立森林公園が多いコロラド州内には大規模な水力開発地点は無いようである。
4,800kmにも及ぶ南北に長いロッキー山脈の山中の地形、地質、地層、景観は誠に多様で、山岳地帯、森林地帯もあれば、平原、荒野も多く、多くの鉱区もあって自然保護地域と開発地域が混在しており、電源開発は地域により大きく異なっている。
ではコロラド州内の山中では電源はどうしているかと言うと、標高2千メートルの荒野、高原地帯に石炭火力を建設し放射状に345kVおよび230kV送電線を建設して山岳地の点在する町、温泉保養地、観光地、などに供給している。
もちろん、各地の小規模水力発電所との連系は当然図られていると思われる。
具体的には、Amtrakルートから北に100km程のクレイグ(Craig)およびヘイデン(Hayden)の隣り合った両田舎町に2箇所の石炭火力を建設して、ロッキー山脈山中に於ける主要電源としている。
右写真は、デンバーの西約130kmのロッキー山脈の最も山深いクレムリング(Kremmling)と言う町の傍を通過している送電線である。
がいしは有機がいしを使用し、電線は垂直2導体方式を採用している。
線路幅は約18~19mである。
約90km北西にある町(Hayden)の石炭火力で発電した電力を山岳地帯に点在する町々を連系して供給している基幹系統である。
下記の鉄柱送電線および2回線垂直配列送電線の両送電線とは、クレイグ(Craig)およびヘイデン(Hayden)の両石炭火力発電所を経由して連系している。
デンバーの西約230kmのロッキー山脈の山懐にに抱かれた有名な温泉地グレンウッド・スプリングス(Glenwood Springs)から30kmほど西方のライフル(Rifle)近傍を経過している送電線である。
この送電線は鉄柱を用いた特異な形状をしている。
電線は垂直2導体で、がいしは懸垂がいし一連18個連結の標準的設計を採用しており、線路幅は15mである。
鉄柱でありながら支線を使用しない自立型である。
約100km北にある町(Graig)の石炭火力で発電した電力を山岳地帯に点在する町々を連系して供給している基幹系統である。
上記と同じ系統の送電線を撮ったもので、上記鉄柱線路から26km西に行った町の郊外で撮影したものである。
これら2点の写真は同一系統の送電線を撮影したものであるが、それぞれ地域環境、建設時期の違い等から大きく異なった設計を採用している。
共通しているのは電線が垂直2導体方式を採用していることで、がいしは2個多い一連20個連結である。
上記1回線鉄柱線路に対比し、右の写真は2回線垂直配列鉄塔を適用し、更に懸垂鉄塔ではV吊りがいし装置を使用して極力建設用地幅を狭くしており、ごく最近になって建設された線路のように思われる。
(5)ネバダ州・リノ付近
アメリカ大陸の西側を南北に走るシエラネバダ山脈の山懐に抱かれたネバダ州西部の町リノ(Reno)は、ラスベガスと共にカジノが盛んな町(ギャンブルタウン)として有名であるが、そのリノへ電力を送電する主な送電線として右の写真の送電線が建設されている。
すなわち、この送電線はリノから東北方向にブラックロック砂漠を約250km行った所にある大規模(火力)発電所の出力をリノまで送電するために建設されたものである。
支持物形状は、上部はえぼし型三角配列鉄塔に似ているが、下部は支線付鉄柱であり、総称して支線付鉄柱と呼ぶべきものであろう。
この送電線は1回線2ルートの送電線で、下に掲げる写真と一対となった送電線である。
電線は垂直2導体で、がいしは懸垂がいしを用い一連個数V吊り23個、直吊り18個である。
写真から判断すると材質はアルミを使用しているようだ。
とにかく障害物のない砂漠の中をほぼ一直線に経過している。
角度箇所の耐張支持物は1相1基の支線付鉄柱を使用している。
ジャンパ線は見にくいが、直吊りがいしの先端にプレハブロッドが取り付けられてジャンパ線の成形が容易になるように考えられている。
撮影場所が終点変電所近くで、手前には変電所の工事資材が散乱している場所であった。
上と同じ線路であるが、この鉄柱は亜鉛メッキはされておらず鋼材を裸のまま使用しているようだ。
ルートが砂漠で湿度が少なく、錆の進行度が遅いためメッキが省略されているようだ。
上記の銀色に輝く鉄柱とは対照的にくすんだ色になっている。
この2ルートは同時の建設ではなく、この写真の鉄柱が古く、上記の輝く鉄柱ルートが最近建設されたものと思われる。
がいし一連個数は22個で上記のものと若干異なっている。
画面奥に上記の輝いた鉄柱ルートが小さく見える。
障害物のない砂漠の中なのでお互いのルートは約300m程離してルートを取っている。
上記のめずらしい形をした支線付鉄柱と呼ぶべき送電線は、終点のリノの東手前約25kmの地点に建設されている火力発電所を経由しているが、その発電所から引き出された345kV送電線の一つは右のように木柱のH柱に似た形状で材料は鋼管ポールを使用した線路であった。
電線は上記と同様に垂直2導体方式を採用しており、がいしは有機がいしである。
この写真の支持物は支線を設置していないが、他の支持物は支線付であった。
1回線垂直配列の支持物は、色彩と言い形状と言い、木柱と見間違えるような設備であるが、電圧が345kVで高電圧であるため電線地上高を高くする必要があり、木柱では長さが不足するため鋼管ポールを使用している。
ジャンパ線は、上記の1相1基の支持物箇所の設計と同様で特殊なジャンパ構造を採用していた。
ジャンパ線のクローズアップ写真である。
ジャンパ吊りアームの先端に付いているマークは何であろうか、電力会社の会社マークだろうか。
5.230KV送電線230kV power transmission lines
アメリカ大陸中央部の主役は前項で解説した345kV送電線および本項で解説する230kV送電線である。
東西約5,000kmの広さの大陸全体を単一の系統で連系することはできないが、部分的に広範囲の系統を連系して地域の安定的運用を図っている。
この連系送電線の主役が前項で解説した345kV送電線および本項で解説する230kV送電線であり、各地域によっていろいろな支持物形状を持ったものが建設されている。
今回の旅行では、大部分の230kV送電線についてはカリフォルニア州サクラメント~サンフランシスコ間で見ることが出来た。
(1)サクラメント付近
サクラメントの北、Roseville付近で見たえぼし型鉄塔の送電線である。
電線は単導体で、がいし装置は懸垂がいしを用い一連個数は耐張装置17個(水平2連装置)、ジャンパ吊り16個である。
がいし一連個数の点から言えば345kV並の設計であるが、標準懸垂がいしを使用しているので230kV設計である。
ルートは町の市街地化した地域を通過しており、同じRight of wayを並走している230kV送電線2ルートが2回線垂直配列設計として線下幅の縮小に努めていることから、水平配列の本ルートはかなり古い設備であると思われる。
線路幅は17mで、2回線垂直配列線路が約11mであるのに比べると50%以上も幅が広い。
上記送電線の近くで見た230kV送電線の標準的鉄塔形状の送電線である。
がいしは懸垂がいし一連15個設計で、耐張装置は水平2連装置である。
サクラメントはシエラネバダ山脈に近いが、着氷雪条件は厳しくないようでオフセット無しの設計となっている。
線路幅は約11mである。
上記送電線と同一のRight of wayを経過している送電線である。
本来の設計は115kV送電線と思われるが、右回線のがいしを増結し、かつジャンパ線を有機がいしで支持してクリアランスを確保し230kV送電線に改造したものである。
懸垂箇所では、鋼鉄製アームを撤去してその代わりに有機がいしを使用し、がいしアームとしてその先端に懸垂クランプを取り付けている。
(2)サンフランシスコ湾付近
サンフランシスコ湾が急に幅狭くなり、細長く東に延びている首根っこの位置に、ヴァレホとバークレーを結ぶ大きな橋が架かっている。
その橋に平行して230kV送電線が2ルート海峡を横断している。
写真は南岸から北岸を撮ったもので、左端に写っている高い鉄塔が以下に示す送電鉄塔である。
右の写真は海峡横断している北側の鉄塔で、両ルートとも230kV送電線と思われる。
海峡横断径間長は約1,510mであり、鉄塔高は約120mである。
一般に長径間箇所の両端鉄塔は懸垂鉄塔として、鉄塔に加わる荷重を低減させ建設費の抑制に努めるのが送電線設計者の常識である。
左の鉄塔はそのようになっているが、右の鉄塔は耐張鉄塔でありどのような理由であるのか知りたいところである。
左のルートについては、長径間懸垂鉄塔の前後に建設された引留鉄塔までは電線は2導体であり、海峡横断部分だけ特殊太径単導体設計となっている。
右ルートは全線単導体設計で海峡横断部分を特殊電線とする設計はしていないようだ。
がいし装置については、左ルートの懸垂がいし装置に対して、右ルートのジャンパ支持がいしが大分短いのが目立つ。
線幅は左ルートは11.5m、右ルートは12mであり、一般箇所は両ルートとも9~10mである。
なお、下アームの下に補助アームが付いているが、これは保守作業用のためのものであろう。
右写真は上記海峡横断送電線の一般的ルート部分の状況を撮ったものである。
左ルートは2導体を適用し、がいしは白色耐霧がいし一連16個連結である。
右ルートは単導体設計で、がいしは茶色特殊耐霧がいし一連13個連結であり、当線路の一部では耐張がいし装置にガラスがいしを使用し一連21個連結を適用している。
海峡横断部分のアーム構造及びがいし連長等を比較すると左ルートがやや大型であり、右の一般箇所の構造を見ても同様に左ルートがやや大型である。
なお、左ルートには架空地線が設置されていない。
両ルートの構造の差異については、建設年代の違いと設計思想の違い等からきていると思われるが、詳細について知りたいところである。
サンフランシスコ湾が東に延びた最も奥の所、その南岸にピッツバーグ(Pittsberg)の町があるが、そこに大規模火力発電所がある。
そこから230kV送電線が4ルート、115kVが4ルート、幅広いRight of Wayの中を引き出されており、その中の一つの230kVルートを撮ったものである。
軽角度箇所に適用した懸垂鉄塔であるが、ルートの水平角度の大小に応じてV吊りがいし装置の吊り位置を個別に調整する必要があり、そのため吊り位置の変化に応じられるロッドを左回線に取り付けている。
電線は2導体で、がいしは耐霧がいし一連個数15個である。
重角度箇所に適用した耐張鉄塔である。
がいしは耐霧がいし一連個数22個、ジャンパ吊りは一連15個である。
ジャンパ吊りのがいし装置には、風によるジャンパ線の動揺によりがいし連結部での局部放電によるTV障害発生防止のため、がいしが浮き上がらないよう錘を取り付けている。
通信用アンテナを頂部とウエスト部に取り付けためずらしい鉄塔である。
右図は、上記で述べたピッツバーグ(Pittsberg)の町にある大規模火力発電所からの送電線引き出し専用用地(Right of Way)の概要である。
火力は図の上(北)方向にあり、送電線は下(南)方向に引き出され、サンフランシスコ、オークランド等の需要地に延びている。
ちょうど、高速道路との交差点で撮影した写真が以下に示すA~Dの写真である。
- ①ルート:上記で解説した230kV送電線
- ②ルート:単導体、有機がいし使用230kV送電線
- ③ルート:単導体、耐霧がいし一連20個、ジャンパ吊り耐霧がいし一連13個、230kV送電線
- ④ルート:単導体、有機がいし使用230kV送電線
- ⑤ルート:単導体、有機がいし使用115kV送電線
- ⑥ルート:単導体、耐霧がいし一連12個、115kV送電線
- ⑦ルート:2導体、耐霧がいし一連10個、115kV送電線
- ⑧ルート:単導体、耐霧がいし一連12個、115kV送電線
7ルートが揃って高速道路を横断しているのは壮観であった。
C写真の右端にかすかに見えるが、D写真の右端画面外にローカル変電所があり、⑦ルートおよび⑧から1回線ずつ水平配列で右方向に分岐されている。
面白いのは、⑧ルートからの分岐方法で、右回線からの分岐において上・中相は線路(奥)方向にアームを出してジャンパから分岐しているのに、下相だけは径間中間でT分岐スリーブを用いている。
これは、風による電線横振れ、振動等で機械的弱点になるように思われる。
(3)木柱(コロラド州 デンバー付近)
コロラド州、デンバーの北東約60km付近の平原地帯で見た木柱線路であるが、超高圧の230kV送電線と思われる設備であった。
230kV級の送電線は、地方都市間の幹線送電線として多く建設されているが、鉄塔ではなく木柱を適用して建設されているものがかなり多くあるようだ。
木柱を用いたH柱の場合は、アームは概して金属製で等辺山形鋼、鋼管パイプ、I型鋼などが使われることが多いが、この線路ではほぼ全てが木材で建設されている。
電圧が高く、アーム長を長くする必要があるため、アームには2本の木材を屋根型に組み合わせて用い、トラス構造を上手く使っている。
がいし一連個数は14個である。
角度箇所には1相1本の木柱を建て、角度荷重に対応している。
本送電線は、見るからに新しく比較的最近に建設されたようである。
(4)ニューヨーク付近
ニューヨーク西郊外では、写真には撮れなかったが、古い設備で右図のような水平配列230kV送電線が数ルート健在で運用されている。
左が懸垂鉄塔で、右が耐張鉄塔で、いずれも矩形鉄塔である。
耐張鉄塔は、右カーブ箇所を図面化しているが外カーブ側の左相と中相にジャンパ吊りが設けられている。
がいし一連個数は15~16個である。
この送電線は、1回線水平配列のため、線路幅が約18mと広いが、密集した住宅地の中を悠然と経過している。
市街化地区に建設されている本送電線の終点変電所には、他に数ルートの線路が引き込まれているが、最近建設されたものは全て2回線垂直配列送電線である。
ところで、上記送電線の写真は、Google earthのStreet viewに所々で写っている。その中から見栄えがよいものを2点を掲げるとその地点(北緯、西経を表す座標)は次の通りである。
- 40 48 31.02 N 74 20 21.63 W
- 40 49 26.56 N 74 20 19.14 W
Street view写真を見るときは、上記座標文字列をコピーして、Google earthの検索窓に貼り付けると自動的に当該地点の近傍に誘導されるので、その地点付近のStreet viewを立ち上げると送電線写真を見ることができる。
6.138kV以下の送電線Local power transmission lines equal to or less than 138kV
この項では標準的設計の送電線も多く撮影したがそれらは省き、特徴のあるものを主として掲載する。
この項での写真の掲載順は、ほぼニューヨークからサンフランシスコにAmtrakで移動したときの撮影順に並べた。
(1)2回線鉄塔
右写真は、マンハッタン地区から140kmほど北上したハドソン川沿いの場所で見たもので、何の変哲もない標準的2回線垂直配列の送電線であるが、左右回線で電線の太さおよびがいし装置の設計を変えているのが気になった。
左回線はがいし一連個数9個でアークホーンが付いているが、右回線は一連個数11個でアークホーン無しである。
電圧は、左回線が110kV、右回線が138kVで異系統併架鉄塔と思われるが、電圧が低い方にアークホーンが付いているのがめずらしい。
シカゴの東郊外で見たもので、138kV送電線と思われる。
架空地線の遮蔽角をほぼ0度に取っており、直撃雷対策に手厚く配慮した送電線である。
電圧の低い送電線としてはこのような設計はめずらしい。
そのため、大きな帽子をかぶったようなめずらしい形状になっている。
がいし一連個数は9個である。
上記と同じ送電線で耐張型である。
シカゴの南東郊外で撮ったものである。
ミシガン湖の南端にある火力発電所から引き出された送電線が4ルート、幅約80mの送電線専用用地内を並走している。
電圧は138kVと思われ、がいし一連個数9個である。
架空地線の遮蔽角をほぼ0度に取っており、直撃雷対策に手厚く配慮した送電線である。前述したが、電圧の低い送電線としてはこのような設計はめずらしい。
なお、我が国であれば用地事情から4回線鉄塔にしてルート数を半分にする設計が採られたに違いない。
シカゴ市内の道路・鉄道の専用用地内で撮ったもので、345kV送電線の項で掲載した高速道路下くぐり箇所のすぐ隣で138kV送電線が同じような設計を採っているのを見た。
345kVとは異なり、2回線型矩形鉄塔が使われていた。
2回線外相間隔約22m、各電線間隔約4.5mである。
シカゴ市内で見られた138kV自立型鉄柱(支線なし)送電線である。
左に軽角度で曲がったルートを取っているが、角度外側回線の右側ジャンパ線はクリアランス確保のため、直吊り懸垂がいし(一連個数10個)と塔体から突き出した有機がいしを用いている。
イリノイ州・ミシシッピー川の東で見られためずらしい送電線である。
下アームから上部には本来無ければならないはずの鉄塔主柱材がない腹材だけの結構の鉄塔で、誠にめずらしい形状の鉄塔である。
電圧は69kVで、がいし一連個数6個である。
上記69kV特殊鉄塔の送電線に隣接して建設されている138kVと思われる送電線であるが、上記と同様下アームから上部は主柱材のない、やはり特殊な結構の送電線である。
がいし一連個数は10個で、ほとんど直線ルート箇所であるにも拘わらずジャンパ吊りがいしを設置している。
アーム長さを長くできないので、ジャンパ吊りを設けてクリアランスを確保しているようだ。
中アームは余りにも短く、2回線化した場合にはどのようにジャンパ工事をするのだろうか。
誠に不思議な形をした鉄塔である。
サクラメント市市内で撮ったものだが、相当に古い設備のようで、アーム吊り材が無く、下アーム・ベンド点から下部の結構は誠にユニークである。
電圧は110kVと思われ、がいし一連個数8個である。
サクラメント市市内で撮ったものだが、アーム主材が下方に垂れ下がっているのがめずらしい。
我が国でも、昔154kV田代幹線の当初鉄塔がが同じような形状の鉄塔を採用していた。
この形状の鉄塔をアンブレラ型と呼んでいたが、現在ではほとんど全て建て替えられて現在ではほぼ見ることが出来ない。
電圧は110kVと思われ、がいし一連個数9個である。
(2)1回線鉄塔
人口密度の低い地域では、1回線水平配列のえぼし型鉄塔線路が多く見られた。
電圧は138kVであろう、 がいし一連個数9個、線路幅は11.5mである。
デンバーの西の郊外で見られた送電線で特殊な結構をしている矩形鉄塔である。
電圧は115kVであろう、がいし一連個数8個である。
建設時期はかなり古いものと思われる。
サクラメントからヴァレホの西にかけての約100km程を起終点とする低電圧送電線としては比較的長距離の線路である。
電圧は115kV、がいし一連個数12個設計である。
ルートが、所々で住宅地を通過するため三角配列として用地幅を狭くしているようだ。
(3)木柱
アメリカでは、ライフサイクルは短くても極力経済的に送電線建設をしようとする考えが強く、地方のローカル送電線は木柱を用いたものが多かった。
また、ルー内への人の立ち入りが希な地域が多く、電線地上高を低くできるため木柱でも十分な高さの送電線建設が可能であることも木柱を使用する理由となっている。
ニューヨーク郊外の送電線である。
電圧は69kVであろう、がいし一連個数7個である。
懸垂がいしの他に、支持がいしも使用されている。
極めて簡素な送電線である。
道路用地を利用した線路で、電圧は69kVであろう。
がいし一連個数は多めで8個である。
保安通信設備用の弱電線を共架しているのが今時めずらしい。
66kV未満の配電線に近い線路であるが、垂直2導体方式の電線を用いている。
田舎の送電線にしては複導体を用いているのがめずらしい。
H柱送電線が2ルート並走し更にその隣に鉄塔線路が走っている。
電圧は115kVであろう、がいし一連個数8個である。
直線箇所はH柱であるが、軽角度の振れ放し懸垂箇所では最も手前の木柱のように、角度荷重対策をした特殊な形状にしている。
支持がいし(磁器)と吊り荷重用に有機がいしを組み合わせてがいし装置としたコンパクトな送電線である。
電圧は66kV以下であろう。
最も典型的(標準的)なH柱送電線の形状である。
電圧は115kVであろう、がいし一連個数10個である。
形は標準的な送電線であるが、がいしは有機がいしを用いており、めずらしいので掲載した。
電圧は115kVであろう。
画面、奥に見えるのは、前掲した230kV送電線である。
(4)特殊電線付属品
シカゴは、茄子の形をしている南北に細長いミシガン湖の南西端に位置している。
この大都市シカゴに対して電力供給する送電線の多くがミシガン湖の南湖岸を東西に通過している。
冬期には、ミシガン湖上空を吹き抜けてくる北風はミシガン湖から蒸発した水分を多く含んだ氷雪害を起こし易い強風となってそれら送電線に横風として襲いかかると思われる。
電線に着氷あるいは着雪すると、ギャロッピングとかスリートジャンプが発生し、短絡事故あるいは支持物倒壊に至る大事故の可能性もある。
したがって、ミシガン湖の南岸近くを東西ルートとする送電線は、電線着氷対策として右写真(小写真)のようにオフセットを大きくした設計とし、かつ、捻れ防止カウンタウエイトを設置しているようだ。
すなわち、電線に着雪した場合に、電線が回転し円筒形状に次第に厚く着雪するのを防ぐため、対策として電線に錘(カウンタウエイト)を取付け回転・捻れを抑制し着雪成長を防止するため、捻れ防止カウンタウエイトを取り付ける。
電圧138kV単導体送電線には、右の大きな写真のように、各相に径間長に応じて1個~2個の捻れ防止カウンタウエイトが径間に分散して取り付けられていた。
我が国の場合には、捻れ防止カウンタウエイトとしては、トーショナルダンパ形状のものを使用しているが、シカゴで見たものは特異な形状で、全く初めて見るものであった。
あいにく、天候が悪く濃霧で光線が弱かったので、材質を判断できる写真は撮れなかった。
断面形状は「X」で、大きさは、大雑把だが高さ20cm程度、長さ1m程度であろうと思われる。
何故この形状になのか推測すると、横風に対して帆のような働きによるハンモック運動を行なわせ、電線着氷雪を振り落とす効果を期待すると共に、万一ギャロッピング運動が発生したときに径間全体が共振して運動が増幅しないよう節点をつくるのが目的ではないかと思われる。
また、上記の捻れ防止カウンタウエイト設置径間の近くには、右写真のような形状のものも設置されていた。
やはり、電圧138kV単導体送電線であった。
画質は悪いが、右がクローズアップ写真である。
風鈴のような形状をしていて、我が国では見られない形であった。
7.美化装柱(環境調和)送電線Power transmission lines using beautified tower
アメリカは、面積が我が国の約25倍もあり国土が極めて広いので、送電線ルート選定は自由度が大きいが、都市の電力需要中心地に近い地域についてはやはり用地問題が生じており、その解決には苦労しているようである。
アメリカでは自然環境及び社会環境を大切にする意識が高く、電力設備に対しても環境対策を強く求めてくる風土が全国的にあるようだ。
特にジョンソン大統領時代(1963~1969)に大統領が電力設備に対する景観上の推奨を促したことから、電力会社のうち公社関係ではこれを尊重し電力設備の美化への努力を積極的に進めたようだ。
このような背景から送電線の美化装柱は都市部のみならず荒野のルートでも採用されているのを見ることが出来た。
ただ、美化装柱は通常の鉄塔送電線に比較して建設費用が2~3倍かかるので、その適用区間の選定には慎重を期しているようである。
同一送電線で、美化装柱区間と鉄塔区間が経過地状況によってきめ細かく交互に建設されているのが多く見られた。
(1)345kV送電線345kV power transmission lines
本項での写真の掲載順は、ほぼニューヨークからサンフランシスコにAmtrakで移動したときの撮影順に並べた。
ニューヨーク州オールバニーで見られた送電線である。
鋼管単柱を使用したオーソドックスな美化装柱である。
電線は左回線が2導体、右回線が単導体を適用しており、がいし一連個数20個である。
シカゴ市内で見られた送電線である。
塔体は鋼管単柱を使用し、電線配列はドナウ型である。
がいし一連個数18個であり、線路幅約20m、線間間隔約5.2mである。
軽角度箇所で振れ放し懸垂装置使用のため、アームからがいし装置取付金具を吊り下げている。
並行して走る高速道路と鉄道敷地の間の狭い場所を利用して上手に建設されていた。
シカゴの西に広がる住宅地の中を通過している送電線である。
約60m幅の送電用地(Right of way)の中を345kV鉄塔線路と345kV美化装柱線路の同一系統の2ルートが並走している。
左の鉄塔送電線は345kV標準的形状であるが、1回線架線で、がいし一連個数17個(V吊り18個)である。
右の美化装柱送電線は、ドナウ型電線配列で、支持柱はプレハブ正12面体鋼管柱を使用し下部ポールに上部ポールを被せていく方式のものである。
電線は、大口径の特殊撚り線を使用しており、ジャンパ線施工が難しいと思われ、ジャンパは施工に便利な細線を2条使用し2導体方式としている。
最下部アームには、138kVと思われるローカル送電線が2回線併架されている。
4回線併架送電線としては、鉄塔に比べてコンパクトな設備となっている。
画面には写っていないが、左側には変電所があった。
シカゴの西60kmの所にある町(ボルダーヒル・Boulder Hill)の市街地中心にある変電所から西の方角にルートを取る送電線があり、それは美化装柱設備を適用して鉄道敷と畑の境にある帯状の狭い土地を利用している。
支持柱はプレハブ正12面体鋼管柱を使用し下部ポールに上部ポールを被せていく方式のものである。
がいし一連個数18個、オフセットを付けた標準的電線配置の送電線である。
4段目のアームには将来ローカル送電線を併架する計画があるのであろう。
建設後大分年数が経っているようで所々に錆が見られた。
主柱鋼管材のジョイント部分では、接地を確実に取るために右写真のように上下の鋼管材を電気的に接続するジャンパ(ボンド)線を設けている。
なお、ステップボルトは若番側と老い番側の両面に設置されている。
コロラド州・州都デンバーの東に広がる大平原・農耕地帯の中に建設されている火力発電所(デンバーの北東50km)の発電電力をデンバーの需要中心地に送電するための345kV基幹送電線である。
送電線ルートは、大規模農業地域を通過している。
ルート付近には農家がわずかに点在する程度で人の立ち入りは殆ど無い地域であり、景観対策をあえて行う必要がある地域ではないと思われるが、美化装柱設備が地平線の彼方まで続いていた。
このような設備にしたのは、美化目的よりは大型農機で行う耕作作業に邪魔にならないよう、鉄塔敷の面積を極力小さくするために単ポールとして建設したのではないかと推測される。
ルートは耕作地境に選定され、所々で直角に曲がっている。
設備は、345kV超高圧送電線としてはご覧のようにスリムな形をしており、支持柱はプレハブ正12面体鋼管柱を使用している。
(鉄筋コンクリート柱のようにも見えるが鋼管柱であろう)
耐張型はアームを出しているが、懸垂型はがいしアームとして、よりスリムな形状としている。
鋼管ポール等は焦げ茶色に塗色しており、麦が一面に生育する頃には麦の淡い茶系統の色彩とマッチして環境に融け込む設備となっていることと思われる。
電線は、大口径の電線を縦配列2導体方式としている。
がいしは、有機がいしを使用し、ジャンパ線支持がいしなどを観察すると笠数19枚のものを使用している。
耐張型である。
懸垂型に対してアームが設置されているのが外観上は大きく違うが、がいしはジャンパ支持を含め有機がいしを用いてスッキリしている。
使用鋼管径が懸垂型よりやや太くなっている。
電線引留クランプは圧縮型を使用し、ジャンパ線中央部(ジャンパ支持がいし把持部)は2導体水平配列として、電線補強パイプの中を通してジャンパ形状を揃えている。
(画面遙か遠くに見える煙突が火力発電所である。)
1回線装柱の場合には、耐張型でもアームを使用せず、塔体に直に引留してジャンパ線は支持がいしで縁回しをしている。
片回線引留型であり、右回線が直角に曲がっている支持物である。
引留型のため塔体は特に太く作られドッシリとした感じで針葉樹が立っているような印象を与える構造である。
左回線の奥側の耐張がいし装置はクリアランス確保のためがいしを直列に2個使用している。
基礎材と、地上鋼管部材との接続はフランジ継ぎ手とし、30本以上のボルトで接続する方式をとっている。
右写真は、コロラド州・州都デンバーの中心にあるAmtrak駅付近で見た345kV美化装柱送電線で、鉄道敷と並行して走っている道路敷の間の狭い用地をうまく利用して建設されていた。
支持柱はプレハブ正12面体鋼管柱を使用しており、電線は垂直2導体方式を採用している。
直前に掲げた焦げ茶色送電線では、電線引留クランプは圧縮型を使用しているが、本送電線ではボルト締め付けクランプを使用している。
ジャンパ線は、クランプの近くでクランプから出た電線と圧縮スリーブで接続されている。また、ジャンパ支持がいし装置には錘を取り付け局部火花放電対策を行っている。
がいしは全て有機がいしを使用している。
前掲の焦げ茶色塗色送電線と同様に、懸垂型はアームを設けず、有機・支持がいしと通常の有機がいしの組合せでがいしアームを構成しスリムな形状としている。
中相のがいしアームを大きくして、オフセットも付けている。
画面奥に見える、雪を戴いている山々は、デンバーから西に向かう旅人にとって壁のように立ちはだかるロッキー山脈の東端の山々である。
上のデンバーAmtrak駅付近で見た345kV美化装柱送電線と同一系統の送電線で、単導体区間の送電線である。
電線が2導体と単導体の違いはあるが、設計思想は全く同じ送電線である。
(2)230kV送電線230kV power transmission lines
コロラド州グランドジャンクション(Grand Junction)の細長い町の中を、お団子の串のように貫いている基幹系統送電線である。
1回線送電線で町の端から端までカバーしており、全て美化装柱である。
写真の左が懸垂支持物、右が耐張支持物である。
グランドジャンクションは、ロッキー山脈の山懐に抱かれた山岳地帯にあり、山と山の間の細長い谷地形に形成された盆地状の町のため、開発用地が限られており、美化装柱が適用されたものと思われる。
鋼管ポールは懸垂支持物用の細いものは円形断面の単柱鋼管で゛、耐張支持物など太い径のものは正12面体鋼管ポールを適用している。
1回線支持物は、腕金を取り付けず、懸垂はがいしアームとし、耐張は直接鋼管ポールに電線を引留し、支持がいしでジャンパ線を縁回ししている。
スリムな構造である。
ルートの途中で変電所にπ引き込みする箇所では有機がいしを使用せず懸垂ガラスがいし一連15個の装置を使用している。
懸垂がいし装置・がいしアームのクローズアップ写真である。
サクラメントの北、Roseville付近で見た230kV美化装柱送電線である。
鉄道敷の脇の細長い狭い土地を利用してルートを確保している。
支持物は鋼管単柱(12面体鋼管)で、アームは最も単純な形でありシンプルな形状である。
がいし一連個数14個で、ガラスがいしを使用していた。
所々でV吊りではなく支持がいしを斜め上に向けた装置で対応していた。
耐張型は、アームに曲線を用いて柔らかな印象を与えるように配慮されている。
がいし一連個数は、ジャンパ線14個、耐張装置15個でガラスがいしを使用している。
(3)138kV以下の送電線Local power transmission lines equal to or less than 138kV
シカゴの西方の町ナパービル(Naperville)で、住宅街を経過している送電線である。
電圧は115kVであろう、がいし一連個数11個である。
道路敷の脇の狭い帯状の土地を有効に活用して、道路方向に直角に曲がりながらルートを取っている。
鋼管柱は正12面体鋼管ポールである。
アームの柔らかい曲線と白色の色彩で送電線という刺刺しさが感じられないように配慮されている。
コロラド州グランドジャンクション(Grand Junction)の細長い町の中のローカル変電所に送電線を引き込みする美化装柱支持物である。
電圧は138kVで2回線装柱である。
鋼管柱は正12面体鋼管ポールである。
外カーブ側のジャンパ線を塔体から離すため、鋼管ポールから支持がいしを横に出して、クリアランスを確保している。
カリフォルニア州サクラメント市内を配電線感覚でルートを取っている69kV2回線送電線が2ルート並走していた。
この2ルートはすぐ別方向に分かれるが、1ルートは、他の230kV送電線3ルートと共に約140m幅の送電線専用用地(Right of Way)を確保して市内を縦断している。
このRight of Wayの利用形態は、駐車場がほとんどで、その他緑地公園としたり、道路として活用している。
サンフランシスコ湾が東に延びた最も奥の所、その南岸にピッツバーグ(Pittsberg)の町があるが、そこに大規模火力発電所があり、そこから引き出されたローカル送電線の一つが写真の69kV送電線である。
使用されている鋼管単柱は正12面体の鋼管で、地上から2~3本継柱されている。
がいし装置は、耐霧がいし5個に標準がいし1個が連結され、合計6個連結となっている。
耐張がいし装置には懸垂がいしが使用されている箇所もあるが、右写真のように有機がいしが使用されている箇所もある。
ローカル送電線で、こう長は短い線路であるのに撚架支持物が使われていた。
一般には、電線の撚架は線路こう長が少なくとも数十キロメートルあって、各相のインピーダンス(交流抵抗)が電線地上高の違いなどにより不揃いとなる場合に設けられているが、短距離の送電線ではその必要性はない。
しかし、高速道路と数キロメートル以上に亘り平行している送電線では、道路に設置された弱電線に対して、送電線故障時に流れる故障電流が元になり悪影響を及ぼす可能性があるため、撚架をしてその影響を抑制することがある。
本送電線の場合は、道路に設置された弱電線対策として撚架が施されたものと思われる。
美化装柱送電線で撚架を行っている例は殆ど無いので誠にめずらしい。
<ロッキー山脈山中、急カーブを走るAmtrak>
画面の左を流れている川はコロラド川で、300km以上に亘って右に左にAmtrakと平行して流れ、その渓谷美はいろいろに変化して素晴らしかった。川は、Amtrakと同方向、画面奥に向かって流れている。
画面左端の雪を戴いている山は、ホワイトリバー国立森林公園(White River National Forest)内のコットンウッド峰(Cottonwood peak) 3,498mである。
なお、この地点のAmtrak軌道の標高は約2千メートルである。
(Amtrakのロッキー山脈越えの最高標高地点は約2,800mである。)
<右写真はサンフランシスコの有名な金門橋である。>
以上、アメリカの送電線を閲覧していただき感謝します。
アメリカ旅行では、大陸横断が出来たことも素晴らしかったが、本格的送電線の建設草創期から1970年代にかけて卓越した技術を持って世界をリードしたカリフォルニア州を旅行できて、特にそこで歴史に残る送電設備等を見ることができたことに大変感激した。
Coffee Break
サンフランシスコにて下記の歴史的場所および設備を見ることができたが、別項に掲載したのでどうぞ閲覧していただきたい。
また、アメリカ大陸横断鉄道の物語を別項に掲載したのでどうぞ閲覧していただきたい。